本戦-10 三兆分の一

注意:今回はちょっとグロ強めです

〜〜〜


『FIGHT』









 



 




「あ」


 シャッパァ──ンッ!!


「お」


 ドガギャァ──ンッ‼


>ヒューッ!

>なんの音ォ!?

>あれ待って三分割画面とか俺の頭が死ぬが

>切ったら増えるだろ

>お前人間なんだと思ってんの?


 挨拶代わりのルッキング・ヘッド・ショット。1フレーム単位で仕上げられ染み付いた絶技。芋砂スターシャの対突撃兵用必殺奥義。何処から飛び出た『狙撃銃』はあるべき所に還るように身体へ吸い付き、背後の虚空より駆動全開で迎えにきた『車椅子』へと収まった肢体は、目前の『制圧者』の脳天をブチ抜──けない。


「「アハハハハッ」」


 第六感。それは『あるはずはない』のに『ないと辻褄が合わない』能力、才能、感覚器官。目前の狂った違いはそういった非常識オカルトを兼ね備えた幼剣豪。ただ速いだけではそれ以前に潰される。一手先を見抜いた後の先。だって行動パターンが見えてるんだから仕方ない。実際に弾丸はパリられた。跳んだ鉛はステンドグラスで破砕音を奏でた。


>ぴっ

>感染した?

>共鳴の方がいいかも

>今日のSAN値チェック配信はここですか


「成程。やれたな」


 血振り。次いで弾痕の確認。ああ確かに。アリサはソレを弾けた事を確認。先走ったカラダにようやくアタマが追いついた。


>凛々しい…

>後ろの割れたステンドグラスホント映える

>身長が低い事とちっぱい以外欠点がない

>やめろバカ殺されるぞ


「これほどに素っ気ない事後は初めてです」


 クルリ疾る『車椅子』。『狙撃銃』がクルリと排莢コッキングしたソレが地面に落ちるまでに、狂いの鬼からは少し離れられた。だから撃つ。


>今のかっこいい…

>惚れたわ

>落ち着けまだ戻れる


「──っし」


 身体が沈む。鉛が髪を漉いた。極限まで研ぎ澄まされた精神と、猛り荒ぶる思考が爆発的なロケットスタートを切った。爆進。次弾装填は間に合わず。引き摺られたサードムーンがベンチを粉砕。破片が視界を埋めて、ギラついた金属が斜めに滑る。


>?

>理解が追いつかない

>瞬きした間に数m詰めて攻撃????

>ワープだろ?


「ふうっ──!」


 左輪減速、右輪加速。急速旋回+身体移動。風がそよいだ服が破かれ、薄皮剥げた清らかなる白肌が木漏れ日に照らされた。ファーストアタックはアリサのものだ。だがカウンターの権利はスターシャに与えられた。"銃"というのは、多種多様なものなのだから。


「"拳銃レッドスター"──!」


 ダシュゥンッ!


 左手は車輪に添えるだけ。加速に手番は必要ない。人類月面到達の象徴ムーンウォーカーの特徴は如何なる"面"であろうと走り抜ける万能走破。不都合を感じさせない姿勢制御と衝撃吸収。そしてIVで追加されたのは……武装生成。懐に隠された第二の銃口がアリサの脇を抉る。反動?そんなもの"衝撃吸収"で相殺。今必要なのは標的を見定める目とタイミングを違えない指だけ。


>!?

>え

>サブアーム完備で草

>サイドウェポンだるぉ!?

>仲良くしろセカンダリでいい


 貫いた。僅かに接射からは外れた銃口から飛び出る鉛。当然肉は貫かれ血を吐き出す。ジュルリと垂れた傷跡に呻く声の形は『カニバルヒール』。グズグズになった肉が文字通りの共食い整備で回復完了。スナップ効かせた切り返しは、ほんの一瞬の硬直ラグで命中失敗。


「さぁ次です」


 拳銃はお役御免。クルリ回し手に現れたのは短機関銃。トリガーを引けば飛び散るのは鉛と肉か。大剣でやるシールドバッシュは効果アリ。9mm口径の雨で鉄塊を貫ける訳なし。静かなる駆動音と騒がしい衝撃を追っていく。


>何個武器持ってんだ

>いや…見る限り補正はないぞ

>?

>銃は昆布じゃないのか

>あんずの天使と同じ?

>多分そう大体そう


「効かない効かないアタシに効っく理由ワケがない!」


 弾く弾く。面白いように牽制は意味を失う。小手先の物真似は通用しない。貫通しない。だけど時間は稼いだ。『第六感』はモノが見えない。つまりさ。コレは闘牛ってワケ。


 ドンガラガッシャーンッ!


「ウワーッ!」


>草

>えぇ…

>教会がー!!!

>崩れる崩れるw

>シリアスどこ…ここ…?

>帰ったよ


 アリサ"は"壁に激突。……追いかけていたスターシャはムーンウォーカーに乗り上へ。壁を走る彼女の手には再び狙撃銃が握られる。もちろん構え狙うは頸椎、一撃必殺。決め打ちの一射。


「これで終わりです」


>必殺っぽい

>俺たちには必殺だよ

>死ゾ


 ガスッ──。


 放った。撃った。そして、当たった。


「やった……?」


 何に?瓦礫に。


「いえ、これは」


 何処へ行った?さぁ。


「拙の──!」


 今から死ぬのだから、知る必要はないだろう。


『URYYYYYY!!!!』


 が割れる。万能走破はどのような"地形"をも走れるが、大地を離れたオブジェクトにはただ無意味。キュルキュル空転する車輪はどこか愛らしい。世の横に迫る幼剣豪の狂気オーラに押しつぶされたが。


>どっから出てきた!?

>…あこれそのまま走り抜けたのか

>そんなことある?

>地形破壊なんて今更だし…


 誤ったのはアリサの馬力。ただ速いだけじゃない。力強さは無論兼ね備えている。英雄アリサは"軽いから"速いわけじゃない。"重いのに“速いのだ。デメリット系特徴『過剰重量』たるサードムーンを当然のように近接高速アタッカーとして振り回してる事を一度考え直してみれば、逸脱した思考には気がついただろう。負けた後に『アリサだし』は言い訳にならない。


「"擲砲バズーカ"!」


 だから手札は出し惜しんでいられない。射撃反動程度は吸収可能なムーンウォーカー、そんじょそこらの銃じゃ空中移動ノックバックは発生しない。だが、"爆風"ならば。


>死ゾ

>なんで対戦車兵器持ち込んでるんですかヤダー!!??

>ここまでSRしか使ってなかったのは伏線だとでも…?

>トレードマーク…だしな…

>イメージ戦略(ガチ)


『B──────!!!』


 直撃。人一人を汚えポップコーンにするだけの火力は入った。弾ける肉種。ツナギはない。死ぬ。普通なら。だが終わらない。スターシャは理解している。自傷ダメージを喰らいながらも安全に着地できたが、危険は去ってない。なんなら、ここからが本番だ。“手負い"の化け物は、何をしでかすか判ったものじゃない。


「──構え」


 その動揺はつい声として現れた。舞う土煙に浮かぶ影。銃口の向ける先は歪まない。だけど撃鉄の位置も動かない。近づくソレを撃たない理由はどこにあるのか。


>なんでまた倒してないんですか

>知らんのか?俺も知らん

>きもい

>直球で草


 一滴の汗が滴る。二輪の椅子は動かない。三歩歩くまで待ったその勇気を讃えよう。死線デッドラインまで削った肉体美を以って。


『『Uaaaa──!!』』


 ──ッガァンッ!


>すっげぇキモいデザインだな!

>笑えないけど笑わないと怖い

>お前らの推しだろ、なんとかしろよ

>お客様の中にヒーラーはいらっしゃいませんか〜!?


 正常なのは焦げた髪、骨、手、足。パーツの足りない人体模型ヒトもどきが如く中身を曝け出し、当社比大幅な軽量化ダイエットに成功した幽鬼が、光を映さない瞳孔で弾丸を"切り落とす"。もしも数値化されていれば今のアリサはこう記されているはず。


──

[アリサ]

HP:1/1

狂化暴走

──


『『『Ahhhhhaaaaaa!!!』』』


 撃つ音を聞いた。だから斬る。今は撃てない。故に殺す。単純な事。狂化Iで"コレ"。多重なる身体強化、強制的な戦意高揚。アドレナリンによる痛覚麻痺。例えるならそう、『火事場の馬鹿力』。割れる。壊れる。均される。鬼の咆哮は確かな破壊力を備えていた。


「──ッ、耳が…!」


>スピーカー耐えてる

>まだね。まだ。

>スタッフが全力で押さえてるのほんと笑う

>最初から物理演算するのやめとけよ…

>ここまで来たら意地だろ


『『『DEAAAAAA──────shhhhhh!!!』』』

 

 迫る。振る。飛ぶ。そうとしか形容のしようがない。コマ送りでしか認識できないアリサのモーション。単純な事に捻りは要らず。誰にも追いつけないスピードで車椅子ブチ壊し壁に飛ばす。


「なんて出鱈目な……」


>マジでな…

>ステ振りミスってるよ神様

>ジーザス!

>メシア


 耐久激減。車輪はひしゃげた。ムーンウォーカーはもう使い物にならない。ただの棺桶。追撃の振り下ろしは緊急射出で回避。


『『『LAAAAAA──────NNNNNN!!!』』』


 見えている。聞こえてる。既に届く。


「──今」


 お互いに。


 ダパァンッ────


 二度も許せば三度目はない。スターシャはアリサの弱点を見抜いた。それは硬直。あまりに"速すぎる"が故に、認識が"今"に追いつくまで微かな空白がある。それが弱点。神に許された制圧者キラーへの叛逆は今。


>そこから撃つの!?

>えぇ

>避けられんだろこれ

>死んだわアリサ


 ──サクッ。


 命中。当たった。間違いなく。剥き出しの脊椎に。大当たり。これで終わり。横への射出で床を擦り壁に激突したスターシャは、斃れるアリサを見て息を吐く。


「拙の…勝ち」


 ほっ。死の綱渡りを渡り終えた気分。これまで幾多もの猛者を撃ち殺してきたスターシャであるが、ここまでの『近距離戦闘』は初めて。いつもは近づかれる前に殺しているから。喜びが心を埋め、加速していた認識が徐々に等速へ戻っていく。


>……おっと

>おん?

>嫌な予感が


 ダラダラと血を流したままの死体を見送りながら。


「ではお二人を探しに」


 ピクッ。


「……」


 コキッ。


「──」


 バシィッ──!


「そんな」


>アリサ…動くぞ?

>なんで死んでないの

>まだ視点分割が終わってない……?


『『『G G』』』


 立ち上がった死体。見るも無惨なソレは、まだトドメを刺されていない。狂い果てた末に身体アバターは『死』を忘れた。


「──最恐でしたよ、アリサさん」


>つよ

>バグだろ?

>なぜ死なない

>gg


 一周回って呆れ笑いをするスターシャの首は、綺麗なポリゴンになって空を舞った。



〜〜〜

Tips 狂化暴走


状態変化の一種。

狂化スキルの効果『戦闘時、分泌されるアドレナリン量が増加する』の極限化。

身体アバターに通うアドレナリン量を一定以上満たした上で特定の条件を引く(アリサの場合臨死体験)と発症する。


発症するとああ↑なる。

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