本戦-8 一丁アガり


「あ"〜〜〜〜っ"っ"……クリエナがうっっっまぁぁぁぃぃぃ………」


 今は決勝戦前の休憩時間、即ちインターバル。アリサとファインダーはログアウトしてそれぞれリフレッシュ中で、シェリーだけが単独継続ログインして雑談中。今しがたタンクからローディングしたクリエナが、椎名シェリー肉体アバターを構成する細胞ポリゴン一つ一つに浸透。激戦で疲労した脳髄は歓喜に打ち震え、神経に巣食ったノイズは一掃された。


>オッサンか

>声が汚ねえ

>[本人確認]

>こんな本人確認証嫌だよ…ww


「クリエナが五臓六腑に染み渡るぜぇぇぇ………ふぅ」


 シェリーがVRの中で頑なに感覚100%から変えないのは『苦痛』を受けた後のクリエナが何よりも美味しいから。SWORDが英雄シェリーに齎した全身を切り裂かれる痛み、身体が燃え尽きる喪失感、耳を劈くオファニエルの合いの手、真髄解放の後に訪れる虚無。それら全てを"癒してくれる"からこその究極回復薬クリーチャーエナジー(※本商品は合法であり効果には個人差があります)。


>これクリエナの案件動画なんですか?

>知らんのか 今回のトライヘルメスのスポンサー

>…クリーチャー社いたわ…


「実はこれ他人の金で飲むクリエナなのよ……みんなもクリエナ、飲もう!」


 クリーチャーエナジー。世界各地各地のコンビニ、スーパー他小売店でお買い求め頂けます。税抜二百円。バリエーションはストロング、ブラック、ドライの三種類から。期間限定のスピリットもあるぞ。


>うーんこれは宣伝大使

>悪いな俺はレッドホーク派なんだ

>ちょっと今日は飲むわ

>[愛飲してます]


「ミーシャ……だと思ってた」


>[相思相愛ですね]

>そうはならんやろ

>吾もそう思うぞ


「私が好きなのは赤スパ連投してくれる人かな」


>\\[はい]//

>はえーよほせ

><[何書くか悩んでたらもう先越されてて泣いた]>

>[と言いながら送ってるの流石]


「んっふふ……ま、これだけ応援されたら──勝たないとね?」


 ケッホ。


>だからってクリエナまた飲んでんじゃねーよ!

>カッコつけた途端咽せて台無しにするの好き

>人間アピール

>\\[もっとください]//


 カッコつけてのバチコンウインク。うまくキメた10F後に咽せて( >д<)こんな顔。過剰摂取はガバの元、咽せで飛んだRTA記録は数知れず。それも含めて彼女を彼女たらしめる名場面……なのだろうか。


「嫌だが!!??そんなこと言ってると私放送事故起こすぞ!?」


 主にオファニエル的な意味で。鼓膜破壊の悲劇は再来してしまうのか。実際昆布巻き配信に入り浸り訓練されていた原住民は無事だとしても今回の企業案件公式配信で初めてやってきた入植者は免疫力がない故に……などと言っているうちにシェリーの後ろでポリゴンの肉体が生成されていく。それはもちろん青髪碧眼の美少女アリサピンク髪に黄色目の女ファインダー物質界リアルでの細やかな休息を終えて帰ってきたらしい。


「──っし。戻った」


>おかえりー

>拳打ち付けるのイイ…

>わかりみ


「お疲れさんやシェリはん」


>あらかわいい

>ひらっ…はらっ…

>効果音やめれw


「あぁ、もう時間か。おかえり二人とも」


 カメラから振り返って手を振ったシェリーも、脳漿に届いたカフェインが思考回廊を励起させて人知れず目が怖くなる。友情は翻って殺意に連結した。


「次はバレ達との決着だから。手は抜けない」


 サードムーン素振り納刀。背に背負う重さは意志の強さ。初志貫徹、最初っからこの女は『産業革命』を叩っ潰すことしか頭にない。それまでは全て前座、何故ならばお互いのここまでの勝利を信じているから。


「やる気充填1000%や」


 シリウス呼び出しフィンガースナップ。周囲の雰囲気に飲まれてかファインダーもどこかシリアスに。踊り娘な装備も謎の風に吹かれ浮かれ。


>過充電ってワケ

>コレ静電気っすか

>お前らのそういうとこ好き

 

『インターバルが終了しました』


『まもなく決勝戦を開始します』


「それじゃあ視聴者共も…準備はいいな!?」


>>>「「いぇぇぇぇぇぇい!!!」」


[Ready? YES/NO]


よろしくお願いしまyeァァァァァァッッッ!!!」









 



 




『決勝 昆布巻き VS 『産業革命』』





『FIGHT』









 



 



 

「お待たせ」


 ──ガガガガギャァンッ!


「開幕ヘッショたぁ……好きだね」


>初見殺し

>待ってないが

>あれ待って三分割画面とか俺の頭が死ぬが

>人格分離しててよかった

>お前何者!?


 銃痕を残して跳弾する弾丸。何処かの街の大通りにスポーンしたバレッティーナは、シェリーを認識すると同時に引き金を引き、ご覧の通りヘッドショット。[アクト・グラディアトル]が無ければ即死していたかも。


「リスキルは私の専売特許、でしょ」


「そうだったね」


>そんな専売特許…あったわ

>あの決勝終わった後の2位、目が死んでたもんね…

>泣いていいと思う


 『産業革命』……いや、バレッティーナのホームグラウンドはVRFPSだ。それなのに畑違いのVRRPGにまで手を出し身を乗り出した理由は勿論。


「どっちが上か、ここでハッキリさせる」


 たったそれだけ。跳弾。跳弾。奏者が如く放たれた弾丸は、一人しかいない・・・・・・・的へ向けて四方八方より殺到する。


>何戦何勝?

>覚えてるのかな

>今更数え切れるかぁ!だろ

>パンの枚数よりは数えやすそう


「ヒューッ、言うじゃんバレっち」


 相対するはオファニエ剣andアイアンソード。右逆手左順手のキワモノ剣術。ギョロリと周囲を俯瞰し構築したチャートの通り弾丸を切断。


「どこで斬り方を習ったの?」


「アリサを見てたのよ」


>コマンドー!

>爆発させるぞ

>せっかくの街が!

>しないとは言い切れない…


 下段右中段左、そのまま右に動いて右上左下を両端にして回転運動。からのしゃがんで前進、切り上げと刺突をスキルコネクト。リロードを終えたバレッティーナはパリィ代わりの銃撃を残して跳んだ。


「はい殺す」


 左手の鉄は森に換装。空中にいるバレッティーナの空きっ腹に牙がぶっ刺さ──


「はい残念」


 ──らない。


>すり抜けたぁ!

>なんだその回避スキル!?

>また魔核武装かぁ…壊れるなぁ…

>壊れてるのは二人のPS定期


 牙がバレッティーナに辿り着いた途端、その姿は掻き消えて『一歩奥』に現れる。彼女の服装アサシンらしい動き。何処かのAAとは違って。


「おいゴルァ!?」


 不発。それは隙。転じて死期。着地したバレッティーナはミラーラミを──四挺構える。


「避けてね」


>増えたァ!?

>さっきも見た

>昆布って増えるものだっけ

>俺も頑張ったら増えるかな…


 放たれるは二十四掛ける事の四発。即ち96HIT。挨拶は終わり。ここからが戦いの本番。不発した森を岩に再換装、膨れ上がった石畳が銃弾を防せ、げなかった。


「割れ、っ」


>うぉう…

>ボスの攻撃もパリィしたのに

>威力あがりすぎ


 流石にそれは想定外。よく考えなくてもバレッティーナの手数マガジンサイズが2倍になったのだから、その累計火力は約4倍にも膨れ上がる。ただの地形は盾にもならない。


「けど、っ!」


 だが割れた時点で残る火力バレットは僅か。稲妻が如き剣技は銃弾を裂いて安全圏を確保。リロードは未だ。銃口は二つに戻った。


>早っや!?

>マジでアリサインストールしてる

>もうシェリーしか追えてないわ今


「絶対CTあるよねェ!」


 オファニエ剣解除、ギャギャギャリラ唸る戒天鋸が此処に帰還。割れたスロープを棘と共に駆け上がり、地を馳せて。


>[オファニエルキタ―――(゜∀゜)―――― !!]<

>耳ィィィ!!!

>あーもうめちゃくちゃだよ


「うるさい……!」


 端麗な顔が歪む。集中力が削がれる。オファニエルでブチアガるのはシェリーだけ。自分にはバフを、周囲にはデバフを撒き散らす攻防一体の相棒はやはりこうでないと。


「っしゃオラ死に晒せ決着つけてやっらぁーーぃっ!!」


「まだまだ 足りない──!」


 鋸/剣と二丁拳銃の重なる夢の演武はまだまだ始まったばかり。見開いた目と見定める目が交錯。新たな火花が舞い散った。


〜〜〜

Tips 今回出したバレッティーナの魔核装備


-四挺拳銃

-空蝉回避


目立った強化・・はない代わりに基礎・・の性能が高いのがバレッティーナさんです。

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