本戦-7 燃え尽きた果て


「殺るっきゃない」


 そんな劣勢の中アリサは(拍を)抜き足、(水を)差し足、(時を)忍び足。急制動で右から左へブッ飛ばす横スマッシュ。狙うは場外、即死エリア。荒れてきた大海原もそれを肯定してくれる。


「飛んでけぇぇ!!」


「うっそぉ…っ!?」


>重い

>速い

>痛い

>屋台じゃないが??


 止まっていた槍使いクロが逃げる暇を得られる筈もなかった。人一人をブチ殺すには十分足る一撃が腹部へパーフェクトヒット。バレルロールで吹き飛んだ。


「すぐ戻る…っ!」


「──できるだけ早くだぞ!」


 甲板から追い出され落下、鳥の槍グリフォンを向け再度飛び上がろうとするが、三日月の鉄塊サードムーンが再び迫り来て。


「その槍、"オートエイム"だろ?」


「っ…!?」


>[チートじゃねえか!]<

>なわけねえだろ!

>まーた避けられないからってチート扱いしてる…

>防げるだけまだマシ


 アリサだって偏食の毛があるとはいえ一端のゲーマー。戦えば相手の癖も腕も、能力だって推測できる。単純な加速だけでなく物理法則に反する急カーブ、条件が無いはずがない。

 

──

[グリフォン]

カテゴリ:両手槍

ランク:IV

属性:風

特徴:目標飛翔/行動加速/追尾刺突/逆風無視

──


 一言でまとめれば"高速自動追尾ミサイル槍"。それがグリフォンの性能。たった今船のマストからアリサへとロックオンをずらされたクロはまさに飛んで火に入る夏の焼鳥。上から下に振り下ろさんと準備万端なサードムーンへできるせめてもの抵抗は、直球ストレートを打ち上げることだけ。


「──グリフォン!」


 空に翔け上がる鷲獅子。一矢報いたい決死の突撃が制圧者アリサの胸を狙って羽ばたいた。当たれば・・・・即死、逃げる事・・・・は不可能──お互い様に。


「貰ったァ!」


 出る杭へ振り下ろされる月のお仕置き。『アリサの身体サードムーン』に触れたが故にグリフォンは推進力を失った。


「痛っ…!」


>いたそう

>可愛い顔が台無しですね…

>シェリーよりマシ

>……そうだな!


 過剰重量によって顔面から突き刺さる石突。グリフォンは再び飛び上がることはなく、アリサの踏み台にされて途中下船試合退場


>人の心がない

>男女平等キック

>ひどい


「っふー……」


 相棒仕舞って甲板に崖掴まり、荒波の慣性を利用してなんとか指先で掴みなおした戦場に復帰。


>復帰すげぇ…

>これも計算か?

>野生の勘か計算尽くか

>野生の計算機

>森の奥で朽ちてそう


 だがその数秒の間にシェリーは猛毒に侵され余命数秒。オファニエ剣は腕鎧フックで止められてカットラスはライブで受けるしかない。アリサの救援は使用不可でファインダーは無敵になっても布切れマント一枚に阻まれ中。なら今使える一手はこれ一つ。


「死にたくねェェ!!真ッ髄ッ解ッッ放!!!」


>理由がどんどん雑になってるの笑う

>性能だけ考えたらPvP苦手なんだけどな

>魔核装備が多いのが悪いよ

>確認してるだけでも10くらいないか…?


 減りゆくHPバーを一瞥しながら装備変更、肉鎧と触手に覆われた化け物が戦場に現る。黄金兜は容易く飲み込まれティアラのように。そしてオファニエ剣は──双剣に。ギャリァルララリラ猛る炎の棘が爆速戒天オファニエる(動詞)。


「「増えたァ!?」」


>草

>そうはならんやろ

>[なっ!とる!やろ!がい!]

>独特な構え…博士、これは一体…?

>前作SWのキャラの模倣だな。確かver5くらいかな……

>答えられてるの初めて見た

 

 右は逆手で左は順手。前作のマイナー人気投票53位英雄、スクラットと同じ構え。仲間にするハードルが低い割に火力DPSが出る為、RTA中のシェリーもよく回収しピンポイントで起用する攻撃姿勢は苛烈の一言。


「灰鼠剣──!」


 左は大振りで防御を誘って、合間を縫った右は最短のキルムーヴ。剣の扱い自体にスキル補正は乗らないが何百と倣った者の動きを身体は忘れていない。


「く、ぎ、ぃ……!ダメージがデカすぎる…!」


 一振りの剣に押し込めきれなくなった"オファニエル"の威力パワー。上乗せされた燃える血潮まで、ただ硬いだけのフック軽減し止めきれない。緑一色のHPが赤く燃え始める。


>押しまくりですね

>縦横無尽の剣術…

>手絡まるから出来ないんだよなこれ

>シェリーなんで手動でできてんだ…

 

「HAHAHAHAHAHA!!」


 上と下、ナナメですれ違う同時攻撃。防がれたら怪力で止め、空いた方は突きに転換。薄い防具は容易く蒸発しHPは順調に削れてく。


「くぅぅ…あぁ、いい……いいなぁシェリーィィ……」


「アァ!?ドMかーっ!?」


 3割、4割、5割6割。消えてゆくの色へ浮かぶニヤケ顔。得体の知れぬ笑いに、狂想中のシェリーにもドン引きの色が浮かぶ。


>それっぽいな(

>ご褒美です

>オファニエ剣は気持ちよさそう

>わかる…

>正気か?


 なお視聴者共は共感8割。キワモノ使いのお膝元にはキワモノ好みが集うのだろう。それは相手にも同じ事。ギャガギャギャギャ抗う腕鎧フックから光が溢れ、使い手ロジャー身体アバターを満たして。獲物サーベルに集って。


「スラァァァッシュ!」


 逃れ得ぬ間合いから叩き込まれる逆転の一撃。被累加算した強化ダメージを費やした成果は目に見えた。


「BUGYAAA────!!!」


>化けもんみてぇな声じゃねえか…

>異世界の化物ってコイツじゃねえのか?

>ヴァーサ様呼ぶ人間違えてますよ


 食いしばりにはノックバック。真髄解放した殺戮者デッドイーターはノイズがかった悲鳴を響かせ船室に埋まって。


「ぁぁぁりぃぃぃさーーっっっ!!」


「サッサと抜けろオルァ!」


 この間0.9秒。シェリーを収穫してアリサはオファニエ剣に小指を滑らせカニバルヒール、効果延長はこれでバッチリ。


>なんでシェリー死んでないん?

>アリサが助けた

>あまりに早いエンコ詰め、俺でなきゃ見逃しちゃうね


「吹っ飛べ!」


「なんで!?」


 からの空中三日月打法。球速0→180km/hまで急加速した肉球(最大限可愛げのある表現)がギニャァァ声を上げて特攻。


>仲間を武器の一つとして扱うその姿…イイ!

>必要な犠牲でした

>俺がぁ!昆布巻きダァァァ!!

>軍師も鬼も戦場に帰って


「「待て待て待て待てェ!?」」


 暑い荒天の海。加熱する狂気アリサは、遂に危険な戦法へと突入する。悲鳴とツッコミの二重伴奏のオマケと共に、アリサは遠距離攻撃を手にした。つまるところが友情コンボかストライクショット。弾は食いしばりか無敵中の仲間、回収すれば回数無制限。クールタイムのない素晴らしい技。しっぺ返しの反乱も一蹴でき踏み倒せる為欠点もない。


>こいつら似てんな…

>性能は正反対なのに(

>逆だったかも知れねえ…!


 蒸気をふかすオファニエルは首元に。致命判定首狩りを止めながらサーベルは顔面を捉え三枚おろしに。ただし止まらない。避けた先で結合した炎がシェリーの形を繋ぎ合わせ再生。


「なんで!私は死んでないの!?」


>攻撃したからじゃないですかね…

>こいつ感覚100%民ってマジ?

>頭おかしいんじゃない…?

>お気づきになられましたか


「オイマリア!そっちはどーにもなんないのか!?」


 掟破りの縮地顔面アウト打法もギリでいなし、ロジャーは漸く注意を仲間に向けられた。とはいえ。


「無理無理無理むーりー!!!なんなのこの子魔法が一つも効っかなーい!ロジャーより無理ゲー!!」


「無敵にはデバフもダメージも通らへんの学校で習いはらんかったんや──ねぇ!」


>#[無敵には手を出すな!]#

>ごもっともで

>どうしてコイツらが一チームに集ってしまったのだ

 

 被弾を"魔力ゴールド"に変換し魔法をブッ放す変態近距離魔術師vs無敵状態で息を付かせぬ攻撃の嵐を叩っこむ無敵の星スーパースターじゃ輝きが違う。速さも違う。そして何より。"操作難易度"が違う。


>そりゃ……乱数よ

>運命だろ

>お前が私の推しか?


 ただ叩けばいいファインダーに比べマリアは攻撃を翻すマントで防ぎ次に繋がる魔法を考え、詠唱、発動。変態は脳筋の前には……割と無力。ダイアグラム7:3くらい。そして今回は7の方。アリシェリだけ9:1。


「終──」


 空中コンボの終点、明滅する残像追撃を収束させて束ねた一本の拳を、空から地へ、振り下ろ──。


>背中にオオカミが見える見える…

>シリウス百裂拳ってか

>狼の牙だろ


「待ってた!」


 この一撃を防げはあとは脆い本体に不可避の近距離魔法をぶつければ良い。マリアは上から・・・の攻撃をシャットアウト。マントコロンを被るように浮かせた。


>…あ

>悪手では?

>逸った


「──わらんよ!」


「ふぇ!?」


 ──さずに着地、隠れていた顔はカートゥーンな驚きで上塗りされ、防ぐ備えなどありはしない。無論今度こそ本命、[ナックルピアーズ・終打]は準備万端。


「次は相手を見とくんや──!」


 決まり手、スマッシュストレート。五臓の真芯を捉えた一撃は、マリアを場外KOに持ち込んだ。


>ファインダーちゃんもゲーム上手くない?

>わかる…

>俺よりは上手いよ…


「マジか」


 ファインダーの勝利で決定的になった不平等な人数比。矢継ぎ早に届く冷静を欠かせるシェリー特攻便。隙を潰すアリサの辻斬り。


>ジェットストリームアタックを仕掛けているぞ!

>一撃一撃が貴様の身体を削り取るのだ!

>……まだ生きてるの凄いな素直に称賛


「残りはテメェだけだフカし野郎!」


「さっさとぶっ倒れてくれないと私が痛っNAAAAA!!!」


>草

>見事に首狩りされてる…

>でも死んでないんだよなぁ

>ゾンビよりしぶとい女


 煩い兜を落として鍔迫り合い。累積させた筈の強化ダメージが目減りする。対して狂化テンションはアガりっぱなし。ゆっくりシェリーが転がった床板は、押されるロジャーにカタカタと愉快な笑い声を送る。


「ああそうかよ、だが……!」


「ぐ、っ!」


 再びブースト。費用対効果を考えるなら今の持続より先への放出に振り切った方がいい。返し刃で牽制、去った居場所に踏み込んで今度はこちらから。距離を詰め。


「俺の戦いは、ここからだ────!!」


>フラグーー!!!

>負けるんすよそれ

>打ち切りだから…まだ決まってないから…!






















『準決勝 第一試合が終了しました』


『昆布巻きの勝利です』


「………………あ、勝った?」


>おかえり

>\\[決勝進出おめでとー!!]//

>いやぁ……強かったな…


 文字通り死ぬまで殺されまくっ武器にされたせいで自主的な全感覚遮断状態に閉じこもってたシェリー。アナウンスのおかげで再び心を開いて一息。


「けっふ」


>咽せ助かる

>今日のツマミに使う

>クリエナを好きなだけ飲め…


「はぁ〜………強かったなァ……」


 シェリーの効果時間切れまで粘られたアリサは伸びてリラックス。大の字で寝転がる。


>食らいつきがすごかった

>しぶとい敵役みたいなね…

>呪ってやる!

>悪の科学者じゃねーか!


「なんや悔しいわ……」


>まぁすぐ狩られたし…

>順調に対処されてたね

>蠅落とすみたいにべちっと


「……ま、次はバレっちとロボの戦いだし。機嫌なおして観戦しよっか!」


>ロボなんか勝ち残ってるもんな…

>タイマンやと妙に強い

>初期状態から強いからな→ロボ





『準決勝 第二回戦 『産業革命』 VS 宇宙戦記』


『FIGHT』

 


〜〜〜


Tips


ソウルウェポン(前作)


シェリーがRTAしまくった今作の前作(めんどくさい表現)

世界に点在する『英雄』を"主人公"にすることができるのだが、どのキャラクターを選んでも"主人公"が"仲間"を集めて魔神を倒すという大筋のストーリーは変わらない。

逆説的にいえばany%のタイマーストップは全て魔神を倒すまで。そのせいで封印の扉があの手この手で日々より何度も壁抜けされているのは…言うまでもない。

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