本戦-2 でも悲しいかなこれって戦いなのよね


>ホラゲで見た

>病院で寝てる時に夢で見た

>三途の河からよく戻ってきたな……


「はぁぁぁやぁぁぁくぅぅぅーーー!!!」


 右へ左へたまに跳ねっ返りブロック・ロック。そうやって誤魔化していたところで1輪車オファニエル2輪車メルカバでは比べ物にならない。いくら情熱機関がアツく盛り上げようともいつかは追いつかれ……


「チェックメイトだ!脱出不可能ッ!」


>吸血鬼かな?

>関係ない行け

>止まれ標識も無視しそう


 ──"人身事故"が起きるまで、あと3秒。

 


「焼べよ 燃えよ 薪は此処に 新たな聖火の種を与え給え──ヴァーサズ・トーチ」


「あっ」


>ん?

>属性ヒット…

>やっべ


 死ぬほど禍々しい杖から放たれたのは聖属性の種火。それは周囲の火属性と同化して大炎上中のこの草原の色を赤から聖なる蒼炎に転化。闇と幽属性の装備を持つシェリーとアリサには大打撃。HPバーの色がみるみる内に赤くなってゆく。均衡は疾うに崩れた。


「マズイ…っ!」


 ──"人身事故"が起きるまで、あと1秒。


 こんな極限環境じゃブラインドタッチなんて理想論にも程がある。はっきり言って不可能に近い。ここからイモータル・オルタを引っ張り出せる気がしない。だから、この状況を覆すには、単純に人の手がいる。いいや、それはもしかすると鬼か羅刹の類かもしれない。だって。


『URYYYYYY!!!


>ひぇっ

>怖い

>恐ろしきや汎人類史…

>いやこれ異聞帯フィクションだろ…


 沸きまくる骨吉が片っ端からボウリングのピンが如くアクション。サードムーンの一撃で弾け飛んだ骨片が近くの骨に当たって即死、そのせいで再び弾け飛んで以下ループ。初期威力が馬鹿みたいに高いせいで実質射程が戦術兵器と化したアリサが、すっ飛んできたから。


>足りたか

>ミニオン殺してもキルカウント増えるんだな

>人も骨も等しく一つの命

>種族差別なくて素晴らしいね♡そんなわけないだろフザケルナァァァァ!!!!

>……あっ最悪なコンボ思いついた


「うん今私も同じこと思いついたから黙ってようねっ!」


 もしアリサ自体が手下エネミー召喚を覚えたら……自分でキルして強化できるのではないか。そんな考えを無言の内に視聴者とシェリーは共有してしまうが是非も無し。シェリーと進撃する戦車メルカバの間に挟まったアリサが、鉄塊サードムーンを振るえば。


『死ねぇぁぁっっ!!』


 ダガァァァァンンッッ!!


>草

>笑うしかない

>事故った…w


 "人(の)身(によって引き起こされた)事故"が発生。運転手の男と同乗者の女二人は車外に吹き飛ばされた。


「はーーぁぁ!!??」


「嘘で、しょぉっ!?」


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


>アニメopで見た

>なんのだよww

>まぁズッコケ系なら……


 続いて跳躍。アリサの追撃は流れる川の如く。落ちる木葉みたいに空を飛ぶ三人を切り落とすことに何の躊躇いもない。ぶんまわしの勢いを上に向け、割り込みで曲げた膝をバネに。同じく空へと飛び立った。


「再召喚、だっ!」


『ゥラァ!』


 吹き飛ばされた運転手も流石に手練。地面から愛車を呼び戻し、盾に。板金8万コースの凹みダメージを受けながらも吹き飛んだ三人はダイナミック再乗車。この衝突はアリサの勝利。


>おぉ〜……

>流石は上位勢って対応力

>俺ならそのまま死んでた

>わかる


『──ッ……』


 しかし着地すれば話は変わる。一面の蒼炎地獄は神敵アリサの身体を焼き滅ぼさんと燃え燃えナウ。シェリーは再生で軽減できるがアリサはキルし続けることでしかこの神域では生存できない。ただしその命を繋ぐ糧スケルトンの数も限られている。


「いつでも走るしか私らの勝利は掴み取れないんだぜーっ!」


『──Ahhhh!!!』


>うわぁ急に主人公みたいなこと言い出した

>そんなキラキラ似合わないよ……

>ソウダネ


 つまりはシェリーの日常、タイムリミットに追われる戦いの始まり。再走無しの一発勝負。


「クソ戦車事故らせRTAはーじまーるよー!!」


>さっき事故ったが

>[もう一回するんだよあくしろよ]

>えぇ…


「今のはちょっと飛んだだけだから!まだ廃車になってないからっ!」


>もうレギュレーションガッバガバだが

>そもそも記録になるのか?

>タイマーないので参考記録ですね

 

「うるせぇ勝てばいいんだよ!!!」


>えぇ…

>区間としては間違ってない

>それはそうかな……そうか…?


 情熱機関大暴走。オファニエルはギャリララギャルララギャリルララ吠えまくる。地面に叩きつければ超☆加☆速っ☆


「ヒャッハァァァ!!車両は解体だァァァ!!」


 ↑燃えてる蛮族その1


『Ураааааааа!!』


 ↑骨を薙ぎ倒す蛮族その2


「うぉあなんだあいつら!?」


>我らが配信者です……

>いやほんとになんなんだろうこいつら

>止まらないシェリーBB

>手書きも切り抜きもあるから使え


「燃やしても止まらないとか本当に人間!?」


 火炎放射を真っ向から大剣で防ぐ。最短距離を突っ切るのにはこれが一番都合がいい。


>そろそろ怪しい

>実はAIでしたとか言われても受け入れてしまう自信がある

>お前ら本当に人間?


「──サモン・リバイバル。ねぇハー君どうするの…!?」


 増えた骨は速攻で弾き飛ばして延命。長い詠唱も、もはや敵に塩を送る行為にしかなっていない。


>……ん?

>流れ変わったな

>ちょっと松明持ってくる


「どうするもこうもねぇよ!あいつらがオチるまで逃げるしかねぇ!」


 それと視聴者たちの風向きも変わった。それは可哀想な被害者を憐れむ目から敵を睨む目に。こんな舞台に登ってまでイチャつくのが妬ましい。


>[リア充爆発しろォッ!]<

>周り男しか居ないんだ裏山けしからんっ!

>[……あの。私もいるのですが]

>うむ であるから吾の横で睨むのはやめるのだミーシャ


「よっしゃぶっ殺すまっかせろッッッ!!!」


 スパチャはニトロ。クソデカバックフレアを吐いて加速加速更なる加速を。極まった思考加速は、自然に指をインベントリの操作に走らせた。


「着装[イモータル・オルタ]ッ!]


>ktkr

>勝ったな。風呂入ってくる

>今再ログイン不可能だぞ帰ってこい


「はーいみんな一緒に行くよっ!いっせーのーせっ!」


>真髄解放!

「しーんずーいかいほーっ!」

>しんずいかいほー!!

>[真髄解放!]


 噴き出した炎はシェリーを包み込み。触手は全身を這い回って膜になり、肉になり、膨れ上がり、その身体を不死身の化け物へと変貌させる。


「クハハハハ!!!」


>恩讐の彼方に行きそうな笑い方してて草

>脱獄して帰ってくんの?

>人間という域からはかけ離れてるかな


 片手で地形操作、土ボコで車輪の片側を浮かせスピードダウン。もう片手では射程内に捉えた魔法使いの首根っこを牙で穿って。


「きゃ、ぁっ」


>悲鳴美味しい

>かわ…かわ……

>湿度上げるのやめな?


「アリサっ!」


『Oooooo!!!』


 親友手を取り合う。ふたりは蛮族MAX HEAT。渓谷の底でだってその絆は負けやしなかった。


「ハンティング・ジャーっ!」


 飛翔。そうと見紛う程の速度を出して急速接近。車から飛び降りるカーアクションの逆再生みたいに飛び乗って。


『Buuuraashaaaaaa!!!!』


「燃え尽きろァァァ!!!」


 天空破断+火炎轢殺。戦車メルカバの耐久値は一撃必殺(1+nヒット)で消し飛び。乗っていた彼らは反動で再び空へと投げ出される。


「おわぁっ!?折れたぁぁ!?」


「どんな威力よ!」


「またこれですかぁぁ??」


>うん。また、なんだ

>テキーラよこせ

>これは釣り配信だった…?


「後は任せた──ファーちゃんっ!」


>あっ

>………

>なんだお前ら忘れてたとか言わないよな


「ヒーローは遅れてやって来る!早うすぎたら戦いがすぐ終わってしもうて敵わんもん──ほな真髄解放魂魄暴走、さぁシリウスはん行くで──!」


 そしてここでファインダーが空より帰還。即死級の威力で撥ね飛ばされたが故に空へと昇り、そして獲得した位置エネルギーを威力に転嫁しながら再び落ちてきた恒星の拳シリウスは、スケール、スピード、その両方を余すことなくダメージに変える。


>デカすぎんだろ……

>斥力どうなってんだこれ

>無敵だし多分俺らじゃ勝てん

>完全無敵ナーフはよ


「避けんでぇやぁぁっ!!」


「ああうん。俺らの負けだ。gg」


「悔しいぃぃー!!」


「あっえっとされんd」


「よっs」


>あっ

>さっきも見た

>おめって言おうとした途端これだよ


 墜落メテオ。砂煙。捲れ上がった地表は砂煙を舞わせ聖火を鎮火。灰色になった地面に立っているのは……三nいや今シェリーが死んだ燃え尽きたので二人。


『第ニ試合が終了しました』


『昆布巻きの勝利です』
















「死んだんだが」


 顔面ドアップで膨れっ面。死因は自業自得だというのはわかっているがなんだか腹の立つ死に方。喜びくらいは最後まで言わせて欲しかった。


>やっぱデッドイーター・真髄ピーキーすぎんか?

>でもなぁ、英雄シェリーの代名詞ではあるし…

>これがないとシェリーらしくない


「くそう何も言い返せねえ」


 実際これまでのボスの殆どは真髄解放中に倒しているから全くもって仰る通り。ボイリングブラッド・怪力まで活かし始めた時点で決着=死のリスクが際限なく高まっているのはご覧の通りだ。


「シェリはん……いい死にっぷりやったで♪」


「ファーちゃん後で覚えとけよ」


>死んだなあいつ

>ファインダーちゃんまた死んでしまうん?

>草


 取れ高の代償ならば自分の死さえも厭わない切り抜き係。


「お陰でアタシの剣が届いた。ありがとな、シェリー」


「その急なクールダウン見習いたいわ」


>わかる

>さっきまでの暴走どこ…ここ…?

>一周回ってこっちの方が怖い


 素直に礼だけ言って木漏れ日のベンチに座る戦闘だけで食ってきた女。


「ま、次の試合見ながら雑談でもしよっか。」


>おk

>ちょっと離席

>トイレ行って来る…


「そういう報告はいらんが??いってらっしゃい???」


 そんなぐだぐだな雰囲気は隠されないまま、トライヘルメスはつつがなく進められるのだった。

 

〜〜〜

Tips 戦車メルカバ


プレイヤー名:ハカイの魂魄武装。中世に使われた方の戦車チャリオット部分だけが自走する。多分ランクVIIで飛ぶ。

──

[メルカバ]

カテゴリ:騎乗装備

ランク:IV

属性:聖

特徴:高速機動/頑強装甲/同乗可能/魔術耐性

──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る