本戦-3 顔だけはいい女と声だけはいい男


「お、お、おお、おおーーーっ!!」


>熱いな…これは

>鉄の肉体の拳と鉄の機械の拳がぶつかり合う──!

>かっこいいが語呂が悪い

>肉体と機械で良くない…?


 シェリーはベンチから身を乗り出してガッツポーズ。少年たちが夢に見る、人間ヘラクレス機械サンダルフォンのぶつかり合い。鍛え上げられた筋肉は汗を流し。油を沸かせ機械は寸前まで力を振り絞る。青春の一幕、青空に思い浮かべた夢の一幕がここに。


>いけえ!いけーっ!

>貫け貫け貫け

>この光景懐かしすぎる…


「やっべぇサクッとバフの力で潰したのが申し訳なるくらいカッコいい!!!!」


 熱い戦いは10分も続いているのに、たった数十秒の総攻撃で殺してしまったことを後悔しながら徒手空拳の交わし合いに血湧き肉躍る。自分には"向いていない"からこそ、憧れる。


>……そうなんだよなぁ

>ひでぇ戦闘だった

>ただの蹂躙だったよね?


「知らなーい!画面みよう画面!」


「やっぱウチより誤魔化し方下手や思うんやけど…」


>度胸も愛嬌よ

>使い方間違ってるが

>[可愛いので問題ありません]


 そうしてコメント欄の熱をあげている内、画面の中の死闘もクライマックスに近づいてきた。お互いが肉薄し、共に必殺距離。


『オオオオ!!』


 ヘラクレスの名を冠すバンテージを纏い、正拳突きを繰り出す英雄。威力は折り紙付き。纏う闘気バフに潜った死線残機がそれを保証する。


『負けられ、なぁぁぁぁい!!!!』


 対してサンダルフォンの名を冠す強化外骨格と共に、右フックをぶちかます英雄。仲間を失った慟哭は響き。装甲防御は硬く、排気動作は止まらず進み続ける。


『『──────!!!!』』


 衝突。舞う白煙。


>やったか!?

>どちらがだよ

>トム

>関係ねえww


『第八試合が終了しました』


「どっち!?どっちが勝ったの!?」


『宇宙戦記の勝利です』


「卍ロボ最強卍──!!!!」


>それ倒したの

>はい事実陳列罪

>アルカトラズね

>ウワーッ!!


「なんだかよくわからなかったので死刑ヒャッハー!!」


 


『まもなく準々決勝 第一試合を開始します』


「じゃあそろそろ気合い入れよっか」


 頬を挟んでパンパンっ。ブルっと震わせて表情は凛々しく。ギラついた笑顔で悪友アストを挽き殺す準備を整える。


「おう」


 瞑想から覚醒したアリサが立ち上がり首、肩、指を鳴らす。柔軟を経て、コンディションは心技体ALLOK。リアルアスリートならではのルーティンが十全にキマった。


「なんやったんやろか今の茶番は……」


 ゲームはゲームとして捉えているファインダーはどこまでも自然体。だがその自然体が逆にいい。彼女らしい気ままで苦労人な風貌がよく現れている。


>ノリだよ

>のり弁だよ

>ホッカホカ弁論


「赤スパ流れてそうやな」


>\\[そんなことありませんよ?]//

>流れてんだよなぁ…

>やっぱミーシャ流石だわ


「美味しゅう赤いのありがとうな♡」


>[すみませんそれシェリーさんにも言ってもらっていいですか?]

>草

>真顔で高速入力してんの笑う


 ファインダーは 5のダメージを受けた。


「…ミーシャ 愛してる」


 照れながら呟くシェリー。勿論ガチ恋距離。後に切り抜きが急上昇NO,1にぶち込まれるくらいの可愛さの権化。それを向けられた女は死ぬ。


>\\[ ]//

>なんか言えw

>豪勢ですなぁww


 そんな告白だけで一人を頭の病院送りにしたあたりでアナウンス。[Ready? YES/NO]の呼び声。


「それじゃいっくよー!」


「潰しは任せろ」


「ウチ…いらない子…いらない子なん…?」


 YESを全力プッシュ。崩れゆく部屋。再構成される遺跡。地平線に落つる太陽。草木生える黄昏の遺跡の中で、二組六人は向かい合う。


「よう」


「うんうん"英雄シェリー"久しぶり〜っ! "英雄アスト"だぜ〜っ!」


>語尾が騒がしいww

>アスト……可愛いな

>だが男だ


 ファッションを一新。男よりも女らしい服装をしながら、女よりは男らしい立ち姿で、無邪気に笑って蛇腹剣を振り抜くアスト。


「なァ、もう始まってんだろ?なァんで殺らねんだ」


 天使の翼を象った弦楽器エレキギターを肩から提げ、所謂ヴィジュアル系バンドの概念そのもの。服装こそ世界観に合わせて変わってるけれど、十分現代でも通用するレベル服装をしているのはあんず。足でタップを踏みながらリズムを奏でている。


>あんずちゃんかわいいよね…

>大人ぶってるのに身長ちっこいのいい…

>やめたげてもろて(


「先手必勝、ですよね?」


 握り慣れている右手の中にメガホンを収めながら、同じく世界観に合わせながら清純派を気取り舞台にそのまま登れそうな衣装を纏うアイドルはカリン。その『口』に、メガホンを近づけて──


>[危]

>どうした急n

>あぁ!


『La────!!』


>ァ"ァ"ァ"ァ"

>ああまた死人が…

>数人悶えてますね……


 放たれる音波攻撃。ソニックブームが三人を襲う。


「アタシの後ろに!」


 サードムーンを地に突き刺し、不可視を徹さず。その振動を受け流し、息継ぎを待つ。


「ちょっとぉ!理不尽じゃないのそれぇ!」


 食いしばりもキル回復も完全無敵も持っている昆布巻きの方が圧倒的に卑怯である。


>どっちもどっちでは

>ただの斧だから羨ましい

>でも扱える気はしないんだよな


「ミュージックにもバトルにもルールなんて必要ねェ。必要なのはビートとリズム、オレのハートとスコアに従いなァ!」


 その横で始まるギターソロ。雷鳴轟かせ鳴り響く天罰。まるでそれは世界の終わりが始まり。創造神が世界に下した裁決の再現。


「Come on アルケーズ!」

 

 フィンガースナップで虚空に開く扉。やってきた『天使』達。ラッパにハープ、太鼓、笛、あらゆる楽器を持つ天の御使が現れ、戦場をオーケストラ生音源で盛り上げてくれる。


「……へぇぇ……」


 今も押され続ける剣の裏、アリサの口角が自然に釣り上がった。ああ、今回もまた気持ちよくなれるのか。


>アリサがクッソ嬉しそうにしてる

>キル数稼げるからな…

>これやっぱ無理では?

>まだわからないから……


『Ah──Wake up gils──!』


 そしてカリンの昆布、『コカトリス』も本領を発揮。某蛮族も多用するスキルである咆哮を活かし、持ち前の歌の技術を武器に。ビブラートで弱連打。こぶしで強攻撃。しゃくりは打ち上げ。狂咆アリサが爆弾だとすれば此方は大砲。指向性を持たせた力は局所的な破壊を齎す。


「カリンの生演奏サイコーっ!」


>サイコーっ!

>新曲?

>聞いたことないからそうだと思う

>作詞もやってるんだよな

>あんずとよくCD出してる


 なお主人公はそんなことも気にせず隠し推しを間近で見られて無いペンライトを振っている。惜しくはゲーミング光のは後ろのピンク髪というところか。


「あれシェリーってボクの敵だよね?普通に喜んでるんだけど」


 なお手持ち無沙汰なアストは正面激突してくれないので同じくブラキオンを地面に突き刺してセイバー立ち。油断はしないが気は緩め温存しておく。


「なぁシェリはんあの子らのファンなんバレてまうけど宜んか?」


「……最終的に殺れば善し!」


>ヨシ!

>何を見てヨシって言ったんですか?

>ガバチャート


「えぇ…」


『LaLaLa──Make up dream── 「っし今!」──!?』


 そして"聞き覚え”のあるリズムになったところでシェリーは飛び出した。放たれる牙は、空に羽ばたく天使に喰らい付く。


>攻撃を読んだ!?

>…"2番”か

>ああ、攻撃が歌だから


「一気に飛ぶよ二人ともッ!ハンティング・ジャー!」


『──With every star──!!』


「潰せアルケーズ!」


 遠距離バカには強引な突撃。近づいてしまえばこちらのもの。乱れし音の刃が体を裂いて、天の支配者の御使が昆布巻き一行を狙いて殺到する。


「ボクのこと、忘れないで欲しいなぁっ!」


「ま、ウチまたこうなるん!?」


>あぁ…

>やられちゃった♡

>もう助からないだろ……


 それに加えてやってきたのはダメ押しのブラキオン。シェリーにしがみつくファインダーを捉え、ステージへ向かう無賃の超特急から引き摺り下ろす。完全無敵でもこの檻からは脱出不可能。間合いを自在に操ってみせる三人との戦いは、まだ始まったばかりだ。


「死んでたまるかぁぁぁー!!!」


>前回すぐ吹っ飛ばされたからな…

>アレは酷かった

>仲間に裏切られてかわいそ….(


 

〜〜〜

Tips ヘラクレス


──

[ヘラクレス]

カテゴリ:手甲(扱い)

ランク:IV

属性:武

特徴:不滅肉体/回数制限/身体強化/死線闘鬼

──


 

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