日常-13 この素晴らしき戦いに休息を


 予選と後処理が終了。私達は一時的に仮想世界から解き放たれた。具体的には30分のインターバル、この間に色々御用を済ませておけよってお話。


「いっちゃんおつおつ〜♪」


 電気ショック案件になって先にログアウトしてたファーちゃん、或いはいっちゃんはソファーに脱力ぶっ倒れ中。エアコンの風を受けながら


「死ぃぃ……」


 って呻いてる。塩かけられたナメクジがグニャグニャと動いているみたいに可愛い。いやこの表現は割と危険な気がする。やめろやめろ。


「無茶するからだ、一芽」


 綺麗な愛理が自然なモーションで膝枕。暴れてない時は妙に包容力があるのが意味不明。なんだろう、聖母と般若の顔を併せ持つ、っての?こんな超緩急つけて飴と鞭を使い分けられたらオチるよね。間違いなくー。


「あぁ……ウチはもう疲れたわ愛理ちゃん……」


 いっちゃんはそう言って瞳を閉じる。いや待って寝ないで。


「そのまま天に登りそうだなおい」


 ランランラーンッのメロディーが鳴りそうだから起きろ。


「いつまでも私達と一緒」


 微笑む愛理はよしよし頭蓋を撫でて、甘やかし安心を与え……


「愛理も乗るな乗るな乗るなぁー!?」


 今いっちゃんに死なれても補欠メンバーの招集は無理だが!?マジでやめてよいっちゃん!!おーきーろっ!


「必殺ほっぺぺちぺち拳」


 右左右左交互に連打連打連打。もちもちほっぺをしばらく叩いて叩いて起こす。うにゃむにゃ言ってるのも可愛いけどね!戦線離脱はまだやめて欲しいかな!


「う、ぁ……あぁ……痛いから椎名やめてぇ…」


「おはよう。戦場の昼から何してるんだい?」


 意識が戻ってきたところで額に四連装デコピンショットガンでフィニッシュ。打撃点を軽くさすりながらやっと起きてきた。


「身体は?大丈夫?」


「お陰様でな〜……急激な症状悪化と改善の反復横跳びに医療スタッフの人にも困惑されてしもたわ」


「それisそう」


 私だって最初の方はそんなものだったし。今だってその脆さに呆れはするし。なぜいっちゃんすぐ死んでしまうん?心臓が弱いとかそんな比じゃないレベルで悪くするよね体。お願いだから長生きして欲しい。


「戦い前の腹拵えをしよう」


 愛理は端末をポチポチポチとタップ。スケアート直系のゲーミングホテルの一室から参加しているからホテルのルームサービスで料理は割とすぐ届く。しかもタダ。いや嬉しいんだけどさ……


「待て愛理何個頼んだ」


「マルゲリータ 白米 チーズバーガー あとは」


「食えねえから!!!!!!!!!!!!!!!」


 ねぇあと30分でどれだけ食べるつもりなの???愛理?????????


「…あ、厨房多忙で注文制限入った。ピザだけにしておこう」


 誰のせいだろうな……と思って真っ先に思い浮かぶのはここに居ない親友ライバルの顔だった。華蓮が先に頼みまくったんだろうな。うん。


「それじゃトーナメント表見てみよっか」


 今回の本戦はトーナメント式。上位十六位に入れたら本戦出場だったから別に負けたってよかったんだけど、それは私のプライドが許さない。ソファーに横三人並んでモニターを見る。


──

第一回[トライヘルメス]

本戦トーナメント表


第一試合

1:アサルトアサシン

9:サイバーフェスタ


第二試合

2:昆布巻き

10:進撃の俺達


第三試合

3:プルガトリオ

11:有意天辺


第四試合

4:バイバイキング

12:ハテミル


第五試合

5:『産業革命』

13:帰宅部エリート


第六試合

6:死人梔子

14:篠眉忍軍


第七試合

7:運任せで勝ちたい

15:BaD


第八試合

8:天下統一

16宇宙戦記

──


 その関係で第五位で落ちちゃったバレっち達とはぶつかるとしても決勝。アストは準々決勝で出会うのかな……あの暗殺コンボに勝てたなら。


「上位から-8の順位のやつとぶつかるんやな。せやかから……あの魔法使いとまた当たる可能性あるんかぁ……嫌やわぁ……」


「初見殺しのタネは割れたから余裕だよ」


 開幕真髄突撃したら殺れる。これはガチ。魔法型だけなら近接のジェットストリームアタックでキル確。しかも初手の相手は有意天辺──あの武道家チームだからそもそも勝てるのかどうかってところ。


「それより進撃の俺たちって名前が気になる。私たちに対して傲慢すぎ。シメよう」


「落ち着いて愛理!?」


 握りしめた拳からギリリリッて鳴っちゃいけない音がしてるからっ!体力テストALL満点の力ここで出さなくていい!いい!


「ふぅん……こいつりの切り抜き面白いわぁ。ほれ見てみ」


 いっちゃんがそれをモニタに転送。さてさてどんなのか…ぶふっ


戦車チャリオッツじゃん……w」


 戦車タンクじゃない方の羽の生えた自走式戦車チャリオッツに三人が乗っていて、走り回るその上から片方はゾンビを振りまき、片方は火炎放射で周囲を制圧する。究極のヒットアンドアウェイみたいな地獄が私たちの配信の裏では作り上げられていたらしい。


「楽っのしそう…!」


「愛理ちゃん目輝いとるわ」


 だから普通に考えたらこのチームの昆布は戦車、火炎放射器、そしてゾンビ召喚装置に思えるけど……ちょっと画面止めてもらっていい?


「こいつらゾンゴブにそっくりだしこれは魔核装備」


 あまりに冒涜的なその肉塊には見覚えしかない。私達のぶっ殺した[Z-obituary]の奴。……しかし最初のボスだからか[デミ・イモータル]に[イモータル・オルタ]とか私が把握してるだけでも既に二種類あるのにまだ作成されてたのか。凄いな。MMOになったから一人での検証はキツいんだよね〜……


「…んじゃもう一つの昆布なんなんだよ」


「今から探す」


 静止画になった切り抜きをよーく見てみる。流石に出してないことはないだろうから、見えづらい場所に…あぁ、見つけた。


「肉肉しい両手杖持ってる方の足元にある壺だよ」


 ソウル・ウェポンの時にあった『マナプール』──つまりは液体。魔力のように薄く光る白銀の液体が満たされている。いやこれ壺ってよりは水瓶かな?

 

「こんな暴走をしてても『何も問題がない』ってことはリソース生成系なんじゃないかな?」


 兵站無視して走る軍隊になってたらそりゃ確かに進撃の俺たちって言いなくもなる。私だってそうなる。


「ああ…アレか。壊しゃ問題なさそうだな」


「うちの加速でいけるやろか……」


「ままそれはなんとかなるでしょ」



 他に当たる可能性があるのでいえば…4位かな。


「4位は……うわぁ」


「これは…」


「倒し甲斐がありそう」


 一言で言おう。蛮族。蛮族三兄弟。山賊海賊盗賊の頭が呉越同舟してるほどに統一感がないのに、柄が悪くて超絶物理偏重ってことだけは共通してる。なんだこいつら。あと愛理はまた殺意たぎってるから落ち着けや。


「うーん…でもなんとかなりそう」


 近接攻撃偏重なら食いしばりと無敵があるから余裕。当たってくれるといいけど…


「私的にはこのハテミルっていうPTの方が嫌だなぁ」


 コイツらはいわゆる堅実なバランス型って感じのパーティ。片手鎧で攻撃を抑えてカットラスで切る前衛に遊撃の高速ランサー。それと……遠距離攻撃を防ぐ黄金マントの魔法使い。守りに徹されると時間制限付きの私たちには厳しい。


「まぁ、私は戦えればいい。程よく硬い方がブッ潰して満足感があるから楽しみ」


 ……なんで私の親友って脳筋と銭ゲバしかいないんだろう。人付き合い間違えたか?


 ピンポーン


『ご注文のマルゲリータをお届けに参りました』


 ルームサービスが到着。早かったな。


「お、もう来たんだ」


「ウチが取ってくるからドリンクは入れてなぁ」


「はいはーい」


 冷蔵庫に入ったドリンクも今回はサービスの品。いつもなら追加料金とか言われるけど今回は全部タダ。何処かの特産のオレンジジュースを取り出してグラスに注いで。


「持ってきたぜい」


 グラスを三つ載せたトレイをテーブルに置いたところで、時を同じくしていっちゃんもピザを持ってきた。


「ありがと椎名」


「そんじゃ早速食べよか!ウチも腹はちょっと減っとるし!」


「よーしかんぱーい!」


「「かんぱーいっ!」」


 第五試合以降は……どうせ華蓮が勝つし見るだけ無駄かなって。私らは士気を高めてぶん殴る方が性に合ってるからね!


〜〜〜

Tips

ヒキコロリアルの飯事情

割と現代と代わりはしないですがSF技術で調理手間は短縮されたりしてと美味しいものが手軽に食べやすくなってます

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る