予選-10 でもやっぱり二位じゃダメなんですか


『死んだんだが』


 半透明で浮遊するシェリー。上三角の天冠がよく似合うポーズで手の甲をひらひら。敵を誘き出す・・・・・・ために木を薙ぎ倒しながら徒歩で帰るアリサに引き顔を向けつつ。ちなみに今のシェリーの声には生者と死者を分けるためのエコーがかかっている。


>おつ

>亡霊シェリーには塩撒くわよー

>ぺっぺっ


『ぐぇ〜〜』


 観戦モード故の独特な浮遊透過機能スペクティターモードを使いこなしコメントに巻かれた塩で成仏。またすぐに地面から生えてきたが。


>それでファインダーちゃんは?

>あの終わり方気になるんだが

>まーた死んだのか


 そうそう、ファーちゃんね、と頷きながら当然のように破壊活動に飽きたアリサの肩に移動。気分は電気ネズミ。ボールには入らない。


『心臓発作で電気ショックしたけどちょっと公式配信で「ちょっと逝く♡」されるとマズイからログアウトして検査中〜。いつものだと思うけど終わりまでは私とアリサだけで〜す』


 いぇーいみってるー?などと煽り笑顔でピースピース。あれくらいなら日常茶飯事なので煽っても問題ない。後で鳩尾→脚部→脇腹の三連コンボをぶち込まれダウンするだけ。煽れるときに煽っとけ。


>でもお前死んでるじゃん

>死人に口なし

>さっさと成仏してクレメンス…


『死んだらアレだから オファニエルを無敵状態でお前らの頭に擦り付けるから おはようからおはようまで』


>すみませんでした

>寝させてください

>あぁ、耳に、耳に!

>お客様の中に陰陽師はいらっしゃいませんかー!?


 これは悪霊。間違いなく。序盤に出てきてニュービーの主人公に苦戦させた末、覚醒されて速攻で逆転ダブルピース負けをかますやつ。


『ぷよぷよ禁止はやだ〜〜!』


>ほんと何年前だよ

>VR出る前だろ……

>紀元前か?

>草

>流石に氷河期よりは前だわ

>そりゃそうだろ!!!!


『いやもしかしたら陰陽道の謎パワーで数千年生き続けているのかも……』


>エルフも世紀単位でしか生きてないんだからそんなわけ

>ハイエルフならワンチャン

>時間加速で数千年ならありえ…あり……

>生きすぎたら脳の容量が耐えられねーから!


『よよよ……人間というものは短命なものなのね……だからみんなシェリーの昆布巻き配信見て有意義に過ごすんだぞ』


 シェリーのうそなき!


>わかった!ゲームするわ

>待てや!

>今ログアウトできないから…

>試験的運用だからなぁこれも

>そもそも人の配信見るとか有意義か…?

>それ以上はいけない


 視聴者に効果はないようだ


『は?超絶有意義だが?超絶美少女の操る超絶美少女アバターの御本尊眺めてスパチャできるんだからこれが有意義でなくてなんなのか小一時間程問いただしてやろうか〜???』


 カメラを下からグイッとパンしてシェリーの顔がドーン。流石に放送禁止ジェスチャーは抑えたがニッコニコの満面の笑みで捲し立て。死んだからといって雑談配信のノリを公式配信で出していいのか……検閲されてないあたりセーフらしい。


>ひっ

>こわ……

>チャンネル解除ボタン二回押しました

>それはできてないのよ

>[圧]


 そんなキレ芸は一通りコメントが流れたところで終わり、カメラを元の引きアングルに合わせてパタパタ足を振りながら。


『ま、実際人生の意義なんて考えるの無駄だから好きに生きて好きに遊んで死ぬ寸前にああ楽しかったって言えればそれで万々歳じゃない?』


 ファーちゃんは生き急ぎすぎだけどとは付け加えつつも幾分か真面目な顔でそう言った。


>死者が言うと重みが違うな

>流石アリサの背後霊

>肩に乗ってるけど

>言葉の綾ってやつだよ言わせんな恥ずかしい


『キレそう』


 なお真面目なことをするたびに煽られるのはいつものこと。そんな平和なコメント欄の裏でアリサは廃砦まで帰還した。先程壊滅魔法でぶっ壊された大扉を眺めながら……


「……私も魔法使いたいな」


『アリサに魔法は向いてないでしょ』


 MP管理は下手だし詠唱は噛む。挙げ句の果ては誤射までやらかすのがアリサの遠距離攻撃。ターゲッティングなんてなかった。


>せやな

>無理だと思う

>INTが足りない

>魔術じゃなくて祈祷なら…

>筋力信仰ビルドは……アリだな


『あ実際そんな感じだよ普段のアリサ』


 ステータスを高めて物理で殴れば勝てる。そう宣いながらアリサは神の輪っかを求めグレートソードブンブン、巨大槌ドンドン。バフマシマシチカラマシマシカラメイノリ戦法は偉大。ただしそれでも祈祷の遠距離はオートエイム光弾しか使えなかった模様。殴った方が早かった。


>蛮族ぅ…

>攻撃は最大の防御を地でいくな

>先手取ってもカウンターしてくるから無理

>全員殺せばステルスじゃねえんだぞ


「とりあえずリング内には入らないと……」


『そう、本来この中に芋って来たやつを狩る戦法にしたら勝ちだったんですよ』


>結果死んだけどな

>な

>可哀想に


 なおその原因は誰かという議論は禁じられている。


「……あァ?」


『えぇ?』


 そしてアリサは中へ入る足を止めた。理由は『殺気』。一人ぼっちのテンションダウンで緩んでいたテンションゲージは水素とマッチがブチ込まれたが如くヒートアップ。サードムーンを抜いて。


>どうした急に

>入らないのか

>シェリー理由は?


『いやわかんない。なんで?』


「………」


 観戦者には伝わらない第六感。進んだテクノロジーでもそれは未だに表現できない。肩に担いだサードムーンは血に飢えているのに観戦者シェリーは三百六十度見渡しても見つからない。


>でもここ壊滅魔法で壊れまくって隠れ場所なくない?

>つまりステルス迷彩……実在したのか

>便利だよな……


『いやアリサはステルス迷彩で近づいても構わず殴ってくるから無意味だよ』


>嘘でしょ

>終わった

>俺の不意打ち作戦は実行前に終わった


『本人曰く影の違和感とか空気の流れでわかるとかなんとか…』


>えぇ…

>昆布巻き一行やっぱり遠距離でハメんのが一番やな

>それ正解


『さっきの魔法打ち消し見直してから言って♡』


>やだ♡

>現実見たくない♡

>死ゾ……


「──上かッ!」


『でっか。雲でっか。アリサ勝鬨しか回復ないから入ったら死じゃん』


>どくっ♡どくっ♡

>心臓の音みたいだな

>ハートキャッチ(物理)


 アリサに落とされる影。上から降ってくる黒霧。見るに毒々しく視界を奪われること間違いなしのDoTゾーン。多々殺らなければ生き残れない彼女にはドギツイヤツだが……エリア収束をすっぽり覆うように展開されては避けようがない。


「散れェッ!」


>この手に限る

>知ってた

>まぁそりゃね


『私でもそうするわ』


 狂化にモノを言わせ大振り、風を起こして霧を散らせるが……晴れた先には更なる『影』が。


「──!」


 自由落下より速く、全身をすっぽり覆う外套の暗殺者がイーグルダイブで振り硬直のアリサを狙ってやってきた。振った直後であるからカウンターするにも数十F必要。だが今も"加速"するソレに対応するには全く足りない。


「クソっ!」


 サードムーン帰還、バックステップで着弾地点を回避。だが暗殺者もそれへの備えは十分で、同じ方向にレーン変更。跳ぶのは手軽であるが故に読まれやすい。


『うーん優れた個も数で殴れば勝てるか』


>これ作戦勝ちじゃないかなぁ

>見るからに落下の一撃特化だしそれは仕方ないかも

>対処されるの分かってるからこそって奴な


「隙だらけだぜっ!」


「まだ居るのかよォ…!?」


『これがジェットストリームアタック…!』


>違うと思う

>3段攻撃なところしかあってねえよww

>対処されそう


 そして対処に次ぐ対処で緩んだ『第六感』の穴を突き第三の刺客がやってきた。廃砦の門奥から隠密MAX縮地ダッシュで現れた。逆手に握った双短剣をクロスさせ、これまた致命の一撃になり得る構え。つまりは即死の板挟み。


『こりゃ詰んだか』


>いや流石に無理だよこれは

>仕方ないね

>もう助からないゾ♡


『『ばぁぁぁかぁぁぁなぁぁ!!!!』』


 攻撃に極振ったアリサにここから逃げる術はなく。脳天にはアサシンブレード、下からはクロス昇竜斬がヒットしてEND。カニバルヒールで減っていたHPでは耐え切れるわけもなく……死亡。


『チーム昆布巻きは敗退しました』


『順位は二位です』


『優勝は"AA"です』


『おめでとうございます』





















 



「負けたぁぁぁ」


「……悪い。油断した」


 というわけで元の配信待機場に二人はリスポーン。ファインダーは相変わらずログアウト中、とはいえ本戦までには帰ってくるだろう。


「いやあれは仕方ないでしょ、逆にあそこから勝てたらマジでやべえやつだから」


「そうだぞアリサちゃーん」


「よくやった!グッドゲーム!」


 電子の酒につまみを掲げながらよくやったと褒め称えるは飲みまくり食べまくりの視聴者達。いい意味で態度が悪い彼らはここぞとばかりにどんちゃん騒ぎ、コメント欄のカオスそのまま飛び出てきたかのよう。


「でも一位通過はできなかったなー」


「シェリー自信たっぷりだったのに」


「…………」


 なのでシェリーはイジる。だってシェリーだから。ちなみにアリサは機嫌が損ねられぬようスッと差し出されたスイーツに夢中なのでノーダメージ。


「ほら何か言ってみな」


「死にっぷり見事でしたよ」


「…………ですか」


 俯いたシェリーは何か呟く。


「…………ダメなんですか」


 再度呟く。


「ん?」


「もう一回言って」


 さぁ大きく息を吸い込んで……


「二位じゃ!!!!ダメなんですか!!!!!」


 一拍。


『『ダメでーーす!!!』』


「ア"ア"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!」


 悔しさのあまり絶叫と共に自作オファニエル召喚。


「全員殺せば二位だった事実が消えるな……?」


 感情の死んだ声で。無表情のまま溢して。


「話し合おう」


「俺は二位でもいいと思う」


「よしんばシェリーが二位だとしても世界一位に可愛いから」


 ギャララララララララ──!!


「問答無用!!!!」


 ギャャァァンンッッ!!


『わぁぁぁ!!!???』


 視聴者達は、とりあえず全員リスポーンさせられることが確定したのだった。


〜〜〜

Tips AA

正式名称アサシンアーツ。ただしプレイヤー名はそれぞれ

-シザー( ^∀^)/双短剣振り回してきたやつ

-マロン(*´-`)/上から落ちてきたやつ

-レア( 'ω')/毒霧作ったやつ

とアスキーアート入りの名前になっている。

上の二人が一撃特化なのでレアは専ら煙幕巻く仕事をやっている。

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