予選-8 一撃で殺せば反撃に恐れる必要はない


「吹っ飛いやぁーっ!」


『Brrrraaash!!!』


「死ねぇぇぇぃ!!」


>南無三

>なーむー

>あはれなり

>いとおかし


『残存チーム数は5組です』


 そして、残り5組に至る。


『残存チームを表示します』


──

[トライヘルメス 上位5チーム]

-プルガトリオ

-昆布巻き

-バイバイキング

-『産業革命』

-AA

──


「お、バレっち達残ってるじゃん。でも予選じゃぶつかりたくないな〜、なんて」


 NINJAとリアル武人たちを下し、たどり着いたのは大きな廃砦。しかし先客がいたので肉体言語で語り合い快く席を譲ってもらった所だ。一行は古いイスに腰掛けて机に突っ伏し、インスピレーションを受けて閃いたりと微かな休憩の時を……


『エリア縮小を加速します』


 得れなかった。


「待って」


>運営が殺しに来てて草

>あの嵐に巻き込まれたくないな

>全身の肉がズタズタに切り裂かれて死にそう


 蜘蛛の巣と化したタペストリー。描かれた紋章、置かれた家具の文化レベルなどに興味を惹かれていたシェリーは唐突に現実に引き戻される。


「アリサぁ!マップは!?」


「…お、ここは範囲内だ。良かったな」


 それを聞いてシェリーは一息。流石に手の内の変わる変わる戦いが続けばいくら走者のシェリーのスタミナクリエナも切れる。脳内ライブラリと室内インテリアを照らし合わせ考察厨と化す。


>ここデレ

>シェリーが乱数に勝利するとか偽物か?

>替え玉がボイリングブラッド使えねえだろ

>痛覚100%配信者少ないからな…

>そもそもこれ公式配信だwww


「なんや焦って損したわぁ……」


 魂魄暴走Iの代償でシリウス使用制限中のファインダーはベンチに寝そべる。無敵になれないために武器は換装し耐久重視の繋ぎ用籠手になっているため踊り子な装備とのミスマッチ感は増して。


>今部屋退出できないのが本当につらい

>同士よ

>天女め……


「……?」


「さてさてラスト5チーム、このまま潰しあってくれたらいいけど……」


 一通り見終わって満足したシェリーも机に着席、ちゅーっとクリエナを補給しながら軽い作戦会議。


>行儀悪いですよ

>良い子か真似したらどうするつもりなんだ

>こんな配信見る奴元々行儀悪いわ

>[こ ん な と こ ろ]


「攻めに行くぞ」


 byアリサ。さすが脳筋、考えるのはキルのことだけ。


「偵察しといた方がええと違うん?バレの事は知っとるけど……他のチームはウチも知らんで?」


 byファインダー。収集癖のある彼女らしい意見だが。


「「真っ先に死にそうな奴は黙ってて/てろ」」


 responsedシェリー&アリサ。割と今戦力外通告スレスレな彼女の意見が通ることはない。民主主義は潰えた。赤いペナントがヒラリと旗めく。


「……そんな二人とも酷いわぁ……」


 およよの泣き真似。二人に効果はないようだ。なんなら暫く( ´_ゝ`)こんな顔で見つめられてファインダーが反動ダメージを受けた。


>ファインダーちゃん貧弱だからね、仕方ないね

>俺の剣1発で倒せそう

>無敵がなければただの女子よ

>それコンプライアンス…セーフ?マジ?


「事実陳列罪ないのかよこのコメント欄……」


 これこそが治外法権というものだ。


「気にしても仕方ない。外出て探してみよか」


「んじゃアタシが前に出るぞ。ファインダーは後ろにいろ」


「助かるわ。ありがとなアリちゃん」


>出待ちされてそう

>いやいやそんな訳

>不意打ちで殺すの楽しいしな


「視聴者共……フラグ建設やめな?」


>ひぇっ

>この可愛い顔から繰り出されるオファニエル

>なんだろう…ギャップ萌えやめてもらっていいですか?

>性癖が歪む──!

>お前ら性癖粘土かよ


 カメラに振り返って人差し指を唇に。しぃーっと笑顔でシャラップモーション。さぁ進もうと向き直し、外へ出た二人を追う。


「おーい、待ってくれー!」


「待ってる待ってる」


「早う来ぃよ」


 逆光のせいで浮かぶ二つのシルエットが手を振る方向にシェリーは駆ける。しかし、黒点が一つ、その白背景の隅から迫って来て。


>映えるアングルだな

>……ん?

>急に嫌な予感がした


「…………あっ」


 ウィンドウ操作、装備変更[イモータル・オルタ]。そして宣句するは


「真髄解放ッッッ!」


「あ?」


「急に何して……」


>えっなんで

>ああ見えたわ

>何が?


 シェリーの身体が文字通りの肉々しき触手と血肉に覆われ変貌、悪堕ちどころか闇堕ち、いやなんなら深淵そのものから這い出て来たかのような姿に変わり、着弾──今。


 ッッッッッッバ──ダァァァァァァンンンッッッ!!!


>!?

>なんの光ぃぃ!?

>オイオイオイ死んだわこれ


 一面が爆発の赤と煌めく星で埋め尽くされる。廃砦は半壊し、ファインダーは見事にデスペナ。アリサは……半身を削られたもののカニバルヒールで五体満足。そしてシェリーはデッドイーター・真髄の無敵時間変身バンクで相殺。


>いまアリサやばかったよな?

>巻き戻して確認できない

>ノーコメントで


「起きろファーちゃんっ!」


 そして惜しみなくぶん投げられる[再誕の雫]。デスマーカーにそれがHITすると同時に、ファインダーの身体アバター魂魄武装シリウスの再生成が開始。仕様上蘇生されると真髄も暴走もペナルティの使用不可状態が解除されるのだ。


>蘇生通った!

>当たるもんなんだな

>投擲技能は基本ですよ

>お手軽に遠隔回復できるからな>投擲


「何が起こって……」


「壊滅魔法飛んできた!マジで出待ちされてたんだけどフラグ建てたやつ誰だよっ!」


>\\[私だ]//

>[お前だたのか]

>暇を持て余すなww


「後で視聴者はんにはキツゥイお仕置き…オファニエル耐久24時間コース確定やな」


>やめてください死んでしまいます

>でえじょうぶだ、再誕の雫でいきけぇれる

>貴重アイテムをネタに使うお前ら好きだよ


 棘が増し、排熱の増したシェリーはそのまま焼け焦げた地面と二人の横を駆け抜けてゆく。タイムリミットは120秒、それまでに倒さないとシェリーは使い物にならなくなる・・・・・・・・・


「場所は逆算してわかってるッ!」


 壊滅魔法。圧倒的威力を誇る特殊魔法。その代償として消費MP、スタミナは莫大で詠唱時間も長大、そして射程は固定・・・・・である。今回はこの点が致命的。生き残った相手がこのゲームに詳しすぎたのが災いした。


>ああ、アレか

>何?ネタ魔法?

>こんな序盤から使う奴いたのかよ草


「うぉぉぁぁぁ間に合えぇぇ!!」


 残り180m。残り100秒。木々の先の巨岩の上に陣取る魔法使いを目視。火、水、風、土の四色弾幕が進行阻止に送り込まれ。ジワジワと色を取り戻すシェリーのHPバーを守るため、サードムーンが盾となる。


『軽ィなぁぁ…実体のねェ攻撃判定なんぞぶっ潰しゃ終いだァッ!!』


 いいや、あるいはラケットと呼ぶべきかもしれない。スキル:魔破の効果により、アリサの物理攻撃は魔法攻撃を破却可能に。飛ばされる幾多もの弾幕は真っ正面から粉砕玉砕の大喝采。


>これが新作のビートバスターの譜面か

>まだやってんのかよ

>あれVR黎明期からない?


「音ゲーは私にがてかなぁ、なっと!」


 残り150m。残り90秒。近づくにつれて弾幕の密度は上がり、アリサの取りこぼしがシェリーの走行経路に現れてるように。ダメージを受けぬよう持ち前の重心移動で回避グレイズ重点。


>多い多い多いwww

>雨霰で草

>死ぬってこれ


「傘職人しっかりしてよ!」


 残り130m。残り80秒。左手には岩を、右手には牙を。阿吽の呼吸で比翼連理なコンビはソレだけで通じ合える。


『悪りぃ、だから跳べ!』


「あいあいよい!」


 ブロック・ロックで隆起する地面に合わせ、属性弾の雨雲を飛び越すシェリー。同時に森の牙がぶっ倒れている魔法使いの土手っ腹を穿ち、突き刺さる。残り120m。残り70秒。


「今行くから動くなよっ!」


>動くなと言われて動かん奴がおるか!!!

>完全に土左衛門ですね

>不意打ち壊滅魔法は死罪よ〜


 割と便利なハンティング・ジャー起動。猛り疾るオファニエルの月輪が地に伏す愚か者を追い、その棘で挽き肉ミンチのフルコースをお見舞いせんと張り切る。


「ここまでたどり着いたか」


「では死ぬが良い」


「………」


>一人だけ倒れてるの締まらない

>赤い…な

>ああ、こいつらか。名前一覧見たらわかったわ


 しかしそんなシェリーを狙って集中砲火。砲火砲火砲火。たった『1秒』の間に莫大な威力ダメージが入る、が。


「残念だったな 今は受けても大丈夫なんだ」


>チェイサーダメージはいるのね

>カスダメでもダメージはダメージだからな

>投げナイフも使えそうだなそうなると


 残り60秒。もう5mを切った。固められた魔法のバリケードを食いしばりで突破して、障壁はぶっ壊して。魔法使いを殺す準備はOK。あと少しで戒天の棘が届く。


「衝撃よ、我が敵を吹き飛ばしたまえ」


「待って待って待ってソレはまずい!!!」


>草

>カッコつけた顔が急激に崩れることでしか補給できない栄養素があります

>長いわw


 しかし強制移動技ノックバックでハンティングジャーのモーションはキャンセル。デッドイーター・真髄はあくまでもダメージを耐えるだけであって無敵ではない。再び距離は離されて15m、残りは50秒。オファニエル逆推進で距離を最小限に抑えてこれだ。


「大義であった」


「では潰えるがいい」


>痛い痛い痛いww

>変なRP勢しか居ないのかこのゲームはw


 そう宣われ三度シェリーを照準に入れたまま展開される魔法陣。弾幕。倒れたままの一人壊滅魔法使いは完全に放置されながら、それら魔法は放たれた。魔法行使に特化した昆布は近づかれさえなければ如何とでもなり、このようにソレが苦手な相手ならば封殺だって可能。それが魔法使い3人というイロモノPT、プルガトリオがここまで残れた理由だ。


「「さよならだ」」


 2/プルガトリオの手が振り下ろされ、魔法陣は支払われた分のMPを餌に、シェリーの背中に遠慮なく死球デッドボール連射マシンガンの狙いを定めるのだった。


〜〜〜

Tips バイバイキング


次回にも出てこないのでここで供養。

超絶物理偏重PT。

海賊というよりは蛮族。

全身を魔物素材と木の鎧に包んで攻撃を受けながら突き進みぶち殺す。

アリサの下位互換が3人集まった感じ。

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