予選-7 即断即殺

「ほら立ってアリサ、早く行くよ」


「ん」


 アリサが伸ばした手をシェリーが掴んで引き起こす。ボイリングブラッド・怪力の効果時間が未だ続いているせいで急接近。


>ヌゥ!

>おじいちゃん、座ってね

>キマシ?


 シェリーの割と豊満であるバストに埋もれるアリサの顔。腑抜けて惚けモードのゆるゆるアリサの上目遣いに思わずシェリーも揺らぐ。


「あ、ごめん」


「うん」


 思わずパッと離れる彼女の顔はほの赤く染まっていた。いやー暑い暑いと手で扇いで誤魔化すが、実際燃えていたのでそれはそう。


>ちょうだいちょうだいそういうのもっとちょうだい

>百合に需要なんてあるのか

>戦争始まるからやめれ

>供給過多すぎて死にそう


「黙れ百合豚」


「私が扇ごうか」


>[してあげて]

>FFないから行けるな!

>今なら丁度良さそう


 サードムーン招来。バフなしでも両手で軽く肩に担いだそれを振るわれたら、熱どころか肉の一片すら残らないだろう。物理的に。


「冗談だよね??しかしファインダー遅いなぁ、もうトドメは刺したはずなんだけど」


「そうだねー」


 ブォンブォン軽く振る音


>前言撤回普通に怖いわ

>質量の暴力

>死ぬ死ぬww


 素振りしながら待機、軽く広場になっているここは再始動肩慣らしに丁度いい。が、やけに静か。先刻ウザったい名乗りアイサツを殴り倒した反動でそう感じるのだろうか。


「HPゲージは減ってないから被弾はしてないと思うんだけど……ぉぉっ!?」

 

>なんの光ィ!?

>分かるだろw

>1人しかいないからな


「ファー?」


 心配で迎えに行きかけたところで問題発生。木々の奥から溢れ出てくるゲーミング。検証の際に何度も見たシェリーは『何』を使ったかすぐに理解した。


「ちょっ合流しに行くよ!?」


「あ、待って!」


>クイックドロウ好き

>早撃ちならバレ様とどっちが早いんだろ

>……どっちやろなぁ


 CT空けたフォレストチェイサーを酷使して移動、いまのエフェクトは、どう見たって『魂魄暴走I』が発動した証拠。


「漁夫られたッ!」


>バトロワですからね

>離れてたのが原因だな

>いやこれは仕方ないでしょ


 2人の内で使用後に代償を払う真髄解放と魂魄暴走はできるだけ使用しないことにしていたが、緊急時となれば話は別。特にファインダーはスキルのCT中を狙われるととんと無力、唯一残っていたそれを使うしかない。


「く、ぅらっ!」


>ファインダーちゃんどこ??

>いるだろそこに

>やはりゲーミング


 木々を抜けたシェリーの瞳に映るのは、極彩色の光条を湛えし狼。四駆の脚を活かし変化した爪を振う。が。

  

「フゥゥゥ……破ァ!」


>草

>赤い鉢巻が見える見える……

>俺悪魔の角だわw


 鋼鉄の籠手を填めた武人が其れを見越して狼落としカウンター。いくら無敵でも自分のベクトルを返されては吹き飛ぶしかなく。


「………矢は通らぬか」


>ひっ

>いやクールだな

>漁夫ってもうちょっと柄悪いかと思った


 風を纏し五月雨が突き刺さる…が、流石にそれは無効化。木の矢も狼も、無傷のまま力なく落ちる。


「あと何秒!?」


「まだ半分は残っとる!」


>真髄SUGEEEE

>いやこれ魂魄暴走

>ミーシャと同じだっけか

>[はい]


 移動の勢いのままでファインダーの前に立ち、シェリーは兜を被る。それだけで『回転鋸椎名』は『片手剣シェリー』へ姿を変えて、ブァァァァァンと叫び威嚇する。生まれたてからなんとか立ち直したファインダーは。


「会話をする暇を与えてしまうとは。吾らも未だ未熟か」


 アリサに匹敵する歩法で迫るサァムライの刃を、その身で庇い。無敵が悪さをしたのか剣術の違いか。飛び込んだ身体は刀を滑り、尾はしなったままに頬を打つ。


>物理演算仕事しろ

>ぬるりと避けられた!?

>防御を避けるとかいうパワーワード

>これが貫通攻撃ですか


「ハァ!?どうなっておるん!?」


「"受け流した"までよ」


「だぁぁぁぁくっそめんどくせえコイツらぁ!」


>発言が強い

>COOOOOOL

>それはただの発狂


 先程のNINJAはすぐにぶっ殺したのに今度の奴らは普段と比べて強さが一際引き立つシェリーらがゲームの覇者だとすれば、この拳刀弓の集団は『リアル』世界の覇者のよう。嫌な予感を察し剣にした上で真十字に防がなければ止められず斬られていた。


 キィィィィガガガガァッ!


「なんと、絡繰の剣か」


「ええ、ええ、受けるのは怖いか?おん?」


「世迷い事を」


>言動がチンピラ

>なろう系ならボコられてる側

>調子乗ってるなぁ


 姿が変われば在り方も変わる。いつものRTA中のように煽り口調で捲し立て、その胴体を狙うだけ。なんなら今は当てればいいから隙が欲しい。AIに効くならヒトにも勿論通るだろう。そして流されたファインダーは脚を軸にクイックターン。サァムライの背中を狙うも。

 

「そぉら!」


「ひっにゃぁぁぁ!?」


 武人がその背を掴みぶん投げ。相手が人の姿をしていないからかどちらかというと格ゲーのモーションに近いが、"距離を離される"というのは時限の中で戦う彼女にとっては痛手でしかない。


>可愛い声してんじゃねえよ!

>あの喋り演技やって言ってたしなぁ…

>このままの方がいい(


「さて次は……」


「っラァ!」


「くぉゥゥ……」


 獲物を探す彼に追いついたアリサが割り込んで。質量と斥力で吹き飛ばすノックバック。幾ら特徴:鋼々硬化の肉体でも相殺とはいかない。『打点ダメージ』と『衝撃インパクト』は別扱いの世界ゲームだから当然か。


「ディラァ!」


>やりますねぇ!

>強い女の子好き

>狂化もついてきますけど


 そして切り返し反転、攻撃。レンジが優秀であるが故に横槍も出しやすい。シェリーと睨み合うサァムライの背に一撃。


「ナイスアリサァ!」


 袴の上から金的。怯ませて突き。何処であろうとも当たれば勝ちな性質を保っままのオファニエル・ブレイドは競りに勝ちやすい。


>ひぇっ

>きゅっときた

>震える


──

[アクト・グラディアトル]

カテゴリ:金属兜

属性:無

スキル:アナザー・ブレイド

──

[アナザー・ブレイド]

この装備を英雄が装備している間自動的に発動する。このスキルの発動中、英雄の持つ魂魄武装のカテゴリが『片手剣』に上書きされる。

──


 ストーリークエスト第三話のボス[A-udometer]のドロップ魔核装備。それらの効果は単純でありながら『魂魄武装』そのものに干渉する"悪趣味"なもの。英雄そのものと言える映し身魂魄武装を改変とはなんとも罰当たりで観客アイツららしい。シェリーの感覚的には無許可の二次創作に近い。


「ぶっ殺すっ!」


>語彙

>走ってる時に言語野にまで気を配れるか

>草


 つまるところこういう事。


──

[オファニエル]

カテゴリ:片手剣

ランク:IV

属性:無

特徴:多段攻撃/固定打点/特殊移動/情熱機関

──


 猛る情熱機関、廻る棘鎖はそのままに。『片手剣』という小さな器に閉じ込められた暴力オファニエルが、腑を抉ってポリゴンを引き出す。


>ぎゃぎゃぎゃーん

>ひどい

>あぁ〜^棘が骨まで達した音〜^


「流せぬ、と…!?」


「お前がいくら流そうと刺さった澪標が抜けるかいやぁ!」


 イグニッション。自傷と爆熱を撒き散らして軌条を疾る棘。カウンター主体であるならば耐久は並以下。素の攻撃性能もシェリーのリジェネを貫ける程にない。


>燃えてる燃えてるw

>痛くないのこれ

>楽しさ>痛さだと思う


「捕らえたァァァ!!!」


 一人はキル確定に持っていったと確信するシェリーだったが、しかし。飛来せし風纏う矢には対処ができず……


『GYAAANN!!』


 となれば親友の出番。咆哮で妨害、遅延させ矢をぶった斬り破壊。


「また頼むわっ!」


『OOOkEEEE…!』


>合体技

>一度使ったら何度でも使うとっておき

>ゲームでよくあるやつ…


 狂った月は止まらない。型の稽古は染み付いている。振り下ろし刺さった瞬間持ち替え転換、横から駆け戻った『流星シリウス』を加速させて、『発射ホームラン』。防ぎに入った鋼鉄の拳さえも極彩色は乗り越える。


「止めきれぬ……!?」


「ああ無理だ。だから言ったろう、ゲームとリアルは違うと。私も再計算が大変なのだぞ?」


>そうなの?

>うん

>スキルの補正が煩わしい時ある

>見てる分には楽しいんだがな


「そうさ、なァァァ!」


「ハァァァァァ!!!」


 獣の爪と鋼の拳が正面衝突。じり、じり、と地を擦って押される武人。武の積み重ねがあろうと一時の夢想には敵わないか。


>ここすき

>拳と拳のぶつかり合い見てるだけで癒される

>特殊性癖の方?


「ああ、うん。ここまでやれたのだ、よくやったと思おう」


 第三射、纏いし風を以って貫かんと狙った矢も。

 

『Ураааааааа!!』


>うーんあの弓強いんだけど…

>なんというかアリサが敵にいたのが運の尽きだね

>これだけの強さで漁夫狙ったらそら残るわな


 狂化ボルテージマックスなアリサに通じず。正面から叩き折られて終わり。そのまま動けない武人の足を払って。


>武士道どこ…ここ?

>そんなものはない


「何…!」


「ようやったアリちゃんっ!」


「gg」


 やれやれと肩をすくめる射手へ諸共突撃、Double Kill。二つの撃破エフェクトが天に上ってエンド。


「おま、しぶとぉ!?」


「吾もここでは倒れられん!」


>こっちはさぁ……

>ギャグの雰囲気してきた

>キャットファイト…?


 とはいえラストのサァムライがオファニエルによって死に絶えるまでは、あともう少しの時が必要なのだった。



『残存チーム数は10組です』


〜〜〜

Tips 有意天辺


リアル武芸者の集まり。言動から分かる通り弓のやつだけがゲーム寄りであとはリアル武道をそのままぶっ込んできた。アリサとは"歳違い"で直接の関わりはないが顔の面識か名の認識か、それくらいはあると思う。

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