予選-6 逃げは勝ちだが殴った方が早い


「んん〜……エリア運悪いな私達」


>端っこで遊んでたからでは?

>芋放っておいたら何されるかわからないし

>後ろから撃たれる危険性あるなら潰したいじゃん?

>撃たれる前に逃げればいいのに…


 嵐に追われた3人は森エリアへと突入。見通しが悪くオファニエルやサードムーンという大物二つを振るいづらいだけでも大変なのに、エリアの縮小予報はまだこの先の位置を指差している。


「それでも強引に突っ切るしかないと思うわぁ」


>ロボらは突っ切る前に殺されたしね

>ひどい戦いだった

>でもエモかったでしょう?


「ま、次のバフがコレだしなんとかなるだろ」


 アリサは獲得したバフを改めて確認。視界に表示されているUIの変化を見れば予想はつくものの視聴者に向けて纏めて再表示。


──

[特殊付与]

-自動回復(小):ファーストキル

-打点上昇(小):15KILL

-加速効果(中):フィールドボス(平原)

-体力増強(小):10分生存ボーナス

-打点加算(小):30KILL

-敵性感知(弱):残り30組

-筋力上昇(小):45KILL

-気力増強(中):残り15組

──


>多すぎるww

>他所はこんなにないだろ(

>生存ボーナスはともかくキルは多いよな

>普通に中の効果貰えるんだ

>いいね


 暴れすぎたせいで行数がおかしな事になりつつあるがこれも一つの戦績。そして新たに増えたのは気力増強(中)──即ちスタミナ増加。スタミナ消費技が多いシェリー、後先考えないアリサ、瞬間的な暴れが基本戦術なファインダー、全員にとってかなり有益な効果。今から走ることが確定している事を含めて考えてみるとかなりのアタリ効果か。


「んっ、んくっ……よしっ、行こう」


 背を木の幹に預けていたシェリーは気合クリエナを充填。満足行く量を嚥下して走り出そうとするが……


>飲んだな

>喉鳴らしたの見えたぞ

>咽せろ


「そやでシェリは〜ん、もっと面白くゴホゴホしてくれやんと〜♪」


 目敏い視聴者とファインダーからは逃げられない。ジリジリと迫る魔の手に後退り、このまま捕まったら何をされるか判ったものではない。


「ファーちゃんはどっちの味方なの!?」


「そりゃあ金と取れ高や」


 あっけらかんとファインダーはそう宣った。普段から言っているがやはりブレない。ここはブレない。遂に背が別の木に阻まれ、スッとシェリーは助けの視線を横に向ける。


「アタシはずーっとシェリーの味方だぜ」


 電波を受信したアリサはサムズアップ。安心と信頼のアリサさんである。もしこれが映画ならここは任せろって言って残った挙句普通に殲滅して帰ってきそう。


「うぁぁアリサぁぁ〜〜!!」


 演技も混じってはいるが褪せない友情に感極まって一人包囲網を抜け出しアリサに抱きつくシェリー。身長差的には妹に抱きつく姉っぽい。


「百合美味しゅう。」


>あら〜^

>でもこれバトロワ中なんですよ

>弘法時と場を選ばず、だろ?

>選ぶわ馬鹿


 いくら金の為でも尊さは邪魔できないファインダーもこれには合掌。一時の平和が訪れた。とはいえ縮小したエリアには未だ多くとも45人ものプレイヤーが残っている。戯れ合いは程々にして立ち直る。


「不意打ちで死なないようにね」


「アリちゃん先頭でよろしぅ〜♪」


「一番硬えのはアタシだしな。問題ねえよ」


>肉体性能で耐えてる

>勝鬨強い

>物理特化は素晴らしいな

>殴って回復して強化してって止める方法ないんだが


「幾らかやりようはあるよ〜、アリサの総合耐久以上でワンパンとかデバフ祭りとか」


「そういうのに耐性はねぇからなぁ……正面から殺り合う方が性に合う」


>刀振り回す時代に生まれてる?

>里を焼かれたのか

>鬼に親でも殺されたのでしょう


 アリサは肉体感覚の異常は狂化で相殺できるが侵食は止められない。雑魚的が蔓延るボス戦ならば問題ないが今のような敵が少ない状態だと体力はジリ貧になる。本来なら自立しない独楽が全力回転した結果縦横無尽に動き回るみたいな絶妙なバランスで成り立っている。


「ウチは先制攻撃に弱いで!」


>えいえい!(遠距離攻撃)

>怒った?(死亡確認)

>怒ってないよ(デスペナ)


「その通りやわwww」


 こっちは喩えるまでもなく。\(^o^)/と叫びたくなるようなクソ耐久を時限式『完全無敵』で踏み倒して火力に極振りしているからそもそも戦闘をさせてもらわないと無理。


「って考えると私は割と隙がないよねー?」


「単純なステータスの暴力に弱いでしょ。」


「ははは」


 火力の押し付け合いならかなり優位に立てるがガッチガチの耐久特化は削りきれないので無理。追いつけないと攻撃できないのでオファニエル以上の移動速度は嫌い。そもそもオファニエル以上の攻撃手段を持って来られるとハメられて死ぬ。


>なぜこれで勝てているのか

>相性いいやつばっか狙ってるからでしょ

>じゃんけんを銃で薙ぎ倒すかのような所業

>それさっきのシェリーじゃん


「ふははは」


>調子乗り出した

>これは死ぬフラグ

>[●REC]


「配信の無断保存はやばいわよ!!!」


「いつものことやと思うでー」


「あー、そうだなー……」


 一歩、二歩、散歩。どこか浮ついた空気のまま進む一行。周囲に敵反応がないので雑談配信のようになってしまっている。


>バレなきゃうんぬんかんぬん

>モロバレですよ

>つうほうしますた


 そんな平和なコメント欄を眺めながら、アリサはクルクル回る矢印を気にしていた。休憩中は"見えもしなかった"のに、歩き出してしばらくしたところで回りだした。特定の方向を指し示す訳でもなく、ただ彷徨っているだけにも思えるが……確認するに越したことはないだろう。確認のために声を──。


「なぁシェr」


 バァァァンッ!


「どしtぁぁぁぁ!!!???」


>????????????

>何何何何何!?

>不可説不可説転

>驚いてオレンジぶち撒けたが!?


 奇襲は突然に。シェリーとファインダーにとっては完全なる青天の霹靂。アリサが踏み締めた地面が大爆発を起こしてその身を飲み込んだ。


「グ、、ゥァッ……!」


 獣のような唸りを上げているのでギリギリで持ち堪えたようだが見た目は部位欠損に大火傷と普通に満身創痍。多分現実なら絶対安静ドクターストップICUに拉致監禁は間違いない。だが、目には闘志が、狂気が灯る。この程度のハンデ、カニバル・ヒールで補填できる。


「え、えーと……アリちゃん?」


『………………rrua!』


「ダメそうやね」


「そんなあっさりとぉ!?」


>もう助からないゾ♡

>それはどっちが?

>俺らの鼓膜が

>イヤホンじゃないから大丈夫


 問診飛ばして視診だけで理解できる。今の大々ダメージでアリサの狂化フラストレーションゲージがフルリミットしたと。そして奇襲を受けたがために二人の視界にも行き先を失いクルクルと回る矢印が現れた。


「無敵使ってええ?」


「いやぁ、やめておいた方がいいと思う」


 なんせ無敵状態は目立つ。こちらことを知られていた場合ガン逃げされて無駄になるのが目に浮かぶ。それでいうなら唸り続ける野生児アリサも同じ事だが、ある意味彼女は絶好調。


『──ミィツケた、ァァッ!』


「なんとぉー!?」


>忍者だ!

>アイエェェ!!??

>シノビ!?シノビナンデ!?

>コイツら残ってたかぁ……


 狂った精度の矢印第六感による気配感知でアリサが近くの茂みに三日月を振るう。赤い頭巾の忍者が跳ね出された。アンブッシュキルが失敗したのに隠れたままとは不届き千万、ぶった斬るしかあるまい。


『オォォォ!!』


「サヨナラーッ!」


>とんでもねえ剣術だな

>リアルでこんな技あったら笑うわ

>無くはない

>あるの!?


 満月空裂斬→→↗︎↑強←。距離を取ろうと逃げた赤忍者は追いつかれて股より裂かれ即死。満月が如き軌跡を反時計回りで成し着地……は、失敗。


『Haaaagaa!?動けねぇっ!?』


 "見えない何か"に絡め取られたかのようにアリサはピンと手を伸ばされたまま地面にドサっと倒れる。


「え、何があったの」


『分かるかァッ!鎖っぽいのが巻きついてるッ!』


 そうアリサが叫んだ事で原因が見えた。手足を"鎖鎌"によって身体に縫い付けられたせいで、粽のように転がされてしまったらしい。


「えぇ…そうはならんやろ……」


「なっとるやん」


「クックック。拙者の鵺術は如何であるか?」


「何奴!?」


 誰の仕業かと声の方向を見上げると、今度は白装束の忍者が木の上で仁王立ち中。その手元にある棒からは鎖が下まで続いていて、間違い無くコイツのせいだと理解できる。


>また忍者じゃねえか!

>篠眉忍軍、NINJAのRP集団だな

>そこ忍者じゃないんだ


「ククク…拙者の"ヌエ"は足止拘束付き。そう容易くは動けまい!アリサ殿討ち取ったり!」


 嫌味ったらしく笑う忍者、いやNINJA。忍ばず笑い散らかすそいつに向ける二人の顔はいつしか笑顔になって。


「ファーちゃん」


「シリウスはんっ!」


 待ってましたとゲーミング発光。RPに酔って油断していたNINJAに今更反応できるわけがない。


>目に悪いぺかーだ

>ぺかーってなんだよ

>後光のことだよ

>\[☆(*´ω`*)☆ペカー]/

>絶っっっっっっっ対に流行らせないからな


「え待って拙者まだ名乗りしかやっておら」


「加速閃打乱打ァ!」


 躊躇なくバフを投入し急接近、白いスクリーンには1680万色の虹色が投影される。


「うぉぉぉぅ!?」


「避けるんやないでぇっ!」


「うーん目に毒」


>お前は耳に爆弾

>五十歩百歩

>みんな五感を殺しにきてる


「そんなわけないでしょー、私はみんなに楽しんでほしいだけだし、ぃつぅ!?」


 コメント欄との雑談中を狙われた一撃。戦闘中に油断をしてしまった代償は重い。首筋を回る円環チャクラムが切り裂いた。


「投擲武器まであるのかよ…!?」


 地雷、足止鎖鎌に続いての遠隔攻撃。流石NINJA汚い。黒装束の忍者が森の影から現れる。表情は頭巾のせいで見えないが、なんというか腹の立つ顔をしている気がする。


「倒しきれぬでござるかぁ……シェリー殿」


「殿じゃねえよ嬢って呼べ」


「ここで会ったも何かの縁。デスペナしてもらうでござるよ」


「それはお前らがだなぁ!燃えろ私ィッ!」


 ボイリングブラッド・怪力。身体は炎上して排気は排炎に。赤き焔の塊になって急接近オファニエる


>使ったか

>温存してたんかな?

>単純に速攻したいんだろ


「単純でござるなぁ〜♪」


 そんな突進を黒NINJAはひょいと宙返り、そうするのを"分かっていた"かのように避けたが……それもシェリーは織り込み済み。下準備は済んでいる。


「ブロック・ロックッ!」


「ぷげらぁ!?」


>草

>着地狩りかよ

>やっぱこのゲーム格ゲーだろ


 調子に乗って不用意に飛ぶから狩られるのだ。見返り着地地点を予測していたシェリーは後出し地形操作で背中を殴打。再び打ち上げ花火。そして首には『牙』が突き刺さり。


「からのハンティング・ジャー!」


「待て、待つでござるまだ拙者の活躍が」


>登場時間1分未満

>ギャラでなさそう

>姿晒すから…

>NINJAはみんな自己顕示欲高いねん許してあげて


 下手をしでかしたNINJAの末路は一つ。"兜"を被ったシェリーは、その手に爆熱回転する"片手剣チェーンソー"を握って。


「面白いからノッてあげる、褒美に打首獄門だっ!」


「それだけは勘弁でござるぅぅぅぅ!!!!」


>判決死罪

>……待って?なにあの剣と兜

>サラッと新装備出てない???

>なんかクーリエのに似てるかも


 戒天の鋸刃がギャギャララララァァァァッ!!黒が血で染まる前にリスポンできた彼は、これが現実じゃなくて幸運だったのかもしれない。


「紹介はしないよー、隠したかったしね!」


>は?

>隠し玉だったかぁ

>あそこで使う必要はありましたか…?

>楽しければいいんだよ!


 即座に兜はインベントリにお預け。着地する頃には終打で白NINJAも埋められて、再び3人の勝利。シェリーはヌエの拘束が解けても倒れたままのアリサの元に駆け寄る。


「アリサ〜、大丈夫〜?」


「…………………動けねえの楽しくねえ」


「はっはっは、そりゃそうだわ」


 一周回って狂化フラストレーションが抜けたアリサの顔は、不貞腐れて幾らか可愛げのある顔をしていたのだった。



〜〜〜

Tips 篠眉忍軍


NINJAの集まり。割と中堅どころで今回出場したのは上位3人。

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