予選-5 力は正義


──

[特殊付与]

-自動回復(小):ファーストキル

-打点上昇(小):15KILL

-加速効果(中):フィールドボス(平原)

-体力増強(小):10分生存ボーナス

-打点加算(小):30KILL

-敵性感知(弱):残り30組

-筋力上昇(小):45KILL

──


「また攻撃面かぁ」


 筋力上昇も全員にとってアド。嬉しいのは嬉しいが事故防止のためにも一つくらい防御系のバフが欲しかったところ。例えば耐久上昇とか。


>殺せという圧を感じる

>15チームも殺してたらそんなものじゃない?

>これいる?

>いる(鉄の意思)

>要らなさそうで草


「確かにオファニエルには物理演算でしか反映されないから薄いかもだけど、ファーちゃんとアリサにはガンギマリだし。助かるのは助かる」


 莫大なステータスボーナスを得たアリサが地面を踏み割ってひとっ飛びに帰ってくる姿に頼もしさと恐怖を感じながら、シェリーはくるくると回る矢印の方向に目を向ける。


「ファーちゃんも矢印回ってる?」


「うちも回っとるわぁ…所詮(弱)やし、感知距離とか認識可能不可はあるんかもしれへんなぁ」


>くるくるくるりん

>古っ

>ゲッタン☆だろJK

>どっちもどっちだwww


 先程のハイド貫通はいると確信している上で仮説が成り立ったからなのか、或いはただの仕様なのか。詳しいことは運営を殴って聞くしかない。


「そっか。なら……」


 今度は見返り美人図の再現。しかしこればっかりは見ないといけない。何故なら。


「oh……殺意の嵐デスストームゥ……」


▼クソデカ積乱黒雲

▼ピカピカ雷鳴豪雨

▼気のせいだと思うけど死霊みたいな殺意の塊のエネミー


 これらがじり、じり、と街を覆い始めているからである。アレに捕まったら、如何様でも……


『強ッッッそうd』


「馬鹿野郎逃げるぞアリサぁ!?」


>サードムーンキャンセル

>ドロップキックで草

>感電防止じゃないんだからww


 死ぬ。絶対に。あれは関わったらダメなやつ。そもそも運営が勝たせる気ないやつ。異世界じゃないんだから奇跡の逆転とか願うだけ無駄だし死んだら順位無駄になるんだから。ほんと。強そうなのを見ると戦いたくなる奇病はこういう負けイベント時に致命的な弱点になる。


「アリちゃん!!ホンマにそれはシャレならへんよ!?うわぁっ力強ッッよぉいんやけど!?」


「アリサぁぁ!!止まってぇぇぇぇっっ!!」


>まるでブルドーザーだ

>一人だけ100馬力ありそう

>1000道力

>アリサちゃん何者!?











 どうにかこうにかアリサを止める事に成功し、廃墟エリアからは撤退、初期スポーンである平原エリアまで戻った一行。エリアに追われた結果プレイヤーたちは順調に集まってきているようだが……


「……なぁシェリはん。"アレ"、何やろか」


 数少ない天然遮蔽物に身を伏せながら指を刺してファインダーは問う。


「さぁ……アリサはどう思う?」


 シェリーはとんでもないものを見たという顔で天を仰ぎ、現実逃避をしながらアリサに転送。


「敵」


「「それはそう」」


 剣でぶった斬りたくてウズウズするアリサは純然たる事実だけを告げてサードムーンを召喚。握りしめた拳には歓喜が満たされる。こいつらいっつも殺意多いな。


>仲が良くて微笑ましい

>[今日のショバ代]<

>それはスケアートに払え?


 そんな3人の目前にいるのは巨大人型決戦兵器──つまるところ桜舞い散る大戦で踊ってそうな浪漫の塊。それが哀れなことにえっちらおっちら殺意の嵐から逃げるように鈍重な足を運ばせていた。


「スラスターとか……ないの?」


「見たところなさげ…やねぇ。えらいけったいな姿やけど動きは遅うみたいで嬉しゅうわぁ」


>よりにもよって徒歩て

>普通に歩いた方が速そう

>展開に時間かかるやつなんじゃね?

>あるかも


「規模や強さの代わりに展開速度が犠牲になるとかはあるけど……それにしたって、ねぇ…w」


 オファニエルは被撃耐久性に難を抱え、サードムーンは過剰重量を抱えているもののそのシンプルさから特段遅いわけではない。ただ、彼らが何よりも恐れていそうなのは……


「バリア貼ってるな、アイツら」


「見えんの!?」


>謎視力

>ぼんやりと…見え…?

>リアル超人説根強いな


 不意打ち、近距離戦闘、またはその両方を防ぐように全方位展開された守護障壁。耐久極振りによるエリア縦断強行軍が、目の前を横切ろうとしている。アリサキルリーダーが、それをみすみす見逃す筈がない。


「殴るぞ」


 主に過剰重量で。いつでも襲撃の準備は万端。オーダーは単純。あのスカしたロボをぶっ潰す──!


>いけゔぉ…

>立てば英雄 話せば蛮族 戦う姿はバーサーカー

>バーサーカー語呂良くて好き


「うん知ってた」


 そしてこちらもオファニエルステンバーイ。あのロボ、カテゴリは何だろう、全身鎧かなと流れるように的中しながら想定できる作戦チャートを組み上げてゆく。


>作戦内容が単純すぎ!w

>こいつらにはこれくらいが丁度いい

>殺しの流儀


「そうそう。シェリはんとアリちゃんは雑に動いてる方が映えるんよ」


「おうこらファーコラ」


「私もアリサが暴れてるとこ好きだよ。さて、多分あの鎧本体には攻撃性能はないと思う。ただしこれはチーム戦、攻撃性能を持った仲間も一緒に移動してるのは確定」


「ッ…あァ。居るな。確かに」


>居る…?

>あー、見えた見えた

>肩の上乗ってる


 距離が縮まったので視聴者にも観測できた。両肩に一人ずつ、男女がどこかピクニック日和な雰囲気を醸し出しながら談笑しているような……


「潰すか」


「応」


「判断が早う」


>手慣れてる

>リア充爆発しろ

>シェリーの目からフッと光消えるところ好き

>細かいw


 アリサは縮地(物理)、シェリーはオファニエって急速前進。ファインダーもその後を追うが、サードムーンが振われる方が早い。


『二人とも、衝撃に備えて──!』


 巨大鎧の操縦士は防御体制をギリギリ間に合わせたものの。


『オォォォルァァァッッッ!!!』


 バギャガゴォンッ!


>とんでもない音鳴ってる

>なんちゅう火力だ

>でもバリアは割れてないのか

>相手もすごいな


「ウッソ耐えたの」


 並のプレイヤーなら一撃で消し飛ぶ威力であるアリサの狂凱旋華ダッシュアタックに、全身鎧の守護障壁は何とか耐えたようだ。流石にノックバックは消しきれなかったようで数メートルの緩衝地帯が生まれた。


『ヘェェェ……やるじゃあねぇか、ァァ?』


>人型兵器に打ち勝つ人間

>サードムーンが人間が扱える武器じゃないから

>冷静になって考えると非狂化時も振るってるよな

>君は知りすぎた


『なんって火力…アラクティア、ブラウン、無事?』


「私はなんとか…」


「落ちかかったがセーフ。流石はお前のサンダルフォンだ」


「……」


>やっぱりリア充だこいつら

>男女比1:2

>かーっぺっ、ハーレム野郎かよ!

>#[行け!シェリー!]#


 サラッと昆布の名前サンダルフォンを晒したあたり初心者なのは確定。そしてアリサの一撃をノックバックこそすれ守護障壁で防ぎ切ったあたり耐久は本物。そしてわざわざその中に仲間を入れているとなれば……


『攻撃は任せたよ!』


「勿論。行け、カソード!」


 攻撃面は、残りの二人が担っているに違いない。


>何あれ!?

>昆布なのそれ

>もはやただの兵器


「アリサ!」


 シリウスで霞むが珍しいカテゴリ:バディかつ特徴:自己複製を持つ魂魄武装、カソードの群れが展開される。漏斗状のそれはアリサに頂点を向けて……


『ッチィ!』


「んなっ!?」


 ビームを連射乱射掃射。不意を打たれたアリサの肉が焼かれ焦がれ傷を負う。微かな傷なら自動回復で解決できると高を括るが、それは勿論命取り。


>www

>ロボアニメ始まったwww

>オファニエルだけでも世紀末なのに

>サードムーン合わせてなろう系ってな

>こりゃ一本取られた


『アラクティア!』


 鎧のもう片方に乗った女が、跳んで無防備なアリサに106mmもある極彩色の砲門を向ける。その姿にアリサの狂い顔が無意識に引き攣って──。


「フォイアッ!」


>ぶふっ

>音声入力事故ってる奴おるな

>吹いた

>無反動砲?????


 アリサは・・・・対応を取れるわけがなく、ド派手なエフェクトが直撃。遠距離版のアリサ火力をカウンターされた当の本人は、ワンパンされ、て……


「待たせたな」


 無いっ!


>\[ファインダーちゃんかっこよすぎだろ]/

>俺の推しが!

>緊張と極度の興奮でで死にそう

>やめろw


 あちらが極彩色なら此方はゲーミングだ。目に悪い対戦カードは『完全無敵』の勝利。1080万色に光り輝くファインダーが、ギリギリのところでアリサを庇った。


『ファー、thx。今度は──Buuu潰すuuu……!』


「おう、あのぎょうさん広がる攻撃はウチに任せや」


>[ファーアリ!!!ファーアリ!!!!]

>供給過多でオタク死んでる

>来年の同人のネタ決まった

>はよかけ


 そして。このチームは3人組。ここまで派手な大立ち回りをしているその裏で……最後の一人が、攻撃をする。


 ギャギャギャギャギャギャァァァ!!!


>あぁ…悲鳴と駆動音が心地よい…

>堪んねえ、このライブ感

>ここはロックフェスか何か?


『〜〜〜っ!?』


「よそ見してんじゃねぇぇよっ!noob共!」


 後ろからオファニエルで追突。棘の一つ一つが守護障壁に罅を入れてゆく。そう、守護障壁は防御力は高いがそのものの耐久は低い。つまるところ(あたりさえすれば)固定打点が鬼ほどぶっ刺さりするのだ。現在のように全方位展開していればこのように、ぶつけるだけで削れる。


「エクミィ退避急げっ!」


『無理無理無理前見て前っ!』


>宇宙船でエイリアンに襲われた時みたいになってる

>その例え秀逸だな…

>今日のベストコメントに選ばれました

>もっといいのあっただろ(


 後門の戒天シェリーとくれば前門の辻斬アリサ。狂笑が響き渡り、進化した超過重量の一撃からは逃れられぬ。


『鉄屑ハァ、スクラップだァァァッ!!!』


 鉄壁の守りが割れる。驚愕の表情に染まる。


>割れちゃったよ

>絶対固いのに…

>攻撃極振りどもがよ


「次弾装填──!」


「遅うよ。閃打乱打加速やぁッ!」


 割れた障壁の上は、星が支配した。瞬く間に乱れし拳が空から舞い落ちて落ちて落ちて、2KILL。舞うだけのカソードの力では二人を押し返すことなど到底不可能。一撃特化はゲーミング・ファインダーのせいで防がれて無意味。そう、目をつけられた時点で詰んでいたのだ。コイツらは。


>タコ殴りで草

>総攻撃

>ホールドアップ飛ばすなw


『……あーあ。負けちゃったか』


「ボイリングブラッドーッ!」


 燃える月輪が装甲を剥ぐ。


『Ураааааааа!!』


 狂えし三日月が装甲を破る。


「終打ァ!」


 そして、輝く一等星が頭蓋を踏み抜いてターンエンド。規模に比例した爆散エフェクトがポリゴンへと還り、空に登った。


>お見事

>相性よかったね

>うーん強すぎ

>こんなんチートや、チーターや!


『残存チーム数は15組です』


『残り15組生存ボーナスを付与します』


 彼女らに救いがあるとするなら、ギリギリ予選突破の順位は満たしていた──事だろうか。


 

 

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