予選-1 すとろんげぇーすと、れじぇーんずっ!
「へろーえぶりわんっ!シェリーの昆布巻き配信特大版やっていくよ!!!!」
今日の舞台はルネッサーンスな大広間。披露宴ができそうなくらいに広いこの部屋にはテーブルやら美味しそうに描写された料理、そして大きなスクリーンが垂れ下がっている。シェリーはいつものように手作り感溢れる新作サムネイルをスクリーンに映しながらオファニエルと共にターン&ウインク。特番なのでスターエフェクトもキラッとおまけにつけちゃう。
>待ってた
>特大版?
>運営ニュースに書いてた奴か
「そうそう。とりあえず私の手書き資料用意するね」
SNSでの予告通り開始時間からは大きく先んじて配信開始をしたシェリー。それにはもちろん理由があって。
「なんと今回の配信は!公式案件になりまーーす!!」
一瞬の静寂。指パッチンでスクリーンはデカデカと記された『案☆件☆配☆信』+スケアートCマルの画面に。それを見て流れる怒涛のコメント達。
>は?
>運営の犬になったんですね 失望しました
>ch登録ボタン二回押します
>それ解除してなくない??
>スケアートなら許す
>嘘だろ????
>WGPからメディア露出増えたな
>知名度上がったしねぇ
>配信が面白ければいいや
「よーし落ち着けお前ら。別に内容はいつも通りだから。ただちょっと面倒なだけ。今回のイベントはPVPだからってのもあるんだけど……」
フィンガースナップ。次の表示は説明文か。
「みんなも知っての通り参加人数多すぎて草って事で予選はバトロワになってさ。広大な専用マップの中で私らは争うんだと。それで……」
手を叩いて一拍。
「時間加速しまーすとか運営言い放ちやがった!!」
ようやく最近一つ
>草
>倍速で配信できるんか?
>技術的には可能だが色々と面倒らしいよ
>配信対応タイトルって今のところ全部等倍よな
>まぁ詳しい話を聞こうか
「うんうん。いや私も馬鹿だろって思ったんだけどさ……とんでもないことを思いつきやがったんだよスケアート。この部屋、実はさ。私の個人サーバーじゃないんだよ」
>待って個人サーバー持ってんの??
>まぁあるかぁ…
>ないならあんなに色々部屋作れないか
>ゲームの容量も必要だしね
勿論シェリーはお値段、そして容量もハイエンドの個人サーバーをご用意している。バズり散らかしている配信者の一人であるシェリーはそういうところにはお金の糸目をかけていられないのだ…とともかく。そんなわけでシェリーの現在地は。
「ははは。ではここはどこのサーバーの中なのか……ま、言わなくてもわかるよね。スケアートの用意した専用サーバです」
企業のスーパー超えてウルトラサーバ。スケアートという大企業の持つ一部の容量を間借りしてこの部屋は構成されている。
>やりやがったなスケアート
>でもなんでわざわざ部屋を?
>もしかして…いやそんな俺一人の推測で迷惑をかけられない…
>はよ言えや
「みんな私のトライヘルメスの配信を見に来たよーって人だと思うんだけど……私の配信、この部屋に来ないと見れない!ごめんね!!」
>なんで??????
>企業サーバーに入るとか怖いんだが
>コワクナイヨ!
>さては回し者だなテメー
「違うから!?あのね、今回の予選が時間加速ってのはみんなわかってると思うんですけど〜、それの解決法として配信を見る部屋も加速させちゃえば良くない?っていうことになってさ」
原理としては簡単なこと。加速世界の出来事を視聴するのに加速状態のサーバの
>えぇ…
>なんちゅう暴論
>確かにそれならラグは少なくなりそうだけどさぁ…
>豪勢だな
「一応SWORD内部からも加速状態で観戦はできるけど、私の配信にコメントを叩きつけられるのはこの部屋からだけなんだってさ。ま、一人誰かの部屋に入ると予選本戦配信両方他の人の配信には行けなくなっちゃうんだけど」
これは
>安心しろ俺はシェリー一筋だ
>産業革命も気になるがシェリーの方が面白いだろ
>ううんそうか…ちょっと悩む
>それなら俺は友人の配信行くわ…すまん
「ははは、いやいや全然いいよ、私も複窓で見たいって気持ちはあるからさ。ま、そういう人はゲーム内でできるから安心してよ。コメントとか配信者自体に干渉できるのはこの部屋からってだけだから」
>[宣伝しておきますね]
>うわでた
>いつものミーシャが…
「やっほーミーシャ。あ、勿論フルダイブできないとか倍速怖いって人は公式でやってる数分遅れのハイライト配信を見てね」
>\[挨拶]/
>スバチャ早くて草
>一瞬じゃねーか
「なんか赤いんだよなぁ……まいいや。それじゃ今回のイカれたメンバーを紹介するぜ!!!」
ステージを足底でタップ。昔ながらの炭酸ガスエフェクトが噴出すると同時にライトアップされた二人が現れる。
>懐かしいなこれ
>なんだかんだ好き
>何回見てもワクワクする
「ヒガァァァシィィィ!!!」
>プロレスじゃねーか!
>ここいる?
>いる
「アリィィィィサァァァァーーッッ!!」
「イェェァァッッ!!」
シェリーに作らせたサードムーン・レプリカを振うて参上。普段よりもスポーティでパワフルなモーションを見せつける。
>うぉっ……
>音圧高くてビビった
>やっぱアリサの声いいわ好き
「でしょう?私の声の方がやっぱり綺麗なんだよシェリーより」
ニコッとシェリーの方を見て笑う。
「ん?」
シェリーもアリサの方を見て笑う。
「お?」
ニッコリ。
「は?」
ニッコリ。
「「んだとォォッッ!!??」」
>夫婦じゃん
>草
>一瞬綺麗なアリサだったのに
>
向かい合って取っ組み合いの喧嘩上等。額突き合わせて放送ギリギリワードをぶつけ合ういつものバトル。
「……西ぃー、ファインダ〜やで……なぁ、二人とも、もうエフェクト消えてしもうたけど」
その横、電子の空に溶けて消えてしまった煙の中から現れたのはクラシカルな和服を纏ったファインダー。案件配信だからと格式高めなアバターにしてきたが……横の二人のせいでその意味を失いそう。
>[かわいいかよ]
>ピンク髪なのに……似合う
>[桃色着物最高だよ]<
「あ、うん。ありがとな視聴者はん達。元気出たわ」
カメラに可愛く手を振ってファインダーは横の暴力装置を見る。
「ドラァっ!」
「っう……負けた……」
>勝ち負けを決めんな
>草
>乙女の戦い方じゃない……
微かな隙を縫ってシェリーがヘッドバットを叩き込み、アリサは怯んだので負け。これでシェリーの勝ち越しが確定。へなへなと女の子座りになったアリサ、シェリーは拳を振り上げて喜ぶ。
「あのな、二人とも。これ配信中なんやで?しかもシェリはんなんか忘れてない?」
「そうね……」
「……あっ」
こほんと咳払い。黄色のジト目が背中に突き刺さっているが構わずコンソールをタップアンドスワイプ。
「この部屋のコードを公開しまぁす!!!」
ようやくカメラ左下とコメント欄に表示されるアドレスコードとパスワード。他の配信者達はもっと早くに出しているのに。
>きたぁぁぁあ!!!
>なんかねえなと思ったらwww
>さすファイ
>えらい
「順次乱入してきて構わないからね!一応準備の為に開始10分前になったら私らはゲームにログインするけど、それまではここにいるから雑談でもしようぜ!!」
>わかった
>とはいえ喋るのは恥ずかしいからチャット使うわ
>[スパチャできるのはこちらだけですので]
「……」
「わおミーシャいつの間に」
>[仮面をつけているのにわかるのですね]
>…えっこのちっこいのがミーシャなの?
>だぞ。まぁゲーム内と違ってこっちは黒髪だが
「私みたいにプラベとゲームアバター一緒の人は少ないからね〜……よくきてくれたねミーシャ。応援よろしく!」
>[もちろんですよ]
「無論
「相変わらず遠回しに話しやがるな」
キャラが濃いから一人称で分かったわと仮面をつけた黒髪ミーシャの隣に現れた同じく仮面の和装の美丈夫──カシミヤにツッコミを入れる。
「おー、その節はありがとさんカシミヤはん。あの装備強うて嬉しゅうわ」
>待っていつの間にか装備ふえてる??
>此処ガバ
>いやこれは高度な心理戦かもしれない
>最近はSWORD配信やってなかったからな…
それは秘密。ランクIV以降、シェリーの配信には出てこなかった二人はどう進化しているのか、視聴者の期待は依然として高まるばかり。
「私もすごい助かった。ありがとう」
「礼は要らぬ。吾は黄金に輝きし偉業の証を掲げて笑う姿を見たいだけよ」
「なんや面は隠しとるけど男前やん。ふふ、思う存分、あの子ら使わせてもらわ」
「楽しそうやねお二人さん」
>はーいいなー
>お前も生産職になったら話せるぞ
>無理どす……
そうやって話しているうちに見知った顔、或いは新顔の視聴者達が続々と集結してきた。休日である今日を楽しもうとネット中から湧いてくる彼らは、シェリーの蛮行げふん暴走を待ち望みながらテーブルの上のツマミに手を伸ばす。
「よっし!それじゃ外行きの配信は此処まで!こっからあとはこの部屋か、公式配信でお会いしようぜっ!それじゃぁーのっ!」
>あい
>今入るわ
>配信が終了しました<
〜〜〜.
Tips データ量の話
これはあくまでもイメージなんですけど、今のゲームでもう数百ギガとかとるじゃないですか。なのでこのフルダイブってペタのさらに上行ってるんじゃないかって。
……そんなに保存できる記憶媒体とか最強すぎるだろ…….
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