日常-12 一過性の一芽ちゃんチャート


 今日暫くはネタバレ回避のためにSWORD配信はお休み。視聴者リクエストのインディーゲームを無差別級RTAで2時間切りWRを無事達成して……配信終了ログアウト後速攻でいっちゃんの家までやってきた。


「やっほー!画面の中から飛び出した最強美少女、天ノ原椎名ちゃんがやってきたぞーっ☆」


 ピピピピピピーンポーーンッ!


 インターホンを連打連打連打。いーちかちゃんっ、あっそーびーましょってね。


「インターホンを連打するんやないよ……それより来るん早ない?」


「家近いから普通でしょ」


 ここからは私の十六連射が火を吹くぜ、とか思ってたら割とすぐにいっちゃんが出てきた。つまらんなぁ。もうちょっと楽しませて欲しかったぜ。


「だからって1分で来るのは早いんよ。ま、ええわ入りや。何か飲みもん入れるから」


「じゃ、オレンジジュース!」


「…クリエナやないんかい。冷やし損やわ」


 一芽の家のオレンジジュースはちょっと良いところからの取り寄せだって言ってたしね。


「お邪魔しまーす☆」


「邪魔すんねやったら帰ってー」


「だが断る」


「は?」


 これが勝利の必策。ネタ振りからの梯子外し。完全に意表を突かれた一芽のこんな顔( ゜д゜)が面白くて笑い死にそう。


「っふふ……あーおもしろっ。やっぱ一芽揶揄うの楽し〜♪」


 もはや私のライフワーク。愛理イジったら殴られるし華蓮は変なことやってくるし、一番安全に遊べるのはいっちゃんなんだよな。


「そないな意地悪するなら何もあげへんよ」


「すぃやせんした」


 兵糧攻めは卑怯だが!?


「はぁ〜……そんでトライヘルメスの件やけど、うちが幾らか調べといたわ。掲示板漁ったら割と出てくるんもんやね」


「助かる!!流石私の切り抜き担当兼昆布巻きchの実質運営者!!!!」


 掲示板とか見てたら視聴者の影がチラリズムしてくるから見れないんだよね。うん。一芽が代わりに調べてくれるからここ数年見てないや。


「……お陰で色々楽させてもらってるしまぁええわ。ほなこれがめぼしいプレイヤーリストや」


 端末をスワイプしてリビングのモニターが点灯。このプロファイリング画像、スパイ映画みたいで好きなんだよね。マジ好き愛してる。


「まずは……『産業革命』やな」


「バレっちはよーく知ってるけど……レファとスターシャはどうなってるか」


 バークナイトでは味方だったけど今度は敵。味方の時は頼もしかったからこそすっごく嫌な気分になる。


「そうやね。うちも二人の事はよーく観察させてもろた…けど、"バレ"も今は変わっとるらしいわ。ほれ、見てみぃこの手」


「……手?」


 いつものカッコいいバレっち。特に変わった点は見受けられないけど……手袋?


「十中八九新装備、すなわち魔核装備やろなぁ。椎名シェリはんはMVPとかミーシャで大量に保有してるけど普通は一個か二個、なんならない時もある。だからバレもようやく入手した、ってところやと思うわ」


「なるほどねー……まそれは気を付けておくとして二人はどうなの?」


「それもちゃんと調べとるって。ほなこれ見てな」


 次にいっちゃんがスワイプ表示したのは……車椅子に乗ったスターシャといつもの通りARを握ったレファ。


「公式がプロモーションで出してたのを拝借してきたわ。意外というべきか、当然というべきか、まずレファの昆布はARやったわ。属性はうちと同じ雷と見るべきやろね」


 見るからにバリバリバチバチしてるしそりゃそうだ。でもただバリバリするだけでレファが済ませてくるはずがない、何やってくるかは観戦して知る必要があるね。


「そんでスターシャやけど……うん。車椅子らしいわ」


「マジか」


 一応シンプルーな旧式ライフル持ってるからそっちが昆布だと信じたかったなぁ。見るからに近代的、宇宙的な車椅子だもんなぁ。


「正しいカテゴリは騎乗装備、らしいけど……スナイパーに高速のアシを持たれたのはキツいで」


 遠距離最強に機動力を与えてはいけないって習わなかったのか。バランス調整班め。


「とまぁ『産業革命』はざっとこんなもんや。次は…サイバーフェスタやな」


「アスト!!あとカリンとあんず!!!」


 CD買いました作業用BGMとして優秀でしたありがとうございまーす!


「そやね。まずアストやけど、バレと同じく魔核装備をゲットしとるらしいわ。せやけど……どれがそれかはわからずじまい。流石に時間も経ってるし装備ガラッと変わっとるから比べようがないわ」


 ……うむ。確かにわからない。少年騎士というより少女騎士っぽい装備に変わってる。さては最カワ☆ポジを私から奪う気だなアスト。


「そんで仲間の二人の片方のカリンはこのメガホン持ってる方」


 メガホン、となると考えられるのは愛理も持ってる咆哮スキルか。あれ、本来は『声』属性の行為に全てバフが載るから乗算されそう。


「カリンは歌声をメガホンで広げてバフにデバフを撒いてくる……所謂吟遊詩人構成って奴や」


「愛理は苦手そうだねぇ」


 音波攻撃は物理と魔法の中間。普通の物理防御では防げないのに音の波自体に魔力は関わらないから結界でもキツいんだよねぇ。固定打点とは似て非なるものではあるんだけど


「そうやな。これはウチが潰すしかなさそうや。んで三人目が……このギタリストのあんずや」


 相変わらずヴィジュアル系ロックバンドみたいな派手な出立ちでギターを掻き鳴らしているが……

 

「これリアルのロックフェスの画像でしょ?」


 ぱっと見どう見ても夏によくあるフェスのフォト。鉄骨とか煙とかライトとか、ARっぽいド派手なエフェクトがある点を除けばもうそのものなんだけど。


「いや、これで合っとるよ。ほらこれが"引き"のアングルや」


「……わお。配下召喚か」


 あんずが展開したステージの周囲には羽をはやし飛ぶ小さな天使達が沢山存在していた。獲物は剣にラッパや錫杖か。こっちは……アリサが暴れられそう。


「こっちは声やのうて音やから火力はそうでもないやろうけど、天使達が厄介や。アストが前衛で暴れて牽制、そこをカリンの歌ととあんずの天使が襲いかかるっていうパーティやね。おっそろしいわぁ……」


 普通のパーティなら確かに厄介。弱点は直接攻撃系だけどそもそも近づけさせないなら関係ないってことか。


「でも産業革命とサイバーフェスタかち合ったら産業革命勝ちそうだよね」


 近づけさせてくれない相手にはまず近寄らず殺す。そういう点でも銃っていうのは恐ろしい。剣と魔法の世界にそんなもの持ち込まないでよ。


「ははは、そうなってくれたら嬉しいもんやな…上手いことはいかんと思うけど。そんで次は……こいつらや」


 次に出してきたのは………待てや。


「どう見てもチャリオッツじゃん」


 乗り物系昆布が珍しいとは何だったのか。機械馬の引く戦車が、炎を吹きながら広い平原を虐殺して回っている写真がモニタに映る。


「最近カレイド周辺で話題になっとる固定パーティや。シェリはんも知っとる通り…トライヘルメスは人数を絞る為に予選はバトロワや。スコア上位16チームが選ばれてトーナメント戦、それで勝てば優勝や。せやからこの機動力と火力で手当たり次第殺して回るんちゃうか、とうちは睨んでる。その分ヘイト稼ぎ率は高そうやからすぐ死にそうやけどな」


「ふーん…一言で」


「めんどくさい」


「完全に理解した」


 とりあえず関わらないのが一番だ、ってことを理解した。


「あとはソロプレイヤーが野良を組んで来る可能性が怖いかな、程度やな」


 ひょいひょいひょいっとプロファイルされた写真と簡易補足がモニタへと転送されてくる。


「ソロ攻略勢の『a』、忍者RPガチ勢の『GOZARU』、自称昆布巻き配信ファンの『チップ』。この三人はどうするか未だ不明。来ないかもしれないし来るかもしれへん」


 ……あのクーラードリンク男、マジで強かったのか。そりゃあんな底までソロで来れるくらいだし当然だけど。


「ま、掲示板とネット漁って見つけたのはこんなとこや。SNSやらへん、掲示板勢とも時間が違う、とかでうちの目に引っかかんかったのもおるやろけど、強い有名プレイヤーってのはここら辺や」


「ありがといっちゃん。とりあえずオファニエれば全員挽き殺せそうってことがわかってよかった」


「固定打点信用しすぎと違う???」


 だって固定ダメージだよ。如何なる防御を無視してダメージを与える最強の矛だよ。当てれば勝てるんだよ。どう当てればいいかだけを考えればいいんだよ。


「信用しないわけがない」


 それに私の相棒を私が信じてやらなくてどうする。ウチの子が一番最強で可愛いんだよ。


「……ま、うちも完全無敵を信用し切ってるところはあるし追求はせんとくわ。おかわりもオレンジでええか?」


「イェスプリーズ!」


「はいはい。ほな入れてくるな」


 席を立って台所へ行くいっちゃんを見送りながら私は私の端末に目を落とす。アストからはよくわからない自慢話が飛んで来るし、愛理からは『修練終わり』っていう報告がピコンと送られてきた。けど今ばかりはそんな通知を放り出して……モバイル版のSWORDアプリを起動。これで自分のデータを確認できる。


「えーと…あったあったこれこれ」


 私の新魔核装備、弱体化なのか強化なのかわかんないんだよね……カテゴリ変更って、なんだよ。ほんと。


──

[アクト・グラディアトル]

カテゴリ:金属兜

属性:無

スキル:アナザー・ブレイド

──

[アナザー・ブレイド]

この装備を英雄が装備している間自動的に発動する。このスキルの発動中、英雄の持つ魂魄武装のカテゴリが『片手剣』に上書きされる。

──


 見た目はどう見てもスパルタとかあっち系の兜。舞台にいた時のクーリエとそっくりだけどシェリーに似合うように細部が色違いになってる。使ってみたらオファニエルが小さく凝縮されて剣になって笑ったよ。あれじゃただのチェーンソードだよね。


「……ま、役には立つか」


 これまで仕方なく片手剣を使っていた時は単発攻撃だったけど、チェーンソードになったオファニエルは相変わらず多段攻撃。追撃スキルも相変わらず乗るから嬉しい…嬉しいけどなぁ。


「うん、見た目も合わせて椎名じゃなくてシェリーの為の装備だなこりゃ」


 私が超重武器が好きだからオファニエルになったのにこの装備はそれを真っ向から否定して扱いやすいのを与えてくる。うむむ……やっぱあの観客は殴るべきか。


「何や難しい顔しとるやん」


「新装備喜ぶべきかキレるべきか悩んでる」


 優等生っていう言葉の響きを聞くだけで腹が立つの、あると思います。


「新装備一個もないウチへの当てつけ?」


「いやいや違うから」


「じゃあウチの新しい装備用意してや」


「前向きに検討しておきます」


「素材よこせって意味や!!」


 あーやめてやめていっちゃんそんなにのっかかられても反撃できねぁぁぁ!!!!


「うちにも甘い汁啜らせろ〜〜っ!!」


「にゃぁぁぁーー!!」

 


〜〜〜

Tips


椎名の家を中心とした距離(シェリー換算かつ大体の適当)


-愛理宅:チャリで1分

-華蓮宅:徒歩10分

-一芽:徒歩30秒

-駅:チャリ3分

-学校:徒歩15分

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