#47 【独壇場】走れば走るほど早くなるんだよ?【再放送?】


「あのさぁ……視聴者共、私のことを少しくらい信用してくれたっていいんだよ?」


 レバーを入れて仕掛けを起動。再びシェリーは舞台へと向かって迫り出される。決して早くはないが確実に、大きなデータを読み込むように舞台へと移動していく。


>暴れてくれるだろうという予想はある

>[応援してますよ]

>勝てたら赤スパするぜ


「ふっ、なら今回も本気で行こっか。勿論スタイルはバーリトゥード。バグ発見しても修正されるまでは全力で利用していくよ!!!」


 バーリトゥードなんでもあり。多くのゲームを乗り越えてきたシェリーのなんでもありはちょっとひどい。使えるものはなんでも使い、どうあっても目的を達成する。乱数調整だとかアイテム増殖とか。一般的にはAny%と呼ばれるプレイ方法だ。


>運営もこの配信見てるんだろうなぁ

>見てると思う?

>こんな面白い配信見てないわけがないだろ


「ふふふ、みんなも拡散よろしくねー!」


>あたぼうよ

>了解

>着いたな

 

「だねー♪」


 オファニエルを召喚、舞台に叩きつけて柄の上に手をやって仁王立ち。顔はもちろん観客席に座る『化物』達の顔を見据えている。


「はろはろ〜、クソ観客共。最強美少女RTAストリーマーの英雄シェリーが帰ってきたぜ。テメェらの見たい演目、なんでも持ってこいやぁっ!」


 シェリーは第四の壁へ向けて笑顔で青筋を走らせながら啖呵とメンチを切る。騒めくヤツらの顔は見ているだけで清々しくなる。

 

><[EXルート羨ましいぜ]>

>俺も行きてえ


「──っと、ウインドウか…」


──

3-3-EX2

[ユメなら覚めないで]

 観客たちは満足していない。この『舞台』はあなたのためのもの。あなたの強さを観るためのもの。あなたの全盛期を消費するためのもの。もう一度ここに立ったあなたには、演じきる義務がある。あなた自身の、活躍を。

報酬:????

──


 そしてストーリークエストはEXルートへと完全分岐達成。一応あそこで館長の元へと報告していた場合はまだ通常ルートに至る可能性はあった。だがシェリーは不屈。あの程度の敗北で折れるならRTAなんてやっていない。その生き様がEXルートへの"基礎条件"を満たした。


 ブゥ──────ン。


 鳴るはブザー音。演劇の始まる合図。残念ながら幕は上がったままだが、舞台は鍾乳石のぶら下がる洞窟へと移り変わった。


>雰囲気出てるな

>そりゃそのものだしな…

>空中に椅子だけあるのシュールだな…


「第一幕[岩石の巨人と回転鋸]、なんてね」


『グァガララララッ!』


 そんな安直なタイトルを呟いたところで最初の相手が吠える。勿論その相手はシェリーの両手で見覚えしかないあいつ。


>で た わ ね

>今やもう鉱石採取に使うよな

>爆破できる奴がいるとほんと討伐早い


「やーっぱそういう奴か。死因が岩のパンチな時点でそんな気はしてたけど」


 ロックギガント。初日で走り抜けた因縁深い?ボスでありシェリーのメイン装備たるロッカー・アームの原典。今となっては素材目当てに乱獲されてしまう現地ボスではあるが、"ソロ"でやる分には未だに十分強敵。単純に大きな図体に圧倒的質量、そして非生物であるが故の高い防御力が普通のプレイヤーの攻撃を阻む。せめて魔法があれば楽なのだが、脳筋の変態なシェリーにはそんな用意はない。


『ガラァ!』


「当たるかぁ!」


>遅い遅い

>重装装備ワイ、羨ましくて憤死

>月狼でもいけ


 しかしロックギガントの致命的な弱点は鈍足であること。そして"削り"に弱いこと。オファニエルの疾走に追いつけない程度の動きで、固定打点に与えられた傷は癒えることはない。今だって急発進したシェリーを捉えられず拳が空振った。


「もう何度やったかわかんないなぁっ!」


 足を地面に押しつけてUターン、床に刺さった岩の高速道路へと乗り換えてオファニエルの出力全開。炎を吐いて加速する。


>特殊移動の昆布使いこなしてるの見ると羨ましく感じるが俺にはできないんだよな

>わかる、無理w

>再生ついてるからもう治ってるがHPも減るしな


「ETCはついてないけどなぁっ!」


 こうなってしまってはロック・ギガントに成す術はなく。一度走った道筋をシェリーが忘れるわけがない。コアの位置は完全に記憶している。金策のために何周したと思っているのだ。


『ガラ、ラォォ!?』


「コケろやぁーっ!」


>うわぁ、うわぁ……

>なんだこれはたまげたなぁ

>ベクトル変更(物理)


 シェリーは横っ飛び、そしてバーニングリープを起動して空中にて跳ね返ってコアへと一直線。情熱機関が吐き出すシャウトと運動エネルギーがコアにぶち当たって。


 ギィリィィィァァァッッッ!!!


『グァララララ!!??』


 重心は環境不安定。乱入はないが転倒はする。ズッシーンっと倒れたロックギガント。コアの横には焔のブレスを吐く鬼が立っている。よって先の命は長くないだろう。


「抵抗するな──よぉぉっっ!!」


 ギィィィィリリリリィィィィッッッッ────!!!!


『ガァァグラァァァッッ!!??』















「はい、終了っと」


 ランクIの頃と違い、段違いに火力が上がっているオファニエル。彼にかかれば真髄解放無しでもロックギガント如きハメ続けることは容易い。今しがたポリゴンに帰った岩を見上げてシェリーは自身の成長を噛み締める。


>見応えは最初だけでしたね

>再放送だしな…

>再生怪人は即死する定期


「さぁ次だ、次はなんだろ…お?」


 シェリーが次にやってきたのは森……野中の、開けた場所……で、何かの残骸が沢山あってェ……嫌な匂いが漂っていてェ……


「なるほどね」


 シェリーは完全に理解した。仮説が80%当てはまった時、シェリーはそれが真実だと無条件に信じ込む。とはいえ間違いではないだろう。


>まぁロックギガントの次といえばね

>そりゃそうじゃ

>でもこれ三人だったよね?


 積み上がる骨格ボーンに貼り付けられる腐肉ボディ。コアは何処かに隠して無限の再生力を押し付けてくるクソボス、[Z-obituary]。初見討伐率二桁を割る初心者泣かせ。


「第二幕ゥ!腐った肉は商品にならなぁい!」


 だが喜んでシェリーは走る。オファニエルに乗って駆け出す。片手でバランスを取りながら、もう片方の手でウインドウを操作。取り出すのは──アレ。


>お?

>それ使うか

>まぁ配布されるしね


「ラーメンっ!!!」


>違うwwww

>食べ物じゃねえか!!

>[ちくわ大明神]

>誰だテメェ!?


 神の祈りと共に手に呼び出して砕いたのは[祝福された雫]。本物のクソボスをEXルートでぶっ殺した際に手に入れた、討伐時に『普通』のルートで使うはずのアイテム。これを使用したキャラクターは[Z-obituary]に対する特攻と、『浄化』効果を得る。


「おお…!?」


 そして砕かれた雫は光となってシェリーとオファニエルを包み込んで、シェリーの胸部装甲が触手装甲闇堕ちから神秘装甲光堕ちと化す。


「これは……」


 ステータスオープン、装備欄を確認。[イモータル・オルタ]という名前は変わらずのままだが……スキルが変わっている。


──

[ライフオーバー・再生]

祝福された雫の効果時間中、スキル[再生]の効果量が大幅に上昇する。与ダメージ量に応じて上昇幅は大きくなる

──


>これは…

>効果見た瞬間終わったわ

>超絶相性いいスキルがありますね……


 これは雫の隠し効果、[Z-obituary]の素材を用いられた魔核武装のスキル変化。ヴァーサ様の祝福により、イモータル・オルタの持つ馬鹿みたいなデメリットが失せた。


「キタキタキタァーッ!!!!!」


 これにはシェリーも大喜び。ヴァーサ様の心の中で拝み倒すレベルの祝福。流石に三人プレイで殴り倒したボスを一人でやるのは気が引けていたが、これなら問題ない。


「燃えろ私の血!!この汚物を消毒してやるぅっ!!」


 シェリーのソウル燃料クリエナが満たされる。思考回路ニューロン過剰運転オーバークロック


>う、わぁ、うわぁ、うわぁぁぁ……

>化け物じゃ……完全に化け物になりおった…

>蝙蝠もここまでじゃなかったろ???


 そしてアバターまでもが大炎上オーバーヒート。その姿はまるで火達磨を通り越して火焔そのもの。HP持続回復リジェネが担保されている以上出し惜しみは気にしなくていい。シェリーは現状捧げられる最大値リミット火力ダメージへと変換。


「うぁぁぁぁぁぁっっっちぃぃぃ!!!!!!」


 シェリーの視界の端々で煌々と光る『危険状態』を指すエクスクラメーションとトライアングル。仮想空間とはいえシェリーの感じる感覚は100%。|死を馳走する死神シェリーは、罪人Zに与えるだけの裁きと同じだけの苦痛ダメージを食い縛る。


>言葉聞こえるな

>まぁ燃えてるだけだし

>身体残ってる?


「しっらなぁぁぁぃっ!!!」


 熱い。熱い。熱い。力が昂って仕方ない。脳汁が激って仕方ない。赤の不完全燃焼から蒼き完全なる焔へと移り変わり、情熱機関は大歓喜。マフラーから排気される言葉は自ずと暴力的に──。


「良い子は真似しませんよぉぉにぃぃ!!」


>できねえよw

>熱いのは嫌なので一般人になろうと思います

>無理だよ……死ぬ……


 ギュィィヂヂヂヂッッィィ!!


 腐肉はオファニエルの棘に触れるたび『蒸発』。浄化の蒼焔に飲まれた罪人化物には、"救い"しかない。ゾンビゴブリンを生み出せず減ってゆくのみの質量に怯えるかのように、恐怖と狂乱の舞を踊るのだった。



〜〜〜

Tips 強さ比較(ステータス的な意味で)(あくまでも仮想)


1,完全たる浄化之焔のシェリー

2,最終鬼畜破壊狂神なアリサ

3,真髄解放ノリノリシェリー

3,ゲーミングビーストと化したファインダー

4,特に強化スイッチのないバレッティーナ

5,他三人の通常状態


とまぁ実はバレっちは強化がないので上限値は他の三人と比べて低いです、代わりに基礎性能高めてますが。

魔核装備が頭おかしんや……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る