配信二十六日目

#46 【正体解明】好きなだけ演ってやるよ!【舞台解体】


「ナマステ!!!今晩こそSWORDのストーリークエスト第三話、クリアしていくよ!」


 今回の待機場所はド定番のサイバー空間。手書き看板には『カレイドシアター破壊計画』と殺意の篭った文字と装飾が描かれている。笑顔でウインクするシェリーの内に秘められた想いが滲み出でいる。絶対に許さねえと。


>カレー匂ってきたな

>お湯沸かすから待って

>今炊飯器付けた


 しかし視聴者にとってそれはメシの種。挨拶から漂うナンともカレーな雰囲気が食欲を誘い、視聴者の視界には食卓が浮かぶ。


「アホか私の配信を見逃すな」


 オファニエル参戦。呼び鈴ギャァァリュゥリィ!が鳴る。


>ぎゃぁぁぁ

>うわぁオレの米が!?

>水の分量間違えたんだが


「本当に米を炊く奴があるかっ!!??本当フリーダムだな私の視聴者」


>食べたくなったから…

>そう言いつつ市場出してるの好きよ

>デリバリー飯届いたから離席


 そういうところが変に気張らなくて楽なんだけどね、という本音はさておき。背景と化していたパネルを前面斜め上に配置。前回の配信切り抜きから幾らかの場面をピックアップ。


>ふむ

>昨日のやつか

>あのあと即死して終わったんだったな


「そうそう♪お礼参りしなきゃだから今日の学業中も考えてたの♪」


 昨日の配信を見てくれてありがとうの意を込めた猫撫で声。笑顔も強くイントネーションもどこかご機嫌だが──

 

「──アイツをどうやって挽き殺すか」


 真顔でトラップカードオープン。握られた拳。効果:相手プレイヤーは死ぬ(物理)。もちろん禁止カードなので良い子のみんなは真似しないでね。


>この急変のしよう……博士、これは一体?

>何それ知らん…怖…

>博士ww


「昆布巻き配信の博士はファーちゃんだよ間違いなく。それじゃ改めて色々見ていこっか」


 まずはカレイドシアターへと入場する所。イベントエリアの突入時に発生するラグを感じてシェリーの動きが止まった時だ。


>これな

>イベントエリアってだけでしょ?

>謎の第七感を感じるな


「そうそう。私はただ単純にここでイベントエリア入ったのかなって思ったんだけど、ここ幾らか伏線あってさ」


 昨日愛理アリサから指摘された箇所を羅列。服装、ドア、そして微かに見える舞台の内装のスクショが無造作に左の方へと並べられる。


>普通じゃん

>何か違和感が?

>別に何も感じないけど


「そしてはいこれ私が上がった舞台ね」


 そして今度は後半部分、舞台に上がった直後のスクショを左の方へ。見比べてみると確かに。素人の視聴者目から見ても理解できる。


「どう?結構違うでしょ?」


>柱とか…

>服装の年代異なるね

>シェリー可愛い

>椅子のデザイン結構違う


 出るわ出るわ劇場の違和感。一部的外れなこともいうが概ねアリサとシェリーの気づいた通り。


「でしょでしょ?これ気づいたのアリサなんだよね〜……グッジョブ、アリサっ!」


>おう

>なるほどな

>で、これが?


「ふふふ……つまりあの劇場は"設定的にも"異空間だってことよ」


>なるほど?

>久しぶりの考察が始まった

>実は考察が攻略の役に立つっていう


 場面が変わるかのように移り変わる戦場を指しながらシェリーは言う。


「なぜこんなに簡単に場所が変わったか。その理由としてまず挙げられるのは転移だけど、これはないよね」


 いわゆる転移魔法は簡単にできるものではない。セーブポイント間のテレポートは英雄だけに与えられたヴァーサ様の恩寵という設定が前作には記されているし、短距離転移の域を超える転移を行う昆布は昆布そのものを移動させるもの以外に確認されていない。


>忍者ネキニキのサルトビ強かったなぁ…

>もしあれがSWORDに来たら投げる自信がある

>流石に旧作とかぶるのは無いだろ…ないよな?


「だからといって、別に幻なんかじゃないのよ」


 そしてもう一つの可能性である『幻覚』。また前作には幻覚を見せてくるボスもいたが、そのボスの術中に引き込まれているときは地形破壊が起こらない上景色が一定。風や砂の香りも無かった。だがあのときはどうだったか。


>めちゃくちゃ壊れてたもんねー

>岩盤浴ならシェリーアタック

>死ゾ


「ってなわけであれは現実。あの場はあのときあのままの形だった。だから最後に残った可能性は……」


>溜めるな

>はよ

>スッと言えスッと!!


 シェリーはやけに勿体ぶって微笑む。流れるコメントに頬を綻ばせて宣言。


「ふふっ、『異空間』ってワケよ」


 パチンとフィンガースナップ、デカデカと中学生みたいな派手なゲーミングロゴで表示される異空間の三文字。普通に目に悪いやつ。P容疑者が逮捕されそうな感じがするがまぁギリギリ合法。なんせ1680万色あるゲーミングだから。


>ぁぁぁぁぁぁぁ

>目がぁ…目がぁぁ……

>やめろ死ぬ


「はいはい消すね〜。とにかく、あれは異空間なの。それでさ、私らには異空間を作る奴らに覚えがあるよね?」


>奴ら

>ヤツ…?

>あの孤独なsilhouetteは…


 視界の破壊者は大人しくなって画面の端っこへ。それでも主張は強いが気にせず流す。


「[Z-obituary]と戦った森の広場、地図見て確認したんだけど、あれ実は場所としては"変な場所"にあるの。しかも無限ループしてたし」


 これは配信外で検証済。ゴブリン達の集落跡があった場所は本来"地図の上"だと湖になっている。


>マジ?

>妙にミニマップバグると思ったが

>えぇ…


「でも今でもセーブポイントで転移したら問題なく行けるし、元の湖だって存在してる」


 これも確認済み。ファインダーは集落跡に転移した状態でシェリーは同座標に向かったがそこにあったのは漣と静寂。ファインダーとシリウスは存在していなかった。


>え

>釣りに便利なのに…

>そこ凶暴なピラルク釣れるよね???

>経験値効率いいの


「だから同座標に二つの場所が存在するのはこのゲームだと"あり得る"らしいんだよね。"異世界の化物"絡みだと」


 寝ていた鉱石土竜はさておき、興奮蝙蝠はどこからともなく飛来してきていたし、ゾンゴブは前述の通り。


「なのでもちろん今回のボスも『異世界の化物』だって事だよ!!!」


 どんどんっ、ぱふぱふっ


>知ってた

>敵は誰だろ

>劇場そのものだったり

>クーリエが闇堕ち!?


「違う違う。劇場そのものが敵だったらあれ全部が偽物ってことになる、カレイドシアター自体は本物だし、クーリエも本人。クーリエの特性上、ただ単純にあの"舞台"に飲み込まれちゃってただけだよ」


 演者として舞台に登り演じぬわけにはいかず、相手はその舞台を作り出す能力だった。これではいくら英雄とはいえ相性が悪すぎる。


>じゃあなんすか

>分かったかも

>マジ??

>今カレー辛くて火吹いてるから何も理解できてない


「結論から言おう。今回の敵はあの『観客』が敵。私は、私達は、あの顔のない観客達に踊らされてたんだよ!あーイラつくなっ!!」


 クエスト詳細だってそう。"観客たちは、満足していない。"と記されているくらいだ。岩につぶされて死んでも戻されたのは舞台の下だったのが何よりの証拠。最後に触れたセーブポイントは街の噴水だったのに。


>マジ?

>第三話クリア済みだけどエンカウントしなかったぞ

>EXPANSIONなんて発生しなかったしな

>クーリエに倒されたら3-4に進んだ

>倒したけど3-4に進んだ


「……マジか。それはEXルートがクーリエ倒すことっていう仮説が死んだな。まいいか」


 今からその仮説をドヤ顔で語ろうとしていたシェリーは鼻を明かされて咳払い。


>草

>まぁガバはつきものよね

>急にテンション下がるシェリーかわいい


「つまり私が今回派生するだろうEXルートで倒すのは、あの観客ども!舞台と椅子を隔てる第四の壁、ぶち破って轢き殺しにいくぞっ!!」


>おー!!!

>\\[努力 未来 a beautiful sherry]//

>筋肉モリモリやめろ


 オファニエルを握った拳を振り上げる。オファニエルの回転数だってご機嫌に上がって唸る。


「それじゃあ早速ログインな!一発クリアしてやるからぜ〜!!」


 ウインドウから剣のアイコンを取り出してタップ。シェリーのアバターは、ポリゴンとなってゲームの中へと飛び込むのだった。


>死にそう

>一発は無理だろ….

>シェリーのガバガバタイムはーじまーるよー


 

〜〜〜

Tips スポット紹介

リンドの森の湖

何故か・・・よくピラルク──肉食の魚類が生息してる地獄のような湖。釣り上げて戦うことができるが周囲と比べて割と強いものばかり。その分倒した時の素材や経験値がいいので密かな狩場となっている。




潜ったあるプレイヤーによると、底には何かの残骸と黒い塊が沈んでいたとか、なんとか。

 

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