#42 【曲芸】シェリー・オン・ステージ【ミニゲーム】

「ここかぁ……祭りの場所は……!」


 何気なく賑わう方向に歩き続けて数百m。ナイフが空を舞って笑いが絶えない地区へとシェリーは辿り着いた。なるほどここはストリートパフォーマンスと屋台が盛んらしい。


>不穏だからやめれ

>今から虐殺でもすんのか

>アリサ召喚


「しないからwあ、おっちゃんベビーカステラ一個ちょうだいなー!」


 ふらりと屋台に立ち寄って、具現化させた金銭を手渡し。周りを見渡してみれば夏のおもひでが擽られる。


「あいよぉ嬢ちゃん、可愛いから少し多めに入れちまったぜ!」


「せんきゅー!」


>ハゲのおっちゃん

>は、ハゲてねーし!ちょっと毛達に旅行シーズンが到来してるだけだし!

>また髪の話してる……


「ははは。鉢巻の似合うナイスなおっちゃんだったねー」


 自然な炎上回避。勝手に視聴者が足場を燃やしたので軽やかな言い回しで逃亡。目線も周囲を見渡すようにして知らぬ存ぜぬ。私は悪くない。だって食べたかったのだもの。

 

「んー……」


 ストーリークエスト3-1のクリア条件が『名声を上げる』というアバウトな内容なため、シェリーは何から試してみれば面白いかと考えてしまう。


「どーれーにーしーよーうーかーなー、はむっ」


>食うのか…

>いつも食ってるな

>おいしい?


「おいしい!」


>そりゃよかった

>俺も行こうかな…


 ヒョイっと口に運んで嚥下して。最初に目につけたのは射的屋台。射撃はバレッティーナの専売特許みたいな雰囲気が出ているがシェリーだってSW前作では二丁拳銃とサーベルを操るドレイクを好きだと公言していた。だから銃器だってお手の物。


「一回300Cで六発だ。やってくかい?」


「あたぼうよ」


>ここだけ切り取ると男前…

>ゴテゴテ装備なのに??

>いっそのこともう裸縛りでいいんじゃないかな


 ピンっと小銭を弾いてエントリー。握るは単発式のコルク銃。一応中世風の世界観なのにこんなのものが存在していることに疑問は浮かぶが完全に機械なオファニエルが相棒にいる以上今更。


「さーて、最高スコア……見せちゃいましょうかね」


「嬢ちゃんソレを狙うのかい?やめとけやめとけ、これまで誰も取れたことがないんだ。ウチの自慢の看板娘だよ」


 狙いはもちろん大当たり。見るからに綺麗な宝石入りの箱。遊びで名声を上げるって言ったらコレしかない。


「そっか。なら私が嫁にもらったげる」


>\[シェリーが嫁に貰ってくれると聞いて]/

>ミーシャは座ってろ

>羨ましいでござるな…


 ハードボイルドな捨て台詞と共にシェリーはレバーを引いて、コルクを装填。これまたハードボイルドに片手で銃を構え。


「一撃で充分」


>本当かなぁ

>これはガバのパターン

>失敗するに100C


 妙な闘気というか煙というか、雰囲気オーラがシェリーの足元から立ち上り。あとはトリガーを引くだけ。見た目だけは一端のアウトロー。かなり装備が物騒だけど。


「命中よ」


 空気圧を受けて放たれるコルク弾。勿論ライフリングなんてない。だけどブレなしで、直線状で、飛んでゆく。


>おお?

>飛んでる飛んでる

>やったか!?


 着弾まで、3、2──。











「ど  う  し  て」


>知ってた

>シェリーの絶望顔助かる

>今日の連絡に使う


 空になった銀の皿を見つめ譫言を漏らす女がここに一人。もちろん五発全てを失ったシェリーである。


「嬢ちゃん惜しかったなー、あともう少しだったんだが」


 と余裕そうに笑うおっちゃんだったが、位置を戻そうと確認して冷や汗が一滴垂れた。後一発撃たれていれば落ちていと言えるくらい板からズレていた。笑みを貼り付けたままそっと定位置に戻して。


「これに懲りずまた遊んでくれよな」


 残念賞の焼き菓子を生気の抜かれたシェリーの前にポスンと置いた。


>残念賞

>哀れ也

>いとおかし

>確かにお菓子


「……ザッス」


 先程までのアゲアゲムードは何処へやら。ボソッと礼だけを溢してシェリーは射的屋台を後にする。袋から取り出して口に含んでみた。甘かった。


>大丈夫かっこよかったよ!

>元気だせ

>[明日プリンあげる]


「マジかよアリサ!!!!よーっし次の屋台ミニゲームやるかー!」


 と思えばアリサの投げ銭ならぬ投げプリンで元気を取り戻す。シェリーの感情は風に吹かれて舞い上がる。


>現金すぎる

>ネクストステージはどこだ!

>色々あるよな


「それじゃぁ──おっ?」


 くるりと回って一回転。次にシェリーの面白センサーに引っかかったのは一つの『出店』。興味を惹かれ近づいてみたら、売っていたのは意外なもの。


「らっしゃい」


 売っていたのは木製のクラブが1ダース。赤黄青の3色が4本ずつ塗られている工芸品。少し持って振り回してみるが重心に変なところはない。ちゃんとした良品だった。


>ほーう

>NPC品普通にいいよね

>AIが作ったものとは思えない…


「コレ頂戴な」


 なのでシェリーは購入を即決。次の魅せプレイは決まった。


「本当かい?嬉しいね、人が多いから売れるかと思っていたんだがなかなか売れなくてさ……少し負けて3000Cでいいよ」


「おっけい、じゃあ貰っていくね」


>判断が早い

>スッパリ決められるのいいよね

>金遣いが荒いともいう


 金を渡して品を回収。さぁ次に探すべきはステージだが、それに関しては一つ心当たりがあった。カレイドの街がこういう『芸術』で賑わっている為に生まれた特設ステージ。このエリアの最も目立つ場所に存在する登竜門。


『今日もいつでも飛び込み演目大歓迎だよー!』


 カレイドステージ。ここなら衆人の目に晒されながら技をキメられる。今度こそ、とシェリーは勇み足で上へ繋がる階段を駆け上って。


「英雄シェリー、参加しまーっす!」


 司会者の横にアクロバティックに着地。配信カメラの位置も調整しつつもウインクをキメて観客の掴みはばっちり。視聴者にとっては再放送だが。


>マジか

>それが手っ取り早いけどさぁ

>失敗したらさっきの比じゃないほど落ち込みそう


「おおっ、英雄様が参加だ!さてさて、どんな事をやってくれるのかな?」


「じゃっじゃーんっ、ジャグリングしちゃいまーす!」


 インベントリから取り出したるは6本のクラブ。ひょいひょいひょいっと上に投げて回していく。


「ここからは私のステージだ!」


「ほうほう、ジャグリングですかぁ……割とありふれていますね?」


>その通りだけどさぁ?

>この司会者割と毒舌だな

>英雄だから何かやってくれるだろって目だからセーフ


「知ってる知ってる〜、だから、こうするんだ〜よっ!」


 何度かループさせて場が温まってきたところで大きく上に投げる。そしてクラブの数を数を7、8、飛んで12と増やして、速度も上がる。


「おお〜、これは中々な腕前」


>……?

>待って普通にむずかしくないか??

>初心者ワイ、4つでチャレンジするも即失敗


「ですが、まだまだありますよね?」


「ははは。あたぼうよ」


>いやさっき買ってたの12本でしたよね

>何するの??

>足元に光が……まさか


 ほっという掛け声と共にシェリーは飛んだ。足元には見覚えしかない相棒が現れた。その定位置にシェリーは乗った。なら次は。


「レリゴーオファニエルっ!」


 走るだけ。


「おぉーー!!英雄様の半身たる魂魄武装に騎乗してのパフォーマンスですかっ!コレはすごいっ!みなさんご覧ください、英雄シェリーの勇姿をっ!」


「あーっはははっ!これキッツイね、久々にやったから難しいのなんのって!」


>[馬上ジャグリング配信を思い出します]

>待てなんだそれは

>シェリーって昔から奇行してたんだな…


 それはワゴン直葬クソゲー祭りと代し、ゲームショップでワンコインで売っていたの中古フルダイブゲームをジャンル問わず初見プレイしていた集中企画モノでやったタイトルの内の一つ、『ウマノリ。』。これは馬に乗りながらのアクションに重点を置いたゲームで、内容は剣戟から始まり、ランスチャージ、バトミントン、そして今のシェリーのようにジャグリングも行うモードまであった。意外な面白さにフルコンするくらいには遊んだシェリーは以外に鍛えられたという。閑話休題。


>[昔の切り抜きアーカイブを見れば分かりますよ]

>クソゲーって奥が深いんだな…

>正直怖いもの見たさで踏み込んだらハマった


『おおおお!!!!』『シェリー!シェリー!シェリー!』『カッコいいぞー!』


「すげぇっ!視聴者共と違ってすっごい優しい!やる気出てきたっ!」


>は?

>がんばれ♡がんばれ♡

>おうえんしてるよ


「うーんこの白々しいなぁ、もうっ!」


 そしてシェリーは〆に入る。投げ上げたクラブ達を追いかけて二段ジャンプ。ラヴィニア・ブラストが火を吹いてシェリーを空へと招く。


『おおっ!?』『なんだあの装備は!』『スゲェ!』


>ほー

>観客達の反応が素直で可愛い

>わかる


「ラストいっくよー!!」


 スラリと抜かれる片手直剣。空中にいるにも関わらず、シェリーは更に打ち上げて、一列に整列させる。そしてすかさずフォレスト・チェイサーに換装、オファニエルの柄先にワープ。


「これは…!」


 予め予測落下地点まで動かしていたのでそのまま上にテンガロンハットを向けて、クラブが入った瞬間にインベントリへと順次格納。全て入りきったところで前転着地。


「はいお疲れさんでしたーっ!」


 イェイっと前に押し出したピースに、シェリーを見ていた者たちから惜しみない拍手が贈られる。


『素晴らしかったぞー!』『金払わせろー!』『うちの劇場に来てくれー!』


「いやー、ははは。どーもどーも」


>……俺もその馬上ジャグリングやってみようかな…

>シェリーのせいで無駄にプレミアついたから高いぞ

>[うまのり。は次回作が出ましたのでそちらをお勧めします]


「素晴らしかったですよシェリー様。今日の一幕は皆さんの記憶に残った事でしょう!ではではこちら、私からの細やかな"投げ銭"でございます」


 そういって満足げな顔な顔をした司会者にとある紙切れをもらったところでシェリーの前にはクエスト完了のウインドウが。


──

ストーリークエスト

3-1 (CLEARED)

[移り変わる美の波に乗っかって]

カレイドはあらゆる美の集う街。戦闘、工芸、曲芸、話術、なんだってある。そんな街の文化に触れていたら、面白いことが舞い込んでくるかも。

カレイドにて名声を上げる:完了

CLEARED:あなたの素晴らしいパフォーマンスはカレイドの街を沸かせた。

報酬:カレイドシアターのプレミアチケット

──


「……おっふ」


>シアターっすか

>やっぱこの流れは確定なのか

>[私もいつもの通りの仕事をしていたらお客様より頂きましたね]


「それでは、退場される英雄シェリーに改めて惜しみなき拍手を!!」


「…いつもお前らに煽られてばっかりだからこういうのってやっぱり照れるな。WPGの時もそうだったけど」


>いつも褒めてるだろ

>楽しいね


 拍手を背に舞台を降りたシェリーは、その足でカレイドシアターとやらまで向かうのだった。



〜〜〜

Tips 適当昆布紹介コーナー


──

[アルテミス]

カテゴリ:魔法弓

ランク:I

属性:月

特徴:魔法打点/光束矢射/自動追尾

──


弓。ビームを撃てるなんちゃってオートエイムなトンデモ弓。基礎攻撃力は低いが防御されにくい魔法ダメージかつ撃てば大体当たる自動追尾、そして非物質である光束矢射と特徴がハイレベルで仕上がっている遠距離武器。ただ唯一の欠点としてMPやスタミナの消費量が多い事があげられるか。

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