配信二十五日目
#41 【危険】私のことなんだと思ってるのよ【新装備】
「あっろは〜☆シェリちゃんの昆布巻き配信、はっじまーるよー!あーっ、焼きそば美味しい♪」
海辺に立つプレハブ小屋──即ち海の家。イカな娘が襲ってきそうなこの建屋の一回で、シェリーは焼きそばにかき氷、そしてフランクフルトwithラムネを賞味中。
>太るぞー
>そんなに食ったらおじさん死んじゃう…
>運動しろ
「カロリーを気にせず食えるのがフルダイブ飲食の醍醐味!ただしお腹は膨れない」
割り箸で掴んで巻いた焼きそばを口へ運ぶ。よく絡んだソースと紅生姜の味が合わさって美味らしい。そして後味をかき消すラムネ。
>仕方ないね
>膨れたら怖い
>ちなみにそのラムネは?
「んくっ…けほっ、これ?なんの変哲もないラムネ」
>咽せてるやんけ!
>察した
>咽せ助かる
咽せたあたりでお分かりだろう。例によってシェリーはラムネを飲むタイミングに合わせてリアルでクリエナを飲んでいる。つまりはこれはクリエナ
「さーて……今日は地上行こっか!」
>地底から逃げるな
>風のとこクリアできてませんよね?
>はよ
「やだ むり したくない きのうのさんじょう おぼえてないの」
>記憶にございません
>記憶にあるから言ってるんだよなぁ
>はよ
神引きをしたが地底の攻略を進めようと蛮勇を見せた先日の配信は大失敗。敢えて呼ぶならば『吹き荒ぶ風の領域』と称せる第十二層へと挑んだシェリーだったが。
-常時数十m/sで吹いてくる風
-その中を自在に飛び回る敵
-しかも速度に乗せた一撃必殺持ち
-オファニエルの馬力不足で進めない
-シェリーの握力不足ですっ飛ぶ
といった要因により文字通り"押し返された"ため攻略中止。ストーリー進行へと再び舵を切った。そもそも十一層以降は現段階でソロ攻略をするような場所ではない、というのはご愛嬌。
-オールバックシェリー可愛かったよ
-風強すぎてお亡くなり
-定期的にイーグルダイブ
「やめろ!!まーうん、
>いつになることやら
>一年後くらい?
>この展開だとそんなに長くならなさそう
サイバー晩食を食べ終えたシェリーはそんな逃げの言葉を囀りながらかき氷をスプーンで口に運ぶ。シロップは勿論ストロベリー。
「少なくとも今のままじゃきついかなー…っ、かき氷キーンってきた…!?」
>草
>バチあたってんな
>地底から逃げるな
「も、もう神の遺物来たんだから…いいじゃん……炭鉱夫ども怖い……」
>勿論です、プロですから
>理論値が出ない
>最早ルーティン
「い、いいからっ!ログイン!ログインするよ!」
地底からの呼び声を振り切るようにウインドウを開いて剣のアイコンをタップ。飛び込むようにシェリーはSWORDの世界へと降り立った。
「到着っ!」
昨日は死に戻ったその足でカレイドまでワープして即落ちしたので噴水前から。周囲のプレイヤー達はシェリーの出現に少し驚くも民度がいいのか邪魔はしてこないらしい。
>ちょっと装備変わった?
>足がゴツくなったな
>まさか
「あ、これ?」
コメント欄に指摘されて指差し確認したのは脛当て……と呼ぶにはゴツく、また荒っぽすぎる何か。
「ふふ……ミーシャ製です」
>いいなぁーー
>フェールドの性能おかしくない??
>魔核装備か
「そそ。ラヴィニア・ブラストだってさ」
──
[ラヴィニア・ブラスト]
カテゴリ:脚部装甲(魔核装備)
属性:火
スキル:バーニング・リープ
──
[バーニング・リープ]
スキル:両足で接地していない状態でのみ使用できる。物理推進力によって再度跳躍を行う。消費スタミナ量が多いほど推進力と自傷ダメージは上昇する。ただし、CTが終了していても使用後両足で接地するまで再使用は出来ない。
CT:20秒。
──
ラヴィニア・スラスト。あのヘパイスタートルの素材を用いて作られた魔核装備であり、遂にシェリーは『
「イモータル・オルタと合わせたらもうシャドウ・ダイバーの原型ないよね」
腕部には岩の手甲。腰には森の牙があって、脚部は冷えた溶岩の装甲が。ここに非常時は胸部が悪堕ち触手モノに変わって、
>まだ体下がある
>もうこれ以上増えないでくれ……
>マジか、こんなもの作れるのか。よーし、頼みに行くか
「スキル数がランクで限られてるのにさー、装備するだけでスキルが増えるなんて素晴らしいものだぜー。全くよー」
持つものは持たざるものを煽るもの。いやー快適すぎて困っちゃーうと言わんばかりに噴水縁に腰掛けてカメラ目線で悪戯な笑みを浮かべる。
>こんっの女……
>殴りたい
>[殴打配信2回目はいつ執り行われます?]
「もうやらないからなミーシャ!?」
唐突なこの惨状を仕立て上げたご本人の登場。シェリー贔屓のアイテム制作担当はその変態性を隠すつもりはないらしい。なぜこの配信のネームドキャラには奇人変人狂人鬼神しかいないのだろうか。
>[そんなー]
>やりたかったのに
>金は下ろした
「その金で美味しいものでも食べな??冷静になって??健康になろう??」
>[シェリーを叩いたとき……下品なんですが……興奮、してしまいまして……]
>知ってる
>周知の事実
>今更
「やめようミーシャ、それ以上は取り返しがつかない 今ならまだ引き返せる」
流石にこれにはシェリーも真顔に。どうどう、どうどうと落ち着かせるように囁きASMR。切り抜き担当と一部視聴者が心停止。さらに一部は逆に興奮した。
>性癖の 法則が 乱れる
>切り抜きもアーカイブ残ってる定期
>[何も怖くありません 私の新たな扉を開いてくれたことすら感謝しています]
>最強で草
「ひぇ……厄介DVファンが進化してる……」
おめでとう。ミーシャはドS変態DVファンに進化した。そしてシェリーの言う事は聞かない。
>もう何しでかすかわからんよ
>[配信の邪魔は致しませんので]
>ほんとかなぁ
「そういうところだけちゃんとしてんだよなコイツ……」
色々な複合要因によってリアルの身分なども把握しているシェリーはミーシャに対してある種の信用を置いている。例えば相互身分保護に関する暗黙の了解とか。
>で、何するんだ?
>地上のコンテンツも色々あるが
「ふふ……よくぞ話を戻してくれました。今日からはストーリークエスト第三話やるぞ!トライヘルメス始まるまでに走る!」
恐怖パートをどこかへ流したかったシェリーは立ち上がって、街道を歩き出す。側から見れば見た目度外視で課金装備で身を固めている初心者、或いは化け物狩人のキメラ装備のような出立ちに見えるかも。
>おー、やるのね
>もう数日後だぞ
>まぁシェリーのクリアペースならゴリ押しで…
第一話は初日でEXクリア。第二話も二日でEXクリア。となれば第三話もEXルートで終わってしまいそうなもの。
「いや〜……でもさ、見てよこのクエスト」
そう言ってシェリーはウインドウを操作。カメラの視点もそれに向ける。
──
ストーリークエスト
3-1
[移り変わる美の波に乗っかって]
カレイドはあらゆる美の集う街。戦闘、工芸、曲芸、話術、なんだってある。そんな街の文化に触れていたら、面白いことが舞い込んでくるかも。
カレイドにて名声を上げる:未達成
報酬:????
──
「何これ」
クエストクリア条件、『名声をあげる』。2-1が金銭のやり取りだったように話ごとの最初は戦闘以外が条件らしい。確かにこの街はどこにいても劇場やアトリエ、ギャラリーなどが目につくくらいに娯楽に対しては豊富だ。路上パフォーマーだって沢山いる。
>わからん…
>また変な目標きたな
>俺も気がついたらクリアしてた
「マジか。んーー、じゃあ適当に今回も街ブラになるかな」
これだけ選択肢が多いなら歩いてるうちに思いつくだろう。後のことは後の私に任せようという魂胆が透けて見える。
>買い食いしようぜ!
>面白いクリア期待してるよ
>[私は装備を作っていたらクリアしました]
「ははは。私のことなんだと思ってるのよ」
可愛い、カッコいいって言われたくて聞いてみるが帰ってくるのはいつもの言葉。
>ネタのびっくり箱
>つつけばガバの出る薮
>[面白系ガバ配信者]
「てめぇらマジで覚えてろよトライヘルメスまで首洗って待ってろ」
オファニエルをオファニeくらいまで出し掛けるほどの殺意。疼く左腕を押さえて。
>[武器を研いでおきますね]
>魔法の使い方考えておくか
>必殺の忍法作っておくでござる
「全員"返り討ち"にしてやんよ!!」
売られた喧嘩は言い値で買った。
〜〜〜
Tips 非戦昆布 その1
(出す予定がない)
──
[ラファエル]
カテゴリ:錫杖
ランク:I
属性:風
特徴:特殊回復/広域効果/調合補正
──
超簡単に言えば広域スキル。
しかも効果強化もついてる。
使い方としては先に調合しておいた回復アイテムやバフアイテムを使う。そしてその調合自体が(フェールドほどではないが)強化されているのでつよつよ。
SWORDの他者回復効果は割と限られているので割と貴重な昆布。
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