#43【超豪華】どうやら戦いでしか生きられないらしい【厨二病】


「とうちゃーく!」


 ここはカレイドの街の中心部。超絶一等地に位置するランドマークである由緒正しき大劇場、『カレイドシアター』の前。投げ銭と言っておきながらこんな場所の"プレミアチケット"を渡してくるなんてあの司会者の正体って一体、なんて思ったが考えるだけ野暮だ。


>デカァァァイ!

>めちゃくちゃ上流階級で草

>そんな服装で大丈夫か?


「はははそんなのだい……」


 全身スーツに岩の腕装備。足はゴツゴツの黒曜石。フォーマルとは程遠い、野性味あふれるアウトローが今のシェリーだ。周囲の装いと比べて見てみよう。


「……」


 スーツにタキシード、ドレスやワンピースなどを纏う周りを含めて自分を客観視。ふむ。流石にこれは……


「求:今の所持金で買えるいい見た目の装備」


 どう足掻いても浮いている。最近のゲームはNPCもリアルみがあって性能重視のキメラ装備だと凄く気まずい。なんならNPCの表情もどこかぎこちないものになる。冒険者ギルドの関係者が特別その閾値が高い慣れているだけ。


>[すみませんが服飾は専門外です]

>んーー、いなくはないが

>予算の総額いくら?


「わかんないんだよねー、最近素材換金してなかったから……現金は約30Kかな!」


 地底の素材に蝙蝠素材。ギルドに行くのをめんどくさがっていたら勝手にインベの肥やしが増えていた。


>[ですが知り合いへの紹介であれば可能です]

>なんだそのコネ!?

>チートスキルコネクションやめろ


「へぇ〜……ちなみにどういう専門なの?」


>[裁縫と装飾品です]

>その二人そろえば大体なんでも作れそうだな


「丁度いいじゃん、案内よろしく!」


>目的地「あの」

>チケット「舞台見ないんですか??」

>[只今メールで送付しましたのでご確認ください]


「ごめんねー、このまま進めるほど私空気読めない人じゃな…………今なんて?」


 ピコンと鳴った"筐体"の通知音。聞き返しながら開いてみれば、そこには印と経路のついたカレイドの地図が。もうツッコミたくない。


「……よーしごめんねちょっとだけまた移動するよ!」


 地図を別ウインドウで開いて別の道へ。街中だからいらない装備も解除してノーマルな見た目に。これでシェリーは全身スーツと防具パーツを身につけた普通の冒険者だ。


>えぇ…

>そんなにすぐ装備って作れるものなのかぁ?


「わっかんない!!」


 流石のシェリーでもそいつは専門外。戦闘に関しては万能でもそれ以外となると無理。餅は餅屋とはよく言ったもの。


>[許可は取れましたのでお早めに向かってください]

>もはやただの支援班なんだよな

>また装備が増える…


「どんどん強くなれて私は嬉しいなっ!!」


>やめてくれ勝てなくなる

>トライヘルメス前に強くならないで

>いいぞもっとやれ








「暁工房……ここか」


 徒歩数分。職人街の裏通り。洋風の煉瓦造りが並ぶ中、まっっっっっったく雰囲気を読まない木造の面構えの建物を発見。拘りらしい一枚板の看板を見れば[暁工房]とこれまた見事な行書体で書かれていた。


「……私知ってる。これ超偏屈職人がいるんでしょ」


>[いえいえシェリーほどでは]

>言われてて草


「は〜??」


>どっちもどっちだろ…

>早く入れよ(

>wktk


「わかってるわいっ!」


 テラスになっている階段を登って工房に突入。戸を開いた先に居たのは。


「……ミーシャの紹介ならば問答は不要。わえの暁工房へよくぞ来たな、シェリーよ」


 長く清らかな茶色の髪を結い、知的な眼鏡の先にターコイズブルーの瞳を持つ、見るからに上等そうな和装の──男。刀剣が乱舞してたり戦国で婆娑羅してそうな顔をしている。ミーシャが少年漫画のメインヒロインの顔だとしたらこちらは少女漫画のメインヒーローの顔か。


「………濃っっっっっ」


>?????????

>負けた……

>喋り方まで濃いなこいつまた…


 ミーシャのコネってなんなの??馬鹿なの??と叫びたいが喉の奥に封印。リアル職人である彼女のコネならそりゃ同じリアル職人のプレイヤーに繋がるか、と納得はしたいがそれ以上に顔とキャラが濃い。本人もそうだが無駄に濃い。


「吾の名はカシミヤ。この暁工房にて作品を作っておる者よ」


「シェリーです、今更だけど配信しててもいい感じ?」


>しおらしい…

>ちょっと引いてて草

>DVファンでもやばいのに…


「構わぬ。そのような瑣事、気にしても仕方あるまい。さて、シェリーよ。何が必要だ?」


 カシミヤは持っていた本を閉じ、シェリーに向き直る。独自の雰囲気というか世界観というか、強い厨二病の雰囲気を感じ取ったシェリーは少したじろぎながらも咳払い。


「…えっと、今からカレイドシアターに行くから、それ用の装備が欲しい、かな」


「ふむ…………では、"それ"を脱げ」


「……は?」


>!?

>全裸撮影はまずいですよ!

>\\[●REC]//

>でかした!!!!


 唐突なセクハラ発言に一同騒然。しかしカシミヤは澄ました顔でため息一つ。無知な子供に語りかけるようにし続けて。


「長くに渡って身につけているその全身装備を新生させてやろうと言っているのだ。"適合度"も上々、これ以上ない素材となるだろうな」


「待って待って適合度って何??」


>知らない要素出てきたな

>使い込み度とかそういうやつ??

>もしかして別ゲーやってますかこの人


 前作になかった要素を唐突に引っ張り出されて遂にシェリーはパニック。本当にこいつは何を言っているんだとここにきて最大級の曲者が来て胃が痛む。


「あとは蝙蝠の皮膜、溶岩に住まいし亀の──」


「ストップストップ、日本語でおk」


>!!??

>美少女なの自覚しろ

>見た目だけはいいんだよなぁ!!


 仰々しく話すカシミヤの唇を人差し指で塞ぎ、ご高説をストップ。彼は少し目を開いて驚いた後、その腕を引き剥がして眼鏡を外す。


「……分析IIを持っていると適した素材が朧げに理解でき、装備が持ち主にどれだけ馴染んでいるのかが可視化された適合度を認識できる。そして生産スキルのレベルIIを習得すると『装備新生』というシステムが解禁される。それを用いて今のシェリーに適した装備を作る。」


「なるほどすごくわかりやすい」


 厨二が解ければ理解は容易い。へーそんな要素が増えてたんだと納得しているシェリーの前で再び眼鏡を掛け直したカシミヤは言う。


「さぁ、シェリー。装備と贄となる素材を差し出すがいい。吾が新たな姿へと生み直してやろう」


「脳内意訳ができて良かったわ……」


 ウインドウを操作してシェリーは全身装備を解除。初配信以来の初期装備である布の服状態に。渡すのは[シャドウダイバー]とフランベ鉱石×3、宵闇の羽×2。そして……


>……これはこれで

>うん、割とエロい

>こんな村娘がいるわけないな


「これ、よろしく」


 興奮の魔核。例のクソ蝙蝠の最速討伐特典。使う機会がないならここで使ってやろうという心持ちらしい。


>おお〜、豪勢に行くねえ

>どうするんだこっから

>素材の質が鬼高い


「拝領した。では作業に取り掛かるとしよう。少し離れていたまえ。ハニエル、起動」


 シェリーから装備と素材を預かったカシミヤは膝をついていた机──いいや、『作業台』にそれらを並べ、『相棒』を呼んだ。


「……は?」


>……?

>何か光ってますねぇ…


「吾の魂魄武装は刃に非ず。神の恩寵を受けし暁の作業台」


 慣れた様子でカシミヤは詠唱を口ずさみながら、並べた素材を浮かべて光の玉へ。


「なにこれ」


>わからん……

>思い出した

>知っているのか雷電!?

>この魂魄武装、特徴に領域展開入ってる


「は?」


──

[ハニエル]

カテゴリ:作業台

ランク:IV

属性:水

特徴:領域展開/生産強化/特徴抽出/魔力貯蔵

──


 カシミヤの魂魄武装であるハニエルはフェールドとは違う方向で尖った非戦昆布。生産の際には領域を展開し、こうして素材を浮かべるのだ。そして素材自体の持つ『特徴』を抽出して、光の玉に還元。これにより純度の上がった素材を生産に使用することができる。ランクIVに上昇したことによって追加された魔力貯蔵により抽出可能な時間と量はさらに増加した。


「求るは華。美の街を征く白銀を彩る黒き華」


「華とかちょっと照れるな」


>めちゃくちゃかっこいいんだけど

>こんなのできるの??

>非戦昆布すげぇ……


 潜水服のようだったシャドウダイバーは、黒い光の玉を吸い込むと同時にその形を変える。肩の部分は捲れ、バストとウエストを強調するように二本のベルトが出現。下半身の部分は大きく変わって、女の子らしいスカートとニーハイに変化。


「しかしその本質は滾る赤。死の淵に在ろうと勝利へと走る意思の表れ」


 そしてフランベ鉱石と興奮の魔核は混ざり合い、燃えるような紅蓮の焔を湛えたままシャドウダイバーに突撃。赤いアクセントも入って苛烈さも足された。


「すげぇ映えるな……」


>これ本当に全身装備か??

>可愛すぎるだろ……


「新たに生まれし此の命の名は──レイジング・シャドウ。猛りし影だ」


「すごい強そう」


──

[レイジング・シャドウ]

カテゴリ:全身装備(魔核武装)

属性:闇

効果:隠密効果(中)、自然回復(中)

スキル:ボイリングブラッド・怪力

──

[ボイリングブラッド・怪力]

継続自傷ダメージを負うことで一時的にスキル[怪力]の効果が上昇する。負うダメージ量と周囲の熱量に応じて上昇幅は大きくなる。

──


「強かったわ」


>??

>おいシェリーに持たせちゃいけねえやつだこれwww

>食いしばりで踏み倒してバカ強化できるじゃんwww


「ふぅ……完成だ。吾としてもこれ以上ない傑作よ。ここまでどのような激戦を潜ってきたのやら」


 良質な素材と魔核を贄に、経験値の詰まったシャドウ・ダイバーがシェリーへと最適化された結果がこれだ。これ以上に今のシェリーにアジャストした装備はない。


「ふふっ、それは私の配信切り抜きを見て確認しな」


「……検討しておくよ」


 暁工房全体に広がっていたハニエルの領域を閉じたカシミヤは、疲労を誤魔化すように椅子へと腰掛けて誤魔化した。



〜〜〜

Tips 用語解説


『品質』

分析スキルを保有してるもののみ見えるアイテムのパラメータのうちの一つ。これが高いとそのアイテムは優秀であると言える。

『適合度』

分析スキルをランクII以上で保有しているものにのみ見えるアイテムパラメータのうちの一つ。これが高いとランダム要素の結果が持ち主に適した形になりやすい。

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