#40 【乱数】ここからでも入れるリカバリー策はないんですか!?【HPミリ】

「焼肉バーニング!!」


 筋肉が焼け焦げる感覚を全身に感じながらシェリーは叫んだ。猛る炎の固定打点オファニエルは止まらない。何故なら情熱機関に焚べられているのは殺意だけじゃない。ボルケーノとかいう根本的に桁違いなエネルギー体と混合した融熱気。リアルならそもそもエンジンが耐えられないような仮想エネルギーであろうと関係ない。


>炎のデカさがおかしい

>シェリーよりデカくない?

>亀の自由を奪った状態で削るなんて…!


「黙れぃ!RTAとはそれすなわちハメの歴史!動けぬ敵をボッコボコにするのが一番よ!」


 ゴォォァァッッ!!


 とんでもない歴史改変に同調するように一際大きくフレアを上げて削る。削りに削って削り取る。甲羅プールの中に充填される溶岩も、冷え固まることなく攪拌され続けていて拘束具になんてなりはしない。


「ちょーーっぴり私を怒らせたなっ!ここが貴様の墓場じゃぁぁぁいっっ!!」


>不良のソレ

>これでお前とも因縁ができたな

>出たな妖怪縁結び!?

>退治しなきゃ…

 

『KuaaAAMMMEEEE……!!!』


 抵抗は虚しい。致命的な部位破壊をされ、せめてもの反撃である溶岩潜行・再充填も無限食いしばり状態のシェリーにとっては死ぬほど熱い足湯扱い。回転鋸でやる湯もみのなんと贅沢なことか。


「Ураааааааа!!!!」


>見た目ごと赤く染まったか

>アカ、だろ?

>星ついてないからセーフ

>オファニエルは月だからな


『KAAAAA!!!』


 オファニエルの棘は弱点部位亀の体内へと到達。削るりとるHPゲージの幅は更に更に加速する。目標まで残り40秒、このまま亀のHP20%を削りきれるのか。



>ぶっ潰せぇぇ!!

>亀さん逃げて超逃げて

>目標未達でもロスタイム60秒ちょいあるからシェリーの勝ちは決まりだろ


「あーもう笑いが止まらない、堪んないっ、止めらんないっ!!」


 その照りつく瞳は太陽よりも輝いて、制限時間イノチの尽きるまで相棒の月輪オファニエルは勝利の喇叭で消魂しい四桁温度の凱旋歌を大演奏。重なるハーモニーは駆動音ギィィリャリャァ!排炎音ゴグァァァァンッ!掘削音ザガガガァァッッ!攪拌音ザザザバァァァンッ!、ついでに合いの手の笑い声アーッハハハハ!!が揃って累計五重奏。約一名の観客から惜しみなく送られる拍手喝采大歓声KAAAMEEE!?を押しつぶす勢い。


>[真面目にCD化しませんか?]

>草

>売れそうだけどさぁ〜……

>死人が出るぞ


「クァーハハハァッ──ASMR配信ならまた今度な!」


 戒天の衝動は止められぬ。『カリカリチューンナップオファニエルRANK:IVwith[デッドイーター・真髄]fastシェリー』のダメージがこの会場を支配した。止められるものなら、止めてみろ。この無限バックスタブ状態を。


>巨大敵エネミーじゃなくてよかった

>マジでな

>こんなことされたらされたらもう生きていけない

>大丈夫 リポップするだけだぜ


「死は救済なりて!」


 残り10%。シェリーはオファニエルを踏みつけるように全体重を乗せ、笑い止んだ口でトドメの口上を語りあげる。内臓にまで届いた棘は届く全てをグッチャグチャのギットギト、メッタメタのギッタンギッタンに仕込みやがる。ネギトロ丼にするにはあまりに汚いが。


>救済じゃないが?

>どれだけいたくてもくるしくてもしねばおわる

>ちょっとヤバいのきたな

>痛い方が幸せじゃない?

>こっちもヤバかった


「汝もまた良き好敵手であった!」


>[好敵手と書いてなんて読む?]

>ライバルだろ

>ドロップ品

>ケルベロス

>ざこ


 残り8%。最早ヒトの目には追いつけない速度で棘々は周回する。その全てが融合したと見紛う程に。横から見れば皆既日食が如くオファニエルの周りに赤い影が出来ているのが見えることだろう。


>綺麗…

>どこが????

>暴力的なのに

>一周回って総合的に美しいんでしょ


「だからこそ!私は汝を打倒する!」


>さっきまで笑ってたやつの声とは思えない

>カッコいい

>それは同意する

><[たまに出る厨二病発症シェリー好き]>


 残り5%を切った。加速。加速。加速。幕引きを急かすようにオファニエルに懸かる重圧は増していく。亀は内臓破壊に次ぐ内臓破壊でもう動けない。ただ溶岩の海を漂うだけのデブリと化した。呻く声は既に空気にもならない。


>土左衛門

>死んでるから実質一緒だな

>これはひどい

>でもSWORDの中では一番のベストバウトじゃね?

>俺はやっぱりゾンゴブの方が好きかな


「そして汝の骸は、私の糧となるぅっ!!」


>糧

>ドロップ品って書いたやつ不正解な

>クソが

>シェリー、魔核装備まだゲットするつもりなのか…?

>次はどの部位になるのやら


 残り1%。死ぬ。死が確定する。してしまう。第十一回層支配者たる溶岩亀そのNは享年一時間未満という不名誉を獲得してしまう。しかも世界中に公開される形で。この前のピッケル魔術師にだってもう少し健闘したのに。たった5分で。インスタント麺のような気軽さで、殺されてしまう。そんな奇行を達成せんとするシェリーは、一瞬深く目を瞑って、最後にこう叫んだ。


「だからっ、もう少し岸に寄ってぇぇぇぇ!!!」


>草

>切実ぅ!

>だってこのままだと死ぬしな

>デッドイーターって何秒だっけ

>1秒毎にダメージチェック


 残り0%。HPゲージに残る色がほんの数ビットになった瞬間、シェリーはオファニエルを横に向けた。情熱機関の出力が掘削から推進に切り替わった。クソデカ極太マフラーから吐き出される炎が、いつかのようにシェリーを再び空へと導く。


>車の映画に出て欲しいな

>一輪車やんけ

>でも野蛮な速度じゃない?

>まぁ……うん……

>勝利へ連れてってるし丁度いい


「跳べよォォォォォ!!!!!」


>おおおお!!!!!

>[死んだ〜〜!!!]

>シェリーおめでと!

>さてどうなるか

>本番はここからだ


 討伐完了。4:59のタイマーストップ同時にシェリーはその骸の頭を踏んで、漂流の末に遠ざかった地面へと全力跳躍。達成感を感じる暇はない。流れるドロップ品と遺物の鑑定結果だって確認してたら地形ダメージで死ぬ気がする。片手でウインドウぶん回して引き出したポーションを身体にぶっかけてみるがまさに焼け石に水。そもそもシェリーの皮膚の上を『デッドイーター・真髄』が覆っているのだからそれは当然か。経口摂取とか悠長にしていたらそれはそれで操縦を誤って死ぬし。


「待って待ってHPちょろっとしか回復しないんだけど!?早くセーブポイント行かねえと!!!」


 地面の縁に棘が引っかかったことにより着地はギリッギリで成功。シェリーは既に見つけていた下の階層への道へオファニエルを向けて全力走行。そして一応回復できたHPから逆算したところこの状態は大体保って20秒。もちろんそれは無傷での話。真髄解放よりも致命的なタイムリミットが生まれてしまった。


>なんとか着地成功したが

>無理くない?

>今の速度ならギリ

>馬鹿みたいな速度で走るセグウェイだよな

>公道で走ったら捕まるなこれ


「この状況から助かるリカバリーはないんですか!!??」


>[ないので諦めましょう]

>ないぜ

>悪りぃなシェリー、この回復魔法俺用なんだ

>は?

>ヒーラー貴重だからウチのとこに来て♡

>え、嫌だけど…


「ハァ!!??へるっぷみぃー!!!やばっ!?」


 やけになって叫ぼうとした時に限って唐突に噴き出す火柱の壁。溶岩を取り込んだ[デッドイーター・真髄]によって燃える女と化している今、幾分か固い足先を使って軸足ドリフト。急旋回に急旋回を重ねてトップスピードの9割を保ったまま災難を抜けた。目標地点まではあと数十メートル。生きて辿り着けるのか。


>最終ラウンドが終わったら第二試合始まった気分

>言うてすぐ終わる

>ガバはよ


「するかボケぇっ!」


 と言った途端に最後の関門。オファニエルの大楽奏ソロに誘われて集ったファン達がシェリーのお見送りをしたいらしい。ついでに攻撃握手してお命サインを貰いたいのだとか。溶岩適応生物総出の光景を見てシェリーはにっこり。青筋が貫通して見える気がする。


「邪魔だァァァァァァ!!!!!!」


>それはそう

>ある意味代償よな

>ゴリ押し


 咆哮ついでに足を地面に突き刺しながら襲いかかる雑魚雑魚雑魚雑魚を一薙にて吹っ飛ばした。速度こそ奪われなかったがこの足止めは面倒。単純にタイムリミットが迫る。残り5秒か。


「やっべぇぇぇぇーーー!!!」


 薙いだ横回転そのままにオファニエルを再度地面に叩きつけて推進、残り2秒であの光の柱まで辿り着けるか?いやこれダメかもしらんね。回復ポーションのCTがまだ開けてないし。


「行ってこいや[ハンティング・ジャー]ァァァァァァ!!!」


 ここにきてシェリーは装備変更。フォレスト・チェイサーを装備し光の柱間近に刺さったのが見えた瞬間スキル発動、コストをギリギリ払いきって……


「はいわたしのk」





















「死んだ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


>はい

>セーブはできましたね…

>死ねばデメリット踏み倒しとかマジ?

>自決が最適解なわけないだろ!いい加減にしろ!


「いや普通にペナルティ食らってるよ。くっそー、耐久配信するつもりだったのに真髄解放使わせやがってあんの亀野郎……仕方ないからこのまま適当な別ゲー配信に移行しよっか」


>ドロップ品は?

>遺物気になる

>レアドロはなさそう


「ん〜……そうだね〜、魔核装備はないか……待って」


>どうした?

>そんなヤベェって顔して

>今世紀最大の運を使い果たしたみたいな顔してんな


 シェリーはバトルリザルトを配信画面にも共有。以下の通りだ。


──

[Battle-Result]

ヘパイスタートル討伐戦

貢献度:Solo

評価度:Special

タイム:00,04,58,42

報酬

-割れた魔核(FA特典)

-砕けた魔核(LA特典)

-神の遺物(最速討伐特典)

-溶鉱×4

-フランベ鉱石×3

-尽きぬ熱源×6

-ヘパイス岩×6

-地の遺物×1

称号

-[溶岩亀を単独討伐せし者]

-[溶岩亀を最速討伐せし者]

-[溶岩亀を討伐せし者]

-[ボルケイノ・モンスター]

-[地底の太陽]

──


>評価度スペシャルか

>ん?

>待ってwwwおかしいのがあるwww


「神の、遺物……?」


 なんだかいい意味で嫌な予感を感じながらもシェリーは遺物の詳細を開いてみる。


──

【神の遺物】

カテゴリ:古代の遺物

属性:鋸

効果

<堅実IX>

<背水IX>

<魂魄VI>

──


「ぶっっっっっっ」


 落ち着くためにクリエナを飲んだはずのリアルのシェリーは吹いた。ガチで吹いた。なんてものを引いてしまったのだ。


>は?

>神遺物やんけ

>\\[厳選終了おめでとう]///


「どぉぉぉしてだよぉぉぉぉぉ!!!!」


 配信のネタが速攻でなくなってしまったという現実から逃避するように、シェリーはこちらに向かってくる逆風に魂の叫びをぶつけるのであった。


>配信続きはよ

>何使うんだろ

>どうせHG



〜〜〜

Tips フランベ鉱石

 極度の熱に晒され続けながらエネルギーが圧縮されることによって偶発的に生まれる貴重な鉱石。その特性上、火山地帯でしか取れない。

 強い火属性の力を宿しており、武器から酒、料理にまで幅広い用途に使える。

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