#39 【バグの温床】月と亀の舞踏曲【例のアレ】
『GAAAMMME!!!!』
>うるさい!
>もう慣れたわ
>アリサよりマシ
亀は開戦初手咆哮、狩りゲー世界ではド定番の挨拶代わり。防音スキルがないと怯むだろうがコイツらは十分訓練されている。その筆頭であるシェリーはウインドウから玉を召喚、大きく開けた口にぶん投げる。
「喰らえや煙幕!」
>ないっしゅー!
>ほんとコイツ何やらせても強いな
>勿論です、シェリーですから
下の上に刺激物。煙臭い味は苦手だったようで。亀は味覚嗅覚視覚を潰された。しかし口に入れてしまったソレはへばりついて離れない上に耐久が尽きるまで煙を吐き続けるだろう。いくら暴れたってただ隙を晒すだけ。
『GYAAMMEE!!??』
「劇渋煙幕とかあー嫌だ嫌だ!」
調達した上迷いもなくぶん投げた本人は白々しく笑って、相棒をギァギァギァギァっと唸らせる。
>お前のせい定期
>PvPで使わないで欲しい
>FPSで使いたい…使いたくない?
>リアルファイトなるからやめとけ
「事故るのは私のプレイングだけで十分!チャートはちゃーんと考えましょう!」
オファニエルを"甲羅"へと叩きつける。裏面と表面を繋げる間、冷え固まった溶岩──黒曜石でできた接着部をこじ開けたい。そうすれば
>おいシェリー、お前何やってるんだ?
>ニッコニコで押し付けるじゃん
>風魔法ニキでもわからんなら俺もわからん
「ノックしてもぉーしもぉーしっ!」
首を振って、足をバタつかせて煙から逃れるという行動に囚われた亀を愚弄するかのように甲羅の破壊にシェリーは勤しむ。それで削れるのは莫大なHPゲージのほんの少しだが、ちりも積もればなんとやら。確かに物理的に"削れて"はいる。
「順調順調♪」
本来固定打点は防護を無視した削りこそが真骨頂。この世界がゲームである都合上、例えプレイヤーが盾でオファニエルの猛攻を防いだとしてもHPはきっちり徴収していく。特殊移動で縦横無尽に動き回って勝っている方がおかしいのだ。
>あぁ…成程。オレがピッケルでやった事を再現してるのか
>すいません、専門家同士の戦いなんでわからないです
>解説よろ
「亀系のエネミーはさ!甲羅開けたら消化試合なんですよね!!」
>ってな訳で攻略としては甲羅を開けるか壊すかだ。
>ちなみに俺はピッケルで掘った。
>剣で割った
>ビームで貫きました!
>爆弾食わせてドカンでござる
>防御無視砲撃でズドンよ
>狂人の思考やめてください
>蛮族共がよ…….
「だからこうして怯ませておく必要があったんですねっと!」
コメント議会は賛成多数で
「オラオラオラァァァん!」
閑話休題。画面に視点を戻すとシェリーは次なる工程に移っていた。虎の鉄砲玉である劇渋煙幕の効果時間が終了した今、ただの接近攻撃は危険が危ない。というわけで甲羅に騎乗し、振り落とされないよう狭いフィールドを駆け回る事に。
『GYAAMME!!GAAAAME!!』
「ははっ当たらねえな!」
そして0.5秒に通った位置から火が噴き出すが、今のシェリーはまるで捉えられていない。異端児だろうと勝てばそれが王道。
>ラジコンでもこんな動きしないぞ
>ここってサーキットだっけ?
>神殿でやれ
「ごめんねヴァーサ様!」
>謝る気ナッシング
>いい笑顔
>明日の寝起きに拝む
そして周回の末、笑いついでにシェリーは気づいてしまった。甲羅の上に噴き出すカウンターの"勢い"が回を重ねるたびに弱まっている事。そして、この甲羅の一部が"地形"判定である事を。
「チャート変更しまーす!」
>またチャート投げ捨てられてる
>そのうちチャートに復讐されるぞ
>ガバ運で検証結果が変わるんですねわかります
火柱が噴き終えに向かう瞬間、跳んで180度の方向転換。耐久がそろそろヤバイかもとは思いながらもやはり使っちゃう。
「ブロック・ロック!もっと溶岩出せやゴルァ!」
>ひぇ…
>ブロックじゃないじゃん
>地形操作とかいうチート
>ナーフしろ!!!
この溶岩亀、甲羅の表面までは自身の身体なのだが"溶岩"だけは地形に存在するものをそのまま甲羅の装甲内部に取り込んでいるだけ。そのためMPに悩む必要はないが何かの行動で使う度に溶岩を補給しなければいつか弱体化してしまう。普通なら回収>使用量なのでそう気付くことはないものの今のように常に吐き出してしまう、なんなら全力で抜かれてしまえば……
『KKKAAA………!!!!』
>急に嗄れた
>なんて読むん???
>弱体化してて草
目に見えて溶岩亀は弱体化。ぶっちゃけシェリーのスタミナも切れかけだったがそれ以上のリターンは得た。体術Iは偉大。そして吹き出し続けた末に大きく空いた甲羅の穴に、オファニエルを。
「お前の体温何度あるのかなぁ〜??」
>待て!待つのだシェリー!
>イッテイーヨ!
>甲羅砕け!!
「殺って……いいってさぁぁーっ!!」
全重量を乗せた叩きつけ攻撃。熱量を失って脆くなった甲羅では、超重武器の一撃に耐えることは不可能。見るからに弱りきった亀の泣きっ背に月。甲羅にへばり付いたヤツらがボロボロ取れるのと同様にHPゲージの色も抜けてゆく。
>もうやめたげて……可哀想…
>その手があったか
>胃の中を爆破したのがまだマシに見えてきたでござる
「デトックスの時間だ〜〜!!!」
そして罅割れが広がってきた甲羅に"ととのい"を施すのもシェリーの
>気持ちいい……
>ここだけASMRでくれ
>また変な切り抜きが増えるのか
>シェリーの切り抜き上級者向けタグ付きすぎ
「死ィィにっ晒せやぁぁぁ!!!」
『GAAMEEE……!!??』
やっと大ダウンから明けて動けると思った途端に背中から走る衝撃。体温調節機能にに傾いているから
「アッハハハハ!!こりゃ楽すぎるわっ!5分針切っちゃうかもね〜〜っ!!けぇほっ!」
シェリーの笑いはどこまでも高らかに響き渡る。咽せて多少手元が狂ったってこんなにも『攻撃してください』と晒している弱点には攻撃を当てない方が失礼だ。
>外道ってこういうことを言うんですね
>いや……邪悪…ではないよ?
>貫通攻撃はただHPを削りやすいだけだが、固定打点はこうして部位自体を破壊することも可能なのだな
>なるほどわからん
現在経過時間は4分ジャスト。HPの残存は3割を迎えようとしているところ。さぁここが見せ場だというシェリーの心の叫びが、
「立つな立つな立つな立つなぁぁぁ!!!」
>攻撃しながら体力減ってるんですよね
>牙を剥いてくるじゃじゃ馬を強引に力で押さえつけてる
>いかにもシェリーらしいね
削り加速に比例して燃えるシェリーの
『KAAMMMMEEEE!!!!』
火は消えゆく前が一番激しいように、やられたい放題だった亀は
「ああもうっ!やっぱりあるのかよ発狂モード!!」
>よーし!やれ!やれー!!
>亀ちゃん頑張ってー!!
「私の応援は!?」
そんなものはない。そしてこのまま削り切るという強迫観念に囚われていたシェリーは、溶岩亀の発狂モードで行われる固有行動に気付くのが一歩遅れた。
『KAAAA…………!!!』
立ち上がり、のっしのっしと熱を失って弱った亀が向かった先は勿論彼にとって大事な大事な熱源タンクである溶岩湖。戦いの中で本来ならば減った溶岩を補給しまくりながら、甲羅外殻から吹き出して攻撃するはずだった。しかし今は、別の意味を持っている。
「うっそぉん!?」
甲羅の上に乗った異物の消毒。溶岩の持つ圧倒的熱量の前には、流石の英雄もひとたまりもない。溶岩水泳部は普通の昆布ではあり得ないのだ。それはシェリーも例外ではない。情熱機関に溶岩浴の二重加熱。スリップダメージで逝ってしまいそう。
「タイム!タイムっ!」
焦ったシェリーは速攻でウインドウを展開、スクロールして触手な胸部装甲を引っ張り出して金属板から張り替える。
>おおおお!!!
>ダメージ量えげつなくて草
>\\[●REC]//
「こんなところで死にたかないんだ[真☆髄☆解☆放]ッッッ!!!」
死に物狂いでも最低限のキラッとムーヴを決めてかかるは悍ましき変身バンク。肉塊が膨れ上がってシェリーの全身を包み、脈動し、相棒までもを変異させる。
>なんか使う度演出違くない?
>気のせいだろ
>そーそー
それはプールになった溶岩までをも取り込んで、赤黒い中に煌々とした"赤"が混じる。情熱の"炎"が浮かぶ。
>待って派手だな?
>ほら言ったじゃん
>……タイマーは進んでるが……
肉にして岩。血にして炎。『燃える女』がたった120秒の制限の元、ココに顕現した。
>もう別物じゃん
>あれぇ?
>周囲のもの取り込んでんじゃねえよ
「最終ラウンドだ…!」
>こいつ後先のこと考えてないな
>近距離なら乗るのが一番だから…
>魔法ないってこう言う時に不便だよね
〜〜〜
Tips 部位破壊による追加ダメージ
尻尾切るとか今回みたいに甲羅が割れるとかそんなことになった場合、その瞬間に分かたれた部位はエネミーの一部ではなくなる為、その分のHPの一部が消失ともに消し飛びます。
ただし、同じ部位破壊でも武器を持っているエネミーの武器が壊れた!とかは肉体の一部ではないので減りません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます