#38 【按摩師】無免許マッサージ屋大回転!!【棘灸あり〼】


 クーラードリンクの効果時間減少はシェリーの足取りと同じように着実に進行。効果時間は残り3/4くらいかな、というところ。暑さは相変わらず、雑魚も炎の蝙蝠だったり燃えてるカバだったりで普通の敵はいないのかと嘆きたくなるようなラインナップだったが、オファニエルでギャリったら何とかなった。


「……まだ〜…?」


 今しがた溶岩で形取られた手のエネミーを削り取ってシェリーはぼやく。エリアボスが現れたのはいいが一向に見つからなくて暑さに負けてしまいそう。重低音は鳴り止んでいるうちに、クリエナを口内に注入して身体と精神を再び立て直す。


>ここも広いのか

>オファニエルで走ってないから時間かかるな

>俺は風で移動するから特に気にしていなかった


「風か〜……SWORDの魔法の仕様ってどうなってるの?」


 私に瓶を差し入れてきたアイツも杖背負ってたなと思い返す。彼奴は何故か杖とピッケルの二刀流だったけれども、完全物理型昆布であるオファニエルを扱うシェリーに魔法スキルを取れる隙は存在しない。情熱機関によって熱量=性能強化に繋がるとしても検証の為に貴重なスキル枠を潰すのは如何なものか。


>昆布で魔法を扱えるなら必要はないがあった方がいい

>俺はただの剣だったが火魔法取って火炎斬りしてる 楽しい

>シェリーも魔法使いにならないか?


「やだ ならない チャートを組んでちゃーんと使う分には便利だけどアドリブだと魔力ブッパしすぎて倒れるからさ、私」


 なのでシェリーは無理に少し取って確かめるくらいなら純魔に任せることにした。何より英雄シェリーのプレイスタイルに魔法とかいうチマチマ詠唱を唱える行為は向いていない。4秒で3の安全なダメージを与えるくらいなら死地に赴いて4秒で5を与えながら生き延びる事に必死になる女だ。

 

>ナビ入れ忘れて事故る自動運転車みたい

>うちのじっちゃんそれで怪我したわ…

>お大事に…??


「それは死ぬんじゃないよ〜っと、なら前みたいに取ってるスキルツリーによって使用できる魔法の種類が制限されてるわけじゃないのね」


>MPをかなり余計に持っていかれて効率が悪いが一応使える

>氷魔法1でホワイトプリズン使えた

>巨大な火球作って弱化ゾンゴブ火葬したわ


「〜っwwマジ?うっわ〜…それ見たかったなぁ〜…」


 腐っていてもシナリオボスはシナリオボス。再戦でドロップするアイテムも、それを素材にして作るアイテムも、見た目がアレ・・だという点にだけ目を瞑れば優秀であり、価値が高い。そのため初心者は店売り→耐久寄りのゾンビ装備へと移行していくのかオーソドックスになりつつある。


「ならそろそろ魔核装備のスキルも被りが出てきそうなものだけど……っ!?」


>!?

>予兆なかったぞ


 嫌な予感が脳髄に過る前にシェリーは前方に緊急回避。着地硬直相殺のためにローリングしてブロック・ロックを跳ね台に利用、トリプルアクセルで周囲を見渡して──発見。


「どう見ても火山だねぇっ…!」


 吹き出した火柱からシェリーが捉えたのは一言で言えば亀。二言でいえば火山亀。もっと詳しく言えば溶岩を吐き出し続ける火山と化した甲羅を背負う亀のエネミー。この第十一層の階層支配者エリアボス。或いは限定資源レアエネミー。数分前から断続的にクる重低音はコイツのせいだろう。なんせ質量・・が違う。


>ソロ討伐なら晶の遺物以上確定だぜ

>は?

>降りられなくて死んでる炭鉱夫ワイ、憤死


「よっしゃ10分針も行かずに吐き出させてやるからなぁぁーっ!!エリアボスの亀ちゃん初見討伐RTAはっじまーるよーっ!」


 シェリーは手癖でタイマーセット。詠唱RTA開始。思考回路のフラッシュメモリは既にどこから削るかだけでいっぱい。


>レギュはよ

>WR更新して♡


「視聴者に負けるのは癪だから10分以内にぶっ殺してやるぜーー!!」

 

>おう、やれるものならやってみろ

>強者の余裕

>どちらが…上かな?


「私が上に決まってる!ほーらその足揉んでやる!」


>気持ちよさそう……

>HPいくらあっても足りない

>秒割り料金じゃないと払う前に死にそう


 一桁秒の内に肉薄完了、オファニエルの棘をを文字通りの溶岩肌に押し付ける。どれだけ硬い装甲であろうとオファニエルにかかれば布地同然。見事ダメージジーンズの出来上がり。だが亀はこの突貫加工に喜んでか四つ足を足を引っ込めてしまった。代金反撃もなしで。


「やっべ」


>空転…!?

>あーー

>シェリーの間抜け顔スクショ美味しい


「制御が──ッ!」


 オファニエルの致命的な弱点。それは"軸"をズラされる事。深く差し込んだまま足を引っ込められたせいでオファニエルの腹──円盤部分に甲羅の縁が接触、回転が阻害される。


「あっばばばばっ!?」


>死ぬほど揺れてるww

>コントローラー勢なのでこんな事故とは無縁だな

>イカレ武器はフルダイブ勢の特権だった…?


 そのせいでオファニエルブン回しパワーの伝達経路が混線。強くなったオファニエルだからこそ、キチンと吐けるだけの全力を出さなければこのように痞え、撓み、咽せ・・てしまう。


>おーおー面白い事になってる

>おかえり

>ここからもっと酷くなるぜ


「くっそ…ぉ!?」


 仕方なくオファニエルを解除、だが異常状態での収納なので再召喚まではクールタイムが発生。これはシェリーの想定外。なんせこれまで壊れた事はなかったから、意識の中から抜けていた。


>これはマズいか

>お?失敗くる?


 そして六つの突起を引っ込めて山そのものと化した亀はその穴から勢いよく溶岩を吹き出した。すっかり聞き慣れた重低音が鳴り響く。


「待て待て待て待てそれはやばいって」


 相棒を呼ぼうと虚空に手を伸ばすが、残念ながらオファニエルは一分間の休暇を満喫中。彼が療養から戻るまで、シェリーは自力でこの大技を乗り越えなくてはならない。


>同じタイプの攻撃…

>いや待てこれって

>横 回 転 !


 ブゥゥゥンンン………!!!


「退避ー!退避ー!!」


 周囲の気温を上げながら亀の速度は加速度的に増していく。まずは秒間10回転から、そして20回転に、30回転、40……!!


>こっわ

>戦える気がしない


「間に合っ──」


ニブニブニブニブニブニブゥゥッッ!!


「ひぃぃーーっっ!?」


 ガガガガァァァァッッッッ!!!!


 亀は懐かしのベーゴマが如く横回転しながら突撃攻撃。シェリーの隠れたはずの岩が勢いよく質量を減らしてゆく。


>これが噂の自動追尾弾ですか

>弾と呼ぶにはデカすぎる

>当然のようにうるさい


「今のうちに逃げるっ!」


 第一防衛ラインはダメだと早めに見切りをつけて次の遮蔽へ、潜り込んだところで亀独楽が落ち着いてきた。まるでさっきの再放送。状況はまるで変わらない。


「ねぇ!!!この回転いつ止まるの!?」


>知らん 回転させずに倒したからな

>倒せるのかよ

>物理と魔法前衛なら倒し方は違うか

>どう見ても物理面は硬そうだしな


 オファニエルの帰還まで、残り20秒。しかし辿り着けそうな次の遮蔽はない。


「ぶっつけ本番できるかな私〜っ!」


 叫びながらパーフェクト・クラウチングスタート。ニューロンはネクストプロセスを策定する。


>何すんの?

>遮蔽ないけど

>……そうか


「わかった…?」


 三百六十度で溶岩のパノラマ風景を楽しめる位置にやってきたシェリーは精神集中。今回過労死気味のロッカー・アームを撫でて。


 ヴヴヴァァァンンンッッッ!!!


>来た!

>死ぬぞ!?


「さっきのお返し!」


 超高速でブン回る亀は姿形こそ違えど、オファニエルと同じく回転している。なら、弱点も変わらない。回転の横から衝撃を与えればいい。


>地形パリィだー!

>ブロック・ロック強いな…

>欲しい……


 見事回転する甲羅のド中心を真芯で捉え、地形操作の強制力で上空にぶっ飛ばす。そしてここでオファニエルが帰還、反撃カウンター質量攻撃から紙一重で逃げ切る。


>MVPはロッカーアームかな

>オファニエルはシェリーのガバで妨害されたから

>まず働けなかったハンティングジャー君のこと忘れないで


 ズゥゥゥゥゥンン……!!


 落下の衝撃を四つ足で踏みしめて、シェリーと亀は向き直る。こうなったらやることは一つ。


「はぁい亀さん。こちらシェリー。お前の甲羅をいただきに参上した!」


『Gaaaameeee………!!!』


 名乗り口上を唱えてメンチをカット。口を歪めて笑う二人は、戦法から表情まで何までそっくり。まるで生き写しの兄妹のよう。


>なんでこいつらってすぐエネミーと心通わせるんだ

>敵とかいて友と呼んでるんでしょ

>戦闘民族がよ……


 さぁ、タイマーの指す経過時間は1分30秒。目標タイムリミットまでは残り約8分。さぁ、ここからが本当の戦いの始まり始まり。


〜〜〜

Tips


魔法の仕様1

前作まではスキルがスキルツリー式だったので魔法が順次アンロックされる形なっていたが、SWORDは魔法スキルが適性を得る形になったので推奨ランク以上の魔法を使えるようになった(ただし適正外の魔法はヘルプには乗らないし費用対効果は下がる)

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