#37【痩せる!】脂肪燃焼ダイエット(物理)【精神的に!】


「あっつぅい…」


>そうだなー

>見るからに暑そう

>クーラーがないともっと熱かったんだぜ


 現在体感温度四十度。厄災ならぬ英傑が準備なしに至れば燃える死の山みたいな温度の最中。皮膜型の全身装備を纏うシェリーにとってはまるで蒸し風呂、仮想の汗が仮想の肌に張り付いて非常に不快。


「この階層はクソです ☆1もあげたくないですが仕様なので☆1とします 本当なら☆0にしたいです」


 やる気クリエナも汗となって漏れ出てしまったシェリーの口からは恨み節が出るばかり。装備していたハンティング・ジャーも燃えかけたので仕舞ってしまった。爽快感のある移動は封じられたと言っていいだろう。


>ダンジョンをレビューするRTA走者

>ケルベロたんとどっちがマシ?

>それは決まってるだろ


「うぅ〜〜ん……あっちかな」


>え

>マ?

>不快と嫌いならまぁ…ねぇ?


 トラウマを逆撫でするどころかバーゲンセールの福袋を求める主婦の方々のように顎門を伸ばしてくる犬っころは倒せばどうにかなる。だがこの暑さだけは階層の仕様でどうしようもない。データがあれば八つ当たりはできるがデータが存在しない相手には如何なるゲーマーも勝利することは不可能なのだ。なので嫌いなのはこちら。Q.E.D.


>その装備脱げば?

>お前なんてことを

>シェリーこの装備以外持ってないんだよそんなこと言ってやるな


「…………………」


 シェリーは事実なので何も言えない。なので早く敵が来ないかなと第十一層をお散歩中。というのもこの階層のような地底火山の地面は、不意に刺激すると連鎖噴火を起こしてマグマへと沈むことになる。なので残念ながらオファニエルは肩に乗せるだけ。


「あ〜、敵来ないかなぁ〜〜」


 と呟きながら何気なしにシェリーは落ちていた石ころを蹴って──



 トプンッ

 


>あ

>出やがった

>シェリー、後ろ!後ろ!


 ──溶岩溜まりへと落ちた石ころの衝撃で非アクティブであったモンスターがアクティブ化。地上であれば液状化した地面を泳ぐマッドダイバーがこの地底火山に適応し生まれた亜種、溶岩を泳ぐボルケーノダイバー。それは丁度シェリーを死角から覗いていた。


「……なによ。いないじゃん」


 だがシェリーがコメントに従って振り向いたときには既に頭を引っ込めて撤退済み。イライラ気味なシェリーには溶岩の中まで確認する気力はない。再び元の方向へと進んでいく。


「みんなは採掘どんな感じー?」


>……

>光ってるところを叩けば出てくるぜ

>強めのエネミー倒せばドロップするなぁ


「やっぱりそこは仕様変わらないだな〜っと、よーし1箇所目発見!」


 通り過ぎた岩陰を振り返れば光の球が浮かぶ赤い結晶を発見。オファニエルを起動し、横に構えて一気に振るう。


「さぁーて掘削掘削〜っ!」


 ギャァァガガガガッッ!!


>掘削っていう言葉で本当に掘削してるの初めて見たかも

>確かに

>ピッケルなんていらなかったんや…


「は?ロックギガントはオファニエったが?」


>掘削したって言え

>もう頭オファニエルしてるじゃん

>オファニエルがゲシュタルト崩壊してきた


 固定打点の力で結晶は無事に削られ、棘が光の球にまで辿り着くと遺物はシェリーの中へ回収された。


「よーし次の乱数はどーなるかなっと」


──

【欠けた遺物】

カテゴリ:古代の遺物

属性:爪

効果

<攻撃IV>

<渾身II>

──

【欠けた遺物】

カテゴリ:古代の遺物

属性:銀

効果

<生命VI>

<速攻I>

──

【欠けた遺物】

カテゴリ:古代の遺物

属性:斧

効果

<魂魄VI>

<高揚II>

──


「ん、んん〜……強いけどさぁ…」


>理論値ではないな

>使えなくはない

>とりあえず乗り換えかな


「属性違うけど魂魄VIはオファニエルと相性クッソいいしこれにしよっか」


 速攻で旧遺物を投げ捨てて<魂魄VI>と<高揚II>に乗り換え。お陰でシェリーの火力DPSは大幅上昇。最低限の運は発揮された。


>攻撃にしないの?

>普通はそれの方がいいんだが…


「過去作で検証したんだけど、固定打点には攻撃の効果乗らないみたいなんだよねー。乗るとしたらロッカーのぶん殴りとジャーのぶっ刺しくらいだと思う」


>片手剣のことも忘れないであげて

>あれ実はサブウェポンなんすよ

>シェリーは片手剣握った方が強くない???


 このゲームのダメージ計算の仕様は非常にめんどくさいため簡略化して説明した場合、


与ダメージ=[攻撃力]×[行動補正]×[スキル補正]


減ダメージ=[防御力]×[耐性補正]×[スキル補正]


最終ダメージ=[与ダメージ]-[減ダメージ]±[別枠効果]±[物理要素]


 となるのだが、シェリーとオファニエルのように『固定打点』の昆布は以下のような計算式になってしまう。


最終ダメージ=[オファニエルの打点]±[別枠効果(追撃)]±[物理要素]


 ……見ての通り、そもそも攻撃力を参照していない。オファニエルの火力を上げるという点では攻撃上昇も防御デバフも無意味。そこでこの<魂魄VI>が登場する。魂魄の効果は『魂魄武装の効果量』を上昇させる効果。そして[オファニエルの打点]は魂魄武装の効果扱い。


「ってな感じで私の火力が6割増しになったってワケ」


 胸を張って自身の豪運を誇るが、コメント欄はそれどころではない。シェリーの視界外が徐々に影に染まっているから。


>草

>強い

>んでシェリー、横見てみ?


「横?」


 長々と固定打点について再検証した結果を語り終えたシェリーがまた指示厨かと振り向くと……


『Fiiish……』


「…わーお。」


 そこにはマグマから這い出てきたボルケーノダイバーの姿が。つぶらな瞳に半開きの口、そして涎のように垂れる高熱の体液。シェリーを餌としか見ていないようで攻撃の意思は感じられない……そのせいで気付くのが遅れたようなものだが。


「私の殺意センサーに引っ掛からなかった……!?」


>なんだそれ

>殺意って感じられれものなんですか

>なんとなくわかる

>それは一部のニュータイプだけな??


「アリサはリアルでも感じ取ってくるよ……で、これ……」


 のし、のし、と足の生えているボルケーノダイバーが歩いてくる。その間抜けさにシェリーも危機感を感じれないままでいる。そして、首が伸びて……


『Fish』


 噛みつかれる。


「──危なっ!?」


 オファニエルを叩きつけて緊急回避、あまり使いたくなかったが仕方ない。もしも噛みつかれたらそのまま飲み込まれていただろう。そしてオファニエった軌跡からは溶岩が噴出、地形ダメージの発生だ。


>はよ逃げろ

>なんで動けなかったし

>いやぁ…わかるよ。僕もなんだか毒牙を抜かれて危なかったしね…

>怖すぎるだろこの地形効果ww


「ひぃぃ〜っ!こっえ〜っ!」


 ホッとジャンプしてオファニエル走行終了、ダメージこそ受けずに済んだが流石に心臓に悪い。例えるなら常に後ろが爆発し続けるカーチェイスか。


>特殊移動系の昆布って全部こんなものなの?

>オファニエルがおかしいだけだから…

>俺も特殊移動だけどもうちょっと穏便だぞ


『FiFishFiish!』


 そして"餌"を食べられなかった事に困惑していたボルケーノダイバーはようやくシェリーを敵と認識。今度は口を開きながら走って追いかけてくる。


「そうそうそういうのだよ!そういうのを待ってたっ!」


>シェリーニッコニコで草

>戦いの始まりだな

>オファニエルが走れないってかなりのデバフだな


「すりー、つー、わーん……」


 シェリーは正面から迫ってくるボルケーノダイバーを見据え、ロッカー・アームに力を込める。使うはもちろんあのスキル。


『FiFiFiiish!!』


「ここだぜカウンターっ!」


 今度もそっと伸ばされてきた首元を狙ってブロック・ロックで地面を鋭利に隆起。エラの辺りに上手く突き刺さってパリィは成功。


>なにそれ…

>錬成師かよ

>土ボコ!


「そんじゃいっくよー!」


 大きく怯んだので片手剣を握って逆手に構えたまま肉薄……斬る!


「いっせーのーせっ、〆鯖斬ッ!」


>>[〆鯖斬!]<

>なにそれ…

>今日は寿司屋行くか


 魚型エネミーのの急所である鰓、鰭、そして腹を次々に捌いていくシェリーのなんちゃって剣術のうちの一つ。特に意味はないが叫びたくなる言葉の並びで個人的には好きらしい。


『Fififiii……sh……』


 そして急所に連続で攻撃を叩き込まれたダイバーは即死。ポリゴンへと還り遺物を落とした。


──

【汚れた遺物】

カテゴリ:古代の遺物

属性:闇

効果

<克服V>

<速攻IV>

──


「いっちょあがりっ!」


>おつー

>すぐ終わったなw

>まぁこいつは狩りやすい部類だよな


「そだねー、動き自体は遅いし。次はもうちょっと手応えのあるやつがいいかな」


>そんなこと言ってるとボスが出てくるかもな

>いやいや出ないでしょ

>黙ってる方が面白そう


「待て待てなんだそのコメント。いるの?ここにも」


>そろそろリポップの時間だな

>ふぅん…

>なるほどね


「あー……リポップ。そう。なるほど。ふーん……ッ!?」


 ズゥゥゥンと身体の芯まで響く重低音。地鳴りと紛うほどの衝撃。一度その音が伝わってくる度、周囲の溶岩溜まりが柱となって吹き出してくる。


>うるせえ

>SW基本的にうるさくないか?

>まぁ…うん…


「ここのエリアボスリポップした…?」


>おっシェリー賢いな。その通りだ。

>ワロタ

>クーラー渡した途端ログアウトしたからどうなるかと思ったが間に合ってくれたみたいでよかったぜ


「…ふぅぅん……つまり倒せってことか」


 片手剣を腰に下げ直し振動の発信源へシェリーは走りだした。この溶岩の床は踏みしめている分にはただ熱いだけの床である。


>そういうことだな! ちなみに俺は10分かかった

>長っ

>エリアボスソロ討伐なんてそんなもんだよ


「つまりそれを更新すればWR…ってコト…!?よっしゃーやる気出てきたー!!ぶっころーす!!」


>楽しそうな時は可愛いのになぁ…

>ぶっちゃけこうふんす

>おいバカやめろ



〜〜〜

Tips 不快指数について


ゲームの中なのに快適不快とか関係あるの??とか思ったそこのあなた。

実はあります。


不快指数が高いとスタミナが減りやすくなったり、競り負けやすくなったりします。

逆に快適な環境であったり相性の良い場所だと補正が入って強くなったり。

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