#35 【犬怖い】地獄の門はフリーパス【死な安】
トラウマから逃げ続けて三千米。進む程にブチ上がる
「死ぬーーーっ!死ぬーーーッ!!!!」
>まだ死んでない
>真髄使えば?
ケルベロたんによる三連噛みつきの惨状はご覧の通り。片足を失って血が漏れ出し続け。走行の軌跡には薫り高き赤の標が並んでいる。
『Waoon!!』『Won!Won!』『Gabuu!!』
そんなわけで今の状況は全力で逃げる→新しいケルベロたんがアクティブ→速攻で離れる→血の痕跡が残存→臭いでついてくる→トレイン匹数増加の悪循環の真っ只中。
「それは私が負けた気がするから嫌だ!」
シェリーは増えるケルベロたんだけではなく新たに制定された体力的なタイムリミットに追われる事に。ガバの複雑連鎖はRTAの醍醐味。タイム的にはいっそ楽かも。
>ぼちぼち3分経つんですけど…
>こんなに長いの???
>炭坑夫的にはどうなんすか
>隠れながら掘る分にはここが一番楽、見つかったら死ぬ
「そんなコソコソした事は私には向いてなぁーいっ!!」
正面からトラック転生を仕掛けてきたベロスたんを右ハンドルで傾いて回避、一時壁を駆ける上がることにより不可避の攻撃から逃れる術を得て直進、下の様子もついでに確認できた。
「──!セーブポイントを発見ッ!!」
>赤いなぁ
>お、11層までやって来たのか
>ああ仕事じゃなきゃ待ち伏せできたのに…
アガる熱は間違いじゃなかった。シェリーの目に入ってきたのは毛細血管が如くマグマが張り巡る底の姿。中央部には見慣れたセーブポイントも存在している。
「セーブセーブセーブセーブ!!!!!!!」
>いつもならセーブポイントには目もくれないのに…
>RTAじゃセーブは邪魔だからね
>今もRTA中では…?
「タイマァ!今何分!?」
>だから3分越えたって
>シェリーの動き見てると俺でもできる気がしてきた
>まずはフルダイブの操作方法を習得してからな
そんなよそ見さえも許してくれないわんことのふれあいぱーくな第十層。入場は自業自得のシェリーは八つ当たりしながら走り抜けてここまでやがて来た。流石にやり直しにだけはなりたくない。ここまでのセーブポイントの確保は全部忘れてきたので死んだらまた第六層からやり直しになるから。
ギィィィリャリャリャガガガァァァッッッ!!!
「オーケィッ!よろしくオファニエルーッ!」
>なんて言った?
>わからん……
>コラボしてるならコラボしてると言ってくれ
残った片足で踏み込んで、跳ぶ。回る。推進のベクトルが狂ったように横回りして、攻撃判定の盾を周囲に張り巡らせながら横移動。シェリーが今更落下ダメージなんて気にしている訳がない。シェリーの信念は『やれることをやる』だけ!
「タッチダウンッだーッ!」
>行ったー!!
>シェリー飛びました!
>とんでもない回転してるよなお前な
>三半規管が死ゾ
壁キック、からの
>届ェェ!!
>なんなんだよその動き…
>制御できてるのが不思議
「よっしゃぁっ!!!セーブポイント登録完ry」
だがそうやって喜ぶのも束の間、シェリーの横に黒い影が追いついてきてしまった。残念ながら回転攻撃の地獄は終了済みだ。
>あ
>追いつかれ……
『Waonn!!』
▼ケルベロスRのほえる!
『Bahu!!』
▼ケルベロスRのはたく!
『GABUU!!』
▼ケルベロスRのかみくだく!
>見事な三連撃で草
>死に様まであっぱれなり
>流石に逃げながら転移で逃亡は無理でしたね…
>通常攻撃が即死攻撃で三回行動のわんこは好きですか?
死が『シェリー』と言う前に尻尾で地面に叩きつけられた上モグられて即死。そして近くにプレイヤーが居なくなったのでトレインされたエネミーは消失、周囲には静寂が……
「嫌いに決まってんだろ馬鹿野郎!!!!!!」
戻らずに速攻でシェリーがリスポーン。失った片足が帰還して、これで万全に戻った。なんならいっそ気持ちいいほど走った後に死ねたのでいっそ晴々とした気分。ただし目に入った煽りコメントに雰囲気は元通りに。
>嫌いかぁ
>トラウマ克服して♡
>これより酷いの幾つもあったじゃん
「なんかこう、ケルベロたん…怖いんだよ…記憶が嫌なものしか残らないのもそれのせい……」
同じ対象に対するトラウマ三つから四つに増えそうで、座って頭を抱えるシェリー。クリエナ飲めば幾らか気が晴れるだろうか。
>なかなかに凶悪な面構えだよね
>警察みたい
>地獄の門番だし、多少はね?
「ほんとね〜……さてさて、それじゃーまた進めて行こっか。十一層は見ての通りの地底火山ってことでいいのかな」
見るからに熱そうな前の空間を睨む。なんというか熱すぎてダメージを受けそうな感じ。再生I程度でどうにかなるか?
>よろしいよ
>熱々です
>[少しそこで待っていろ]
「よろしいか、っとスパチャ……え?何?」
待つこと数秒。目の前の火の領域から男がやってきた。冒険者のような装いをして、ピッケルと杖の2本を背中に背負っている。見るからに……"ここに入り浸っています"というように見える。
「おう、配信中だが失礼するぜ」
「誰ぇ??」
ちなみにシェリーはこの男に見覚えがない。
「俺はチップ。ただの通りすがりのリスナーさ。推しが近くにいるってんで一つ助言を届けにやってきた」
「────マトモなリスナーゲストキターッ!!??」
シェリーの方にやって来るファンはDVしてきたりはちみつを求めてきたり煽ってきたりロクな奴がいない。
「おうおうそんなに驚くな、いつも楽しませて貰ってる礼を直接持ってきただけだ」
「あ、うん、ありがと〜…こんなところで良ければサインとかいる?」
>こ ん な と こ ろ
>言い方よ
「お、いいのか?いや〜、集ったみたいで悪いな」
シェリーはウインドウを出現させ、サクッとサインを執筆。チップと名乗ったプレイヤーにぶん投げる。
「はいはい、どーぞっと。それで?アドバイスって何よ」
「ああそうそう。それが本題だったな…ほらよ、コレを持っていけ。この先は対策しねえと即死するからよ」
そう言って投げ渡されたアイテムは『クーラードリンク』。飲めば一時的に熱による地形ダメージへも耐性を獲得できるアイテム。
「………買うの忘れてた」
「そうだろうな。シェリーならそうだろうと思って持ってきてやった」
>なんだこの都合の良い男は…
>理解力が高すぎる
>もしかして彼氏?
「いやいや。そんな訳ないだろう。こんな女と付き合うとかやってられねえ」
「……は?」
>唐突な裏切りはリア凸の特権
>草
>わろた
シェリーを上げて落とす辺り、チップが昆布巻き配信の常連なのは明白。そのまま進んでセーブポイントに触れ、続けてこう言った。
「俺は丁度時もいいしここらで落ちる。それじゃあな」
「……は?ついてきてくれないの?」
「なぜなら俺は、本来──見る専だ」
男はそれだけ言い残してログアウト。止める暇もなかったシェリーは一時停止。
「何だったの……あの人……」
>クーラードリンクゲットしたのでよし!
>普通何かしら対策持っていきますよね?
「勢いで行けるかなって」
>無理に決まってんだろ……
>残当
「ま、う〜ん……ちょっと疲れたから私も休憩しよっかな。ご飯食べて来る!」
今日のご飯は準備済み。メニューはファインダーがリアルで用意してくれたシェフの気まぐれフルコース。
>行ってらっしゃい
>おつかれさーん
「配信再開は一時間後!みんなもぼちぼち休めよ!ゲームは一日八時間!」
>長い
>一日の1/3じゃん
>もっと寝ろ
「それじゃおつおつ〜☆」
そう言ってシェリーも一旦ログアウト。今度こそ、螺旋の底には静寂が帰還した……。
〜〜〜
Tips チップの昆布
──
[ウォーリン]
カテゴリ:杖
ランク:IV
属性:風
特徴:魔力収集、魔力貯蔵、強制移動、空中浮遊
──
世界最大の台風より。風を溜めてぶっ飛ばしたり浮いたりと色々できる。
彼はこれで普通に飛び降りた。
……というわけで魔法使いのくせにソロ冒険をする奇特な奴。作業BGMとしてシェリーの配信はいつも垂れ流している。
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