#34 【螺旋階層】トライスターわんこ【たすけて】

「ほんっっっとになんなんだよ私の運勢……せめて攻撃か魂魄が欲しい……」


 ぽっかりと世界樹に空いた穴へと誘い込まれるように入っていくシェリー。先程のことを踏まえオファニエルは仕舞ったままで慎重に進撃中。


「……くっらいなぁ…ファーちゃんがいればシリウスで照らしてくれると思うんだけど…」


>便利な照明扱い

>実際楽なんだよな…

>照明アイテム分の枠消費しないしね


 位置が自由な光源とはそれだけで有用。しかもカメラ写りはファインダーが後で調整してくれるのでやはり本人も超有用。


「なんなら自分が光るし無敵だしでほんと羨ましいー、RTA検証的にも無敵で相手の技を見れるとなればかなり楽になるしね〜……検証班も兼任させるか?」


 ただし唯一にして最大の問題点としてはファインダーのゲームの腕前はそうでもない(比較対象は仲良し四人)ものとする。


>かわいそ

>切り抜き担当ちゃん身体弱いんでしょ???

>笑い死んだって聞いたけど


「一週間に一度は死んでるよファーちゃん。で、だけどさぁ……暗くね?」


 穴に入って1分経過。一寸先は闇。何も見えない。ランタンも微妙に機能していないような。

 

>ファインダー死んでるのかよ???

>この暗闇を見てくれ、これをどう思う?


「凄く……真っ暗です……ねぇ、もう走っていい?うずうずしてきた」


 先の見えない道のりチャート走者シェリーの血が騒ぐ。オファニエルがクルクルパシッズシンと現れる。


>慎重とはなんだったのか

>シェリーさっきの言葉覚えてる?


「忘れた!!!!!!!!!」


 跳んでエンジン始動、オファニエルの円盤は大回転。マフラー展開、心の焔が点火する。


>おい

>もう進化を使いこなしてるじゃん

>進化じゃなくて最適化な


「Ofaniel Mark II!!!! Let's go!!!!」


 接地した瞬間、空転するのみだった円盤が推進力へと昇華。シェリーの走りたいと言う願いに応え、オファニエルは主人を連れてゆく。


>わぁすごくいい発音

>なんか5本くらい焔が見えるんだけど

>気のせいだろ

>変身!とか叫び出しそう

>ニチアサかな?


「いくぜぇぇー!!爆進爆進バクシィィィン!!!」


 唐突に現れた火の車に暗闇は逃げ惑い、漸くこの階層の全貌が月輪の元に晒される。


「…………長くない!!??」


 それは更なる地底まで繋がる螺旋の誘い。何十回も捻られた道は勿論一本道。(長さに目を瞑れば)すごく簡単そうな階層なのだが……


>立駐みたい

>何階あるんだよこれ

>Q,これほんとに第十層?

>A,降りるまでが第十層です


『Wlouu』『Glan!Glan!』『Aoooo!!!』


「出やがったな犬っk──」


 走行中のシェリーが安全確認の為に声に振り向けばそこにはそれぞれ殺意と食欲と威嚇に満ちた三つの頭、四つの足に一つの尻尾。


『『『WAAOONN!!』』』


「け る べ ろ す だ ぁ ぁ ァ ァ ! ! ? ?」


>あっ

>トラウマ…

>嫌な事件だったね…

>嫌な事件多くね??

>こいつ配信何年やってると思ってんだ


 ついご登場、地獄の門番と名高いコスパ最高な番犬代表のケルベロス。一度で三回分の即死噛みつきのぶっ込みが飛んでくる、シェリーのトラウマモンスター。


「やだァァァァァァ!!!!ケルベロスやっだぁーーーー!!!!」


 一度目は背水火事場構成での記録更新を狙っていた時のこと。ダメージは所謂"食いしばり"の保険のみにして基礎攻撃×スキルバフ×遺物バフ×別枠バフの圧倒的火力で押しつぶす攻撃しないと死ぬいつもの真髄解放みたいなチャートでケルベロスに出会ってしまい……


「あっ ぶっ ねぇっ!」


 牽制の上段、回避封じの下段、そして必殺の中段の三連攻撃で死んだ。あの時は今のような速度も無く倒し切る前に食いしばりの使用回数を速攻で使い切ったのだ。


>シェリー……成長したな…

>中速程度じゃ逃れられないからね

>快速でギリ


『Wulululu……』『Wahuu…?』『BahuBann!』


「来るな来るな」


>上から来るぞ!気をつけろ!

>右も見ろ

>グイッとワンしてけるべろすたんがドーン!


「ァァァァァァァァ!!!!!!!!脳が破壊されるゥゥゥゥ!!!」


>草

>脳破壊かぁ…

>おいたわしやシェリー姫


 二つ目のトラウマはカウンター縛りプレイ中の事。シェリーがたまに視聴者リクエストからの挑戦で行うネタプレイ回の配信の最中、やはりケルベロスとはエンカウントした。今回は背水前回と違って攻撃に対する対処法はある、カウンターを見事決めてやる!と意気込んでいたのだが。


「ほんっと門番は一人でやれよぉぉぉ!!!」


>え?そんな決まりとかあるんすか?

>数で守った方が強いじゃん

>質も揃えれば最強


 確かにシェリーの謎技術を以てすればケルベロスの同時三連撃はギリギリ返せた。ただし。シェリーは運が悪かったのだろ……いや、普通に悪い。カウンター後の硬直を狙って、"二体目"のケルベロスが現れた。当然シェリーの結末は『は?』の句を継ぐ前にリスポーン。ケルベロスエリアを抜けるのに数時間は喰われた。


「スライディーングぅっ!」


 とはいえ今は推進力つよつよのシェリーなので包囲網が作られる前に逃げられる。噛みつきが地面を喰らう前に姿勢を低くして股抜け。斜面であるのが幸いして逃走は成功。


『Wanwan!』『Guluuu!!』『Aooon!』


「まっ、ちょっ、ほんとそれだけはやめっ」


>インド人を右にぃぃ!!

>なんかここ死ぬほどケルベロスたんおおくない?

>マジでここ抜ける時死ぬかと思った

 

 三つ目のトラウマポイントは目の前に待ち伏せていたケルベロスたんを見ればよくわかる。トライフォースに並び開いた三つの顎門。周囲の空気を大きく吸い込んで、圧縮、圧縮、魔力を圧縮。オファニエルと同じ紅蓮に輝く地獄の業火が、解放された。


「熱ッッッ──────!!!」


 3wayで広がるアッツアツの範囲攻撃。スリップダメージは偉大であり恐怖の対象か。これもリクエスト配信の最中、重装系の英雄で走る事を縛っていた時のこと。流石に出たらまずいよねーと笑いながら出来るだけ危険性の低いルートを通っていたのに……そういう時に限ってケルベロスたんが出現。トラウマと化した回避不可能な噛みつきは防御力のお陰で耐えたのだが。


>HPゲージがゴリゴリ削れてて草

>死ゾ

>痛覚減らしてるのに服着てサウナみたいな不快感感じるんだよなこれ…

>……あれ?シェリーは?

>安全リミッター何それ美味しいの?って言ってたから多分…


 噛みつきが効かないと分かった途端、ケルベロスは少し引いて業火を放出。シェリーはダメージのヒットストップで動けず死ぬまで炙り続けられた。オフラインだったSWはゲームをやめるまでモンスターの出現乱数は変わらないので、相変わらず出現するケルベロスには騎士道のカケラもない毒ナイフ投擲で対処した。すごく時間がかかった。


「────いが通る!!」


 しかし今のシェリーは『シェリー』という英雄であり、『オファニエル』という今も火を吹いている最高の昆布もいる。だから……なんというか、熱いのは今更だった。再生でスリップダメージはある程度相殺できるし。


>えぇ…

>痛そう

>なんでこいつケルベロスに正面から押し通ってるの…?


「どれだけ熱くても!痛くても!最後に走り切れば問題なぁーーーーしっ!!!!」


>俺ここまで殺意高かった記憶ないんだけど…

>うちも

>もしかして:オファニエルのせい


「そんなわけないでしょ可愛いオファニエルが私に牙を抜く筈がないねぇそうだよねぇ!!!」


 その返事は勿論情熱機関を噴き上げて。主人の声援に乗ったオファニエルは浮き上がる。


「おっ……しゃぁ!!」


『Kuu!?』『Bahu!!』『Aaahooo!!』


 身体を前方に移動させ、怪力Iを最大利用。シェリーは真正面の頭にギャリギャリをプレゼントフォーユー。頭蓋から脊髄を通って尻尾から飛び、十五の頭からなんとか逃れた。


「っはぁぁぁ……死ぬかと思った……ケッホ」


 クリエナと同時にポーションを嚥下して回復。舐めプできるほどこの地獄は甘くない。だって。


>おかわり

>けるべろたん……

>スケアート犬派なんか?


 地獄への道は善意わんこで舗装されているから。シェリーは下に降り切るまでケルベロストラウマの群れを抜けなければならない。


「ああもうテメエら全員かかってこいよ!!ちょっとしつこいだけの障害物競走とかたんのしみだなぁぁぁ!!わんこから逃亡RTAいっくよー!!」


>倒さないのか…

>一体倒すうちに四体から襲われるんだぞ

>無理に決まってんじゃん…


 月輪に暴かれた第十層の牙達は、そんなシェリーの進撃の狼煙に集い集るのだった。


〜〜〜

Tips

他の人の十層の降り方


-螺旋状になっている真ん中の闇を飛び降りる

パラシュートや落下ダメージ軽減などでどんどん降りていくルート。意外と一番これが多い。


-超絶ステルスルート

やり方としては地味だし準備は必要だけど上のものよりは揃えやすいので腕に自信があるならこれがおすすめ。エンカウントしたら最初からなので気をつけて。


-爆進オファニエルルート

作中のやり方。道がまっすぐなのは分かっているんだからもうゴリ押しで押し通る。今のところ成功者はゼロ。

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