#33 【こないで】嵩むガバに逃げる乱数【燃えるぜ】

──

【壊れた遺物】

カテゴリ:古代の遺物

属性:銀

効果

<高揚III>

──


──

【欠けた遺物】

カテゴリ:古代の遺物

属性:刃

効果

<精神IV>

<生命I>

──



「ゴミィーーッッ!!死にかけた結果がこのザマ.comだよ!」


 着地の衝撃を攻撃に転嫁したお陰で落下死を回避したシェリー。相変わらずのクズ運っぷりを発揮して遺物の採用は再び見送っ……やっぱり<高揚III>は取り込んだ。


>どうして生きているんですか?

>普通あの距離落下死すると思うが

>想像以上の駆け抜けっぷりだったな


「まぁ私RTA走者なので」


>関係ないだろ

>初見プレイですよね


「ははは。……とりあえず隠れよっか」


 ミリもないHPゲージを自分の成果だと誇るシェリーだったが、流石に死ぬのは勘弁なので近くに見えた木の上に退避。ついでに周囲を見渡して次のチャートも考える。


「……てかなんでオファニエルから火が噴き出してたの?」


>わかってなかった

>草

>自分の昆布だろ把握しとけ


 昆布の姿が変わる仕様といえば数少ない。『形態変化』の特徴を持つ昆布か、真髄解放か、または……


「………あ、ランクがIVになってる」


──

[オファニエル]

カテゴリ:回転鋸

ランク:IV

属性:無

特徴:多段攻撃、固定打点、特殊移動、情熱機関

──


 ランク上昇による昆布の"最適化"。IV、VII、そしてX到達時に起こる進化イベント。特徴の増加に加えて基礎性能が大きくアップする素敵な仕様。従来のSWシリーズでもプレイ履歴によって変化先が異なっていたが、その仕様はもちろん継続。そしてシェリー/オファニエルが得た新たな特徴は『情熱機関』。


「見たことないなぁコレなあ」


>シェリーが知らないなら知らない

>新特徴だよ!やったねシェリー、検証が増えるよ!

>これでもまだ無属性なんですね

>『無』(ないとは言っていない)


「ってか進化早くね??」


 そしてシェリーが比較的短時間で進化したのにも理由はある。たった一つのシンプルな答え。単純に、虫の経験値が美味しかったから。本来あの風穴に巣食う虫達は地上のエネミーよりも幾分か強い上、一つ一つが小さく攻撃が当てづらいのでサイズの割には高く設定されていたのだが……シェリーは爆熱オファニエルで突っ込んでくる虫どもを轢き殺し卵も潰し特殊条件ウラワザも満たしてしまったので自然な進化と戒天の炎が第八層を焼き焦がした。哀れ虫たち。


>大虐殺してたしな

>経験値貯まってたんでしょ

>何だかわからんがとにかくヨシ!


「しかし情熱機関、ねぇ……私にお似合いかな?」


 情熱機関はプレイヤーのテンションや勢い、すなわち気持ちの昂りに呼応して性能を強化してくれる素晴らしいもの。ただしその強化量に応じて熱量は増すし先程のように身を焦がすような炎も噴き出すので一長一短。……なお、吹き出した炎による推進力増加は偶然の賜物である。特殊移動の影響だろうか。


>ボス戦燃え放題になりそう

>炎上系配信者(物理)

>もう燃えすぎて禿山やぞ


「まだハゲとらんわ!」


>また髪の話してる…

>ハゲニキさっさと植毛して


「う〜ん、しかしこれどうやって下に降りるんだろ。サバンナ並みに何もないんだけど」


 どれだけ周りを見ても見えるのは喧嘩する牛に狩りをする猛獣、巨木を飛ばしてこの原っぱを駆けるダチョ……


「待て待て待て待てなんだあのクソデカ世界樹は!?」


>見つかってしまいましたか…

>綺麗な二度見だったよ


 第九層、俗称は猛る草原。もし更なるレア遺物を求めるのならばご覧の通り獣系の敵がわんさかといるこの草原を抜け、さらに下へと潜らなければならない。


「……うわぁ」


 そしてふと下を見るとシェリーの生存要件クッションとなった甲虫は別の肉食獣に解体され食われているところだった。死ねば次の食事はシェリーとなるのだろう。


「踊り食いは懲り懲りだぁ〜……」


>経験者なの?

>過去にグロサバイバルゲーでちょっとね

>もうやりたくないって封印してたはず


「嫌な記憶が溢れ出るからヤメロォッ!」


 初スポーン時に綺麗な自然に目を奪われて周囲を見渡している間に恐竜に頭から食われて即死から始まり釣りで食料を得ようと思ったら川の中からワニの群れが現れて食われ、木を登って果物を取ろうと思ったらサルどもとナワバリバトルをする羽目になりしばらくリスキルされたりと散々な記憶しかない。


>切り抜きでもいいから見てきな

>週に一回は見てる

>家建てたのに寝てる間に崩れて死んで起きて呆然としてるとこ好き


「まーあ、今の私にはオファニエルがいるので〜っ、らくしょーらくしょー!」


>うーんこの女

>天然フラグ建築士

>はよいけ


 IVで解放されたスキル枠に武装強化を入れてシェリーは立ち上がる。一休み後ポーションを一飲みしたら全回復。飛び降りてハイエナ共を押し潰したらそのまま発進。向かうはどう見たって怪しすぎる世界樹の元。


「……ってぇっ!?」


 だがオファニエルの青空廻天大楽奏に惹かれて沢山の観客がやってくる。伝説の魔物使いが如きモンスターパレードのような追っかけと共にシェリーは草原を疾駆するハメに。


『Gyiii!!!』『Baaan!!!』『Ryooozy!!!』『Kyuuun!!!』


 ギャリィリィリィッッ!!


>草

>い つ も の

>親の顔より見た爆走

>親の顔もっと見て


「なぁんでいつもこうなっちゃうのかなぁーーっ!!」


  絶叫しながらもシェリーは走り続ける。突き出す岩をパイロンにして幅員制限、低木林スライディングによる桁下制限でどうにか数は減らした。


>天丼ってやつよ

>歩くだけだとダレるでしょう?

>つまり仕込み?計ったなシェリー!

 

 今度は進路を右へ、見通し悪い背の高い草の中はなにが待ち構えているかはわからない。実際、ギリギリ曲がったところで髪の後ろを舌が掠めた。


「クソ蛙がよぉぉっ!」


>わろす

>シェリーと相討ちになったからな

>今度こそ確実に仕留めにきたか


 ストレス係数爆上がり。燃え上がるはシェリーの苦い記憶デスメモリー。情熱機関、アイドリング解除。再び火を噴き上げてシェリーは加速する。遠回りして追いついてきた肉食獣もこれには驚いて後ずさる。


「よぉっしゃぁ逃げろぉ!!私のそばに近寄るなぁぁぁ!!!」


 到達。相変わらず急襲してくる忍者蛙にとんでもない脚力で追従してくる武闘家兎、今にもシェリーを噛みちぎらんと顎門を開ける小型恐竜、その他大勢を振り切るためにシェリーは奇天烈の一手を打つ。


「跳べよォォォォォ!!!!!」


 ブロック・ロックでジャンプ台を作成、シェリーの叫びに合わせてオファニエルは加速し、空中に至っても情熱の推進は止むことを知らない。


>余裕でとんでますネ…

>すっげえ速い

>オファニエルって乗り物だったっけ…?


 流石に川の通行止めを楽々と超えられる者はいなかった。着地したシェリーは回り込まれる前に今度こそと世界樹の元まで急ぐ。ロッカー・アームによる地形操作で不安定な砂利でもなんとか走れる。


「ふぅ〜……危ない危ない」


>この階層で騒音立てながら逃げられる奴がいるとは思わなかった

>俺は段ボール使ったんだけどな…

>野生生物に効くの???


「ははは。まぁ私ですので」


 そしてシェリーは世界樹のお膝元まで到着、先回りはなし。流石にここからはね、とオファニエルを仕舞って片手剣を備える。


>最初からそうしろ

>でもオファニエル=シェリーみたいなところあるし

>[もっとギャリギャリくれよ……]


「後で出してあげるから今はちょっと無理かな〜」


>軽い口調でガチランニングすな

>久しぶりに見た気がする

>これがシェリーの走りだ


 スタンディングフォームからの全力疾走、音は最小限にして次の層へと滑り込みたい。


「まさかあんなにトレインしちゃうとは……」


>後悔先に立たず

>後の祭り

>覆水盆に返らず


「視聴者の博識コーナーありがと、っと!」


 ここで敵襲、世界樹の根元から細い根っこが飛んでくる。まさか世界樹そのものが敵か、そう思うが同時にぬぬんと一部が分離。ヤドリギのように半寄生していたらしい。


『Ulololo………』


 「ああそうかい、お前が門番ってか。ならさっさと伐採させてもらおうかな!」


>さしずめヤドリギトレントってところか

>寄生樹じゃないの

>コンパニオンツリーって呼んでた


「そんなのどうでもいいからっ!」


 四足の根で立ち上がり、一つの幹でこちらを睨み、二つの枝を伸ばして攻撃してくる。それを剣の腹で流し、クルリと返す刃で剪定。


>は?

>あまりに早いカウンター 俺でも見逃しちゃうね

>何がどうなった


『Ulooo!?』

 

 ポトリと呆気なく落ちた枝葉に感傷を抱くこともなくシェリーはブロック・ロックで前方に飛ぶ。迎撃の2本目も、なんちゃって八艘跳びの間に回転切りを挟んで呆気なく剪定完了。


>うわぁ うわぁ

>オファニエル使ってない時の方が強くね?

>それは禁句


 そして着地後、滑りながら必殺の射線を予測、幸いにもこの目標トレントは遅い。偏差は必要なさそう。ホルダーに剣を納め、再び、跳躍。


「ひっさーつ、円狐抜刀斬」


『Ulo──』


 たった一瞬の交錯の内にトレントは伐採され、ポリゴンに還った。選択した怪力Iの補正と仮想世界で培った非常識剣術のお陰か。


「終わり!」


 >鮮やかすぎるんだが?

>これ多人数で行くと複数出るんだよな

>地獄見た


 そしてトレントが剥がれたことにより世界樹の中に樹洞ができたのが確認できたシェリーは、間違いなくあれが先へ進む道だろうと確信。軽く背伸びをしてから歩いていく。


「ふふーん、私のことをもっと褒めてくれていいんだよ?さてさて、今度の抽選はどうかな〜っと…」


 手にした遺物ドロップの能力を確認。


──

【割れた遺物】

カテゴリ:古代の遺物

属性:氷

効果

<堅実IV>

──


「つっっかえねぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 ベチィンッ!


>なんだいつものパターンか

>良いプレイした後大体クソ乱数なの笑う

>やっぱこれだね

 

〜〜〜

Tips


シェリーの剣術について


結構ふわふわの仮想世界剣術なので特に設定はないです。

超簡単に言うなら『仮想世界の物理エンジン(特にノンフィクションエンジン)とプログラムの行動補正を最大限利用した動き』の技術。

それで何故シェリーが一番"得意"なのが片手剣な理由は簡単で、大体どんなゲームにも初期から片手剣は存在するからそれだけやたら技術が磨かれた。

次点でハンドガン(初期装備なので)


椎名となると話が変わりますが今回はカットです。

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