配信二十三日目

#31 【地下行き】みんな……乱数は好きかい?【耐久配信】

「グーテンターク☆今日は昼からシェリーの昆布巻き配信やってくよー!んん〜っ、今日も美味い!」


 今日のシェリーの配信は洒落た酒場の中よりお送り中。ジョッキに入った黄金色の液体を呷っているが、リアルで口に運んでいるのはクリエナなのでコンプライアンス問題なし。


>待ってた

>レベル上げマダー?

>遅かったじゃないか……


「マダー!実は私ってレベリングとかすっごい嫌いなんだよねー……ほら、同じ敵と戦い続けるって面倒じゃん?」


>RTA走者がなんか言ってる

>チャート練習も同じようなものでは

>戦法のバリエーションさんどこ…ここ?


「は?突撃して挽き殺す事が完璧なる戦法だが?なぜそれがわからない?ギャリるよ?オファニエるよ?」


 ギャリるとオファニエるは類義語である。隣の席に喚ばれたオファニエル君もそうだそうだと言わんばかりにギャリルラギャリンリンと鳴っている。


>やめてください死んでしまいます

>スピーカー買い換えたばかりだから待って!!!!

>(音量OFF)


「私の美声を聞けやぁーー!!!」


 ドラムと化した机叩きと涙に絆されて逃げた視聴者も微かに帰ってくるが……


>まぁシェリーの声なら…

>待て罠だぞ!早まるな!

>ああ…いい奴だったよ……


 ギャルルルゥゥゥッッッ!!!


>もう二度とオンにしないわ

>字幕視聴面に堕ちないか?

>鼓膜毎回張り替えろよ

>鼓膜大量購入ニキ剛気ね…


 当然の裏切り。シェリーが本当のことを言うなんて思わないほうがいい。それも含めて彼女なのだが。


「ははは、まぁ冗談冗談。さてさて今回ももちろんSWORDなんだけどー……アレ、行っちゃいます」


>アレ、とな

>何よ

>SWORD割と要素多いからこそあどじゃ分からないんだが


「アレはアレだよ。カレイドに到着したら解放されるアレ。……嫌なことを思い出すけど……クェホッケホッ」


 ああ嫌だ嫌だと再びジョッキを呷るが今度は咽せるシェリー。カウンターに突っ伏して隣の相棒オファニエルにダル絡み。


>あー…?

>攻略組ニキ何かわかる?

>エアプだから知らん

>古代の遺物か


「そぉ〜…それぇ〜……私古代の遺物に嫌われててさぁ〜、全くでないんだよね〜……いい遺物」


>じゃあなんで行くの?

>そりゃお前イベントのためだよ

>公式の配信くらい見とけ


「SWORDの初イベント、[トライヘルメス]。偉大なる三英雄に肖って執り行われる3on3の殺し合いPvPの祭り。再び多くの英雄達が現れ始めたからこの祭りも本格的復活させよう、ってのが背景らしいんだけど……」


 英雄を殺し合わせて成長を促そうってどういうことだよ。私たちに人権はないのか。そう言いたげなシェリーであったが、このゲームはPKが実質的に不可能なので公式で用意された対人戦モードは意外と人気が高い。イベント終了後はPvPの為の闘技場や決闘モードが調整の上恒常化するとのことでプレイヤー数は再び増加した。なお条件はイベント共々メインストーリー第二話のクリアとする。


>まぁこの世界の住民脳筋だししゃーない

>要望高かったらしいな

>対人戦しか興味ないプレイヤーってのも一定数いるしなぁ…

>報酬結構美味しいらしいな


「そうそう!一人当たり20万ゴールドに特殊称号、それに副賞で色々…あるらしいねぇ……うふふ」


 この前優勝したエキシビショントーナメントの事を思い出し、選ばなかった副賞達が目に浮かぶよう。今回はそこまで豪華でないにしても、焼肉食べ放題や特盛海鮮丼、満漢全席程度は軽くあり得るだろう。


>まぁ勝てんだろ

>初手敗退ですねわかります

>でも3人だろ?


「……ああ、うん。三人……三人、なんだよね〜…」


 しかし"三人“という言葉に目に見えてシェリーの語気が萎む。先日の気晴らしゲーム大会の終わり、公式配信の前。彼女・・より聞いた自身の『戦力外通告』。


>?

>元気ないなった

>何故に凹むし


「えっと……バレっち、しばらく一緒に遊べないってさー」


 なんだかんだいつも四人でわちゃわちゃとやっていたからか唐突な別れは、シェリーにとっては堪えたらしい。

 

>絶望しました バレ様いない配信見るのやめます

>あっバレ様狂が死んだ

>どうして

>ああ……三人


 それと一部視聴者にも。


「そう……『産業革命』のアマ共がぁ!私たちにい!なんんんまいきなことに喧嘩売ってきやがったんだよ〜!許せねえよなぁ!」


 ガンッ!とカウンターにジョッキが叩きつけられる。最早モーションが場末の酒場のおっさんである。ボトルからジョッキに液体を注ぐ姿なんてもはやそのもの。駄女神にも負けず劣らない。


>生意気なのはシェリーでは?

>プロゲーマーに喧嘩を売る命知らずなRTA走者が居ると聞いて

>もし負けたら?


「激辛焼きそばでもスカイダイビングでもリアル顔出し配信でもなんでもやってやんよ!!!!!!!!!」


 これぞ自己肯定感の塊。我が道を征かんと暴れる配信者の鏡。


>うーん活動派

>いやそれはダメだろ

>ん?今なんで持って

>おいバカやめろ


「ま、私の超可愛いリアルフェイスを晒しちゃったら視聴者のみんなは尊くて死んじゃうだろうからそれは勘弁しておいてあげるね☆」


 ▼シェリーの ちょうはつ!


>は?

>あ"?

>見せてみろやゴラァ!

>あーあ俺たちのこと煽っちゃった

>強くなってシェリー負かそうぜww


 ▼視聴者は ちょうはつにのってしまった!


「ライバル出現?ちなメンバーは私、アリサ、そしてファーちゃんの三人!並のプレイスキルじゃ私には勝てないだろうけど頑張ってねー!」


 ▼シェリーの じじつちんれつざい!


>前言撤回

>もうダメだ…おしまいだ…

>勝てるわけがないYO☆


 ▼視聴者は せんいそうしつしてしまった!


「なーっはっはっは。まそんなわけで私自体の強化もしなきゃってことで今日は地下に潜るのよ。目指せ!神おま!」


>お守りじゃねえよ遺物!

>間違えたら殺されるぞ

>壺…超会心…うっ…頭が…

>かわいそうに、炭鉱夫のやりすぎて頭がおかしくなったんだ


「おお視聴者よ、狂ってしまうとはなさけない。火山へおかえり。私は地底に逃げるから」


>わかった!地底火山行くわ

>なるほどね


「鉢合わせたくないわ……まいいや。それじゃそろそろグィッと飲み干しログイーンっ!」


 飲み干したジョッキを叩きつけると同時にシェリーの姿が掻き消える。カメラも変わって街中へ。


「う〜ん、ほんっと綺麗な街だよねカレイドって」


 これまでの街が中世ヨーロッパ風だとしたら、こちらは近代ヨーロッパ。石畳の床にレンガとコンクリート、オシャレなショーケースも大通りにはいくつか見える。サイバー化したリアルの街並みでは見られないそんな文化にシェリーは胸躍らせる。


「こういうさ、立ち並ぶ店を眺めながら歩くの私好きなんだよねー。なんだっけ、ウインドウショッピングってやつ?」


>冷やかしはお帰りください

>なんか買ってやれ

>\[小遣いならやるよ]/


「おっ、ないすぱー。ありがとねー。でもなー、特に面白いものがないなら買う意味はないかなー。使わなきゃただの無駄遣いになるし」


>ピッケルは!?

>別になくてもいいんだぞ

>なんならシェリーはないほうがいい説がある


「だねー」


 仕入れ元を決めている武器屋をスルーして、特に必要でない防具屋を通り過ぎ、シェリーは噴水の元へ。


「死に戻ったけどアリサが登録してくれたからついでで私も登録されてんだよね、谷底のワープ」


>羨まC

>えぇ…

>ここ実質EXルートの報酬


 軽くウインドウを操作してシェリーは移動完了。バッティラ坑道第六層、シャーリ地下渓谷の底まで戻ってきた。


「採掘場所は第七層からがメインなんだっけ?」


>そうだよ

>6以上も掘れるけどゴミしか出ない、出てもカス

>少なくとも7層、できるなら10層は越えたい

>一人で来るような場所じゃねえけどな二桁層は


「へ〜…ちなみにそんな視聴者達は今何してんの?」


>11層で遺物発掘

>火山でピッケル振ってる

>[お仕事募集中です]

>トイレ行ってきた


 以下省略。殆どのコメントが何かしらの作業中であると宣言していた。これがいつもの昆布巻き配信。


「ほんとウチのアクティブ視聴者って廃人しかいねえな。あとミーシャは後で鉱石持っていくから枠あけといてよ」


>[承知しました]

>営業力で負けてる気がする

>もっとスパチャしていけ


「いやぁ…ミーシャには勝てないでしょー、色々と土俵が違う。こいつ生産に性能全部捧げてるからさぁ〜……っとと、第七層行きはここか」


 シェリーが見下ろすは暗黒の穴。腰に下げたランタンの光では先が見えない。仕方がないのでオファニエルを召喚、エレベータのようにしてゆっくり下降。事故った時用に片手剣はいつでも抜けるようランタンとは逆の位置に差しておく。


「……地味だな」


 しかし代わり映えしない下り道。早々にシェリーは飽きてきた。


>地味です

>もっと楽しい降り道あるのに…


「……マジか」


>ちな今更いくのは遠回りだからはよ降りろ

>あそうだ 怖い話していい?


「なんだよ急にどうしたの」


 暇なところに飛んできた話のネタに食いつくシェリー。


>カレイドのNPCと話してたら知っちゃってさ

>どんな子?

>すっげぇかわいい青髪の子


「はよ」


>えー……まぁいいか。えーとね、バッティラ坑道ってさ

>言い淀むなー

>変なところで切るとかお前話の才能あるよ











 

──第六層までしか開拓されてなかったんだってさ











 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る