幕間-3 幸せな嘘は現実と見分けがつかない

なろう投稿日:2023年04月01日

つまりエイプリルフール回

〜〜〜


「やぁやぁやぁ初めまして……っと、挨拶はこれで良いのかな」


 ここは異界。現実とは異なる何かの場所。或いは電子にて演算されし仮想世界の中。あり得たかもしれない可能性の一つ。


>誰???

>知らない美少年がいるんだけど

>ch間違えたかな


「間違えてない間違えてない、合っているよ。そうか、こうすればいいんだね……」


 画面に映るは薄やかに目が光る銀髪白目の男の子・・・。頭頂部に翁面を被っているのだが、そちらも同じく目の部分には光が灯っているらしい。


「それでは改めて。僕の名は"オファニエル"。彼女の相棒さ☆」


 持ち主直伝のバチコンウインクをキメて名乗り口上。あざとい。実にあざとい。


>!?

>美少年を振り回す美少女配信者(物理)

>事案ですよシェリさんェ…


「ふふっ、驚いてくれて何よりだ。こうして機会を設けた甲斐があるというものだよ」


 神秘的な見た目に違い悪戯っ子のようにくすくすと笑うオファニエル。一頻り笑い終わったら椅子を召喚して座った。


>もしかして他の子もいます?

>まさかな


「もちろん、いるよ」


>いるのか……

>冗談のつもりだったんですがあの


 オファニエルが画面外に向けて手招きをする。最初にやってきたのは三日月の文様が綺麗な袴を身につけた筋肉隆々の青年武士。


「おうおう儂も呼ばれてしもうては仕方あるまい。儂はサードムーン。かの制圧者の片腕よ」


>かっけぇぇぇ!!??

>いや……え?

>うぉ…でっか……


「クハハハハハハ。鍛え上げられし儂の身体へと見惚れる事を許す。今はそういう機会なのだろう?」


「ああ。そうだね、そうしてもらえると助かるよ」


 拳で岩を叩き壊せそうな威圧感を纏う彼はオファニエルの隣へと座った。筋肉を見せつける様に袖を捲り不敵に笑う。


「さて、次は…」


「呼ばれて出てきてジャジャジャッジャン!ミラーラミ、呼ばれる前に出てきたよ!なはははっ!」


「……」


 早いんだけどなぁという目を気にせず画面内に飛び込んできた三人目の魂魄は、道化師の様に笑う男の子。ふわりと浮きながら二人の前に立ってチェケラぁっ♪


「ヤッホーホッヤー!二つで一つの跳ね回る鏡の悪魔が登場だよっ!」


>待てや!!!!

>何この子可愛い頬擦りしていい!!??

>へ、変態だー!


 ニコッとする彼はミラーラミ。とんがり靴も化粧も似合ってしまう正真正銘の悪魔たん。次は二丁拳銃自分自身を取り出して彼女の様にBANGの構えを取る。


「こうかな、かなかな。様になってる?驚異の悪魔様にはお似合いでしょ」


>体型違うのにな…

>テンションの緩急で胃もたれしそう

>\[似合ってますミラーラミたん!]/


「スパチャせんきゅ♪お菓子代に使っちゃう!」


>はぁぁ…推しぃ……

>残りはアイツか

>来るかな?


「鏡の。そろそろ星のが映りたがっておるから代わってやれ」


「はぁ〜い、それじゃお邪魔しますわぁ〜♪」


 フワリと宙返り、サードムーンの膝の上にミラーラミが座って最後の魂魄紹介。上から降りてきたのは犬。……犬である。


「………ワン」


>え

>犬ぅ!?

>思ったよりやばいのが出てきたなどうすんだこれ


 現れたはいいものの数秒の間を置いて口から出てきた音は吠え声。四つ足の甲と目、胴体に尾から流れる様に箒状の残光みたいな毛並みが常に靡く。


「大丈夫。話してもいいからね」


「そうか。私はシリウス。か弱き姫を守る忠犬だ」


 一つの恥もなくそう言い切るイケメンわんこ。もし姫本人がその言葉を聞いたら恥ずかしいを通り越してツボって笑って笑いすぎて地面を叩きすぎた末に疲労で死にそうだ。


>姫…か

>ファインダーはギリギリ姫と呼べるな

>常に近くにいるのってそういう


「無論いついかなる時も姫の盾となるためだ。当然であろう」


>ストーカー臭がしてきた

>忠犬属性が口を開くとこうなるのね…

>これは…これで


「シリウスは割とナルシストなところがあるよね…」


「カッコいいけどお前だけにいい格好はさせないからなー」


「クァハハッ、儂らは己が友に惚れ込みし仮初の命。儂とて口を開けば賛辞が止まらぬやもしれんぞ」


>聞きたい聞きたーい

>[お願いします!]

>気になる


「であれば話さずには居れぬな。ふん……儂の振り手たるアリサは誰よりも漢らしい。一騎当千の戦いぶりを見れば其れは誰もが頷こう」


>そうだね

>走り出せば止められない


「その上アリサは儂を振るうに加減というものを心得ている。必要のうち最大限を想うがままに振るう。即ち無念無想。誰のよりも自由な剣士の元に在れ儂は果報者よ」


>自由…?

>誰 に も 邪 魔 さ せ な い

>え、そうなの?


「うーん……これ言ってもいいのかな…」


「構わぬ。儂が許す。アリサの魂は現実の世界に於いても真の武人よ」


>……マジかぁ

>本当だったよ

>型っぽいなぁと思ってたが……


 そんなサードムーンの主人語りを遮って膝の上で大人しくしていたミラーラミが動き出す。


「ならなら僕だって言いたい事あるのら〜!バレねーちゃん褒めちぎっちゃえばいいんだよね、バレない様に!」


「……まぁ、そうかな」


「ならえーとね〜……まず可愛いかなっ!バレねーちゃんの為ならなんでも叶えてあげたいなーって思うんだ!」


>かわ…かわ?

>中身は可愛いのかも


「しかもかもバレねーちゃんって一途なんだよいーちーず!他の武器なんて一つも使ってない!どうすれば強くなれるか、どうすれば勝てるかを一緒になって考えてくれる。こんなの嬉しくないわけないでしょ!?」


>なんだこいつ

>相思相愛じゃん……

>え?これ純愛ものの話?


「それーにっ!いーっつも役を演じてる!いろんな共通点が多くて嬉しい限り!」


「……のう。嬉しさは伝わったから退いてくれんか。暴れが大きゅうし膝が痛い」


「あーははっ、ごめんねめんごー、そろそろ準備いーならオファにーちゃんが言うー?」


「うん。なら言わせて貰おうかな」


 そう言って徐にオファニエルが立ち上がる。


「まず、彼女は可愛らしい。コレは誰も覆しようのない事実だ」


>おっと

>初手直球ストレート投げてきたな


「流れるような髪の清らかさ、宝石にも劣らない瞳の美しさ、途切れずに紡がれる言の葉、詰めが甘い行動、また挽回の一手を即座に思いつき選ぶひらめきと決断力。ああ僕も同じで変わらず言葉が止まらない。褒めれば褒める程に句が増していく」


>惚気

>まさかのオファニエルが一番重かった

>一息なんだぜ…これ……


「何処へ行くにも僕を使ってくれる。あの掛け声があれば何処へだって連れて行けるよ。しかも彼女が身に従えるは地に死に森の魂の三つ。これは彼女があの世界で最強の英雄である事を実にわかりやすく示している。そうだろう?」


>あっ はい

>三つは……シェリーだけか


「口惜しくは僕の力が未熟なばかりに他の子に浮気させてしまっている所だ。僕は大きな月輪で小回りが効かない。彼女と彼女の二面性を表すには一つでは姿が足りないんだよ。これほど世界の理を恨んだことはない。僕は月の支配者であるというのに」


>もう何言ってるかわかんない……

>オファニエルらしいっちゃらしいか

>言葉の羅列が正にね


「待て。オファニエル。視聴者がついてこれていない。落ち着け」


 シリウスがベシっと尻尾で叩く。それで漸くオファニエルは正気を取り戻したらしい。


「どうして──……ああ、うん。ごめんよ。アイムファイン、問題ない。少し取り乱した。まぁ、此処らで締めておこうか。もう本当に止めどないからね」


>この身を以って実感しました

>ヤバかった

>1時間ぐらい続いてそうな勢いでしたね……


「ははは。悪い悪い。さぁ、みんな。今日は雑談配信だからね、僕らと自由に話していって欲しいな」


 手を広げ誘うオファニエル姿は、彼を振るう主人の振る舞いによく似たものであった。

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