日常-7 エンドレスフルボッコ
「うあーレベル上げしたくない」
カチカチカチカチ
「泣き言言わないでよ」
スカンッカカカッ
「ウチも嫌やから…」
ガチャガチャガチャ
「……だからって、わざわざリアルで格ゲー、する?」
タタタッタッタン
「うそやーん!?」
「はい一芽は全滅っと」
青いスーツの女の放つエネルギー弾が乱戦の中を駆ける電気鼠を捉え、怯んだ隙にゴリラ剣士のぶんまわしがクリーンヒット。場外まで吹き飛んだ。
「配信者に有段者にプロゲーマーやで!?勝てるわけないやん!」
「手加減は、した」
「そこにいるのが、悪い」
今日は配信お休みデー。それに加えて祝日だから、朝から一芽の家で格ゲーパーティ。ちなみに今しがた逝ったのはもちろん一芽である。これで十二連敗。
「そっこだぁーっ!」
さらにぶん回しの隙をついて上から筋肉モリモリマッチョメンの変態がパンチの構えをしながら落下、着地と同時に溜め時間が終わる。
「まじっ」
「パーンチッ!」
鷹のエフェクト共に吹き飛ぶゴリラ。真芯当たりが故にヒットストップと特殊演出が入り、晴れて場外。戦場に残るは残り二人。
「華蓮ー!椎名吹っ飛ばせー!」
先程吹き飛ばされたゴリラな剣士……愛理はコントローラを投げ出し、応援しながら横のジュースを口に含んだ。
「当然」
青スーツの女を操るは華蓮。
「椎名っ、ウチの仇取って!」
となると連敗鼠はもちろん一芽。なんだかんだ全員が残り一機になるまで死んではいないので他のゲーム廃人どもに釣られて鍛えられているのかもしれない。
「たりめーよいっちゃん!来いよバレっち、銃なんて捨ててかかってこい!」
そして最後は当然椎名。ヘルメットを被った燃える筋肉達磨が戦場で技名を叫びまくっている。
「動くと当たらないだろー!!」
「当たりたくない。はいフリップっと」
椎名の悪質タックルを華蓮は青いエフェクトを残しながら避け、後ろからキックを叩き込む。
「危なっ!?」
「くっ」
しかしジャストガードで防いでカウンターの一撃を打ち込む。上入力をしながらBボタン。
「捕まえたぞコラァ!」
軽装の女を暴漢が捕らえるという文字列だけなら事案な光景に、シェリーは勝利を確信。華蓮は命乞い。死亡までの確率は100%を超過している。
「ちょ、待っ……」
『Yeees!!!』
また筋肉が爆発し女は吹き飛び、追撃の空中コンボで撃墜されて華蓮も残機を全損。勝利画面は椎名の勝利を指し示した。
「私の勝ち!何で負けたか次までに考えておくんだな!」
胸を張って高笑い。勝者の美酒は格別だと椎名はドリンクをがぶ飲み。もう一杯。
「入力が、遅れ、たぁ……」
華蓮はその横で反省と後悔の呻き声を上げながらポテチを口に運び、横で騒ぐ椎名にえいえいと可愛らしい復讐を遂げる。
「うっわぁ…フレームとか考えたくない」
「……それでなぁ、やっぱりウチって集中狙いされてない?気のせい」
「気のせいだよ」
与ダメージNo,1
「そんな訳ない」
ヒット数No,1
「近くにいる手頃な奴から斬ってる」
撃墜数No,1
「愛理ちゃんは確信犯やんか!!!!」
「私は悪くない。"ソコ"にいるのが悪い」
「はぁーー????次こそは泣かしたるからなぁー!!??」
そんな軽い戦争も起きつつ戦いは次のステージへ。ワイワイと盛り上がりながら愉快なパーティゲームの時間は過ぎてゆく。
「なーなーいっちゃーん、ランクIII→IVの必要経験値ってどれくらーい?」
キャラ変した椎名。近代兵器を乱用する蛇はロケラン祭を開催しながら軽い口調でそう問いかける。今度は広い洞窟ステージだからお芋戦法が刺さる刺さる。
「オッッラァァーー!!」
「ふぎゃぁーーっ!!……そうやなぁ、IからIIIの合計の半分くらいとちゃうかなぁ、具体的な量はだーれも調べとらんみたいやわ」
ゴリラはゴリラでも剣士から教師に乗り換えた愛理にデッドゾーンに叩き込まれて一芽配管工は撃墜。地面を割るほどの槌……じゃなくて斧の振り下ろしに巻き込まれたらしい。哀れなり切り抜き担当、ゲームに生きているヤツらには未だ敵わないようだ。残り残機1。
「そっか…ぁっやばっ見逃してた」
「隙あり」
調子に乗っていた芋には天の裁きがやってくる。変わらない青スーツ女が上から降ってきた。
「しーきゅーしー!!」
「ふっ、甘い甘い」
弱と強と空中技の乱舞という格ゲーの基本を思い出させられるような展開に焦る椎名。情勢は華蓮が若干有利か。愛理も後ろから迫ってきた。
「死にたくなぁい!死にたくなーいっ!」
「そう言いながらウチを何回殺したぁ!?」
紅白のボールを握りしめた配管工が上から降ってくる。中身は何じゃろな、見事に脳天にヒットしてパンドラの蓋が開く。
「「「「あっ」」」」
そして現れたのは同じく紅白色の球体。ただしその大きさは比べて肥大していて、何なら今は点滅中。
「にっげろー!!」
「逃がすかァッ!」
「さよなら」
「メテオー!!」
偵察機に捕まって逃げようとする椎名を愛理は蛇腹剣で引っ捕らえ、地面に再度叩きつけ代わりに離脱。その横でまたまたステップ的に逃げようとした華蓮の上から一芽の拳がヒット。地面とキスすることに。
「あっこれあかん奴やん!?」
ただし見ての通り逃げられたのは愛理のみ。3/4は大爆発でダメージゾーンを跳ね回り残機が減少。一芽は十三連敗。
「ねぇ華蓮」
「なに椎名」
「愛理ボコそ」
「りょ」
「返り討ちにしてあげる!」
ここに共闘前線成立。ウザさと速さの揃ったコンビがゴリラ教師を追い詰めんと包囲網を築く。そんな光景を見ながら一芽は呟く。
「ウチまた蚊帳のそとやぁ……ジュースのおかわり入れてくるな」
「「「よろしく!」」」
「……あのさ、ここってウチの家なんやで?」
召使いが如き扱いをしてくる客人にジト目を向けてみるが効果はなし。ため息をつきながら其々のコップを乗せてキッチンまで歩いていった。そんなものは目に入らかった彼女らは洞窟の中を暴れ散らかし中。
「これで
「オラァ──!」
椎名の落とした爆弾が爆発し、愛理は槍を振るう。向かうは一番"吹っ飛びやすい"華蓮。しかし彼女は一流のプロゲーマー、そこは意地を見せて見事に回避、そして爆弾を落としたがために生まれた硬直を逃さず跳び上がり、空中回し蹴り。
「これでっ──終わり!」
「馬鹿なぁーーっ!!??」
場外には行かず、けれどデッドゾーンに突っ込んで爆散。今日の奢りはシェリーで確定。あああ私の金がと上の空に。その顔に満足気な顔をした華蓮だったがまだ"決着"はついていない。それに気づくには数十フレーム遅過ぎた。
「セイヤーーッッ!!」
画面全体に広がった赤エフェクト。愛理の振り下ろした斧に華蓮が見事ヒット。画面の中の青スーツがデッドゾーンに突っ込んで撃墜判定。ストックが一つ多いままに愛理が逃げ切り勝利した。
「はい、お代わり入れてきたで」
「ありがとう一芽。やっぱり勝つのは気持ちいい」
「くっ……二連二位……」
「う"あ"あ"あ"あ"」
ちなみに勝ち星はこんな感じ。
──
椎名:☆☆☆☆
愛理:☆☆☆☆☆
華蓮:☆☆☆☆
一芽:
──
十三連敗は伊達じゃない。相手が悪過ぎただけだったのだが。とここでシェリーと華蓮の端末の音が鳴る。
「おっ…!?SWORDの生放送…!?第一回イベントをはじめとした情報公開だって!」
片方は噂されていた新イベントに想いを馳せて、マジかマジかと二人が集う。
「……」
だがもう片方はその声を聞きながらも、自身の端末に叩き込まれたメッセージを見ながら絶句していた。
「ね、え みんな」
「んー?どうした華蓮ー?初見でそんな信じてた味方が最後の最後で裏切って敵に回って貴重な装備全部持ってかれた時の私みたいな顔してー」
「ぶっふ」
空気を読まず一芽が死んだ。死因は急性思い出し笑い過呼吸症候群。地面を転がり叩いて回っている。
「……そのイベント、私、みんなと──参加できない」
「えっ」
「マジかっ」
「っはははふふふwwwひぃーっwww」
約一名が絞り出すように奏でる死にかけの笑いをBGMに暫しの間、三人は無言で見つめ合うのだった。
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