#29-β 【緊急配信】ウチは逃げるで地上まで!【二画面推奨】

 時空は戻ってバッティラ坑道第三層、カレイドへと向かう道すがら。暗いはずの岩の道を輝き照らして文字通り走り抜けている者は二人。抱えられているのが一人。


「配信は…大丈夫そやな!」


 まずは一人目。極彩色に光るゲーミングファインダー。今の状況に於ける文字通りの"生命線"。折角の狂騒劇をエンターテイメントにせずに何を売ると言わんばかりに"配信"開始。ファインダーの切り抜きチャンネル初めてのライブにポツポツと視聴者が生えてくる。


「……え」


 二人目はリロードを兼ねてのガンスピンの手──は止まらなかったがリズムが崩れかけたバレッティーナ。いくらファインダーが無敵中とはいえ……


「はいしんって……なんですか?」


 三人目、クエストの護衛対象であるマチェはその限りではない。半分涙目になりながらも絶対に振り落とされないようにガッチリと抱きついている。


>1コメ!

>1こめ

>急に通知来たと思ったら

>先越された

>俺の勝ち


「ああちゃんと来てくれたんやね!ウチ嬉しゅうわぁ!」


>切り抜きchも通知オンしててよかったぜ

>シェリーの配信とファインダーの配信両方見るぞ

>えっとこれは?


「パート配信っ、てこと?」


 一呼吸入れて拍子をリセット。バレッティーナはステップを踏み跳ねる弾丸と踊る。横にいるゲーミング踊り子(物理)よりよっぽど美しく戦っている。


「シェリはんは化け物と戦っておるけど……ウチらもこうして楽しんでるわけやん?それを見せられへんのって……なんや不公平やろ?せやからウチらも配信するんよ!」


 そう叫ぶファインダーは加速の効果時間が切れたので閃打を起動し攻撃モーションで移動し始めた。飛び膝蹴りは走行モーションに取り入れやすい。無敵中だから反動ダメージなんて気にしない。


「お、EXルートに派生したみたいやなー」


 そんなことを話していたら二人の横にウインドウが。シェリー達のクエスト更新に伴ってこちらも変更された。


──

ストーリークエスト

2-3-EXβ

[明けぬ夜を抜けて](EXTENED)

ビオーレから商人を次の街であるカレイドまで連れて行く護衛依頼。今は他のルートであるシサーブトンネルもロイス川も使えないので、バッティラ坑道を抜けていこう。

α:シャーリ地下渓谷を渡ろうとした折、貴方たちはこの地下空間に潜んでいた異世界の化け物[B-adrenaline]と遭遇してしまった。

EXβ:そして貴方達は化け物の手の届かない地上へと逃げ出した。"地下"はソレらの『縄張り』であるのに。

報酬:クエスト変化

──


――

ストーリークエスト

2-3-EXβ

[異世界の化物から守り抜け]

異世界の化物、[B-adrenaline]と対峙した。奴から逃げ、護衛対象の命を守り抜け。

報酬:???

――


 シェリーはEXαに派生したように、こちらはEXβ。まだ元のクエストが達成できていないからEXTEND。報酬はまだもらえない。


>とりあえずあっちにリンク貼ってきた

>シェリーは暴走中でこっちのコメント気づいてない

>なるほど


「誘導ありがとさん!」


>いいってことよ

>二画面視聴してる

>片方がうるさすぎる


「はははそれはシェリはんらし……おっと!?」


 とここでハプニング発生。なんと蝙蝠達が"回り込んできた"。前門の蝙蝠、後門も蝙蝠。横はもちろん通行不可。このままいけば愉快なサンドイッチに──


「つよーく捕まっとくんやで!乱打に終打も起きなはれや!」


「わぁぁぁ!!!???」


 ──は、ならなかった。追加でスキルを起動させたファインダーは深く踏み込んで飛び、回し蹴り。周囲に当たり判定が竜巻のように散った空中旋風脚。正気を持ち合わせない悲しき眷属たちは無慈悲にも風に揉まれて血肉が飛び散る。


>近寄りたくない

>無敵の攻撃判定とか理不尽の権化

>他の三人と比べたら隙だらけだけどさぁ……


「押し通るでーーっっ!!」


 着地して今度は縦回転。抱えられたマチェは中心にいるから視界が狂うだけで済む。地面に踵が刺さって割れるがそれさえも勢いの写し身。更なる加速へと利用する。


「せいせいせいせいっ!」


 再び飛んで前方への蹴りの連打。赤と緑と光る黒が何度も何度も貫かれ、終打の待機時間へと入った。


>ケリでもいいの?

>格闘攻撃だからセーフらしい

>"打"とは

>殴る蹴るの暴行の事


「さぁ道を開けや!」


「あ、あ、あー!!??」


 護衛対象なのにマチェはふわりと上に投げられて、ファインダーは深く腰を落とす。これまで与えたダメージを拳に集結させ、終わりの一撃を放つ。


「シリウス☆ストライクゥーっ!」


>つよい

>拳ビームだと!?

>もうなんでもありだな


 放たれた光の破城槌が眷属達の壁を突破して、再び道を作る。落ちてきたマチェを抱え、リキャストの終わった加速を再起動……


「けふっ……っ、ァやば……」


>咽せ?咽せか?

>いやこれガチの…


 しかし終打のパワー放出で意識まで持って行かれ、躓くファインダー。マチェを庇いながら地面を転がり、シリウスのパワー蓄積も途切れてダメージが入る。


>は?

>え

>気絶効果とかあった????

>でもそんなエフェクト出てないけど


「ファイ! 無茶、するから…!」


「お、お姉ちゃん!?」


 どうにか後ろの黒波を潰したバレッティーナが駆け寄り支える。生来身体の弱さが此処で代償を発揮したらしい。意識断絶による強制ログアウトの警告が現れる。まもなくファインダーの身体はポリゴンと還るだろう。


>待て待て待て待て

>まだ配信開始から五分も経ってないんですけど

>[起きろ!!!]

 

「ファイ!ファイっ!起きて!」


>あかんバレ様の中身が

>かわ……いやそんな事言ってる場合じゃかわいいな…


 戦友の急な離脱という稀な衝撃に驚きを隠せず、思わず華蓮バレッティーナは涙を落とす。ポツリと水滴が頬を撫で……


「縺ゅ?縺?縺代□縺カ繧!?」


「うわぁぅ!?」


>!?

>なんじゃぁー!?


 突如ビクンと跳ねたファインダーの身体。強制ログアウトまでのカウントダウンは失せ、パチンと目を覚まし飛び起きる。


「安全装置ってこういうことなんかいっ!死ぬかと思うたわっ!」


「…………」


>心配して損した

>生きとったんかワレェ

>ファインダー、死んだはずじゃ


 そんなセリフを一番言いたいのはとんでもないジト目をしているバレッティーナだろうが、複雑な感情が喉を一気に通ろうとして渋滞中。吐き出すには交通整理が必要だ。

 

「アホかいウチはしーにーまーしぇーんっ! シェリはんつけてくれたんは有難いけど起こし方が電気ショックて酷いやろ……もっとウチを労ってくれ……」


>親友に電気ショックを打たれる配信

>そんな悠長にしてる暇ある?

>早く逃げな


「っと、せやな!ほらバレ、マチェはん、急ぐでー!」


 コメント欄にせかされて立ち上がり、スタコラサッサと再び駆け出すファインダー。しかし少し進んだところで再生産された群れが行手を阻む。だがシリウスの充填はまだ完了していない。


「やっば……」


「……ファイ、無理なの?」


「シリウスはんまだ寝とるんよ……無敵は時間制限ないと許されへんみたいやわ」


>当たり前だよなぁ?

>詠唱にそんな意味が…


「あれはただのやる気を出すためのアドリブや。ほなバレ、ごめんやけど弾幕お願いな」


「ん。全部撃ち落とす──加速アクセラレート


 此処でスイッチ。ファインダーは下がり、バレッティーナはミラーラミを乱射。一撃では沈まないなら二発、三発四発と当てればいい。ダメージは当てれば当てるほど加速する。


「いやー……バレの動きもよう映えるなぁ、さすがプロゲーマーや」


「カッコいい…さすが英雄様だ……!」


>なお他の英雄達

>今咆哮が微かに……

>しっ!


「ひっ……なんですか今の声…」


「ははは、気のせいやろ」


 BGMに流れてきた気がするアリサの声は左へと受け流す。


「予測が簡単で、助かっ…る!」


 バレッティーナのガンカタが群れをいなし墜落させていく。その姿はまるで撃墜王。『産業革命』のエースを名乗るだけはある。


>気持ちいいくらいに落ちていくな

>CMでみた

>殺虫剤かよ

>うざいほど飛んでるからあながち……


「……本人の前で言ったらんといてな、っと危ないっ!」


 だがバレッティーナの攻撃は"点"の攻撃。"面"で攻めてくるコウモリが数匹通行止めを抜けてきた。マズイとファインダーがカバーするが、流石に無理がある。


「ゴメン、逃した…!」


「ええよ。うちが無理させてんのが悪うし……"魂魄暴走"、使うわ。うちが次倒れたら、もう放っていってええからな」


>え

>ミーシャのやつか

>きたぁぁぁー!!!


 そう言ってコキコキと首をならしファインダーは前に出る。


「ウチの暴走はちょっと特殊でな。真髄解放やないんやけど……"時間制限"なんよ」


 先ほどよりは弱々しく光るシリウスがファインダーを照らす。


「よし、交代……よろしく!」


 バレッティーナが少し下がる。リロードを挟んで全弾発射で蝙蝠たちを一旦押し返す。


「合点!バレはマチェはんをよろしゅうな!」


 その下をスライディングで潜り、ファインダーはノリで浮かんでくる詠唱ことばを紡ぐ。シリウスは再び彼女を包み込み、一際大きく光を放つ。


「ウチが統べるは夜空に吠える一等星、その名はシリウスはん。早う起きて本気出し!」


 そう言い切ると同時に光がファインダーの姿を変えて、あまつさえ形も歪ませる。その姿は狼のようであり、こちらも時間に追われる第二ラウンドが始まる事を意味していた。



〜〜〜

Tips ファインダーの筐体についてる"安全装置"


正式名称:医療用強制電撃覚醒装置

AEDみたいなもの。ただこれに関しては朦朧としてる意識をはっきりさせるために電撃を喰らわせるもの。


みらいのぎじゅつのさんぶつだからくわしいことわかんない!きめてない!(最悪)

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