#29-α 【自己責任】時短し回れよオファニエル【倍速視聴推奨】

「離脱ーッ!」


「『潰れなァーッ!』」


>飛ぶな

>その回避方法あり?

>SWでもやってたな…

>アリサの体は不動


 バッティラ行坑道六層へと紐なしエレベーターは到着。シェリーは着地寸前に跳躍して衝撃を回避。アリサはそんなものにも構わず攻撃モーションを完遂。


「っふぅぅ────ッッ……」


「はー……まっさかここまで落ちてきちゃうとはなぁ……」


>どうして無事なんですかね…

>頑丈だからな

>そういうレベルでないと思う

>[|(リンク)]


 遥か上、微かに見える吊り橋の残骸。たった数秒でこれだけ離れたのかと思う暇も束の間。化物は再び飛び上がり、オファニエルはシェリーの手の中で再召喚。


「ッぱ倒しきれねェかッ!」


 上から追いついてきた眷属共を避け再び二人は並ぶ。文明の明かりが遠いこの場所で、化け物は真の姿を曝け出す。


──

ストーリークエスト

2-3-α

[明けぬ夜を抜けて](EXTENED)

ビオーレから商人を次の街であるカレイドまで連れて行く護衛依頼。今は他のルートであるシサーブトンネルもロイス川も使えないので、バッティラ坑道を抜けていこう。

α:シャーリ地下渓谷を渡ろうとした折、貴方たちはこの地下空間に潜んでいた異世界の化け物[B-adrenaline]と遭遇してしまった。

EXα:そして貴方達は地下へと化け物を押し込めた。"底"がソレらの『巣窟』であるのに。

報酬:クエスト変化

──


――

ストーリークエスト

2-3-EXα2

[異世界の化物を駆除しろ]

異世界の化物、[B-adrenaline]と対峙した。奴を倒し、この坑道の平穏を取り戻せ。

報酬:???

――


「キッタキタキタキタァーッ!」


『KIIIINNNN────────!!!!』


 ストーリー分岐完了。シェリーはEXルートへと再び到着した。条件は化け物と対峙すると同時に護衛対象を地上へと送る事。何気なく行ったパーティー分割こそが正解だった。


>どうした

>まさか


「EXルートキタァーッ!」


>うわでた

>なんで?

>俺無理だったんだが……


 ちなみに作業分担が必要という条件上、このコメント欄にいるようなソロプレイヤーぼっちには達成不可能。可哀想に。


『KII────!! KII────!!』


 化け物は攻撃の届かない場所まで飛翔、周囲の眷属を更に取り込んで膨れ上がり、血の色が変わる。


「──キモっ!?」


『KIIKII────!!』


 化け物の黒灰色の体表に赤い腺が走り、緑の腺が走り、臓腑を巡るソレは化け物を興奮させる。摂理の捻じ曲がったソレだからこそ成立する生命のサイクロトロン。黒で埋め尽くされていた岩壁は色とりどりに熱狂し、アリサとシェリーへと襲来する。


>わぁ

>ファインダーちゃんみたい

>あっちの方が色彩多いだろ


「来るんじゃねぇー!」


「『ヒャァッハァ!』」


 オファニエルはけたゝましくブン回り、サードムーンも猛々しく血の雨を降らせ、浴びた。


──

状態変化:興奮

HEAT

L[■■■□□□□□□]H

──


「──────!!!!」


>……ん?

>待ってシェリーどうしたの?

>目が急にギンって…?


 シェリーのアバターが狂う。血が狂いだす。クリエナが完璧に決まった時よりも、もっと。


「『『アァァァァァッッッッッッガァァァァァッッッッッてェェェェェ────────!!!!!』』」


 後ついでにアリサの咆哮の声量が一段階アップする。狂化の強化が加速する。勝鬨は常にアガっている。


>あ"

>ミ"

>

>おまいらもはやチャットもできなく……



「完全にキマッッッッ「『『タァァァァァッッッッッ!!!!!』』」ケフォッ!!??」


>こわい

>アリサが増えた

>音量切っておいて助かった

>スピーカー壊れたんだけどww何も聞こえねぇww

>大丈夫?それ鼓膜じゃない?


 [B-adrenaline]。その能力は生命の加速。興奮。イノチのサイクルを縮めて縮めてあっという間に失わせてしまう。某ゴム人間が自己強化のために血液を加速させるアレが、たった今、二人の体を、蝕んでいる。


>湯気出てきた

>お湯沸かせそう

>つよそう


「『『いィィィィィ気分だぜェェェェェッッッッッへェェェェェィィィィィッッッッッ!!!!!』』」


>アリサさんそれって大剣ですよね?

>片手で振り回してるんだけど

>早すぎて見えない

>あまりに綺麗な摺り足 俺でなきゃ見逃しちゃうね


 前言撤回。アリサの身体はまだその加速に耐えられているらしい。というか精神が元々興奮状態にあるからこそある種の耐性があったのもあるだろう。とんでもない身体強化補正を喰らった上で飲み込んで、瞬間移動もかくやという速度で狂走中。しかし、シェリーは。


「ああああもうなんかどうでもよくよくよーくなってきたぁぁぁっっっ!!!テェンッメェェェを殺してわったしは勝つ!こっからがRTA本番だぁぁっっ!!」


──

HEAT

L[■■■■■□□□□]H

──


>つよい

>きたきた

>シェリーはこうでねーと


 未だ真髄を解放していないのに。アリサに負けてたまるかと。カラダの疼きを押さえつけ。その余剰エネルギーは。魂魄の繋がりを通じて。オファニエルの回転さえをも。限界を。超えて。加速────するッ!


 キュゥゥゥィィィンン──────!!!


>は?

>なんかやばい気がする

>やっべ


「あはっ」


 秒間40回転を超えたオファニエルはほんの少し地面に当てるだけでシェリーの身体を持っていく。当然想像を絶する超スピードにより転倒、しかし同じくシェリーの脳細胞もトップギアどころかオーバーラン。リカバリーなんて一瞬で思いつく。それにこんな事は練習中に何回もあった。勿論掌はまだオファニエルにくっつけてある。腕を引っ張って、勢いそのままに回る。


アバターは燃えたってオファニエルが吼えたって、わたしいつもシェリーのままだからぁぁぁっっっ!!!」


>加速視聴してるはずなのにいつもの速度で動いてる

>通常視聴ワイ既に目が追いつかねえ


 この興奮騒ぎの元凶たる化け物に、オファニエルの戒天が迫る。だがあちらも狂ってもストーリーボス、同じく加速された時の中でそれを避けんと羽ばた……けない。


「『『コォォッッチィィィィヲォォッッ』』」


>!?

>倍速視聴ニキも驚いてる???

>速すぎて草飛んだ


 アリサが音を置き触りにして化け物の背後へと現れたから。なんて事はない。素の移動技術に狂化のバフが積まれ、その上からさらに興奮状態が乗算されているだけ。たったそれだけで、そんな単純な事だけで、この馬鹿げた行動は成り立っている。


「『『ミロォォォォォッッッッッ!!!!!』』」


 頭蓋骨沈没。化け物墜落。地の底破裂。オファニエル、到着。


 ギィィャァァリィィゥゥンンチ"ャ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!


「棘が骨を貫いた音ッッ!!」


>おかしい

>工場かここは?

>戦場かもしれない


 化け物の体力が目に見えて減っていく。オファニエルの固定打点は床と蝙蝠の合い挽き肉を床へばら撒いてゆく。


「しっっにぃぃ晒せぇぇぇぇっっっっ!!!!」


>いっけぇぇぇぇ!!!

>[倒せる倒せる倒せる──!!!]

>ひでぇASMRだ


 もう化け物の悲鳴なんてものは聞こえない。オファニエルとアリサの声がこの地底のの音を埋め尽くしている。羽音の原因は瞬く間にサードムーンに潰されるし。このままやれるものなら、やれればよかった。


>勝て勝て勝て勝て

>削れ削れぇっ!

>……まだ間に合いそうだな


『────────!!!!』


 ゲージが1割を割ったところで急に手応えが変わってオファニエルから生まれるのが瓦礫100%のロックミートに。原材料偽装はイヤだからすぐ離す。先程まで地面とサンドしていたヤツはどこへ?


「『『増えたァァァァァ!!!!!?????』』」


 簡単な事。異世界の化け物の核はあくまでも『魔核』。それ以外は実体を持つための追加パーツに過ぎない。であれば動けなくなった身体を捨てて新たな体を作るまで。魔核ごと無事な部位を切り離して再生機能を興奮加速。先ほどまでシェリーが挽いていた化け物は元本体であり、現抜け殻。EXルートの化け物は魔核からぶっ潰せなければどんな攻撃も"意味がない"。


「ふ、ふふっうふふふっ」


>シェリーも怖くなってきた

>最初からでは?

>回転鋸振り回してる時点で怖いけど?


──

HEAT

L[■■■■■■■□□]H

──


 そんな事実を認識してしまったシェリーは笑うしかない。アリサは相変わらず狂ってる。ああどうしようもないんだとEXルートの理不尽さに笑いながら、どうしようもなく迫ってくる感情の熱暴走オーバーヒートの刻限からは目を逸らせない。


>そろそろシェリーが破裂しそうで怖い

>スーツ越しに薄ら光ってる…

>エロい


 それでも倒す方法はないかと考える。これは正規ルートではないが仕様の中だ。必ず存在している。道理を無視して再生興奮する蝙蝠を"しずめる"方法が。


「────────!!!!」


 ある。一つだけある。心当たりが、一つだけ。インベントリを操作、シェリーの心に刺された言葉の釘が加速する思考の中から突破口を切り拓いた。


「アリサァァッッ!!"琥珀"だッッ!!クエストでもらったアレ!!」


>琥珀?

>2-1の報酬?

>さすシェリ

>気づいたようだな


 ストーリークエスト2-1、強制的にビオーレ市場に行かせた挙句に商売をさせた上謎の青い琥珀を押し付けられるだけのクエスト。だけど、渡してきた人物を想い、"このクエストをするまで"に絶対に起こるイベントを考えると、琥珀の切りどころはここしかない。シェリーはそう確信した。


「『『ァ────ああァァッッ!?成程なぁぁっっ!!!!』』」


 アリサは即座に理解。意図を察して同じくインベントリを開いて片手でスクロール。


「今の私たちが持てる手札は全部切る!!ああこれだから親友は最高だぜ!!私の無茶も無謀も全部ノってくれる!!」


>理解はしてたんですね…

>まぁ流石にね?

>ただここからシェリーどうやるんだ?

>もう興奮しすぎて死ぬだろ


 親友との絆を再確認し狂喜するシェリーであったが、まだ一つの懸念事項が残っている。それは……


──

HEAT

L[■■■■■■■■■]H

──


 ……シェリーの血管ヒートゲージは、もう破裂寸前まで追い込まれている、という事だ。


 



〜〜〜

Tips このゲーム安全?合法?

合法です。所謂サブリミナルとかを利用した思考誘導の一種なのでゲームから出るか効果時間が終わればもちろんスッキリ元通りになります

ちょっとこの二人、特にアリサが適正ありすぎただけです……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る