#28 【数より質】洞窟探検で一番イヤなやつ【輝度注意】

 ネズミの群れを殺し、コボルトの基地を瞬く間に鏖殺するようなシェリー達超攻撃的パーティの前には普通のエネミーなんて障害にならなかった。順調に進んだ彼女らの現在地はバッティラ坑道第三層。運搬クエストでよくある謎の岩のせいでここまで降りないと今の坑道は抜けられない。


「はぁ……」


「ここらで折り返しか」


「せやで〜、この吊り橋がその証や」


「…………」


「揺れていますね……」


 第三層の名所、シャーリ地底渓谷。ここは丁度ビオーレとカレイドの中間位置に位置しており、六層相当の深さまで広がっている。そして目前に架けられている吊り橋はその渓谷を渡るための唯一の手段である。


>たかぁぁぁい!

>落ちたら死ゾ

>今日もオラは地底で石掘るへいへいほー…


ヘイヘイホー……


「ひぇっ」


「なんか聞こえてきたんやけど!?」


 地の底より響いてくる幽かな歌声。何も知らず聞けばただの心霊現象だと勘違いしてしまうだろう。


>ああ…地下の亡霊か…

>今日も地下の亡霊さんはレア鉱石を地上まで持ってきてくれているんだ

>拝んでおこう


 実際の所はレア鉱石……と古代の遺物アクセサリを求めて地底を彷徨うただの炭坑夫の歌声なきごえなのだが。


「んじゃんじゃー、さっさと渡っちゃおっか」


「落ちるなよー」


「フラグ?」


 オファニエルを仕舞い、シェリーは吊り橋に足を踏み入れる。古そうなテクスチャに内心落ちたりしないよなとビビりつつも渡ってみるが……


「……何もねえんだが!」


 その実何もなかった。強いて言うならギシギシと橋が軋む音がするくらい。


>草

>何かあって欲しかったのかよ


「ウチも何かしらはあって欲しかったなぁ」


 ファインダーの独り言は相変わらず。現金なものである。


>正直でよろしい

>ワロタ

>視聴者も早く事故って欲しいと思ってるから仲間だ


「ファーちゃん、あまりに取れ高に飢えすぎて怖いんだけど」


>切り抜き担当だから仕方ないね

>早く!早く走って!


「動画広告収入がウチの喜びにして正義やからな。ほなウチらも渡ろか」


>#[投げ銭]#

>ないすぱ

>美味しいもの食べなよ


「そうだな」


「………ん」


「何もなければいいのですが…」


 続いて四人も吊り橋を渡る。一歩二歩と歩くたびにやはり音は鳴るのだが……まだ何も起こらない。そして全員が谷と谷の間にある中洲のような足場へと辿り着くと。


 Basasasasa──!!!!


「……なんや急に嫌な予感してきたなぁ」


>ヒェー

>気持ち悪い

>こっわい


 灯りのない渓谷の闇のあちらこちらから何かが羽撃く音がする。


「キタキタキタキタァァッッ!!」


 シリウスが照らしている筈の岩壁が再び暗黒に染まる。


「待ってた」


 周囲を飛び回る影と衝突した橋が砕け散り木片と化す。


「うっそーん!?」


 下に落ちる事もなく影に"食い散らかされる"。


「わ、ワァ…ァ……」


 影が集い、集って、黒に染まって、形を作って。


『KIIII────────!!!!』


「『ウルセェェェェ!!!!』」


「アリちゃんもねぇ!?」


>\\[狂嬉アリサktkr]//

>キレてるキレてる

>サードムーン、抜刀!


 正気の見当たらない血走った目を爛々と濁らせる蝙蝠が開戦の金切音を掻き鳴らした。アリサは当然カウンター咆哮で応戦する。


──

ストーリークエスト

2-3-α

[明けぬ夜を抜けて]

ビオーレから商人を次の街であるカレイドまで連れて行く護衛依頼。今は他のルートであるシサーブトンネルもロイス川も使えないので、バッティラ坑道を抜けていこう。

α:シャーリ地下渓谷を渡ろうとした折、貴方たちはこの地下空間に潜んでいた異世界の化け物[B-adrenaline]と遭遇してしまった。倒すべき相手だが……?

報酬:15000C?

──


「──!」


 シェリー達の前に提示されたウインドウに記されていたのは"αルート"。これの指すところは異世界の化物と遭遇した今はまだ"正規ルート"だということ。さらに派生させてEXルートに持っていくにはどうするか。それだけがシェリーの頭の脳細胞を駆け巡る。


>キモっ

>アリサもう暴れてて草

>一回振るうだけでグチャってチビが吹き飛んでるんやけど


「ば、ばけものっ…!」


「マチェはん、ウチのとこに来ぃ」


「ひぃぃゃぁっっ!?」


 ファインダーは怯え立ち竦むマチェを抱え、叫ぶ。


「ウチはマチェはんを地上まで運ぶ!シェリはんらはどうするんや!」


「私は……」


 クエストは失敗したくない。けどSWを骨の髄までしゃぶり尽くしたのにも関わらず出汁を取って焼豚も作ってちょっと麺も打って二郎系ラーメンを作ってご馳走様をする程に遊び尽くした者として、生半可なプレイは"自分椎名"が許せない。だから。


「私と、アリサで、コイツを──ぶっ殺す!護衛はバレっちとファーちゃんに任せた!異世界の化物ひきころRTAはーじまーるよーっ!」


 オファニエルを地面へと叩きつけ、シェリーは走る。本体巨大蝙蝠から分離して群がる眷属チビはアリサが悉くをその重量と速度で磨り潰す。


>[RTAキタ───O(≧∇≦)O────!!]

>レギュは?

>二人でボス倒すとかイカれてるだろ


「レギュレーションは私らが死ぬまで!タイマーストップは勿論キル確定までな!」


「それでこそシェリはんやな!マチェはん、ちゃーんと捕まっとくんやで!」


「はぃっ!」


 ファインダーが向こう岸へと走り、マチェは強く抱きつく。


>やっぱそこ変われ

>おいコラガキ


「了解。道を開けて」


「『アタシに着いてきなァ!』」


>もうどんな動きしても驚かない

>格ゲーの世界に生きてる?

>無双ゲーの世界にもいるぞ


 眷属をぶち殺し狂化されたアリサが吠えて、ファインダーを追い越す。そしてジャンプコマンドを入力し浮いたアリサは空前硬直拒否横必殺技満月斬からの空中突撃


「────────早う起きて力貸し!」


 それに合わせてファインダーはシリウスを起動。周囲を飛んで照らしていた光の球は帯となってファインダーを包み込み、その姿を変えていく。


『KIGIIII──!!??』


 周囲の照度は爆上がり。岩壁を覆い尽くすほどの影──眷属を遍く照らし、退化しているはずの本体の視力さえも眩ませる。さぁ、変化したファインダーの姿は……


>極彩色

>モルモット君!?

>おいバカやめろ

>\無敵状態]/

>ゲーミングPC

>あのな、ファインダーちゃんって1,680万色おるねん


 某配管工が一番星を獲得した時のように虹色に光り輝いていた。残像はまだない。


「さぁ加速や!バレ、着いてきぃ!」


「……ねえ、それ私の援護いる?」


「当たり前やろ!?」


「ま、まぶしぃ…」


>目に悪いわ

>なんかもう草まみれ


 アリサが包囲網に作り出した穴に飛び込んで、加速を起動した二人は無事に脱出完了。


「シェリはん好きなだけ暴れてな!暴れた分だけウチと視聴者が笑顔になるから!」


>にっこにっこにー☆

>笑えば投げ銭するから


「じゃー仕方ないなはははははははそこのけそこのけ私が通るぞー!!!」


>こないで

>[おまいらの家]


 ファインダーとバレッティーナは地上へ向け、シェリーは目の眩んだ化け物本体へと全速前進。群がる眷属なんて振り切るぜ。細かな傷など再生Iで無為になるから。


「『アタシも混ぜなァァッッ!!』」


>狂戦士のエントリーだ!

>戒天の殺戮者とのコンビネーションが炸裂するぞ!

>なんで実況風?


 アリサも走り高跳びしながら回転しキルカウンターを爆回ししながら舞台に戻りシェリーに追従。


「「『せぇぇのぉぉっっ!!』」」


 SMAAAASH!!


『uKGIIII────────!!??』


>決まったぁぁぁぁ!!!!

>二人の愛の共同作業です!!!!

>アリシェリてぇてぇ

>あっおい待てい、これシェリアリだぞ

>は?

>は?


 脳天が凹むレベルでオファニエルとサードムーンという超重武器がクリーンヒット通り越してクリティカル。バッドステータス気絶。しかも麻痺攻撃Iの効果も発動。空を飛び回るはずの化け物本体は翼の動きが止まり、墜落する──谷底まで。


「あぁぁぁぁ落ちる落ちるおーーちーーるーー!!??けほっけほぉっ!?」


>なみだめかわいい

>やはりかわいそうはかわいい

>さらっと咽せるな

>助かる


「『起きろ!起きろってんだよ!』」


>アリサは素手でも殴るな

>気絶してるんだからやめたげてよ

>時間経過で起きるから


『Kyuu────……』


>被害者N号

>自然数Nかよ

>今更数え切れるか


 第四層、第五層を通り抜け、向かう先は谷底。第六層。さぁ、第二ラウンドの始まり始まり。



〜〜〜

Tips

古代の遺物アクセサリ



お   守   り   厳   選



……副産物で手に入るレア鉱石も一応価値がそこそこあるのが救いか。

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