日常-6 その輝きは、ガバりゆく星のように。


「おっまたせー♪」


 最寄りの駅前集合で、手持ち無沙汰に端末をいじってた愛理の前に颯爽と現るる私。今日の服装は肩首の出てるトップスに日焼け防止の薄手の羽織り。ズボンは適当に長いやつで、スニーカーも履いてる。


「おーそーいー。今日は二人でデートだって約束だったでしょ」


 対するアリサは配管工の着てそうなデニム生地のアレ。名前なんてったっけ……オーバーホール?違うか。ともかく、動きやすくていい服だな。横にサードムーンがあったらすぐにでもぶん回せそう……いや待て。


「デート違うし。ただの贖罪定期」


「えー、いいでしょいいでしょ、百合営業人気だったし」


「うぐっ」


 自然に強制腕絡め恋人繋ぎ。逃げられない状況で愛理は顔を近づけて来て…


「ふふふ」


「その笑い方やめて!?」


 ミーシャのせいで軽くトラウマが……うぅ。怖い。


「ははは。ま、早く行こ行こ。PPパワーレベリングの謝礼も兼ねてって事でよろしく!」


 抱きつきの力が強い、引き剥が……無理ぃ!


「ぐぬぬ…攻略込みで二日かけてきたくせに……こっの…」


「……あれはシェリーがEXルートに突き進んだせいで速攻で終わっただけ。本当はもっと時間がかかるから」


「正論パンチ!?」


 配信一回分で第一話のストーリー終わっちゃって私もちょっとドン引きしてたけど!言葉なんて野蛮な!


「うるさい」


「あ痛っってぇぇっっ!!??」


 愛理の拳骨きっつぅぃっ!愛理そのものが野蛮の塊だったぁーっ!


「ぅー……」


 たんこぶ…で…できて……ない。よかった…


「ふー、ふー……」


 殴った後に拳に息を吹きかけるのって意味あるの…?


「それで、今日はどんなスイーツを食べさせてくれるの!?」


 バイオレンス後目キラキラ。感情豊かだな我が親友よ…仕方ない。答えてやるとするか…やめてグワングワンしないでちょっと、まだ回復してないの


「……パルフェ」


「パフェ!?」


「ドデカパフェ」


 私は普通の大きさだけど。愛理は食うから1mのやつを。……華蓮がいたら倍になるから居なくてよかった。


「やっっったぜ!!!」


「喜ぶのはいいけどいい加減はーなーしーてー」


「やだ」


 えぇー……歩きづらくて仕方ないんだけどなぁー……



















「着いたよ」


 電車に乗ってえっちらこっちら。ちょっと遠い街にある、川沿いのカフェまでやって来た。


「おぉ〜…いいところじゃん」


「でしょでしょ〜♪」


 奇跡的に予約の空いた人気店。いやー、ほんと私って持ってるわ〜。並ぶ人たちを無視してご入店。もしこの列に並んでたら死んでたよね……はぁ。


「すみませーん、予約してた二名の天ノ原でーす」


「どうぞ〜♪」


 店員に連れられて2階のテラス席へ。植物の絡んだ屋外テラスで、木漏れ日が心地いい……おっと眠気が。クリエナクリエナ。


「ふぅ……」


「何やってんだ……」


「呼吸」


 クリエナ吸引は実質呼吸。無いと体が動かないからな。


「……そうか」


 愛理の呆れた声が怖い……。


「ご注文はフォーチュンパフェ1つと、ディスティニーパフェ一つですね?」


「はい」


 店員さんの制服かわいいなー。ちなみにフォーチュンが通常サイズ、ディスティニーが巨大サイズのこと。


「ではごゆっくり」


「……椎名、ここってどういう店なのか聞いてもいい?」


「んー、そうだな〜…」


 端末を弄くり回してこの店の公式サイトを提示。


「ここは[Riverside-Garden]っていうお店。デザイナーの清満薫子って人の直営店でさ。さっき通って来た一階はアクセサリとか置物とか色々なアイテムを売ってて、二階はこうしてカフェになってるの」


「ふーん」


「まぁ、薫子さんは気分屋でねー。コンセプトによって内装ガラッと変わるしこのメニューだって入れ替わるから美味しかったまた来よう!って思ってるうちに無くなってたりするのが玉に瑕かな〜」


「ってことはたまに来てるのか?」


「前に二回くらいかな。どちらかというと私はプライベ部屋の方がお世話になってると思う」


 モンブラン美味しかったから二ヶ月後に来たらクリスマスのブッシュドノエルになってて泣いた。美味しかった。

 

「……ああ、シェリーの配信で入ったログハウスとかビーチとかはそいつの作品だったのか」


「そうそう…あ、このひ…と………」


 とりあえずみつけた顔写真を改めて見てみたら…うーん、見覚えが。


「ミーシャに似てるな、そいつ」


 あっれぇ…髪の色と、目の色変えて、うん、うん……


「何も見なかったことにしよう」


「いや」


「何も見なかったことにしよう」


「おう…」


「お待たせしました」


 スッと店員がパフェと、巨大パフェと……ストロベリーソースにオ蜂蜜のかかったホイップクリーム付きパンケーキを置いた。待って。


「すみませんこれ頼んでないのですが」


 え、なぜパンケーキ。


「サービス…とのことです」


「え」


「私も詳しくは聞かされていないのですが、オーナーの指示ですので。召し上がれ、と」


「…………」


「ふふっ、椎名がガチ困惑してる時の顔やっぱり面白いなー」


 さて………………ファンのリアルが発覚したが私はどうすべきか………………よし。


「いただきます!」


 考えるな、食え!


「甘っまぁ〜〜♡」


 美味しっ…いやこれ美味しっ……最高に甘い……


「しっとりとした生地に甘い蜂蜜がよく絡んで、冷たいホイップが味覚をはっきりさせて……ストロベリーソースの軽い酸味がすっきりさせてくれる……」


 あ、これプロの技だ。もうこれ言い逃れできないわ。


「薫子さん……いや清満ぅ……」


 またの名をミーシャ……許さぬ。


「んーっ、確かに美味しいなぁ……これなのに食べ応えがあってよし」


「……はぁ、うん……話題変えよっか。いっちゃん、どこまで到達した?」


「ランクIII」


「……マジか」


「ランクIIIまでは上がりやすいみたい」


「でもIVにはなかなか到達しないよね」


「……ランクキャップついてる、とか?」


「かもね。あ、ストーリーも2-2までクリアしたよ。華蓮も進行度明日には追いつくってさ」


「おー……ならまた4人パーティで遊べるかな」


 こうしてみんなで遊べるのほんっと嬉しいな〜。副賞で選んでおいてよかった。


「それと、見せてなかった一芽の昆布。今見せるね」


「お、気になってたのそれ。どんなのどんなの?」


「見て驚け」


 アリサが貸してきた端末の画面を見る。ふんふん、いっちゃんはピンク髪にしたんだ。それで目も黄色にして…ふんふん。


「いっちゃんの昆布は手甲かー」


 なんか光源が強かったのかちょっと逆光気味で見えないけど……


「いや、違う違う。その横にいる光」


「え」


「スワイプしたら詳細置いてるからそっちも見てみて」


 スワイプ。


──

[シリウス]

カテゴリ:バディ

ランク:III

属性:雷

特徴:身体変化、完全無敵、行動加速

──


「…………」


 目を擦る。


──

カテゴリ:バディ

特徴:身体変化、完全無敵、行動加速

──


「……?」


 あれ?見間違いかな?


──


特徴:身体変化、完全無敵、行動加速

 

──


「かん、ぜん、むて…き?」


 ってか、カテゴリバディって何…?


「おう、完全無敵。いや〜……こればっかりは見たほうが面白いと思うから〜…今から次の配信が楽しみだな!」


「っう〜……今から頭痛がひどくなってきた……ははは……はぁ。うん、甘いの食べて気分回復させよっ!」


 あぁっ、パフェおいし〜〜♡


「乙女の命はスイーツでできている…なんてね!」

 

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