配信二十二日目

#26 【英雄集結】配信だヨ!全員集合!【命大事に】

「ボンジュ〜ル☆ みんなおっ待ちかねっ、シェリーの昆布巻き配信の時間だぜ〜っ☆」


 今日のシェリーは広い庭園にあるガゼポの中で、優雅に茶と菓子を嗜んでいた。キラッとウインク、手を振って笑ってファンサは欠かさない。前回はボッコボコにされる突発赤スパキャンペーンのせいで酷い有様だったことを忘れさせる、あるいは忘れさせたいのだろう綺麗な光景。ちなみにアーカイブはちゃんと残っているものとする。


>待ってた

>生き甲斐

>今日は…高級だな

>カメラ近ーい!


「ふっふーん、いいよねぇ〜…こういう雰囲気。私大好き!」


 遠くに見える宮殿と、その前に広がる植物の楽園を眺めながら、シェリーはそう言った。もちろん片手にはマカロンがあるものとする。


>俺も好き♡

>きも…

>言うだけならタダだから見守ってあげよう


「ははは」


>カメラ近い理由とかあるのか?

>ちょっと画角不自然だよな

>珍しくハンディカメラ使うなんて


 普段、というよりは普通、配信では自動追従用のフロートカメラが使用される。仮想世界であるからこそ取れる自由な画角で、物理法則に干渉する事なく撮影・配信できるからだ。しかし今は、現実世界と同じように物質化されたカメラがテーブルの上に置かれているらしい。


「気になるか〜……じゃあもうさっさとバラしちゃおうね!前の前に言ってたけど今回はコラボ配信という名の身内配信だぜーいっ!どんどんぱふぱふー!」


>やったぜ。

>待ってました

>バレ様!バレ様ァ!

>限界化ファンがいますね…


「こわい」


「もう取っていいよね!はーいやぁやぁやぁー!アリサでーす!」


「あこら」


 シェリーが怖がっている隙にひょいとアリサがカメラを強奪。カメラを手に取って自撮りしながらサムズアップスマイル。


>あらかわいい

>どうせ後で狂気に染まる

>なぜこのまま戦えないのか


「あ?私可愛いだろ?」


>ヤクザじゃん…

>チンピラなんよ

>感嘆符がはじゃなくてあなのがもう証拠だよな


「なんだと……?」


「アリサ、次は私の番」


「うぉっと」


 再びカメラは手を渡り、三人目の元へ。そこに映っているのはもちろんバレッティーナ。代名詞とも言える拳銃と共にクールにキメる。


「挨拶──前略。BANG BANG、バレッティーナよ」


>\\[きたぁぁーー!!]//

>ないすぱ?

>前略されたか……


「長すぎって怒られちゃった。まぁ、今の私はオフだからいいよね」


「それでいいのかバレっち」


 崩れ気味なキャラを正すかのようにクスリと笑う。


>俺らは構わねえぜ!

>バレ様がそう言うなら…

>……まだ九十度視点回れるよな

>確かに


「シェリー、もう気づかれてる」


「うんその発言でもう確定してるようなものだからね?」


「…………あっ」


>四人目キター!

>"身内"配信って言ってたよな

>え、まだいるの?


「バレっちぃ!カメラ回してー!」


「はいはい」


「んぇぇっ!?ウチまだ準備できてへんって!」


 今度は渡らず回ったカメラが映し出したのはピンク髪に水色の少女。今にもクッキーを口に運ぼうとしていた彼女の名は……


>ガタッ

>は?かわいいか?

>方言……じゅるり

>変態が増えたな


「ほら、ほーら、自己紹介!早う!」


「んーっ、んっんー……コホン。ウチはファインダー。知っとる人も何人かおるやろ?」


「私が口を滑らせてたからね!」


>ファインダー…?

>あ

>え、心当たりあるのか

>そういえば切り抜きchの管理者名がそんなのだったような


 詳しくは#11を参照。本人シェリーが言ったようにきちんと滑らせている。


「あははー、知ってくれてはるなら嬉しいわー。そう、何を隠そうウチこそが[シェリーの昆布漬け切り抜き]の管理者、あるいは[シェリーの昆布巻き配信]の"切り抜き担当"、ファインダーや!」


 拳を打ち合わせてから片手ピースを前方へ向ける。


>切り抜き担当 参戦!

>遂に参戦してきたか…

>でも身体弱いんじゃなかったっけ?


「あ、そこは大丈夫。ファーちゃんの筐体には気絶したら強引に起こす安全装置ついてるから」


 なおその追加料金はシェリーの自腹である。勿論。


「シェリはんにゴリ押しでつけられてん……ヒドイんやで?母上味方につけよるんやもん」


>草

>切り抜きすぐ死ぬ

>殺すな

>その話し方は素?


「え?ウチの話し方が気になるん?」


「リアルよりコッテコテだよね」


>そなのか

>演技?

>その割にはナチュラル


「アリサみたいに自然に話せばいいのに」


「おうコラバレコラアタシの事どう思ってんだあァ!?」


 肩をすくめて笑うバレッティーナに殴りかかるアリサは喧嘩勃発キャットファイト。どうしてそうも煽りまた返すのだろうか。仲はいいはずなのだが。飛んでいくカメラは空中で消え、いつものフロートに変貌する。


「まーなんや。気分や気分。折角こうしてシェリはんと一緒の配信に出てるんやから、楽しゅうしたいやん?」


>楽しいは何よりも優先される

>そうだな!

>ファインダーの昆布楽しみ


 シェリーに作らせた各々の相棒を振り回し/撃ち応戦する二人を尻目に画面は今はマトモな二人の方に向く。


「ファインダーの昆布、実は私も知らないんだよねー。アリサがゴリ押しで数日かけて私と同じストーリーの進捗度まで持ってきて、しかもランクIIIになったってことは知ってるんだけどどんな効果なのかはいまいちピンときてないの」


>数日でクリアしたのか…

>まぁゴブリン相手だと無双かあ

>資産…あ、ありましたね

>喜捨ェ……

>洞窟…松明…うっ頭が


「ははは視聴者どもワロス」


「え、アリちゃんから聞いとらんかったん?」


「特徴とかタイプだけ聞いた。けど理解できなかったから実質初見」


 というよりは考えるのをやめて甘味に逃げたと言う方が正しいか。


>気になるー!

>はよ

>見たい見たい


「だってさ」


「ほな早うログインしよか。アリちゃーん、バレー、ログインすんよー」


 喧嘩をどうにか止めて四人はログイン。シェリーの装備は相変わらずの全身スーツ+金属パーツ。


「あー……オファニエルゥ…♪」


>かわいい

>オファニエルは厳ついが?


 シェリーは着地ログインすると同時に現れたオファニエルを装備。アリサの装備は──


>前見た時よりは強くなったな

>鎖かたびらか


 鎖帷子の上に革の防具がある二重構造。ちなみに革は打撃耐性と魔法に対して強い性質のものとする。


「ファーの装備を整えるついでにゴーレムをボコってたら私の素材も増えてきたからいっそのこと新調した。ミーシャには足元見られたけど」


>[適 正 で す]

>草

>ご本人登場


「……おう」


 生産者ミーシャから飛んできた唐突なスパチャ直談判にアリサはたじろぐ。


「私は急足だったから変化無しかな」


 フレームインしたバレッティーナは相変わらずの暗殺者コーデ。動きやすさはさておき、見た目が気に入ってるので上位互換が出ない限りは変えるつもりはないらしい。


>素敵ですバレ様!

>さてさてファインダーは?

>気になるなー


「ウチはこんな感じやなー」


 腕を広げながら現れたファインダーの服装は例えるならば踊り子。極限まで動きやすさを突き詰めた薄手の衣装。手甲を装備している腕以外にまるで防御力を感じない。


>エッッッッッッ

>………ふぅ…

>配信デビューでこれか

>大胆不敵


「しゃーないやろ!ウチも最初は戸惑ったわ!でもこれが一番ウチにあっとんのやもん!」


 実際、この装備はアクロバット的動きに補正がかかるのでファインダーの弁明も嘘ではない。ただし気に入っているかでいないと……まぁ、気に入っている。本人は頑なに認めないが。


>えぇ〜、本当でござるか〜?

>嘘だッ!


 視聴者達に人気なファインダーに嫉妬したシェリーが言う。


「効果説明して」


 むっすぅ……


>シェリー…

>かまってちゃんかよ

>真髄解放したらお前のターンだから許して


「はいはい。ほな移動しながら説明しよか〜。次の場所はギルドでええんよね?」


「合ってる。ランク上げてなくて焦った」


「はは、バレらしいな〜…それじゃ、ウチの昆布も皆に見せよか」


>……え?

>待て待て、手甲じゃないのか

>装備品でない昆布???


 通りを歩きながらファインダーは光の球を召喚。光はファインダーの周りを飛び回り、そして光量抑えめで手の上に相対座標固定。


「この子や」


>!!!???

>シェリー以上の衝撃

>SWにそんなのなかったが???

>どういうことなの


「皆驚いとるなぁ」


「私と同じような反応してる……見たことないカテゴリだったよ。"バディ"ってなんだよ本当に」


>聞いたことねえ

>え、動き回るの

>なんか可愛い


「ウチもびっくりしたけどシリウスはんの動かし方はフロートと同じやから便利やでー。特徴は身体変化/完全無敵/行動加速で、それを最大限活かせるのがこの姿なんよ」


>どういうことなの…

>完全無敵って最強じゃないですかヤダー

>防具じゃないのに無敵?


「ククク……使ってる時の姿はアタシも笑ったからな!百聞は一見にしかずって事で言い過ぎは厳禁だぜ!」


>そんなー

>滑らして!

>シェリーみたいに!


「は?」


 オファニエルすたんば……街中なのでキャンセル。視聴者は命拾いした。


「あー…まぁそうやな。ちなみにスキルは零戦I、乱打I、加速I、魂魄暴走Iに閃打Iと終打Iや」


 零戦は肉薄している対象にによるダメージを与えた時にダメージ上昇、加速は一時的な移動速度上昇。乱打、閃打は格闘攻撃の一時強化、そして終打は……まぁ、簡単に言えばフィニッシュブロウのことである。魂魄暴走はまた後で。


>どう足掻いてもラッシュ構成です本当にありがとうございました

>その子が魂魄暴走するの?

>どうなるか気になる!


「期待されるってうれしいもんやねぇ…ほな、見せられる時間まで大人しゅう待っといてな!」


>あいよー!

>了解!


 そして丁度ギルドに到着した一行は、メインストーリー2-3を無事受注することができたのだった。


〜〜〜

Tips 今回登場したスキル解説

性能

・零戦:肉薄している対象にによるダメージを与えた時、スキルレベル依存でダメージが上昇する。

技能

・加速:一定時間自身の速度が上昇する。

・乱打:一定時間格闘攻撃時のヒット数が増加する

・閃打:一定時間格闘攻撃時の速度が上昇する

・終打:一定時間中に行われた格闘攻撃の質に応じて威力の上がる一撃を見舞う


とまぁ、気持ちの良いほどにドストレートな"短時間"に"大火力"を叩き出す構成になってます。

ここに魂魄暴走が絡むと……ふふふ。


も一つおまけのミニTips

スキル名、"同じ特定の状況下"で発揮されるものだと似たようなものになります

今回の○打スキル達がその最たる例で、これは格闘攻撃時に発揮されるものになります。

○術はちょっと広すぎるから置いておくとして…似たようなものだと○斬とかが存在してます。

アリサは斬系のやつのことを「モーション補正が邪魔」と切り捨てたので多分取ることはないです

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