#24 【苦戦必死】沼なんて嫌いだー!!!【遅延行為】

>バァァァァァン

>どう見ても足場不安定です本当にありがとうございました

>オファニエル先生の次回にご期待ください


 ネニール湿地。そこは……予想通りダートの世界。刺さる事で移動できるオファニエルにとっては特徴を一つ潰されているに等しい。


「……ほんっと、ミーシャには頭上がらないなぁ。いや何も相談せずに作るのはどうかと思うけど」


>でも貴方何も聞かずに払いましたよね?

>どっちもどっち


「そこはほら、信用、だから。結果としては助かってるからよし。うん。ささ、それじゃ早速フォレスト・チェイサー君、使ってこっか」


>パークナイトの経験が役に立ったな

>フックショット…なのか?


 シェリーはチェイサーを装備し、遠くの木に向け、スキルを発動──


「ふふふ……いっくよー☆……フック、発射ぁ!」


 飛んでいく針。それは見事に突き刺さって、顎が位置をガッチリと固定。


>結構速いな

>いい速度だ

>ガスッと刺さった


「かぁーらぁーのぉーっ、[ハンティング・ジャー]

ぁーっ!?」


 スキル発動と同時にギューンと引き寄せられるシェリー。ワイヤーこそないが移動の感覚は一緒。慣れた様子で着地成功。


「ふんふんなるほどー……いやこれすっごい便利かも。物理演算どこまでやってるかによるけどオファニエルの急カーブとか上回避に使える…」


>[お気に召されたようですね]

>うわーこれ俺も欲しい

>種別は忍具かぁ…

>武器枠埋めるだけの価値はあるかね


「機動力が欲しいなら手っ取り早い。けどこれも上級者向けかなぁ。使いこなせる自信がないなら転移推奨」


>そうなのか

>なんで?


「ブースターみたいな噴射の移動なら全然いいんだけど、チェイサーみたいなワイヤーの移動は計算が必要だから。感覚である程度出来るっていってもこれは三次元だからねー……位置変更に加えて勢いつけたい時でもワイヤーは向かないかな!私は使うけど!」


>言っている事とやっていることが違う

>説明されてもわからない

>なんとなくそうだろうとは理解できるが……


「うふふふ……さぁさこのまま進んでくよー…ショット!引き寄せ!」


>見事なものだ…

>ゴムゴムの……なんとか


 CTが明けるたびに飛んでいき、奥へ、奥へ。さてそろそろかなとぐるっと回って地面に着陸。気分は立体機動装置。マップで示された地点まではやってきたが。


「いないね〜……歩きたくはないなぁ」


>草生えるwww

>生えてんだよなぁ

>草に草生やすな


「えーと、クエストの名前は跳ねる影。ってことは……うーん、蛙?どうなの視聴者ども」


>お楽しみに

>そうだよ

>地点の周囲にランダムポップらしい


「へぇー……そっか。ならとりあえず剣装備しとこっと」


 万能武器たる片手剣を提げ盾はなし。泥っぽい地面を踏みながらヒタヒタと歩くシェリー。足元の感触に顔を顰め……影を見た。


「早いね」


>こういうところだけやたら運がいい

>テンポが良くて何より

 

 目の前に降り立ったその姿は緑。迷彩柄にも思えるソレは大きな口を開き、長い舌を……


 ゲコォォッッ!!


「ぶねぇっ!?」


 伸ばされるもシェリーはパリィカウンター。舌に刃が入って少なくないダメージが入る。


「本当に蛙なのかよ!!!!」


 コイツはサプライズフロッグ。周囲の景色に溶け込み舌を伸ばして一撃を狙ってくるという面倒な戦法を使ってくる蛙……の異常個体オーバード。そのおかげで擬態能力は下がり、図体は巨大化したものの、接近するなり自分にとって有利な戦いになるように奇襲を行ってくるようになった。シェリーが奇襲に強いのがフロッグにとっての不幸だっただろう。


 ゲェェコッ!


「……キレづらいなコイツ…!」


>えぇ…

>えっどういう理由?

>音圧…かな


「ゾンビは数、蛇は音量、蜂は耳障り……だけどコイツは短かすぎるッ!」


>まさかの相性悪み

>技術と精神は違うか…


「ぜいやぁっ!」


 ゲココッ!


 シェリーの横薙ぎはうまく踏み込めず遅れ、フロッグは飛ぶ。しくったと嘆きつつも左手から針を飛ばし。位置セット。


>跳んだ!

>刺さった!


「カモンオファニエルっ!」


>えっ

>武器切り替え早っや


 鞘に剣を戻しオファニエル召喚、ジャー発動で蛙の下まで大きく跳んだ。構えは下段、空駆ける勢いのままに……


「スカイハイストライクッ!」


 ギィィィィチャチャチャァァァッッッ!!!


>ぎぇぇ

>▼肉の音が する


 振り上げられたオファニエルによって血が、肉が、臓腑が空に舞い散る。体勢を崩し頭から落下した蛙は掘削タイム続行確定。セイバー立ちで直下刺し。


「こんのまま削り取ってやぁぁぁ!!!???」


>草

>ツルっといったな


 かと思えば蛙は舌を伸ばして緊急離脱。木に巻きついたそれが巨体を牽引して今度はシェリーが地に向かう。思わずシェリーはオファニエルを仰向けのまま反時計にぶん回して地面に叩きつけてしまうがここは道悪。空転して泥を巻き上げるのみ。


「うぉぁ!!??」


>やっちまったな

>蛙もう立て直してるぞ!


「飛べよチェイサー!」


 飛び上がった蛙も縦に百八十度回転。背中に付着した泥がシェリーの背筋を伝い冷やし、焦りを加速させる。


「ギリギリ──刺さったはい発動ォーっ!」


 ゲェェッッコッッ!!


>間一髪!?

>ガバからのリカバリーが見事すぎる

>俺なら死んでた


 舌から逃げるように地を滑り、鯉の王のように背中を曲げて跳ねこちらもなんとか体を回して足で立つ。引き回し刑からウェイクボードの形に。しかし再び伸びてきた舌への対処は…空いてる片手で居合抜刀!


「セイヤァッ!」


>カッコいい……

>何か習ってる?

>そういやアリサもよく見たら武道っぽい動きしてたな

>気のせいだろww


 カウンターは再び成功、ただし足元注意。長い草に隠れてた岩に躓いて空を舞う。


「やっっっっ」


>やはりカッコ悪かった

>締まらねえ

>というか本気でやばいのでは?


「オファニエル!!!!」


>え

>またギリギリ!?


 移動ジャーをキャンセル、オファニエルで自由落下。隙狙いをどうにか緊急回避。超重武器ならではの動き。汚れる前に解除して…装備変更。漸く一つ溜息を入れられたシェリーの胸部装甲が肉々しくなる。妖しい魔核が配信レーティングに迫り、触手が身体にフィットする。


>\\[♪───O(≧∇≦)O────♪]//

>赤スパとは大興奮だな

>いやぁ………ふぅ


「…………」


 抗議のオファニエルを向けたいが今は無理。ただえさえ足元が緩い状況で沈む危険性が高い。懲りずに飛んでくる舌をまた斬り弾く。


「ああ本当に埒があかない……なんだよこのクソモンス、ミーシャいなきゃ戦いにすらなってないっつーの……」


>[罵り口調最高!!]<

>かわいい……


「黙れ変態!」


>#[ありがとうございます!]#

>助かる

>今日の晩飯に使う


 しかし、蛙であるからか攻撃方法が舌伸ばしばかり。単調な作業、劣悪な環境にシェリーの集中力も散漫に。気合注入クリエナ補給……


「クエッホ……っ!?」


>咽せたな

>だめじゃん

>オワタ


 咽せた拍子に足が泥濘へと直行。バランス崩して沼の中へ。こうなれば剣は振れず。インベントリへと収納。仕方ないと目を閉じて……


ゲェッコッ!


>あ

>あっ


バシッ


「ぐぇっ」


パクッ


>食われた

>足だけ見えてんの草

>バタバタもがき可愛い


 舌に巻かれ引っ張られ、見事に捕食されたシェリー。頭から上半身にかけて見事に喰われ、モグモグと徐々に飲み込まれていく。


>悪堕ちに丸呑みシチュ……閃いた

>通報した

>ほんとお前ほんとやめろお前


「沼なんて嫌いだせめて飛ばせろやバーーカっっ!!」


 蛙の口の中から響いたシェリーの怒り。その叫びは、運営と視聴者達の笑いを誘うのみだった……


〜〜〜

Tips ランクIVになったら

以前スキルの取得制限についてで魂魄系のスキルは[ランク-3(0以下にならない)+1]の数しか取れないって言いましたが。その増えるランク上昇でもう一つ魂魄武装自体に変化があります。オファニエルもそこは例外じゃないです…ふふふ。お楽しみに。

……あ、タイトルでIVになったらと言いましたが一応VIIになった時にも同じか似たことが起きますよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る