配信二十日目

#21 【第二話】新天地に進展するよ!【実質散歩】


「はろはろ〜☆いぇーぃっ、みんなみんなっ、今日も今日とてシェリーの昆布巻き配信やっていっくぞー!」


 今日の部屋は高級ホテルのようなアンティーク空間。豪華なオブジェのように、彼女の手にしたトロフィーがチェストの上に置かれている。


>よぉ

>なんか久しぶりな気がする

>だな

>トロフィー目立ちすぎて草


「あっはは……いやごめんねー、WGPの方の練習検証とかゴタゴタでちょっと休んでてー」


 もう半分はシェリーのわがままだったりするが本人は言わない。豪華なソファーに座りながら、コッソリとクリエナを嗜む。

 

>面白かったので許します

>次は告知が欲しいなぁ!

>エキシビションはまぁ……


「ってな訳で、今日はやっとやっとやーーっとこさ、ストーリー進めてくよ!」


 指パッチンと共に現れるホワイトボード。いつものように手書きの看板。『SWORD第二話進出ッ!』の文字と共にちびキャラ達が並んでいる。


>ktkr

>やっとか

>[他の配信で見た奴ネタバレやめろよ]


「ま〜そだね。ネタバレコメは禁止!というか、初見で私が四苦八苦してるとこ見てる方が面白いでしょ」


>そうだよ

>もっと苦しめ

>ははは


 視聴者アンケートを取れば十中八九の視聴者がシェリーには酷い目にあって欲しい/苦労しガバって欲しいと答えるだろう。流石視聴者のことをよく理解している配信者である。


>ネタバレ:次の街で開始できる

>は?

>は?


「おうネタバレやめーや」


 シェリーも思わず( º言º)こんなかお。オファ…オファニ……オファニエ……


>これはいけませんよ

>許してはおけない

>つるせつるせ

>ごめんて


 そしてよく連携の取れた視聴者達である。これには発言者もガクブル。真面目に拷問器具を検討されては誰だって恐怖を感じるだろう。


「ちなみに今日はマジでソロなのでゲストも誰もいません!!!」


>ログインするか

>何しようとしてんだよ

>出会い厨か?


「邪魔したらオファニエるけどいい?」


 オファニエる:オファニエルで何かを削り取る事。または何処かを走り抜ける事。転じて、人に対して告げた際には死刑宣告の意味を持つ。


>HAHAHAナイスジョーク

>逃げたな

>逃げたな

>逃げてねーし


「よしよし、コメント欄が盛り上がってきたな〜…じゃ早速ログインっ、れっりごーっ!」


 えいやとウインドウを走らせて、いつものアイコンをタップ。すると剣が剣が飛び出してシェリーを取り囲んだかと思えば、それらが形成した光の渦に飲み込まれSWORDの世界へとリダイブ。


>いつもとログイン演出違うな

>もしかして

>課金した…??


「しちゃった♡」


 剣の名を冠すこの作品に合っていると衝動買いしたログインエフェクトは概ね好評。そして降り立ったシェリーの姿は以前と変わらない。全身を覆う黒のインナー。胸部、関節といった重要部位だけが金属部分で覆われている。


「カモンオファニエル!」


>はいきた

>でたわね

>もはや見慣れた安心感


 ズシンと音を立てて現れるは回転鋸。シェリーと魂で繋がる文字通りの相棒。ヒョイと持ち上げ重さを感じさせない身軽さでブンブン取り回し肩に乗せてひと笑い。


「クァーーハッハッハァッ!」


>笑ってるだけならまだ可愛いんだよな

>まだね

>表情はいい……


「さーさ、まずは森に行こうか視聴者のみんな。まさか──オファニエルの音を忘れてるなんてことはないよね♪」


>ファッ!?

>ああああたりまえじゃないですかー

>あはは


 るんるんと鼻唄を口ずさみながら、軽い足取りで大通りを歩むシェリー。NPC達もギョッとはするがその顔を見ればなんだ英雄様かと安心して過ぎ去っていく。


「なんかひどくね?」


>当然かと思われますが

>その肩に乗せてるものがね…

>驚かない方があり得ないよ


 魂魄武装の所持者である英雄は神に認められし人々。逆説的に人としての善性を証明しているからこそのこの態度。逆に怒られない事を感謝してもいいくらいだ。

 

「外へ行くのか?気をつけろよ」


「おう、門番さんこそね」


>イケおじ最高

>マジ好き

>乙女ゲーにいそう


 手を振ってオースト東門からさよならバイバイ。シェリーはオファニエルと共に旅に出る。


>#[ぴかちゅう]#


「どうした急に」


>言わなきゃという使命感に駆られて…

>えぇ…


 シェリーはマップを確認しながら方向索定。だいたい東に森を突っ切ればいいらしい。


「それじゃいっくよー♪」


 ギャァリリリリリィィィィィィンッ!!!‼︎


>あ"あ"あ"あ"あ"

>ぁぁぁぁぁぁ!!!!!

>あ〜〜^^^

>もう手遅れだこの変態ども


 唸り響くオファニエル。回転速度は数千/秒。森の障害なんのその。弱き魔物は挽き殺されるのみ。


「Ураааааааа!!」


 シェリーのシャウトとオファニエルの駆動音が重なり一つの音に。こんな何気ない移動でさえも彼女らは一心同体になる。


>あ〜^死ぬほど気持ちええんじゃ

>かわいい

>鼓膜破っといた

>鼓膜破壊ニキ鼓膜の予備くれないか?


「さぁぁぁてっ、今日の敵はだーっれっかなぁーーっ!!!」


>敵になるやつとかいるの?

>敵じゃなくて的の間違いでは

>まだ射的はしてねーぞ

>遠距離攻撃入手されたら手がつけられないから…


 さて、この道行でのオファニエル被害者を紹介しよう。


・オファニエル被害者の会

-ゴブリン×多数

-マッスルスタッグ×4

-ハウンドベア×2

-キラービー族×a(現在増加中)


 ──現在、増加中。


「ァァァァァァ尽きねえなぁテメェ等よぉぉぉ!!!」


 ブブンブブブッブブブゥッ!


「黙れカス蜂共!」


 撒き散らされる異形の血。馬鹿みたいにシェリーに集う黄黒の虫。シェリーの身体が一回りする毎にオファニエルはギャルリラララと歌って、キルカウンターはキュルキュルと増えてゆく。


>[会 話 成 立]

>えぇ…

>あ ほ く さ

>ひでぇ

>お前もしかして動物会話持ってる?


「アァ!?こんな無限クソ蜂共と仲良くなんてしてられるかボケェッ!」


 ブブブゥゥゥッッッ!!!


>あのさぁ…

>もうお前等永遠に戦ってろよ

>\\[スパチャは任せろ]//

>ないすぱ


 止めどなく増えるドロップアイテム。殺意を以って殺意を返す。ちなみにこうなった原因は当然。


>シェリーも走れば巣にぶち当たる

>シェリーも暴れねばガバらまい

>ななガバりややらかし


 まぁ、そんなところである。


>[素晴らしく運がないな君は]<

>調子に乗るからすぐガバる〜♪

>やーい!お前の宿星クッソガバまーつりっ!


視聴者等テメエらあとで覚えてろよなぁオファニエルゥゥゥッッッ!!!」


 ギャァァァァリリリリィィィィァァァァ!!!!


 ブブブゥゥゥンンンッッッ!!!


>騒音のミルフィーユや

>ほーんとひっで

>聞き飽きのこない配信で素晴らしいですね


「死ぃぃぃねぇぇぇっっっ!!!」


 ギャァァァァァァララララララ!!!!!!


 ブブブンブゥゥゥゥゥッッッッッ!!!!!


 そんな血の旋風の中。徐々に近づく大きな影ありけり。其の御身は黄色に黒色。立派な針を腹部と二つの手先に持つ──女王蜂。


>あ

>そりゃこれだけやればね

>>[ロイヤルゼリー期待!!!!]<


「テメェの子供達が私に因縁つけてきて困ってるんですけどぉ!そぉぉの命で落とし前付けてもらおうかぁぁぁぁぁぁんんん???」


>なおキル数

>損害軽微


 しかもシェリーは細かい傷は再生で回復してしまう始末。群体の軍隊も殲滅力を以ってすればほらこの通り。横にアリサがいたら本当にどうなっていたことやら。


 ブブッブブブゥッブブブンブブブッ!!


>もうやだこの女…

>そういいながらも配信見続けてるの知ってるぞ

>バレてたか

 

 吠える女王蜂。売り言葉に買い言葉とはまさにこのことか。クハハと一つ笑ってみれば。オファニエルはもう一度地面にその棘を刺し。加速する。


>えっつっきるの

>さぁ、振り切るぜってか


「よろしいならば戦争じゃぁぁぁぃぃぃ!!!」


 横必殺技上派生前連携急発進後跳躍回転削撃


>そうはならんやろ

>は?

>いや…よくやるけどさぁ。


 ブッブッブブゥゥゥッッッ!!!???


「賠償金はたぁぁぁっぷりよろしくぅぅぅ!!!」


>もういっぱいもらってるでしょ…?

>経験値たっぷりもらってそうですね(雑)

>はちみつください


 森中にて行われた突発血みどろコンサート。その結果は……まぁ、最後に立っていた"人"の言葉を聞けばわかるだろう。


「…………あ。RTA宣言するの忘れてた」


>気にするところそこ?

>配信者の鑑にしてRTA走者の屑

>ソロなのにどうして取れ高しか生まないんですか…??

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