幕間-1 この作品の時間軸は適当だけど更新日時がアレだったのでこの日は多分そういうことです

なろう投稿日:2023年02月14日 23時00分

〜〜〜



 大会エキシビションの終わりからしばらくした後。椎名達は──水森一芽の家で、個人的な戦勝会を行なっていた。家庭的なリビングの中央に置かれた炬燵に入りながら液晶モニターに映る配信のアーカイブを見ている三人に向かって


「も〜……なんでいっつもウチの家なんよ〜……」


 と嬉しそうな声で台所に立つ一芽が言う。その手は友達を迎えるためのツマミを盛るのに使われている。


「いっちゃんちならみんなでだらけられるかなーって」


 椎名の家はマンション。愛理と華蓮の家は一軒家だが格式高い。そんなわけで、一般的ご家庭かつ一軒家である一芽の家に集まってガヤるのが定番である。ちなみに専用コップもある。


「それは……褒めてるの?」


「もち!」


「……そっか」


 屈託のないサムズアップに密かに照れる彼女だったが、サラッと開かれる菓子の量は増えた。


「一芽、私は紅茶がいい」


「オレンジ!」


「クリエナ!」


「はいはい。ドリンクはみんないつも通りね」


 そして一芽の給仕が炬燵に届き、こたつむりが4人に増えた。置かれたお盆の上を見ながら椎名が呟く。


「……ポテチを見るとマグナムを思い出すなぁ」


 丁度モニタの中ではロリが戦隊イロモノと戦っている場面だったから尚更だ。しかも妙に熱い。


「あら、いらんかった?」


「いや食べるけど」


「アイツらのせいで私も暫くカップラーメンが食べられなくって……」


「え、愛理ちゃんインスタントとか食べるの?」


「私のことなんだと思ってるのよ……親が大会でいない時とかは食べるわよ」


「自炊面倒だと、よくある」


「ねー」


 ちゅーっと氷の入ったグラスからストローでオレンジを飲み干す愛理。実際、親の都合上外回りの多い愛理は他よりもそういう機会が多いのだ。


「いい家なのにねー、ラーメン食べるんだー」


「……私普通にコッテリ系食べるけど。ま、華蓮ほどじゃないけどね」


「一杯はストレート二杯はコショー三杯でニンニク。コレが黄金コンボ」


 優雅に紅茶など飲むが一番の大食らいは無論コイツである。


「何故太らんし。ウチにもその体質分けろー!!」


「ふふっ……あ、そうだそうだ。今日は私もちょっといいもの持ってきたの。ほらこれ」


 そう言って椎名が取り出したのは高級そうな箱。その中にあったものは、そう……


「ててーんっ、高級チョコー!!」


 一粒万単位で金が吹っ飛ぶガチ富豪用の品。もしも思春期男子がこんなものを渡された暁には即オチ2コマで告白ラブラブデートコースに違いない。別名、札束ビンタ用チョコ。


「チョコレイトッ!?マジで!?」


「……wow。しかもこれ最高ランクの奴。いつの間に……」


「ふふふ……優勝賞金絶対貰える前提で大会の話受けた時から予約してた。あと乱数調整」


 使った金のことは考えない。それが椎名の流儀。というか貯金が貯まりすぎてるので賞金がなくてもどうにかなるだろという楽観思考もある。いや、なるのだが。うん。


「ほんっと椎名の乱数調整おかしくなーい…?ウチにも教えてーよー」


「えー、ヤダ」


「いーだろー、私にもおーしーえーてー」

 

「うーあーやーめーろー」


 グワングワンと二方向から揺らされる椎名。その姿を微笑ましく見つめながら、華蓮は口に運んだチョコの甘美さに震えつつ一つ問う。


「それよりは椎名の対応力の方が参考になる。バレッティーナじゃ対応できない事もあるって、間近で椎名シェリーの事見てて思った。ねぇ、どう処理をしているの?」


「ふぇーーーぁ…?対応力……"即席チャート"のこと?」


「そんな風に呼んでるの?」


「うん…まー……思いつk……いやごめんごめんウソ……じゃないけど雑すぎるよねごめんごめん、怒らないで華蓮」


 微笑みながら太腿ホルスターからモデルガンを向けられる光景は一見の恐怖アリ。認知の世界なら即死級。オファニエルとどっこいどっこい。


「はぁ……」


「いやでもさー、一言でまとめるとそうなるんだよねー」


「椎名の配信を普段から見てたらそうだよね。大体思いつきで何かして、そしてそのまま走り抜けてる。ウチとしては面白さも切り抜き場面も多くて大助かりであります!」


「うん……それで。それで?」


「……オイオイ尋問みたいじゃん……うわっ、このチョコ美味しっ…♡」


「それ高いんだから大切に食べてよー……」


 世界最高級の甘みの前に乙女の顔をしだした愛理を横目に、椎名は真面目なモードに入る──


「そうだなぁ……ま、何より大切なのは把握力。何があるか、何が起こりそうか。それを全部感じる。考える前に、感じろ」


「観察力、か。それで?」


「いつにも増して圧強いな……ま、感じたあとは考えろ。出来事イベントの順番を探れ。何が来るか分かったら、どうするべきかは自ずとわかるから」


「考察力……」


「そう。で、その次は……持てる手札どう対応できるかを考えて、時系列順に潰してく。ま、こんな感じ?場合によっちゃ細かいところは変わるけど……観察→順番→工程で考えてるかなー。それで、一言でまとめると……」


「纏めると?」


「勢い」


 スライドを引くガチャリ


「だから言ってるじゃん"即席"だって!!」


 溜息はぁ

 

「あとは、何より仕様とデータを知りまくること。そうじゃなきゃ予測も何も立てられないからね」


「でも椎名って初見にも対応する時あるじゃん。アレは?」


「テンプレ的流れと仮定して突き進んだり、後は……うん。戦いながらの検証かなぁ。ま、これはRTAの為にガチチャート作るための検証のノウハウがある私だからこその事だし…なにより即席チャートって"その場"だけを乗り切るためだけの一時凌ぎだから。バレっちはバレっちのままでいいと思うよ。バレっちの跳弾技術はマネできる気がしないし──ってぁぁぁぁ愛理ぃぃチョコ食い過ぎぃぃっ!!!」


 そんな長セリフを言っている間に愛理はチョコを食べ進めていて。乙女の自制心は、甘みの前にはとんと無力に成り果てる。


「……ふぇ?ぁ〜……ぁっはは、ごめんね♡」


「がぁるるる………」


 ▼シェリーの殺意が5上がった!


「そのまま……か」


 既にモデルガンを収めた華蓮だったが、その表情は些か重い。争いに向かった椎名はとりあえず放っておいてチョコを口に運ぶ…


「華蓮はさ。ウチと違ってゲーム上手いんだし。まず得意分野ロールが違うとウチは思うな」


「……そう?」


 そして、一芽が珍しく華蓮に優しさを見せる。


「うん。だって、華蓮は愛理ちゃんと椎名と違って突っ込まなくていい。その手に握るは非常の弾丸、遠くより裁きを与える銃器なりて!…なんてね」


「……ガンカタ、習得したくて」


 読者の皆様方には説明しなくても良いだろう。二丁拳銃を用いた格闘術のことである。


華蓮バレッティーナが近距離も対応できるようになったらもう勝てないから」


「よし、頑張る」


「ふぇ…やめろよー、ほんとにー……」


 クスクスと華蓮はやる気を取り戻し、一芽はまた成長する事を恐れる。そして、椎名は……


「ガァァァァァァ……あ、今何時?」


 殺意を抑えて一芽に問いかける。


「ん?えー…16時かな」


「なら、そろそろ・・・・か」


「え、何が?」


 ピンポーン。お届けものです。おかしいな。トラックの音がする。しかも……レースカーテン越しに見える荷物が大きいような。


「何?」


「親御さんには許可をもらっております」


「は?」


 そう言って椎名は玄関のほうに向かう。一芽も釣られて向かう。愛理は床から起きあがって。


「いったた……ああ……だから今日集まったのか……つぅ……」


「愛理、手酷くやり返されてて草」


「おうやんのかぁ?あぁ?」


「ふふ、クッションでガードする」


「させるかオラァ!」


 華蓮とイチャつき始めるが……それ以上に、一芽は目を見開いてドン引きしていた。何してんのと。


「こちら、どこまでお運びしましょうか」


「2階奥の突き当たり部屋まで宜しくお願いします」


「わかりましたー」


 そう言って平然と大きな段ボールを持った業者が家に上がり、階段も上がる。


「待て待て待て待て待て待って?ウチの家だよね?っていうかウチの部屋だよね??」


「ははは」


「はははじゃないよ椎名っ!ウチの部屋に何持ち込もうとしてんの待って片付け……母上に言われてしてたわあー!!!!!!」


「母上さんグッジョブ」


 そして開かれる切り抜き担当の部屋。可愛らしい家具の部屋──の上から無造作にPC、サーバ、モニタ等々が置かれたアンマッチな部屋の隅で、業者は……


「──え」


 大きな、チェア型の機械を、その部屋の光景に継ぎ足していた。


「ほら、前に言ってたじゃん。SWORD、一緒にしたいなって。あ、ポートとかはこの子がやるので設置だけで大丈夫でーす」


「──だって。高い、し……」


 安いモデルであるヘッドセット型でも、激安の粗悪でなければ数万は下らず。相場は十万強。そして、チェア型といえば最安モデルでもウン十万──できるならば、七桁の高級品の欲しいアレ。


「これね。"副賞"」


「──ハァ!?」


 シェリーが副賞に選んだのは[これでお前もVR沼だセット(原文ママ)]。その内容は見ての通り。まずはフルダイブチェアーのお届け。本人の言っていたように、この住所を一芽の家にするにあたって、一応許可は取得済み。


「そしてこちら、今や品薄で地味に取得するのがめんどーーーなやつです」


「えっ」


 もうひとつ。シェリーが横の小さな段ボールを開けて取り出したのは、協賛企業になっているゲーム会社の好きなVRゲームのプレミアパッケージ一つ。選択したタイトルはもちろんSWORD。


「あとクリエナです」


「それはいらない」


 コレはシェリーが買ってきたもの。


「ははは〜……ま、他プラベ空間用の有料ポイント十万もあったような」


「はぁぁ……え、本当に?ドッキリじゃないよね?」


「うん。私からの…お気持ち、みたいな。いつも切り抜きばっかりさせて寂しくないかなーとか思ってたし、やっぱり4人で遊びたくって」


「で、でもぉ……フルダイブ処女だし……」


「大丈夫!徐々に気持ち良くなるから!っていうか!バイキングの時やりたいって言ってたよね!ね!?」


「──言ってた」


 言質取られていたのかと頭を抱える一芽。どう聞いてもアウトな椎名にツッコミを入れられない配達員の方々は仕事をするしかない。


「ってな訳で、切り抜き担当兼撮影班として、コレからも宜しくな!」


「いやウチの仕事は増えるんかいっ!」


 コラボ相手でもないのか、と突っ込んだ一芽の顔は、隠しきれない歓びに満ち溢れていた。


 

〜〜〜

Tips 椎名らの大食い度

華蓮>>>>>>愛理>>>椎名≧一芽

グルメ度

愛理>>一芽>>椎名>≧華蓮

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