日常-5 バークナイト・シューターズ2


「なるほど。こういう感じか」


 シェリーは今、バークナイトの中にいる。見た目はサイバーパンクなガレージ。ここはマイホームっていう扱いで、バトル外だと他には無制限に人が集まるパブリック・ロビーと限られた人で集まるプライベート・ラウンジがあるらしい。とりあえず今はそれぞれの理想の構成を探るってことで、検証中。


「まずは……銃器から見よっかな」


 このゲームは金銭管理が重要。強いのを取ったら出費が嵩むし弱いのはボコられるし。最終的に勝てば良かろうなのだ…ってのはその通りなんだけど。


「ハンドガンはクセが強い、ショットガンは汎用性が高い紫装甲エリート貫けるのは高いし射程も短い。とりあえずこの二つはナシかなぁ」


 流石の私も"走る“のが得意とはいえこの二つはナシ。無理。検証し切る時間がない上、こんな銃の世界で接近戦はアリサみたいな脳筋がやればいい。……でもあのアサシンナイフ安かったし、余ったら組み込もう。


「んーでー……次はライフルか」


 アサルトライフル、マークスマンライフル、スナイパーライフル。ライフル族はこの三つに分かれてる。アサルトは安定性と拡張性が高くて、高いオプションまで付けると総合力では最強かも。


「でも私にはちょっと大きいんだよねぇ……」


 割と走るのに邪魔だし、片手で撃てないし。バースト銃もあるにはあるけどね。やっぱり大きい。


「マークスマンもスナイパーも同じだし……」


 この二つも簡潔に説明すると精密性クリティカル射程キルゾーンかにそれぞれ特化している武器種。とはいえパラメータの話な上、分け方が曖昧だからこの二つは纏めて認識した方が良さそう。


「ボルト、セミオートと……へぇ、フルオートSRなんてあるんだ。クッソ高いけど」


 でも殆どは単発武器な事に変わりはないのでこれも没。それに最初からこれを取るとしたらボディが貧弱になりすぎる。凸砂は非推奨、ってね。


「……まぁ、この最高額の『ワールドバンカー』とかいう直撃で一撃必殺確定の浪漫武器……ふ、ふふ……ちょっとだけ試射しちゃお…」


 というわけで試射場へ移動。ボディの強度は最高級レジェンダリーにして、反動で死なないようにする。というかボディ弱すぎると銃も強いの持てないのか……無駄にリアル。いや、いいと思うけどさ。ちなみにバンカーは上から2番でも半分、3番目でミリ残りレベルの反動。馬鹿でしょ。


「いやぁ……それにしても……」


 実体化させてみると尚更感じるこの"重量感"。やばい。


「重っ…ズシっとくる……ぇへ……」


 筐体の中にいる椎名も、シェリーが持つワールドバンカーに興奮してきた。クリエナ飲まなきゃ……ぁ、ここにはついてなかった。


「こんなの、撃ったらどうなるんだろぉ……んっふふ……ふふ……」


 私の身長よりも大きく、私よりも重くて、私よりもゴツい。オファニエルには悪いけど、オファニエルが猟奇的でカッコいいとしたらこっちはスタイリッシュでソークールって感じ。洗練された科学技術の結晶で、まさに近未来の最終兵器。


「的は戦車でいいかな…ふひっ……」


 ドシーンっと配達される戦車。これもアームズ扱いで金さえ払えばゲーム中に召喚できるらしい。嘘でしょ?でもそんなことは今はどうでもいい。しゃがみこんで射撃態勢、飛び出したバイポッドに高さを合わせ、膝立ちでよーく狙って……トリガーを引く。


「ふぉ、ぉ、ぉぉぉぉ……!!」


 そしてキィィィィィ……と静かにチャージされる電力。電磁加速、っていうのかな。回転するパーツが、神為る威光を知らしめそうと祈りを捧げる。


「充填…80…90……」


 みるみる盛り上がっていく目の前進行度テンション。溜まり切ったら、指を離して発射。後私のできる操作はそれだけ。神のアナウンスを待つのみ。


『FULL-CHAGE』


「キタァっ!」


 ギュゥリリリリリリンッッッ!!!

 バッバリリリンンンッッッ!!!


 シェリーの身体を顧みない、威力だけを追求した果末。超帯電状態の電磁加速機構が、ただひたすらに回転し続ける。私と"かいてん"ってつくづく縁があるな。


「穿てっ、ワールドバンカァァーーッッ!!」


 そして、指を離す。私の支配から、雷電が解放される。


 ダッ――ガァァァァァァッッッッッッ!!!!!!


 一瞬、時が止まラグって。不発かと思ったけど。次のフレーム。とんでもない超絶に電磁加速した弾丸レールガンがぶっ放されて。目に見える程のスパークを残しながら。戦車に。飛び込んだ。


 ボッカァァァンンンッッッ!!!


「ビューティフォー……」


 世界を穿つ程ワールドバンカーの衝撃に耐えられず戦車は爆散した。機関部が吹き飛んでできたキノコ雲の風が、私と火照ったワールドバンカーを冷やす。


「…………うわっ、体力結構削れてるし」


 この身体じゃなかったらやばかったな……とと、これ以上脱線するとヤバい。発売後に楽しもう。


「さてさて……他には、何かなぁ……」


-グレネードランチャー:本体高い上弾薬も高い

-ランチャー:同上

-ミサイル:専用ボディパーツが要る

-マシンガン:重いし弾薬食うし実質専用構成しかない

-ライトマシンガン:重い

-ロケットパンチ:馬鹿なの?


「……やっぱり、これになるよね」


-サブマシンガン:適度に軽くて連射が効いて、取り回しがいい。


「火力は控えめだけど、ね」


 何より、静かに殺れるのがいい。椎名が"好き"なのはミニガンやバンカーみたいなクソデカ武器だけど。シェリーが"得意"なのは、やっぱりこういう静かな武器。


「消音SMG……銘は『コンバラリア』か。なるほど」


 片手で振り回せるくらいの重さで、反動も銃声も無い。その代わり火力も控えめだけど……


「そのためのアサシンナイフ」


 威力と貫通力、何より静音性はピカイチ。腕の下から飛び出るこの短いナイフなら、相手の急所を狙って即死させられる。


「序盤は金回しがカツカツだけど、中盤からは爆弾とか持ち込めそうだしね」


 というわけで、私のボディ構成には上から三番目の青装甲ハイクラスをチョイス。オプションはアサシンナイフと静音カスタム、そして……"2段ジャンプ"とフックショット。


「……最初はコンバラリア使えないな、これ」


 威力が低いとはいえ、コンバラリアは特殊な武器。私の欲しい機能を詰めたこのクソ高いボディの維持費を払うとすると、序盤の固定給じゃ普通に足りない。


「代わりは…これだね」


 軽量サブマシンガンの『バラード』。コンバラリアよりも軽いし火力もない、けど代わりに安いヤツ。試算した感じ二丁持てるから緊急時にはこれでぶん殴るかリロードせずに抜き打ちもアリかな。


「もし勝てば2ラウンド目から使えるし、ね」


 短絡的に言うのなら、私の構成は"ナイト・アサシン"。バークナイトっていう名前にあやかって夜の暗殺者……うーんカッコいい。流石にダガーは付けないけど。


「あとはグレネードととかに使えそうな金額とかを試算してラウンジ行こっかな」


 そして、10分後。ラウンジに移動したら、案の定アリサが一番乗りで待ってた。


「……なにそれ」


 アリサの構成はやっぱり最高級の装甲を中心に、オプションで超周波ブレード(特大)と……見慣れないパーツがついてた。一見すると装甲と一体化しててわかりづらいけど……


「ミサイルポッド」


「なんで?」


 なんで?


「私は考えた。遠距離攻撃は苦手だけど、遠距離攻撃ばっかりの相手にどうするか。弾丸は斬れるし防げるけど攻撃もできない。なら……コレだっ!となってな。ミサイルならロックオンで勝手に飛んでいくから私でも扱える」


 いや、その理屈はおかしい。けど本人は大真面目。


「……そのガチガチ近接構成なら最初は買えなくない?」


「一本くらいならギリギリ買える。ラウンドが増えるたびに増えてくぜ」


「あ、そう……」


 大丈夫らしい。脇差的に付けてる初期装備アーミーナイフもあるし何とかなると思う。うん。


「やっぱり二人とも早いね」


「おっバレっち、いい銃あったの?」


「ある程度は絞った。あとは実践の中で探る。ボディは認識加速をメインに瞬間機動力を重視した」


 ……ええと、つまり目が良くて足が速い。


「めんどくさいなぁ」


「跳弾するんだろ?」


「もちろん。跳弾しやすい弾は見繕った。でもあと二人は……」


 っとそんなあたりでラウンジのドアが勢いよく開いてレファが入ってきた。アサルトライフルを肩紐でかけて、派手に装飾しちゃってる。ある意味現代の都市迷彩って感じ。


「お待たせっ☆シェリちゃんアリちゃんバレぴっ!ウチは割と悩んじゃった系だケド、スタちゃんはマダっぽいね〜」


「レファはどういう構成なの?」


「えーとね〜…装甲はカタめでセンサとソナーマシマシ。バレぴとスタちゃんは避けるの下手だしぃ、ウチが前に立つしかないんだよねぇ〜」


「……違う。レファがおかしいだけ」


 バレっちがそれを言うか。


「褒めてもなにもでないぞっ、バーレーぴっ♪」


「遅くなりました。拙も検証完了です」


 そんなこんなで全員集合。最後はスターシャ。見た感じはデカイオプションはなさそうだけど……


「いつも速いのに、どうしたの?」


「その……恥ずかしいのですがステルス迷彩の見え方を一人で検証する事に意固地になってしまい……」


 詳しく話を聞くと、スターシャはスナイパーライフル運用を前提としてオプションに内蔵スコープに……ステルス迷彩。


「マジで?」


「"マジ"です。拙は戦闘は不得手ですが狙撃が得意ですので。ヒットアンドアウェイをこのゲームでも行いたいと思います」


「マップの広さにもよるケド、こればっかりは実践かなぁ〜」


 つくづく『産業革命』の化物さが滲み出てるそれぞれの構成。比べちゃ悪いけど私の構成って結構地味だなぁ……ガチになってるし仕方ないけど。


「こほん。それでは、まずはAI戦を一通りやってみる、ということで構いませんよね。ルールは大会のものと同じで」


『了解!』


 目の前に出てきたゲーム開始承諾のボタンを押す。全員が同じチームに入って、敵チームにはAIの適当ネームが並んだ。


「皆さん、頑張りましょう」


 レファの掛け声と共に、ゲーム開始までのカウントダウンが。


 5


 4


 3


 2


 1


『GAME START』


 どう走ろうか。それを考えるだけで……私は今、すっごく心が震える。





………………違う。これはチャート構築のトラウマじゃないから。決して"走る"っていう単語で何度繰り返してもうまくいかないチャートを何度も何度も調整して調整してやり続けたあの時の記憶がフラッシュバックしてるわけじゃ……


「シェリー、ゲーム始まってるよ」


「あ、うん!」


 やっべ、つい走者シェリーの持病の発作が出てた。ふぅ……切り替えて、やってこ。頑張れ、私。



〜〜〜

※次回から大会編に入りますので書き方が結構変わります そして更新速度が鬼ほどあがります まぁノリは一緒なので味変だと思って楽しんでくださいネ…

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