WGP編-バークナイト

日常-4 バークナイト・シューターズ1


「うへぇ……あっちい……」


 今は、夏。夏真っ只中。というか、夏休み。軽いノリで許可しちゃったから、私はこの……オフィス街の方まで出て来ないといけなくなった。


「いつもエアコンガンガン付けてダラけてるからな、椎名」


 うるせぇ。電気代は私が自分で払ってるから問題ないし。


「私は電子空間じゃ最強だからいいんです〜……」


「タイマンなら私の方が強い。それで、どこのビルだっけ?」


「うぉぅ……マウント……えーっと確か……あのビル」


 大通りに面する複合ビル。下は商業、中は商社、上はホテル。ここの……17階に用がある。


「……階数覚えてないの?」


 フロアマップをガン見して何が悪い。だって仕方ないじゃん。


「今端末はソシャゲでオート周回してるから開けない」


「画面割るよ」


「やめろぉっ!」


 高かったんだからなぁ!?しかも限定品!


「あ、エレベーター来た。乗るよ」


「なんでそんなに切り替え早いの?」


「……?普通だろ?」


「あ、そう……」


 愛理はたまに変なことを言うから付き合いきれない。やってきたエレベーターの17階を押して、上昇。機械的アナウンスと共にまた扉が開いたら、また聞き覚えのある声が。


「ようこそ、椎名、愛理。私の所属するチーム『産業革命』…の運営会社、『ラウンド・チャンネル』のオフィスへ」


 外行きの真面目な服を着た華蓮が、受付のお姉さんよりも早くやってきた。いつもの陰キャぶりは割と減ってる。というかバレっちの顔が半分出てる感じがする。


「そーれーでー……椎名だけじゃなくて私まで参加するの?構わないけどさ、華蓮達『産業革命』って銃ゲーメインじゃん。私は撃てないけど?」


 確かに。愛理は祭りの射撃屋台で商品を狙ったら外して跳弾して店主の後頭部にヘッドショットをキメる程の腕前。まともなシューティングゲームができるとは思えない。


「――でも、私達は"撃つ"事しかできない。だから二人の協力が必要なの」


 そして、『産業革命』は銃ゲー専門のプロチーム。……華蓮の言う通り、銃以外の武器が扱えなくても仕方はない。


「うーん……なんか複雑そうだね?ままいいよ。私は約束しちゃったし、面白そうだし。やってやろうじゃねえか!」


 私は近距離メインだけど遠距離中距離なんでもござれ。完全無欠のオールラウンダーRTA走者!何が来ようと走り抜けてやる!


「撃たなくていいなら、いいよ」


「そっか。良かった。あ、ここの部屋に入るよ」


 華蓮の喜び顔可愛い。無表情気味だけどよく見れば分かるんだよねー。っと、電子ロックで空いたドアの中に入ると、既のメンバーさんが待ってた見たい。


「オッス!オラシェリー!よろしくな!」


「アリサだよー」


 私は定番のアニメ風挨拶、愛理はゆるゆるなボイスで手を振る。すると片方のメンバーが消えて――


「え、リアルの二人ってこんなのなの!?マジ可愛いんだけど!?写メ撮ろ撮ろ?」


「ひにゃぁ!?」


「敵っ!?」


 後ろから愛理共々抱きしめられて思わず変な声が出た。愛理は……おい、敵じゃないから。ねぇ。今はまださ。

 

「レファさん…初対面の方ですよ?ご挨拶もまだです」


「っあー、メンゴメンゴ〜、シェリちゃんにアリちゃん。ウチのこたぁレファって呼んで☆」


 レファ。超ギャルっぽい、というかギャルそのものな話し方をしている高身長。いや、華蓮より高いかな? バレっちは日本の天然だけどレファはハーフっぽいから差別化はバッチリ。


「拙はスターシャと申します。初めまして、シェリーさん、アリサさん」


 そしてもう一人は……え、自前の白髪?そっか、いいなぁ。小さな女の子が座りながらだけど丁寧に挨拶をしてくれた。


「さて、顔見せはここまでにして、みんな座って」


「ういうい〜」


「離れろ」


「うぉっ!?なんかスイッチ入ってるっしょアリちゃん!?やめやめっ!」


 ……うん。何も見てない。不用意に触れたらそうもなるよね。そしてみんな席に座ったらスターシャさんが立ち上がってホログラムボードを起動。


「口下手なバレッティーナさんに替わりまして拙が会議を執り行わせていただきす」


「……ひどい」


 あまりの物言いに内心草生え散らかした。


「さて。お二人をここに呼び寄せた理由は、お分かりですよね。先日バレッティーナさんの仰ったように"大会"……そう、大会へ、一緒に参加していただけませんか」


「いいよ」


「面白そうだしな」


 当然の即答。まぁさっき華蓮にいいよって言ったしね。


「よかった。それでは早速作品タイトルの紹介からなのですが――」


 とスターシャちゃんが画面を切り替えて、ゲームのジャケ写を映す。


「バークナイト。5vs5で行うタクティカル・シューターゲームです。ゲームごとにボディを設定し、毎ラウンド初めに入るマネーを使用してアームズを購入するという過去より続くゲームの一ジャンルなのですが……」


「"五人“必要、なのね」


 残念ながら『産業革命』は三人pt。五人用ゲームを三人で戦うなんて馬鹿無謀阿保とか言っても言葉は足りない。


「なーるほどなー……でもまた銃ゲーなんだろ?」


「いえ、そこが問題なんです」


 ばんっ、と次の画面に変わる。システム面の解説に移った。


「アームズは私たちの得意とする銃、弾薬など"消耗品"を購入。ボディでは……近接武器をはじめとした"装備"を設定できるようでして。アリサさんのような近接タイプも維持費が嵩みますが銃を買わないとすれば問題無い範疇と思われます」


「ふーん……なるほど」


「つまり、ボディを強くすると維持費が掛かる。アームズ優先でいくと弾薬に縛られると。金、金、金……ゲームとして恥ずかしくないのか」


「でもボディを強くするとHPや近接装備が整えられる。アームズは遠距離攻撃が派手になる。アリサならボディ特化でいいと思うよ。遠距離攻撃しないから」


「……バレ、あとで覚えてろ」


「忘れた」


「ともかく。ご協力していただけるということで……」


 タブレット端末をスッと取り出されて


「"契約書"です。今回の大会一度だけの協力関係ではありますが、こういったものにはしっかりと線引きをしておきたいのです」


 書類の映る電子契約書に目を通す。長々とした書類は書くのも読むのも面倒だけど……大切なことだし仕方ないか


「スタちゃんこんなにカッチカチだけどさーあ、いちおー確認してあげて。一緒に戦おっ!」


 ……ラファも戦闘狂寄りだな?まぁいいか。


「よし。アリサの分も私が書いとくから、先慣れてきたら?わざわざ連れてきたってことは、"筐体"準備してるんでしょ?」


「おお〜っ、いいの!?私のやつ安いからな〜…」


 筐体ってのは業務用のクソデカVR筐体のこと。デカさと高さに見合う超性能を誇るヤツ。企業でもないと買えないんだよね。電気代もヤバい。


「うん。まだ発売前のゲームだから。機密保持とかなんとかで、外に出さないように…だってさ」


「「……はい?」」


 もう一回契約書を見直す。書いてた。『バークナイトの内容を発売前に外に漏らしてはならない』……マジ?


「"発売直前"に、プロゲーマー達を集めて戦わせて、宣伝するの」


「金持ちの考えそうな宣伝だな……」


「そして私達も、オファーは受けてた。三人だから保留してたんだけど……」


「先方に確認を取りましたところ、お二方の知名度と実力でであれば臨時の追加メンバーとして問題ないと確認を頂きました。拙としてもバレッティーナさんのご友人であれば心強いです」


「……おっけ。そこまで言われちゃあ本気出すしかないか。早速試させてもらう!」


 SWで鍛えた私の"腕前"、見せてやろうじゃない!



〜〜〜

Tips

『産業革命』の銃器と特技

バレッティーナ:二丁拳銃/跳弾

レファ:自動小銃/銃弾回避

スターシャ:単発猟銃/偏差射撃




おまけ

シェリー:サブマシンガン/無音疾走

アリサ:ミサイル/銃弾切り

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