#17 【竪穴直下】危険地帯、みんなで入れば怖くない!【暗闇空間】


「ここだよ」


「…………深くない?」


>何メートルだよ

>足滑らせたら死ゾ


 ロック・ギガントの眠っていた洞窟のある、ロックロック山脈に連なる山の一つの麓。荒地と岩場の悪いとこ取りみたいなフィールドの中、巧妙な角度で隠された位置には大きな大きな『空気孔』が存在していた。一応付け加えておくと先日シェリーが落ちたあの穴は数時間で修復されているのでもう使えない。


「うっわぁ……一人で入りたくないわここ」


 アリサはその竪穴の底に実体化させた1Goldを投げ込んだものの、微かな反響が返ってくることさえも10秒強の時間がかかった。

 

「いやアリサなら敵追っかけて突っ込むでしょ」


>わかる

>敵がこの中入ったら躊躇いなく行くよね

>アリサからは逃れられない


 天!空!と叫びながら逃げ込んだ敵を追撃→撃墜している光景が目に浮かぶようだ。


「あのさ、シェリーも視聴者もそうだけどみんな私のことなんだと思ってんの?」


「鬼神の類」


>げに恐ろしき化物

>伝説の英雄

>戦神様


「おかしい、私も女の筈なのにどうしてこんなにも差が…」


「日頃の行いじゃないかなぁ」


 そう言いながらシェリーはペグを打ち、ロープを引っ掛ける。


>……えっ

>まさかシェリーマジでか


「というわけでここから直下するよ」


 シェリーが用意した手段は無論、原始的手法素手でクライミング現代の利器下降器なんてものはない。


>こんなの英雄じゃないわ!ただの冒険者よ!

>だったら降ればいいだろ!

>そんなぁ!


「…………シェリー、ここは跳んで降りられないの?所々にある出っ張りを足場に――」


 そういう力仕事は変に不器用なバレッティーナ。やんわりと別ルートを探せと告げるが。


「バレっち、諦めて。ここしか道はない」


 暗闇の中を数時間彷徨いながらこの穴を見つけたシェリーには、他の道を探し出す余裕なんてなかった。なんなら目がちょっと社畜と化している。


「――じゃあ、貸し一つ。今度、"大会"手伝って。四人用の奴」


 バレッティーナはそれを知りながらもシェリーが日頃から嫌がる大会出場をチラつかせてみる。が。


「その話は後でして」


 嫌度はルート探索>>>>大会出場だったようで安請け合い。一緒に戦えるというのならとバレッティーナもやる気を出した。


「ん。よし、頑張る」


>クールというより無垢に見えてきた

>かわいい

>コレが…ギャップ萌え…?


「ん〜…っと、それで光源はどうするの?ボクは持ってないぜ?」


>前回それで怖かったからなぁ

>たしかに

>暗室温室暮らしワイ、泣く泣く電気点灯した

>キノコか何か?


「ふっふっふ…安心せい、私には生産PLが味方についている…」


>まさか

>またか

>シェリーのスポンサー…


「この携帯ランタンがあればどうにかなるぜ!」


「お〜…ボクもその口上真似しようかな」


「やめといた方がいいよアストちゃん、シェリーが特殊なだけだから」


>#[この携帯ランタンはFald-Smith製です。シェリーの配信を見た、と店頭で仰っていただければ1割引にさせていただきます。数量限定ですのでお早めに]#

>マジでプロモーション入んのやめろ

>笑う

>普通に便利なんだよな、買うか…


 もはやジェバンニが如き扱いをされつつある気もするミーシャだがその品質は上々。腰辺りに装着すると周囲がある程度明るく照らされる。


「下降りるまではコレで。松明も何本か用意してるから」


>仮面は?

>儀式しろ


「しないから……」


>盗賊相手にはするだろ

>期待して待っとくわ


 コメント欄から目を逸らしながらシェリーは三人に向き直る。咳払いをして。


「……ヨシ!それではコレより[M-ore]のいる空間まで向かうぞー!」


『おー!』


>おー!

>Ураааааааа!!

>赤いのは北に帰って


 そんなわけで始まった降下作戦。順番はシェリー→バレッティーナ→アリサ→アスト。ロープとペグを持ち込んでいるシェリーが先頭、それより後ろはヤバい時に潰しが効く順。特にアストは蛇腹剣ブラキオンで難を逃れやすい。


 全員納得してのこのチーム編成ではあるが、本当に、本当に一つだけ致命的、かつどうしょうもない問題点が発生している。


 お気づきだろうか。


 そう、この竪穴を降りる配信の光景は。


 ――――――ただひたすらに、絵面が地味なのである。


 上も下も暗く、岩壁に囲まれた空間を降りていくだけの絵面。ランタンで四人の姿は見えるとはいえ、雰囲気は暗転した劇場の舞台。しかも明転の予定は遠い。視聴者は暇を持て余す。


>[ksk]

>しりとりしようぜ

>いいよ りんご

>ごま

>マルセイユ

>ユッケ


 なのでコメント欄でしりとりをする事にした。一番ひどい時はシェリーが寝落ちした時で、寝落ちの神シェリーが目を覚ますまで探索者達がコメント欄にいた。


「おいコラコメント欄!なんで勝手にしりとり始めてんだコラァ!」


>現実逃避

>暇すぎてな

>ナイフ

>風呂入ってくる


「ざけんなww会話でまでしりとりすんなしww」


 笑い声が竪穴に響く。一人ずつ慎重に降りているのに退屈し、尚更コメント欄のおふざけは加速する。


「視聴者と距離が近いっていいねぇー、いつもの番組ならこんな地味な絵面事故だよ事故」


>割といつものこと

>わちゃわちゃはしてないけど頑張ってるの見てるの楽しいわ

>こういうのが好きで個人勢ばっか見てる

 

「よく言えば常に楽しくて、悪く言えば息を抜く暇がない。シェリーはそういうとこ特殊だよねー」


>オマエモナー

>生配信ならでは


「変に人望ある」


>[シェリー愛してるぜ!]

>シェリーの声聞いてるだけで癒される

>オファニエルは勘弁w


「褒めてるのか褒めてないのかわからないから反応に困る…私のことを嫌いになってもオファニエルの事は嫌いにならないでください!」


>逆だ逆

>何しても怒らないし嫌いにはならんよ

>じゃあ続けんぞ ルビー

>伸ばし棒の前?音?

>棒から

>おけ イーリス


「だっ かっ らっ……ww」


「シェリー、ペグ打つ手が止まってる」


「わかっとるわ!」


 そんなやりとりをしつつ1時間。ひとまず歩ける程度の傾斜角の位置まで降りてきた。ここからは徒歩でも構わないだろう。


「到着〜!」


「おーおー、想像見てたより結構荒々しい。興奮してきた」


「まだ暴れないでね?」


 薄らと闘気が見えるような笑みを浮かべアリサが言うが、やはりアリサの言うように地面は荒い。灯りを灯しているからよく見えるが、引っ掻き跡――というよりはスパイラルなドリルのように見える。しかも。


「……所々引き剥がされてるみたい」


「いや〜…怖いねぇ〜、ホラーだホラー」


 所々不自然に何かが抜けたような穴が。そんな穴ぼこはどれも表現がざらっとしている。それに触れたアリサが何か、深い顔をしながら呟いた。


「野生の息吹を感じる……」


>どういう事なの?

>何かシンパシーを感じたんでしょ


「たまにアリサが何言ってるのかわかんない時がある…」


>強く生きて

>ゲームで配信してる奴も動画投稿してる奴も全員頭おかしいから安心して


『は?』


 シェリーのアリサの合体技。エコーヤクザボイス。軽い気持ちで煽った視聴者に対しては一撃必殺。


>\[ゆるして]/

>即堕ちで草

>赤にしろ


「まぁ気にしてても仕方ないし、進むよ〜、ここからは道なりだと思うから〜」


「…"思う"ってどういう事?」


「数日に分けてマッピングしたんだけど、私がログアウトしてる間に道が"増えてて"さ。自作とはいえマップが信用できないんだよね」


>なにそれこわい

>マジでホラーで草


「ほらほらやっぱりホラーじゃん!ボク怖いのやだよー!?」


 この地底トンネルはなんと公式ミニマップ非対応。公式のマップはSWORDの世界を鳥瞰したかのようなマップであるからか、一部の場所を除き地中、及び位相のずれた別空間を全く見通せない。化物共がこのような場所に好んで潜む理由の一つだろう。


「不思議のダンジョン?」


「あながち間違っては…ないかなぁ?」


>そんなダンジョン探索したくねえなあ

>マップ屋毎日走らないとじゃん


「なら、ただ進むだけ。安心して。今日の私は調子がいい」


 バレッティーナが気合いを入れるようにそう言った。理由は推して測るべし。


>降りきったらテンション上がったな

>怖かったんだな…

>わからなくはない


「……私のイメージ、もしかして崩れ気味?」


「…?そう?」


>ソンナコトナイッスヨ

>バレ様美しいやったー!

>よきです


「…なら、いいけど」


 前途多難の地下探検。闇に包まれた先の魔晶洞まで、無事に四人は辿り着けるのだろうか――

 

〜〜〜

Tips ひきころ小話

みんなの怖いもの

シェリー:ガバ

アリサ:敗北

バレッティーナ:高所と暗闇

アスト:???

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