#18 【強行突破】なぞのばしょでノリに乗って【地下通路】


 突入から10分程。今の所はエンカウントなし。雑談を交えながらもシェリーはボスの考察を進めていた。


「今回の化け物の名前は[M-ore]。見た目からしてモグラがモチーフなことに変わりはなさそうだけど……なんか違うよね?」


>モグラのスペルはMole

>よく覚えてんな

>予測変換で出る


「簡単なやつなら出るよね。翻訳アプリまで行かなくてもいいから楽々だわ〜」


 翻訳技術も進んでいて、シェリーは今もリアルタイムで全世界配信中。つまり世界中の暇人がシェリーの奇行配信視聴でき嘲笑えるようになった。もちろんゲーム内会話も同様。


>文明の利器に頼るな

>ネットは文明の利器では…?

>原始人ニキ、脳でネットと繋がってるの?


「たまにいるよね。脳の中に爆弾CPU入れてるやつ」


>言い方w

>あながち間違ってないからなぁ

>大陸の方でそんな事故あったよな


「画期的だけど怖いよね〜、あれ。サイボーグはゲームの中だけで十分だよ」


 なおその会社は他に違法行為が露見して処罰対象に。時間も立たず廃業になっている。元が軍事メーカーだった為国ぐるみでは?と言われているが真実は誰も知らない。


>だから数十年前と今の街の姿はあんまり変わらないんですね

>そこに人間なのか怪しいやついるけど

>バレ様は人間だが?


「……多分」


「そこは否定しなバレっち?」


 本人も愛銃ならばフルオート中でも跳弾でぶち殺しにかかれるのは人間業なのか少し怪しんでいる。その結果が整然と並ぶ彼女のホルダータイトル達なので否定はしないが。


>草

>自分でも怪しむのか…

>跳弾使いは全員おかしい


「ふふっ…まー、話を戻すけど。スペルの違いはあやしいよねー」


>前回もzombieでいいのにZなんとかだったしな

>そういうネーミングなのか?

>ore…鉱石か


「ああ、だから所々不自然に抜けてるのかな? 鉱物吸い取ってるとか」


>なにそれこわい

>なるほど…?


 窪みの中にシェリーは手を伸ばしてみると、帰ってきたのはサラッとした塵の感触。結合を失って散らばったパズルのような感覚。


「あ〜……割と近いかも。ゴロザラっとしてる」


>わかんね

>日本語でおk

>金属製の装備には気を付けろよ


「…………私らの装備って金属かな?」


>アリサとアストがやばいかも

>軽鎧だからな

>シェリーは金属から肉鎧にすればヨシ!


「くっ……ここにきてアレが有用性を発揮するのか……」


>録画準備しておきますね

>wktk

>やめろよ!?公式切り抜きでもみろよ変態!


>[もっと!もっとだ!]

>[ありがとうございます!]<

>ひぇ…プロの変態だ…

 

「シェリー、蜘蛛さん来たから準備して」


 カカカカカカッと素早い足音を立ててそれは接近する。金属を啖い溜める事しか知らぬ白痴が、異音を聞きつけたようだ。


「……改めて見るとクッッッッソ気色悪いな!」


 全身を艶の消えた金属質の皮膜で覆い、糸を吐かず金属のみを溶かす溶解液を分泌する蜘蛛型の地下生物。


>虫嫌いなん?

>嫌いというか見かけるとすぐ燃やすタイプ

>森エリアが火の海になる


「やーっと戦闘だ……ここまで長かったもんなぁ……」


 フラストレーションの溜まっていたアリサがサードムーンで肩を叩く。重力なんて無視する程の歪んだ狂気テンション。瞳から青い焔がゆらりと見える気がする。


「アリサ?数はそんなにいないから抑えめで――」


 アリサは 命令を 無視した!


「全部すっ飛ばしてやる!」


 アリサの逆鱗!

 金属蜘蛛A 金属蜘蛛B 金属蜘蛛C 金属蜘蛛D は吹き飛んだ!


「わー、アリサちゃんたのもし〜。で、止めなくていいの?」


 そしてアリサは何を思ったか楽しくなったか暗闇の中へと走っていく。彼女の腰につけた携帯ランタンが、遠くに行った唯一彼女の生存を示す。


「ああ、うん。止めたら逆に性能やるき下がるから。ほら、アリサが別の道に行かないうちに走るよ」


「了解」


「え、えぇ〜……」


>早く慣れた方がいいぞ

>出演二回目だけどな

>元動画でも気分で敵軍を必要以上に……

>見てくるわノシ


「いや私の配信見ろよ!!!!」


 そして一行はアリサの先導暴走に巻き込まれながら地下を進む。時々蜘蛛が吹き飛ばされて潰れた音がしたり、道を間違えたアリサにシェリーが呼びかけたりしつつ、彼女らは光の元へ辿り着いた。


>抜けた!

>長かった!

>マジで移動で時間かかりすぎで草


「マジでアレ運が良かったんだなーって」


 シェリーにとっては幾らか見慣れな光景。長年かけて形成された魔晶が輝く青い洞窟。加えてその中心でいびきをかく化物。摺鉢状に広がるこの空間は、大立ち回りをするには高低差も広さも充分だろう。だからエンジンの入りっぱなしのアリサはダイナミックエントリー。サードムーンを振り下ろしながら、落下する。


「とぉぉぉちゃぁぁぁくっっっ!!」


「あ、行っちゃった」


 その威力は質量と加速を加え、巨大なものとなる――!


>作戦なんてなかった

>死ゾ

>ひどい

 

 アリサの一撃は化物のドテっ腹に見事命中。安全な此処で惰眠を貪っていた化物は寝起きに重たい一撃を喰らい、HPゲージをゴリッと減らした!


――

異世界の化物[M-ore]と遭遇しました

――


『ボォォェェェッッ!!??』


>空き地にいそう

>うるせぇ

>クッソ野太くて笑った


「――ッッッ!?」


「うる、っさ…」


「咆哮ってマジできっつ〜…」


 閉鎖空間なのが災いし、その咆哮は洞窟全域を反響する。魔晶もそれに共鳴する為鼓膜どころか此処にはない脳さえも揺さぶってくる。


「やば…混乱受けピヨった…」


 そしてシェリー、バレッティーナ、アストの三名は膝をついた。バットステータス[混乱]。プレイヤーに送信される五感が全て異常なものに変換されてしまうある種最強のBS。


>カスじゃん

>うっわ、そういうことか

>ゴミがよ…

>ニートに自宅で勝負を挑むのが間違いだったな


「oops…」


「さいあ…く……」


 頑健を持つシェリーはまだマシだが、肉体がデフォルトスペックのままな二人は未だ悶えている――が。


「無駄に吠えてんじゃねえぞオラァァァン!!!」


 腹の上から一打二打三打四打殴打。アリサはまさにハンマータイム。


『ボォッボフッボェッボガァッ!!!!????』


>安定のアリサ

>こいつなんで混乱効いてないの?

>狂ってるから…かな?


「ちょっと話聞けアリサぁぁぁぁぁ!!!」


>この騒音止めてくれ

>死ぬww


 未だ混乱中のシェリーはオファニエルを奏でて強引に前進。崖から回転しながら飛び降りて、アリサの横に並ぶ。


「アリサっ!殴るなら腹じゃなくて頭!あいつの声のせいで混乱ばら撒かれてる!」


>そこ?

>まぁ…たしかに?


「あぁ〜!?あぁ、この妙な感覚は混乱だったか――気持ちいい殴りの時間にノイズ挟みやがってああ腹が立つ!」


 更にキレてキレッキレな頭のキレてるアリサはデカく踏み込んで膨れた腹を踏みつけ進む。未だ起き上がれない化物はもはや少し柔らかい毛の道だ。腹の衝撃が止まり漸く起きあがろうとした折、アリサはサードムーンを振りかぶって。


「寝ろやボケェェェっ!!!」


『ボォォォェェェ!!!???』


 脳天フルスイング。化物は枕なんてない床に頭をぶつけて再就寝。現実なら脳震盪でぐっすり永眠できそうなレベルの気持ち良さ。


>ドゥームサービス

>元無双ゲーのWRに勝てるもんか

>やってみるか?コレはMMORPGだ

>いいや結構、遠慮させてもらうぜ


 そのまま頭をぶん殴られて口を殴られて、声を出せないよう何度も何度も叩かれて。体力はガリガリと削られてゆく。


「耳障りすぎるんだけどぉ!?」


「こいつが殴る度声を上げるのが悪いだろ!」


>声を上げる方が悪い(責任転嫁)

>殴ってんのはお前なんだよなぁ

>[アリサ、ほんと、キツイから]

>バレ様ww

>離れちゃったから聞こえないもんね…


「だぁぁぁぁイラつくなぁ、もうっ!」


 アリサはコレで潰すと意気込んで飛び上がる。サードムーンを両手で持って、回転しながら自由落下。そして先端を喉元ドストライクへと、


「SMAAAASHッッッ!!!」


『――――――ェェッッ!!??』


「ローリング・バスターだッッ!!」


>違うと思う

>違うゲームのやつですよね?

>それ大剣じゃなくて斧スキルの奴だよな?

>生身でスキルのモーションを再現すんなよ…


 アリサの放ったその一撃により、化物のHPゲージは累計3割削られた。オファニエルはクソ乱数を引き続け足止攻撃Iは意味を成さず、HAの助力によって化物はついに起き上がる。大きく息を吸い込んで、咆哮を――


「「いい加減、黙ってろ!!」」

 

『ボォォェェェブッ!?』


>此処ベストシーン

>息ぴったりの幼馴染だなぁ…


 しかし悲しいかな、息を吸い込んだタイミングでHAは消滅。落ちていたアリサは左まで跳んで、シェリーはオファニエルで右に登って。それぞれの方向から相棒をその頬にブチ当てて暴力的サンドウィッチの完成。最早サンドバック君と呼んでしまっても間違ってはいない気がする。


>かわいそう

>ギャグアニメなら目が飛び出てた

>ふぇぇ…


「っふぅ……」


「はぁぁぁぁ……」


 着地でズサりながら二人は怯む怪物を見据える。上から漸く二人が降りてきて、今度こそフルパーティの形成だ。


「待たせたなっ!」


 アストは着地でフラつきながらカメラにデカデカと笑顔とピースを向ける。


>遅かったじゃないか…

>混乱大丈夫?


「メチャクチャキツイ!」


>草

>無茶すんな


「ぅ、うー……ふぅ、よし」


 バレッティーナは静かに降りるも目を閉じて息を整える。本気でキツそうだ。


>バレ様…

>おいたわしやバレ様

>混乱苦手なのか…


「スタグレ事故よりはマシ。さぁ、行くよ」


>死ぬなよ

>ここで死んだら穴の上からやり直しだからな!


『ボ、ボゥエ…』


 少し泣いているような声を漏らす化物だが、戦意が潰えたわけではない。金属質の腕と爪をキンキンと鳴らし、臨戦態勢。本当の戦いは、ここからだ。


「あと7割。四人でかかれば…一瞬だな!」


「MVPはアタシが戴くぜ!」


「ちょぉっ!?出番無理矢理奪っといてそれを言うかっ!?」


「あーあー……化物、来てるよ?」


 コラボ配信二回目の山場は、まさにここから始まるのであった──。


 


〜〜〜

Tips BSについて

プレイヤーにダイレクトアタック仕掛けてくるBSと操作キャラに負担のかかるBSが存在する。

混乱は前者で、毒・麻痺が後者。


混乱:五感情報ジャミング

行動不能:全感覚情報と操作遮断

睡眠:テンション爆下げ+眠気

毒:HP時間経過減少

麻痺:操作遅延+不定期停止


といった感じ。まぁ、大体全部不快なことには変わりないです。混乱は起きやすい上に効果が凶悪なので特に嫌われてます。

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