配信十日目

#16 【下準備】バケモンハンターは4人まで【作戦会議】


「アッロハ〜☆シェリーの昆布巻き配信 in ハワ〜イっ☆ 今日は衝動買いしたハワイ風ステージから配信をお送りするよ!」


 今日のシェリーは水着仕様。海だから海賊風の帽子を被ってマントを羽織って、眼の色と同じ赤い水着を着ている。ちなみに謎の力でマントはズレない。


>わこつ

>わこっつん

>わこつんどら


「進化した上氷になるな。夏だよ?かき氷食べたくなってきたな?」


 そう、ただいまシェリーは夏休み中。長期休暇という事は、配信が増えるという事。というわけで今日は昼から配信中。お昼ご飯はオムライス。


>#[ステージ代]#

>[クリエナ代]

>おまいらもっと財布の紐閉めろ


「スパチャありがとね!?でも金もっと大事にしてね!?」


>でぇじょうぶ

>スパチャは給料までだ

>家賃だろww


「っふふww そこはスパチャで言わないのかよ…ww」


>変にツボったな

>今日はゲストいるの?

>というか奥に誰かいるよな


 カメラ奥の海沿いでは水鉄砲の戦争が行われている。一人はアサルトライフル、一人は二丁拳銃、一人はショットガン。シェリーも海賊らしくリボルバーをぶら下げている。


「ふ〜…wwんんっ、そうそう。コラボ配信だよ〜。MMO遊ぶならやっぱマルチプレイじゃん?というわけで、特別ゲストをご用意しました〜!」


>狂戦士と銃キチだろ 私は賢いんだ

>いや、3人いない?

>マジで?


 奥で水遊びする3人をシェリーは呼び寄せ、自己紹介のターン。とはいえ最初二人は二回目だから流れで終わる。


「まずは一人目っ、アリサ!」


「おひさ〜、元気してた?」


 ヒョコっとカメラ内に現れたアリサ。アリサの水着はパーカー水着。ピンクと白のフワッとした模様で、彼女の(数少ない)可愛さが目立つ。メガネも足して可愛さブーフト。


>あれだけ狂っておいてまた顔だしたのか

>あれが素だった可能性が微レ存

>なるほど


「……視聴者こいつら殴っていい?」


 殺意に満ち溢れた笑顔でシェリーに問いかける。可愛さで覆いきれない。いや、可愛さと合わさって無垢な殺意として視聴者を襲う。


>ひぇっ

>ごめんな

>おい途中で送信すんなw


「こいつらゴーストだここにいないから効かないよ」


「チッ…命拾いしたな」


 アリサは殴れないなら仕方ないと引き下がりパラソルの下でハワイアンドリンクを啜った。一応、甘い味に緩んだ顔は可愛かった。


>たすかった

>ゆるされた

>許されてはなくない…?


「じゃあ二人目は〜…バレっち!」


「詠唱短縮。チーム『産業革命』所属 、BANG BANG バレッティーナよ」


 スッとカメラインした彼女の水着はリゾート地にいるセレブ達のようにエレガント。幅の広い帽子とサングラス付き。


>勝ったな

>ヒューヒューバレ様〜!


「ふっ――私が、来た」


 気分を良くしたバレッティーナはバァァァァァンと効果音が鳴りそうな奇妙な立ち姿を取る。代名詞とも言える二丁拳銃と併せてよく決まっている。


>カッコよすぎる

>え、ダサくない?

>コレがな、かっこよく見えるお年頃なんや…


「そんな」


「うん私もちょっとダサいと思う」


「……そう」


 明らかに凹んだ様子でハンモックに腰掛けるバレッティーナ。夕暮れの公園でブランコに揺られているOLのよう。それにシェリーは哀れに思ったが無視して最後のコラボ相手の番に。


「そーして、3人目は〜……この人っっ!!」


>やっぱニューフェイスだ!

>誰だよ

>[期待]


「いぇーすっ!ボクの名前はアストっ!シェリーの視聴者のみんな、初めましてーっ!知ってる人はいつも応援ありがと〜っ!」


 スタッとバク宙で最後のコラボ相手が登場した。その人物の水着は上はチューブトップ、下はパレオを巻いた桃色の髪に桃紫眼の人物。


>女がまた増えた…百合ィ…

>アスト…?

>聞いたことあるが……誰だったか


 視聴者の間でも驚きと疑問が浮かぶ。それを見てアストも疑問符を浮かべながら何気なく爆弾投下。


「?ボク、男だけど」


>こんなに可愛い子が男なわけ

>マジなんだよねぇ

>どこでアストなんて捕まえてきたの?


 名をアスト。"彼"はVR配信番組専門の人気タレント。テレビが衰退しさまざまな動画配信chが犇くこの時代。個人chでない企業chは、"出演者"を集めるのにやはりタレントや芸人を起用していた。アストもまた、そういった起用される側の中の一人だ。ただ、シェリーの層とアストの層は少しすれ違っていたらしい。ちなみに、二人が出会った経緯はこちら。

 

「野良パで出会って意気投合した」


 以上。幾らか他にも理由はあるがコレが一番だろう。この四人の立ち位置を例えるならシェリーが冒険者、アストが傭兵、バレッティーナは兵士。そしてアリサは村人――いや、山奥の仙人に相当する。

 

>えぇ…

>草

>そっかぁ……


「いや〜、ほんとにボクら気があっちゃってね!」


「まーじでビビったよ、クエストのランダムマッチで出会うとか思ってなかったし。本当私の運って強々じゃね?」


>せやな

>(悪)運は…あるな!


「おいコメント」


 ウガーッとコメント欄に噛み付くシェリーを見てアストは興味深いなぁという目を向ける。


「へぇ〜、シェリーの配信ってこんなに距離近いんだね。ほらほら、ボクっていろんなチャンネルに主演するけどさ、大体"動画"だったり"公式配信"だったりして視聴者の反応にリアルタイムで返せるのって新鮮なんだ〜」


「あーなるほど?確かにね?」


>企業chはなぁ、派手だけどそういうとこあるよな

>SNSもちょっとちがうしな

>場末のゲーム配信へウェルカム……


「なので今日は仲間に入れてくれてサンキュー☆お代はボクの思い出というわけでプライスレスっ、だーぜっ☆」


>うおっ眩し

>これが…本業の力…!


 アストはシェリー以上のタレント力でキラキラしている。だが男だ。


「コイツの単価ウン十万とかするからな。個人のクセに」


「何言ってるんだよー、シェリーだってそのレベルで打診来てるっしよ?」


「おおっとぉ?それ以上はシャラップしろぉ?ってかなんで知ってんだアストぉっ!?」


「だって、同業者だからね!」


 思わぬカウンターに震えるシェリー。勿論、個人勢の配信者もタレントとしてオファーを受ける事がある。であれば個人勢の中でもかなりの登録者数ファンを抱えるシェリーも、そういった話を受けない筈はない。ぶっちゃけかなり来ている。が、あくまでも趣味でやっているのでと全てお断り中だった。


「違うが!?」


>出ないのー?

>いやシェリーが出たら配信壊れるだろ

>企業配信で大人しくできる気がしない


「………よーしメール返信しようかな」


「いやシェリー配信中だよ?」


>いつものことだからセーフ

>シェリーの配信は初めてか?力抜けよ


「お〜……すごいイラッとくる、なるほどコレが配信の醍醐味ってやつか!」


「違うが?」


>変な反応するなぁ

>ポンコツかわいい


「アストの武器も割と面白いからお楽しみに〜♪」


>期待

>wktk


「えー、ボクの剣はかっこいいだろ?」


「かっこいいより面白いが勝つかな……」


>なるほどね

>まだ見てないだろ


「じゃあ早速ログイン……おい二人ともいい加減機嫌直せ!」


「あ、これ飲み終わるまで待って――」


「……私、ダサくない?」


「アリサは飲むのやめろバレっちは言いすぎたごめん!」


「チッ…」


「……わかった」


「コレぞ個人勢って感じするよね。良くも悪くもフリーダム、っての?」


>わかる

>わかる

>#[みんな個性出てて可愛い]#


 機嫌を直したアリサとバレッティーナ、特別ゲストのアスト。そしてホストのシェリーは仲良くSWORDにリダイブ。少なくとも近々実装されると噂のクラン機能が実装されるまではこのままだろう。


「さーてさて、私の紹介は要らないよね?」


 シェリーの装備は一週間の時間を経てもあまり変わっていない。魔晶バブルで稼いだ金は幾らかのアクセに使われたが残りは貯金中。前述したクラン資金に回す予定らしい。


>[シェリーの装備の提供は、Fald-Smithでお送りしています]

>流れるような宣伝

>実質スポンサー


「スパチャしてくれてるから何も文句言えねえんだよなぁ」


「うーん流石シェリー、そういう奇特なファンを抱えてるのって羨ましいなー」


「アストも中々じゃん…」


>男と知って脳が破壊された

>くそう

>可愛いのについてるからお得


 そんなアストの装備は水着と同じくチューブトップに萌え袖、ミニスカート+ニーハイ。そして武器は一見すると普通の剣に見えるが……


>なんか折り目ついてる?

>折り目っていうか切れ目?


「おおっ、お目が高いねぇ視聴者達!そうとも、ボクの武器はこれ、ブラキオンさ!」


>露骨にテンション上がったな

>かわいい


──

[ブラキオン]

カテゴリ:蛇腹剣

ランク:I

属性:雷

特徴:強靭耐久、形状伸縮、麻痺属性

──


 アストの得た魂魄武装はブラキオン。剣というオーソドックスなシリーズの中でもアリサと同じく異端であり別方向の極地、蛇腹剣。現実には存在し得ない浪漫の塊。『こんな可愛い子が男なわけがない』という言葉と同じレベルであり得ないキワモノだった。


「なんてものをつくってしまったんだこいつは」


「シェリーがそれを言うの?」


>人のことを棚にあげるな

>バレ様にも言われてる

>草


 カテゴリそのものから浪漫のシェリーにはイカレ度は劣るものの、それでも扱いの難しさはどっこいどっこい。常人は扱えないという点で。


「あーもー……さっさとしようよ、絶対あれ硬いんだし。早く殺りあいたい」


>こわい

>コレが将来の殺人鬼ですか


 サードムーンにもたれ掛かるアリサが欠伸をするように殺意を溢す。


「怖いよアリサちゃん」


「あれ平常運転だから気にしたら負け」


>慣れろ

>アーカイブ何回見てもあれはやばい


「え〜……女の子なのに」


「なのにね〜……」


「おっ?やるか?私は今怪力I持ちだぞ?」


 顔ニコッ、首コキッ、指パキッ。


『ヒェッ…』


>ヒェッ…

>やめてクレメンス…


「シェリーもアリサも私も今やランクIII。ランクIVまではまだ遠いけど」


>おめ

>上がってたか

>早くない?


「…えっ、ランクIIなのボクだけなの!?」


 しかし、シェリー達3人はこの一週間で成長した。ストーリー一話分の経験値を一気に得た上で一週間を過ごしたため、現状他のプレイヤーと比べ一回り程成長していると言えるだろう。シェリーは肉体強度を向上する頑強I、アリサは筋力を向上する怪力I、そしてバレッティーナは自身の速度を上げられる加速I。前の二人が体質、バレッティーナのみが技能のスキルを選択した。


>かわいそうに…

>コレはシェリーさんのガバでは?


「……まぁなんとかなるでしょ!」


「千切れないと…いいなぁ」


 ブラキオンは蛇腹剣。いくら魂魄武装を常時強化(弱)する武装強化Iを持ったとしても、耐久からは一抹の不安が拭えない。


「大丈夫。私が守るから」


「ヤダ何この子…イケメンっ!?」


>強い

>これは強キャラ

>一周回って裏切りそう


 しかしアリサの安定感がそれを払拭。サードムーンという暴力と揺るぎない自信殺意が全てを解決する。


「……アリサって、言いくるめか説得を肉体言語で確定ロールできそうだよね」


「禿同。……あっ」


  バレッティーナの呟きは視聴者達に拾われずギリセーフ。キャラ作りも楽じゃない。


「よっし!出発ぅ!」


「ボクは準備万端だー!」


>レッツゴー!

>進撃のアリサ

>脳天狙わなきゃ…


「……道案内は任せて。配信外であそこまで行くルート見つけたから」


 アリサの掛け声で一行は出立。長いボスまでの道のりを、いつものようにノリと勢いで進むのであった。



〜〜〜

Tips ひきころ小話

ぶっちゃけシェリーは配信稼業だけで生きていけるくらいの収入を得ているが学生の間は専業にはならないつもり。

バレッティーナはプロ契約中なので言うまでもなし。

アリサは親の仕事を継ぐ予定。


そしてアストはタレント専業──のつもりなのだが、リアルの元職場に度々応援として呼び出されている。VRは164cmだがリアルだと高身長。

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