#15 【どこここ?】目を覚ますと知らない洞窟だった【詳細不明】


 暗い。暗い暗い地の穴の底。王蛇の開けた穴と偶然繋がったらしい地下空間で、シェリーはギリギリ生存していた。勿論今日のデイリークエストはコンプリート、ギルドに帰れば報告完了、報酬を受領できる。

 

>起きろー!

>もう1分くらい気絶してたぞ

>リアル疲労か?

>クリエナ飲んでたのか


「ん、んん……」


 シェリーはドロリと溶けきって疎らになった肉の床で目を覚ます。未だに付着する肉片を振り払って、色の薄くなったイモータル・オルタも装備解除。真髄解放のクールタイムが明けるまでは性能がガタ落ち中。


「えーと……倒してからの記憶ないんだけど、どこここ?」


 止めれずにずっと時を刻んでいたタイマーを消し、ひとまず立ち上がるシェリー。上を見るが流石にオファニエル無しでは登れないだろう。


>地下

>上の穴から落ちてきた

>マジ気絶?

>体調悪いなら休めよ


「ん…いや、リアルの私は健康。びっくりしたよ、だって全感覚遮断されてたんだから」


>は?

>えっ

>全感覚遮断!?


 フルダイブゲームが世に現れてから最初に行われた機能規制の対象である『全感覚遮断』。今でこそ原因となった発狂事件の発生から時間が経ち、実装はR-15以上のみというラインが引かれたが今でもトラウマ耕作機と名高い悪魔の機能。

 ちなみにレーティングも仕様が変わりR-10、R-15、R-18、R-20という四区分の免状式となった。R-20は"嗜好品"や"歓楽街"に関するものなので年齢制限が存在するが、単純なゲーム機能だけで言えばR-18まででほとんど制限はない。勿論シェリーは18まで取得済みである。閑話休題。

 

>つくならもっとマシな嘘をだな

>シェリーあれいけるのか

>R-18の免状試験、遮断1分で割とキツかったのに…


「いやマジだって、私がゲームで嘘つくことなんてないから。クリエナの味もしなくてビビったよほんと」


 この態度を見ればわかる通り、シェリーはいつも騒ぐわりに人格強度が高い。そのわりに煽り耐性は低いが。そして当の彼女は適当にウインドウを操作して普通の鉄剣を装備。オファニエル使用不可時の予備武器だ。


「んっん〜……オファニエルでの暴れしか知らない人向けに、セーブポイントまで真面目な"シェリー"見せよっかな?」


>楽しみ

>逆に真面目じゃなかったのか…

>古参的にはオファニエルのはっちゃけ具合の方が新鮮だったぞ

>[片手剣であれば在庫がありますよ]


「営業トークありがとね。気が向いたら行く行く。私は心眼なんとなくで進むから光量補正は適当に各々でよろしく〜♪」


>おっおう

>雰囲気に不釣り合いな…

>安心するな

>[次の来店までに携帯ランタンも準備しておきます]


「私が買う前提だな?買うけど」


 シェリーは軽く振り回して重心を把握した後、正面の闇へと歩みを進める。この場所への困惑と期待がそれぞれ半々といったところか。暗い場所なら暗いなりにある進みみ方というのを最低限のアイテムでこなしてきたシェリーにとってこの程度は屁でもない。


「割と静かに行くから、コメント返しも抑えめで行くよ」


>りょ

>あらやだかっこいい

>普通の武器を持つと普通になるのか…


「そこ、うっさい」


 荒々しくゴツついた地下空洞。歩きにくいが戦いには不利な程度だ。シェリーにとっては用心すればそう難しい足場でもない。惜しくは今の剣は普通の剣なので光を反射してしまうところか。薄ら蛍色に光る鉱石が地層に混ざっているのが幾らか救いか。


>洞窟といえばキノコだが生えてないな

>もしかしたら新しいのかもなここ

>新しい洞窟ってこと?

>また化物案件っすか

 

「……ああ、そうかも。この先に異世界の化物がいるかもね」


 この荒々しさは自然に形成された洞窟というよりは、視聴者の考えたように化物が強引に切り裂いた結果生まれた道跡と考えた方が納得できる。


「しかも、ここまでいた生物って…アレだけ?」


 シェリーの指す先には石を食べている蜘蛛型のモンスターが数体。見る限りは現実に存在しない系のエネミー。暗くて見えにくいが足先で小突いて鉱石を探査しているように見える。


「ああいうのって私らの装備までお構いなしに食いそうだから怖いなぁ…」


>装備を溶かされたシェリーBBまだ?

>ガタッ

>座ってろ


「ここで戦っても不利なだけだから避けるよ。右に偏ってるし左からすり抜ける」


 一緒に出しておいた鞘に剣を戻し、抜き足差し足忍び足。想定通り目は悪いようで、シェリーには全く気づかない。


>近くで見ると尚更怖いな

>蜘蛛怖いから落ちるわノシ

>ノシ

>逃げるな卑怯者


「――ふぅ、追ってきては……ないか。肉食じゃないからかもだけど」


 離れたのを確認してホッと一息。スキルの補正がなくとも細心の注意を払えばこの程度の隠密はシェリーに言わせれば"簡単"だ。


>おめ

>気を抜くなよー


「ありがと。このままいけば……待って、何か聞こえる」


>おん?

>何も聞こえない

>予備の鼓膜見つけた

>鼓膜破壊ニキおかえり


「遠くからだけど……削る音かな。ガサッガサッて。音量最大にしたら聞こえるかも」


>蜘蛛の音じゃないの?

>言われたら…ちょっとだけ

>全然わからん


「進めばわかると思うけど――あ、また蜘蛛がいるからシーね」


>うぃ

>爽快感が足りない

>アーカイブ行け




 


 そんなこんなしばらく徒歩で暗闇を進んだ先。一定の高さを保たず畝った道は、急に光を持ち合わせ始めた。

 

>明るくなってきた

>光量補正消してもよさそう


「うーん……ちょっと怖いな。光が“白い"から」


>というと

>なんで?


「溶岩で明るいなら赤とか黄色になるけど、ほら、ここはすごく白い。幻想的な雰囲気だけど……なんにせよ先に進もう。今の私に失うものはないし」


>そういうところ好き

>[骨は拾えませんのでご了承を]


「大丈夫帰るつもりだから」


 周囲に気配は感じない。光の元へ比較的急いで進むと……そこはあちこちから魔晶が生えて光を放っている天然の地下空洞。現実で言えば鍾乳洞のような成り立ちを辿ったいわゆる魔力溜まり。


>うぉっ眩しっ

>目がぁ…目がぁ…

>光量補正切らないからだぞ

>サングラス最強


「待って、何あれ…」


 だが、外縁部にいるシェリーが下を見下ろすと大きな金属質の皮膚――いや、外骨格を纏った寸胴型の巨大生物が砕かれた魔晶と共に大の字で寝転がってるのが見えた。


>でっっっか

>有識者あれ何?

>モグラかなぁ…


 その体の太さはシェリーが通ってきたトンネルと大凡同じ。他に幾つか出入り口らしき穴も見える。つまりこの地下に作られた巣穴トンネルはコイツのものということになる。シェリーは目の前に出てきたウィンドウを見て、一つの決心をした


「…………セーブポイント探すよ」


>は?

>おいシェリー、突撃しろよ

>それでも女か


「いや、本当に今の状態だとダメ。これ見て」


――

異世界の化物[M-ore]を発見しました

――


>草

>草

>隠しか?

>モグラだな!

>となると前回のはゾンビか


「流石にただの片手剣で化け物に突っ込むのは無理だわ」


>[シェリーさんなら大丈夫です]

>#[頑張って]#


「バレっちも居るのかよ いや本当に無理だって、オファニエルがないと無理。私のスキルは片手剣と相性悪いし機動力もないから」


>ちっ

>そのまま逝けばよかったのに

>[おうえん]


「ゴメン、ここは効率優先する。今日は地味な配信になったし、早めにゲームは切り上げて雑談に切り替えるよ」


>地味(60秒の激戦)

>地味(化物発見)

>美味

>何食べてんだよ…


「そっか。満足してくれてたなら私も嬉しいよ。んじゃ、隠れてばっかりじゃ意味ないし…行くよ」


>[魔晶を幾らか採集していただけます?」

>あ、俺も欲しい

>希少素材だからな。こんなに初期で見つかるとは

>実質事故みたいなものだし…


「ぐっ……殴るのは怖いから落ちてる分だけでもいい?」


>[よろしくお願いします]

>それでもいい

>多すぎたら生産ができないしおk

>生産職共め……


「みんなもミーシャみたいに作業のお供に見てたりするの?」


 シェリーは床に落ちている魔晶を拾い集めつつ問いかけた。もうすでに雑談配信にシフトし始めているのは気のせいではないはずだ。


>そうだな

>大量生産の時に見させてもらってる

>プレイ時間被ってるから尚更な

>レベリングのお供に

>明日試験


「お、それは頑張って…って、セーブポイント見つけたし。割とあっさりだったな」


>[是非の売却は最初は私の店へ]

>俺も欲しい!

>ギルボで!ギルボで頼む!

>オークションでも!


「じゃあ幾つかはバラしてギルボにオークション状態で貼っとくから適当に買ってね」


>やったぜ

>是非欲しい…


「そんじゃ帰ろっか。いやー……報酬が楽しみだわ〜……」


 そして、シェリーはオーストへと帰還。色のついたクエスト報酬に歓喜し、視聴者はレア素材の供給に狂嬉。明日からの配信は暫くレベリング予定と決めてSWORDからログアウトした。勿論、シェリーが寝落ちするまで雑談配信は続いたが。


 


〜〜〜

※ここ以降"普通“の配信の日は飛ばされていきます


 

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