#14 【閲覧注意】60秒の瞬きを見逃すなっ!【時間制限】


『ドバギャァァァァ!!!』


>クソうるせえ

>街に戻らないのか

>特殊演出?

>第三部、完!


 地面を喰らい泳ぐ蛇王が、穴だらけの草原で吼える。逃げ回る餌をようやく捕らえた事に気を良くし、どこまでも響くような勝ち鬨を上げたのだろう。今し方その声に驚いたウサギたちが逃げ出すのを見かけ、更にギュルグっと笑いを漏らした――が。次の瞬間。強者的笑み、余裕、態度、その全てを失った。

 


ギャリガャリガャリガャリガャリガャリガャッッッ!!!


 

>ミ"ッ"ッ"ッ"ッ"

>あっやべぇ

>何か聞こえるの?

>鼓膜破壊ニキ無敵すぎんか?

 

 世にある地獄の中でも更なる地獄、耳に入れただけで鼓膜だけでなく精神MP寿命HP、何より正気SAN値の全てを削り無に帰す災厄最悪の駆動音。死後彷徨う屍と成り果てようと冥界を荒らし狂わせた末に出禁・追放令を叩きつけられる事間違いなし。なんなら"彼女"は今、死ぬことはない。何故ならば、そう。


『ギィャラァァァッ!!??』


 "攻撃"し続けているのだから。


>[きた!オファニエルきた!]

>シェリー生存!

>#[これで勝つる!]#

>勝ったな。風呂入ってくる

>タイマースタートしねえと


 デッドイーター・真髄。『死』を喰らう能力の真髄は、まさにここにある。苦しみのたうち回る蛇王のライフダメージに変換し、滅びぬ我身のコストへと貶める。


>凄まじいな

>音もあるがカメラワークが面白い

>コメントで流れが速いんだが

>\\[ksk]//

>ないずぱ


 たとえいくら巨大な岩に潰されようと、たとえ圧倒的数の肉に囲まれようと、たとえ絶望に呑まれようと。[戒天回転の殺戮者]はただひたすらにその唸り声駆動音を奏で続ける。座天使オファニエル享人シェリーその二つが化物ゾンビの力によって接続されて、このようなクソ行為体内攻撃が成立してしまったのだから。


「真髄解放でこいつぶっ殺すRTAはーじまっるよーーーっ!!!!!」


>hoooooo!!!

>てっきり死んだかと思ったよ

>とんでもねぇ 生きてたんだよ


 負けず劣らずの声で精一杯の宣誓をキメるシェリー。その声に視聴者一同大興奮。そして口内から飛び出してきた彼女の姿を見たら更に大発狂。オファニエルの猛攻は止まらない。


>何その姿ww

>痛くないのそれ??

>エッッ………?

>興奮しなかったか…


 シェリーの装備の上から全身を『肉』が覆い、オファニエルの一刺し毎にそれらは共鳴する。しかも肉は爛れ、腐り、溶けているのにも関わらず。未だ岩を保つロッカー・アームとオファニエル、いつもの声のお陰でシェリーだと認識できるくらいだ。余程の物好きでもなければ――いや、この配信を見続けている者なんて物好き以外の何者でもなかったか。


>\\[来年の夏コミのネタが決まりました!!!!!]//

>#[ありがとう]#

>ふぅ……

>エェェッ……?

><[マトモなのは僕だけか!?]>


「痛くない痛くないいい感じに火照ってて最高の気分だぜぇぇぇ!!!」


>見た目すげぇいたそうなのに

>昨日のゾンゴブっぽいな

>目がガンギまってる


 真髄解放Iで爆上がりしたヒット数に足止攻撃Iと追撃Iが猛威を振るい、振り落とそうと吐き出そうと暴れる蛇王が度々動きが止まる。再生Iのお陰で皮膚は幾らか修復されているのが視聴者にとっては救いか。体術Iのせいで攻撃は止まることを知らないが……


『ギ、ャ、ガバァァ、ッ!!!』


>効いてる効いてるw

>ギッタギタだな

>戦いたくねえ


「あ〜〜〜っ、たっのし〜〜〜っっっ!!!」


 鱗を貫かれ、皮膚を裂かれ。幾ら抵抗しようとも蛇王は傷と足止で途切れ途切れの声しか出すことはできない。許されない。何故ならお前蛇王シェリー獲物ターゲットだから。


>ズッタズタじゃん

>乱数高いなぁ

>これだから初手真髄解放は

>HPの減りがこのペースだとマズイかも


「動いたら殺せないだろうがっ!動くなあっっ!!」


 とんでもない速度でズタボロにされる蛇王。伸び上がったところで足止め祭りを受けたせいで、膨大な身体を無限回廊を走るサラマンダーのようにシェリーがオファニエルと共に駆け抜ける。シェリーの目がやばいのも全集中しているからだけではなくきっと大興奮中であるのも関係しているのだろう。それにタンクに入っている燃料クリエナだって咽せることなくシェリーの口へ輸液されている。安全装置ツッコミなんてない、ここにいるのは暴走車両オファニエルだけだ。


>これ一人称のままだとヤバかったな

>確実に目が回る

>逆にシェリーなんで目が回ってないの?

>場数ぅ…ですかね

>えぇ…

>確か一回ガチで回して配信中にゲロったからどっかで訓練受けてきたとか聞いた

>プロ根性よ


 口→首→胴体を経由して地面に到着。そして地面を蹴って腹下からから首元に向けて方向転換。怪我人治療の際に入れられるメスのようにその軌道は真っ直ぐで、サッサとシェリーの頭が治療されればいいのにと思うくらい。


>お見事!

>ナイス切り返し

>弱点どこだろ?

>逆鱗とかありそう


「いぃぃぃぃよしっっっっ!!!!」


>倒れるぞー

>うさぎさんの住処が消えちゃう…

>[それはコラテラルダメージというものにすぎない。狩猟目的の為の致し方ない犠牲だ]

>環境破壊の常套句やめろ

 

 再び喉元を狙われて大きく怯んだ王蛇。伸びて倒れて大ダウン。攻撃連打のボーナスタイム突入。蛇王のHPがガガガガガガガッッッと削れゆく。血が噴き出すのと同じように、ゲージから生気が抜け続ける。


『ギャガグ――!!』


>止まってろよ!

>幾らヒット数が多くてもIだから…


 しかし、永遠にそんな時間は続かない。低乱数を引けず蛇王が動こうと体を起こしかけるが――シェリーがそれを即座に察知。攻撃箇所を頭の方へと移し、勢いよく飛び上がる。そして一回転、一回転半し。


「その口閉じとけぇぇっっ!!」


『ィィィギャャァァ!!??』


 >\[SMAAAASH!!!]/

>今の頭蓋割気持ちよかったぞ!


 空いた口をオファニエルの殴打で強制的にクローズ。思いっきり舌を噛んで更にダウン継続。起き上がるのなら一気にするべきだった。


>残りHP半分!行け〜っ!

>時間もどんどん減ってるぞ!


「わかってるわかってる!結構これでも急いでるからぁぁ!!」


 オファニエルの固定打点で部位を強制破壊し追加ダメージを狙うシェリー。そうでもしないと"火力"が足りないのは感覚と勘、コメント欄を見ればわかる。しかしシェリーのオファニエルは切り裂く魂魄武装ではなく、衝撃にて破城する魂魄武装ではなく、確実な一を刻みつけて百を削る魂魄武装。何よりも早さを求めるTAには不向きでしかない。だがシェリーがコレオファニエルを手にしたのにはきっと理由がある。だって、彼女の愛する英雄ドレイク達が、"そう"であったように。だからこそ、シェリーは一切諦めない。


>削れ削れぇ!

>外じゃ足りないから中からやるしかないのでは!


「うげっまじかっ!」


>その姿じゃ今更だよ今更!

>内臓攻撃はさいつよ。当たり前だ


「やっぱそれしかねーよなぁー!!」


 ガチ気絶中の蛇王の口中へと帰還リターン。今度はカメラも追従するが、残された時間は半分を割っている。


>肉壁を走るゾンビシェリー

>どっちが悪魔か分からん

>そりゃ……両方よ


 肉、肉、肉肉肉肉――肉。見渡す限り肉しかない。そりゃ肉の塊の中へと突入したのだから仕方のない事だが、気が滅入る。


「なんか見つけたら教えてね視聴者達ぃっ!」


>しゃーねぇな

>やってやんよ

>まずは内臓じゃね?


「胃に着いたしとりあえず胃酸ばら撒くかなぁ!」


>胃潰瘍…うっ頭が

>[ピロリ菌と化したシェリーBB期待]


 体内は脆い。シェリーが足元がジュージューと溶かされるのを歯牙にもかけず、オファニエルを胃壁に押し付けるとほらこの通り、当然穴が空いて胃酸が釈放された。不養生な視聴者にはトラウマを呼び起こさせる光景だ。


「ほら次は!?」


>蛇と同じなら肝臓が近くに!

>ダメだ可哀想すぎる

>体内に入れる方が悪い


 了解と一番手応えのあった箇所からオファニエルで破壊、栄養の蓄えられた沈黙の臓器が、もはや永眠の臓器へと変わるのにそう時間はかからない。


 ギャリグチャギチャチャチャチャチャッッッ!!


「あーーーっはっはっはっ!!!あーダメだ笑いが止まらないっっ!!」


>うーん悪魔

>本気で楽しそうだから何もいえない

>[幸せそうなシェリーを見れて満足]

>……お前ら表情読めんの?

>なんとなく

>こわ…


 内臓攻撃が功を奏し、蛇王のHPゲージは目に見えて輪をかけて減ってゆく。残りは僅か、シェリーはラストスパートをかける。


「視聴者ァ!心臓どこぉ!?」


>[そのまま真っ直ぐ行って肺潰した先!]

>あぁ……もう助からないゾ…

>死ゾ


 不死の存在を飲み込んだが運の尽き。もしも食べずに尻尾で薙ぎ払うなり体内に入れないよう用心していればもっと戦える道もあったろうに、現実はコレだ。体内をミート・スムージーにされた末、ブラッドまでもがブレンドされるのだから。ちなみに蛇肉ってカエルみたいな味がするらしいぞ。


『――――――!!!』


 足止攻撃Iが再び働かず、蛇王はボロボロになった身体から最後の力を振り絞り起き上がる。そのせいでシェリーのいる体内もミンチにした場所が下に、目的地が上に。重力は仕事をしてシェリーを落とそうと試みるが。


「やっっっ!?」


>うわっ起き上がりやがった

>ここでガバ乱数かよ!?

>落ちたらヤバいぞ!!


「わかってる!」


 残り10秒もない。シェリーは即反応、食道の外壁を登るためにオファニエルを叩きつけ、反り立つ壁を登って、未だ鼓動する心臓まで辿り着いた。


>到着!

>なんじゃこりゃ

>デッッッ


「さぁ最後の一撃、喰らえやぁぁぁぁ!!!!」


 壁キックによる三次元的方向転換、その勢いをオファニエルに全て乗せ、心臓へとブッ差し込む。歓迎の血液がオファニエルとシェリー、そして肉を艶やかに化粧する。


>バイオだなぁハザードだなぁ

>精神ブレイクするわこんなん


 HP1%、真髄解放1秒。


「お願い――――っっ!!」


 互いに切羽詰まる血戦の末、先に潰えたのは……蛇王のHPだった。ボスではないからリザルトこそないが、確実に格上の相手だった。それをたった60秒ぽっちで倒せたのだから、素晴らしいことに違いはない。


>よっしゃ!!!

>やったなシェリー!

>暴れないって言ってたのにな


「やっ――」


>おめでと!

>あれ、動き止まった?

>肉がグズグズになって融けてんな


  と、ここで喜ぶ暇もなくシェリーも電池切れ制限時間。ふっ――っと気絶して、オファニエルも光と消える。仕事しかしない重力がシェリーを下へ、死体となったため当たり判定の消えた蛇王の死体をすり抜けて、地面……に開けられた通り道に垂直落下。30秒間行動不能というのは、"こういうこと"である。


>えっ

>喜んでいいの?

>まぁ勝ちは勝ちだしな


 たった一分。されど一分。死闘を繰り広げた末、殺戮者は闇に覆われた穴の先へと堕ちていくのだった……

 



〜〜〜

※今話はたった60+α秒の出来事です


Tips ひきころ小話 

特徴:固定打点を持つ魂魄武装は他にも幾つかあるが、『火力』を重視するような魂魄武装に特徴:固定打点は殆ど存在しない。というかオファニエルがおかしい(当然)。

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