#12 【新装備】魔核武装、ゲットだぜ!【無双確定?】


>[完成しましたよ]

>フレメ使えよw

>スパチャしたいんだろ、知らんけど


「――っと、ミーシャに頼んでた装備できたんだ。ありがと、今から取りに行くね〜♪」


>[先程の場所でお待ちしておりますね]


 シェリーは露天エリアでの物品漁りをやめ、ミーシャと再合流。ミーシャも店を畳むログアウト前の作業を中断して、残っていたカウンター越しに立ち会う二人。


「お待たせ!」


「構いませんよ。それではこちらをお納めくださいね」

 

 丁寧に布で包まれて差し出された装備は胸当て。現在の装備との互換があり、差し替えで装備可能。


>あら丁寧

>ちょっと変な気漏れてない?


「実はよく配信見てるでしょ」


 ただいまシェリーの装備中のスーツは店売り品とはいえ、パーツの差し替えで性能を向上できるのはあまり知られていない。ましてや初見の相手に数十分で作れるものでもない。


「ふふ……"ドレイク通常弾縛りRTA"の三走目は面白かったですね」


>えぇ…

>古すぎる

>何それ


「うぉっかなり古参 しかもマニアックな。ご視聴ありがとね?ほんと」


 その理由はシェリーの昆布巻き配信の古参だったから。第三走は半年記念配信であり、その際のシェリーはレアエネミーからの確率ドロップを得るために1時間以上荒れていた。そして次無理だったら再走するから…と言った途端レアエネミーと複数エンカウント、残り1足りない状態であったのに全員からドロップして必要量超過。悲痛な叫びを響かせていた。


「いえいえこちらこそ、日々より愉快な配信を行うその姿、まことに愛くるしく思います」


>草

>笑みを崩さずスッと言ったなこいつ


「………おう、うちの視聴者だなーって言う発言だな。ま、褒め言葉として受け取っとくよ。また素材集まったら頼みにくるぜ♪」


 遠回しに『おもしれー女だな』と言われるがスルー。シェリーは心の広い女なのだ。


「お待ちしております。店舗を獲得できました際にはお祝いに来ていただけると嬉しいですね」


「割と強かだな?」


「ふふふ。では、また」


「まったな〜♪」


 手を振って再び別れたシェリーは混雑を避ける為人の通りの少ないところまで移動して、肝心な依頼品の詳細を確認する。


「さてさて、どういう装備かな。不死の魔核ってくらいだから……うげっ」

 と半ばウキウキで包みを開けた先にあったのは、文字通りの肉鎧。というか装備なのか怪しい。とりあえず性能はこちら。


──

[イモータル・オルタ]

カテゴリ:胸当て(魔核武装)

属性:幽

スキル:デッドイーター・真髄

──


――

[デッドイーター・真髄]

スキル[真髄解放]の効果時間中、付随して発動する。HPが0になる攻撃を受けた時、その瞬間より1秒以内に対象に1以上ダメージを与えていた場合、HPの減少が1で停止する。ただし、効果終了後30秒間行動不能状態になる。

――


 [デッドイーター・真髄]は別スキル真髄解放Iをトリガーとして発動する実質的な"不死"スキル。魔核装備のスキルはこのようにプレイヤー側のスキルと連動し変化する場合があり、今回であれば効果時間が真髄解放と連動するようになっている。本来は30秒のみこの効果は発揮される。


「え〜っと………気軽に検証できないね?これ」


>真髄解放は実質一配信中に一回しか使えないからな

>最初何回か使ってなかった?

>キャラメイクの時は連続して使えたがアレは特別


「そーそー。割と長いしオファニエルが寝る使用不可能になるから使わない。というかボス連戦とかになったら詰みだし」


>その割には気軽に使ってるよな?

>ギリギリすぎる


「私のオファニエルに対する愛の御技だぜ!!」


>愛…?

>愛 愛ですよシェリー

>お前は深淵に帰れ


「……で、今日どうしよっかなぁ…」


 実際、今日は魔核装備と街ブラだけで一日の配信時間を潰そうと考えていたシェリー。コメント欄を見ながら何をしようか眺めてみる。


>芋肉装備しろよ

>芋肉てww

>イモータル・オルタ(肉塊)かw


「もっとかっこいい名前寄越せ?? あとさ、流石に街中で装備できないわこれ。だってさ……うん」


>\\[●REC]//

>おっふ

>[これはいけませんよ]


 シェリーは芋肉を胸の前に持ってきて、擬似的な装備中の姿をカメラの前に晒す。素材として使われた不死の魔核妖しく輝く紫の宝石が平均よりはある(と自負する)胸部装甲の上辺りに位置。それを中心として血管のような肉の筋が伸び、間を同じく肉の膜が覆う。そう、端的に表現するのであれば。


>触手鎧

>R-18ゲーにありそう

>悪堕ちシェリー

>\[冬コミの題材決まったから感謝のスパチャ]/

>あかんシェリーの照れ顔が可愛すぎる


「やめろよ!!!!そういうこと言うの!!!!」


 薄らかにどこかモゾ、モゾと蠢く肉鎧をインベントリに投げ捨てるように仕舞い、内心で絶対キメ時しか装備しないからなと決心でしながらも、


>[よくお似合いでしたよ]


「ミーシャァァァ!!!」


 という煽りとも思える製作者主犯のスパチャにも怒鳴り散らす始末。切り抜き担当も思わず鼻から垂れた赤い液体を拭いている。


「はー…は〜……………ゴホッ…」


>咽せたすかる

>いつもの


「…んんっ……はい、他、他のこと考えるよ!」


>逃げたな

>消されるからしゃーない


 何事もなかったかのように会話修正現実逃避。なんだかんだと訓練された視聴者達は流れに流され(てあげ)る。

 

>普通のクエストは?

>ストーリー以外にもあるのか


「サイドクエストとかは割とあったよな〜、そういうの探すのもいいかも〜」


 そう言いながらも移動を開始するシェリー。真夜中も近づいてきたからか深夜徘徊周回する亡者廃人共がログインし、逆に賑わってきたオーストの通りを練り歩く。


「視聴者のみんなはどういうの見つけた?」


>パン屋でパンを焼く

>ピザ配達

>下水道掃除

>魚釣り


「……今作も色々あるんだな。前から思うが英雄にさせる仕事じゃないの多くない?」


>勇者もそんなもんだし…

>今作はクエスト中は別エリアに行くらしいよ

>ストーリークエストもそうだったしな


「まぁそうじゃないとネタバレ喰らうしな…突然か。というわけで私の配信はネタバレ構わずやってくぜ〜、ネタバレ嫌なやつは……一ヶ月後にでもアーカイブで見てくれよな!」


>失望しました チャンネル登録ボタン二回押します

>マジか グッドボタン追加で(2n+1)回押しとくわ


「うっ……いやそのままだな?」


>バレたか

>シェリーの配信見にきてるやつとか元々気にしねえだろ

>[まだ晴れ姿を見ておりませんので]


「本性表してから流れるようにスパチャするなミーシャ」


>[冒険者ギルドで日替わりのクエスト等を受けるのはいかがでしょうか?]

>そんなのあったな

>忘れてたわ


「…………あっそういえばこのゲームMMOだった!」


>忘れんな

>おい

>SWじゃギルドは売買の場だったからね…仕方ないね……


 この女、折角ギルドに登録しておきながら素材の売却用にしかギルド施設を利用していなかった。前作の利用価値がそれ程度だったというのもあるが……売買エリアとクエスト受注エリアは建物内でも正反対に当たる位置にあるので見当たらなくても仕方は……ない、かもしれない。


「よ、よーし!それいこう!うん!現金欲しいしね!」


>実際重要

>がんばえー


 と、いうわけで冒険者ギルドへやってきたシェリー。戸を開けて案内コメントに従ってクエストボードを眺め見る。こういう風景を見ている分には異世界に来たかと錯覚する。


「うーん……これって幾つまで受けられるの?」


>ランクと受けるやつによるな

>今のランクは?


「んーと……3だな。売却分だけで上がった」

 

>クエストの横についてる数字の合計がランクの値になるまで受けられるぜ

>ランクあげるならデイリークエストが楽

>常設のやつは効率悪いからついでに気長にやるが吉

>納品は持ってたら投げておくと相場くらいの金とRP入る


「情報量が…情報量が多い…!」


 新作ならではの新要素に翻弄されながらもシェリーは適当な依頼を見繕い、受注完了。デイリーの内容は妙に報酬の高かった蛇と、同じ生息地である兎に決定。常設のエリア掃討のクエストも受注しておく。


「よしよし、それじゃ出発するか〜」


 シェリーはご機嫌な様子でギルドを出て、平原に繋がる西門へと向かう。


>シェリーさん、今日の暴れは無いはずでは?

>シェリーの言葉を信じるようでは二流


「戦闘行為なら休暇から強制的に呼び戻したよ」


>可哀想

>休み中に届く会社からの電話…ウッ……

>トラウマ掘るのやめろ


「んんっ…社会人の視聴者ザコどもかわいそ〜♡」


 シェリーのチャームボイス。一部の視聴者に効果は抜群だ。


>#[何だこのメスガキ絶対わからせる]#

>[落ち着けこいつはシェリーだ]

>顔真っ赤で草


「こいつはシェリーだって何???」


>可愛いけどオファニエルを振り回すやべーやつだって意味

>黙って座ってたら美人なのに動いたら奇人変人の類になるぞって事

>こんな しぇりー に まし゛に なっちゃって と゛うするの


「…………」


 無言のオファニエル。薄らかに慈愛を湛える表情は、裁きを与えんとする天使のようだ。


 もう色々と諦めたのだろう門番が、オファニエルを担ぐシェリーを見て異常ナシと呟く。視聴者の精神が異常をきたす可能性はありまくりだというのに。


「それじゃ、行こうか…♪」


>待ってまだ耳栓買ってない

>VR機器で見てるから耳栓つけられないんだよ勘弁して

><[関係ない 行け]>


「あいよ〜〜っ!!!!」


 流れるようにドォルンドォルンドォルンと始動したオファニエルを地へと叩きつけ、マップに表示された目的地へ向けてシェリーは全速前進。視聴者はスパチャ野郎の道連れにされたのだ。


>あああああ!!!!

>耳がァァァァァァ!!!

>鼓膜あるからだぞお前ら


「割と多いから雑談するよ〜!!」


>この状況で!?

>余裕だなおい!


――このクエストが、"あんなとこ"に繋がるだなんて、この時のシェリーも視聴者も、知る由はなかった……。


〜〜〜

Tips 昆布紹介コーナー ミラーラミ編


ミラーラミ

モチーフ:合わせ鏡、あるいは合わせ鏡の悪魔。


勿論名称はミラーを二枚置いて対称性を持たせたもの。個人的にはネーミングセンス輝いてると思う。

発射するのは"実弾"ではなく"魔力弾"なので、物理的影響を受けづらいし、与えづらい。簡単に言うとFPSゲーのヒットしたらダメージだけ入る奴。尚、ミラーラミで部位自体のHPを削り切れば部位破壊は可能。それは仕様なので。

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