日常-2 気分上々の財布薄々


 私たちの家から快速電車に乗って一駅、二駅、三駅目。ひっさしぶりにオシャレして、都会の中までやってきた。


「んっふ〜♪偶然にもスイーツバイキングの席空いててよかった〜♪」


 私の服装は黒のキャップに白のノースリーブブラウスとショートパンツ。ご機嫌で四人・・並んで並木道を歩いてる。


「無論椎名の奢りね。タダスイーツ最高〜♪」


「ウッ……事実を言われると凄くダメージを受けるからやめて……」


 私に9999の即死ダメージを与えてきた愛理は髪の毛をポニテにして纏めてるチューブトップと薄めの羽織にジーパンコーデ。なんか最近テレビで見たような構成だな。


「…人、多い……」


「華蓮、バレっちの時はカッコイイのに日常だとホント……可愛くなるよね」


 髪の毛の長い華蓮は三つ編みツインテール。シンプルーに白シャツ&ネクタイ→ロングスカート。背が高いからリアルでもモデルになれそうなのに、現実だとこうなるんだよね…ある意味一人占めって感じがして美味しいけど!


「……恨む……母よ……笑いすぎたからって救急車呼ぶこたぁないじゃん……」


「マジで死にかけたって話本当?」


 で、最後の四人目は切り抜き担当の水森一芽みなもりいちか。昨晩シェリーの配信で爆笑しすぎた末に呼吸困難で救急車を呼ばれ、今朝方釈放退院されたおもしれー女。流石に哀れすぎて昨日はいなかったけど奢ってあげることにした。


「死んだばっちゃんが全力でウチを追い返してきた」


「いっちゃんしょっちゅう死に掛けてるよねぇ……」


 一芽はよく死にかけるしすぐ生き返る人生そのものがギャグキャラみたいな不思議生物。こんな夏手前の日々なのに真冬と服装が殆ど変わってない。


「違う、母が過敏なだけ。五体満足でウチは生きてる」


「……早く、行こ」


「あ、ごめんね華蓮。いこっか」


「スイーツ♪スイーツ♪」


 日曜日の昼すぎなんて人通りが1番やばい時間。人混みをすり抜けて私達は豪華なホテルに辿り着いた。愛理が我が物顔で鼻歌混じりにエレベーターに入って、14階のボタンを押す。


「一人当たり6K…端数も含めて四人で25K…」


 改めて思うと結構デカい出費…


「奢るって言ったのはシェリー。私達はそれに全力で乗っかるだけ。オラっ!覚悟しろっ!」


「やめてやめてここもうホテルだからぁ!」


 愛理がいつにも増して殺意テンションが高い。好きなものがスイーツと運動って極端すぎない…?


「着いた。しぃ、受付行って」


「わかってるわかってる愛理やめろっ」


 なんとか引き剥がして受付へ。すんなりと手続きは終わってテーブルに着席完了。


「それでは120分間の甘味の宴をお楽しみくださいませ――」


 制服に身を包んだ美ホテルマンが華麗に専用の皿とカトラリーを置き、お辞儀をして去っていった。


「今の人カッコよかったな……割とウチのタイプかも」


「男か女かわかんないけど良かったねー、んじゃスイーツ取りに行くよお前らっ!」


「あいあいさー」


「ん、食べる」


 並ぶスイーツにフルーツ。パティシエが腕によりをかけて作ったらしいけど、私達は説明文を気にせずに思い思いの好物を更に上乗せしていく。私はショートケーキonショートケーキ、追加で苺を足して完成小さな苺の王国ショート・レッド・キングダムッ!


「ふふふふ……」


 もしもパティスリーで買ったら数千円はするものをこうして気軽に食えるの本当最高〜♪


「本当椎名は白いの好きだねー」


「そういう愛理は黒いじゃん」


「チョコケーキこそ至高!」


 愛理が持ってきたのはお洒落なチョコケーキが並ぶ皿。名付けるのなら……黒き帝国ブラック・エンパイア


「また変なこと考えてたよね」


「そんなことしてないし」


 愛理は無駄に勘が鋭くて怖い。誤魔化しついでに目の前の赤い宝石イチゴを口に運ぶ。甘酸っぱい味が広がって、ついつい心から声が溢れてくる。


「んっふふ〜♪おいし〜い♪」


「戦闘に休暇、糖分補給は大事」


「甘すぎるでしょそれ」


 華蓮の皿は果実山脈トロピカルマウンテン。しかもただのフルーツじゃなくてシロップ掛けてたり、蜂蜜漬けだったり。


「……スイーツバイキングだよ?」


「果物もデザート。問題ない」


「気にしてたら味が落ちるって」


「……そうだなー、もぐもぐ…ほっぺた溶ける甘さだぁ…」


 糖分が私の五臓六腑に染み渡る。ほんっと、最高の時間だなぁ……


「ふぅ〜……ウチにとって夏といえばこれだよ」


 そう言っていっちゃんが持ってきた皿はまるで氷結大地アイス・グラウンド。ソフトクリームを始めとしてさまざまなフレーバーのアイスクリーム、シャーベット、そしてカラフルなシロップのかかったかき氷が一つのプレートに乗っかっていた。


『………………』


「ん、全員ウチのこと見てどうした?」


 いや、夏だけど…そんなにアイスづくしにする必要ある…?


「見てるだけで頭痛くなってくるんだけど…」


 わかる。嫌いなわけじゃないけどハーゲンなんとかのワンカップで十分だわ…


「一芽、貧弱なくせに無茶する」


「はぁ?華蓮よか強靭だが?」


「……ふふっ ワロス」


「ざっけんなこの」


「お客様、騒ぐのは周りのお客様の迷惑となりますのでご遠慮願います」


「あっ……はい……」


 流石に怒られた一芽。相手になってた華蓮は何食わぬ顔で白桃を食べてる。かくいう私もショートケーキ甘っまぁ〜♪


「もぐ……それで椎名、SWORDはどういう方針で行くの?流れで一話クリアしちゃったけど」


「……そうなんだよね〜……」


 想定外のEXルート突入で配信定番のストーリー攻略ネタは尽きた。かといって流石に2話まで突入するのは早すぎる。なんなら初日で野生のボスにまで突っ込んだせいで割と不味い状況。反省はしたけど後悔はしてない。


「あぁ、それならいくつかいいコメントが届いてた。病院に拘束されてる時にいくつか見といたんだが、"魔核武装"が気になるってよ。だから明日は暴れは少なめで街ブラったらどうだ?ついでに魔核使って生産してもらったら上々だと思う」


「あ〜……昨日は大通りだけだったしね、いつも通りいい店とかのピックアップ頼むぜっ!私は検索下手だからな!」


「あいあいさ〜、今日のバイキング代くらいはまたいろいろしといてやるよ〜。夜までに纏めとくからな〜」


 これで配信ネタは決定、心置きなく甘味に舌鼓を打てる。んっん〜♪


「……ねえ一芽」


「どったん愛理ちゃん」


「一芽はSWORDしないの?」


 そういえばちょっと気になってた。うわっ、このケーキのスポンジ甘い…


「ウチ、フルダイブやったことなくてさ〜…家庭用の機械ハード高いし。ウチのPCはクソ優秀なんだけどね、椎名の配信見てたら満足しちゃってもういいかなって思ったわけよ」


「ほう、ではハードを押し付ければいいと!?」


「……椎名、そんなにウチとやりたいの?」


「割とやりたいぜー?ずっと応援してくれてるのにあんまり返せた気がしないからな〜……機会があったら全力でゲットしに頑張るからなっ、機械だけにっ!」


 私が使ってるのは時価7桁は行くスゴイ奴。華蓮も同じはず。愛理は少し安めのやつだけどそれでも6桁前後は下らない。確かに初期投資は高いけど……ぜひ一緒にやりたいなぁ…


「……ふふっ」


「あっこら華蓮笑うなぁ!」


 ――って、ゲームの中でも一緒に遊べたら、万々歳じゃない?

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