#9 【コンビネーション】挽いて潰して貫いてッ!【EXルート】


>その時 シェリーは思い出した

>ゾンビに追われていた恐怖を

>森の中に囚われていた屈辱を……


「……ツッコミ入れようかと思ったけどコレほんとにデカイね」


 地球から元気を借りるようなノリで[Z-obituary]に集う屍肉。HPゲージは伸びに伸び、上限に達しても尚折り返して重なり続けるHPバー。その長さはロック・ギガントを数倍は追い越している。


>さっきまで潰しまくってたゴブリン共も集まって来たのか

>あの量を??バカだろ

>まぁブレイクルートならやりかねん


 皮膚は爛れ、ドロリと這い出す内臓モドキ。口は空いたままで、所々突出した肋骨がおどろおどろしい。そしてゴブリンの集合体らしく、一丁前にツノなど生やしやがった。この奇形を例えるのならばバイオ技術での複製クローンの失敗品か、未熟なまま呼び起こされた神か。生物的でありながらも命を冒涜するような、そんな化物がいた。


>ビームとか出ない?大丈夫?

>ビームは知らんが足音聞こえて来たぞ

>配信越しなのに恐怖を感じて来た。


「ねぇ、知ってる?カメラ役の私って視聴者より"アレ“の気配強く感じるんだよ?」


 そろそろ感動の再会が近いらしい。化物と相対しているはずなのに、後方からも"死神の足音"が聞こえてくるからだ。……その内容は、ご想像にお任せする。


>幼馴染をアレ扱いww

>友人見捨てるなよ役目でしょ


「ちょっと暴走しすぎかな…って…」


 自然保護団体に見つかれば死体が増えるだろう惨劇の首謀者が、森の中から『待たせたなァァァァァァ!!!!』。化物と相対的質量比で考えれば変わらない規模のクレーターを形成し、戦場へと降り立った。


「ha…ha…ha…………デカくて殴り甲斐がありそうだなァ?えェ?」


 立ち上る湯気。従える死臭。皮膚さえも真っ赤に火照らせて、血管がはち切れん勢いで周回しているのが見て取れる。元々青かった髪は血に汚れて風に踊るし、マントだって血染めの反物ですと言われたって信じてしまうほど。しかも累積した身体強化キルスコアにより、サードムーンは最早片手剣と扱い方に大差がない。


>海賊?

>麦わら帽被ってそう

>サードムーンがイキイキ動いてる…クソ重いハズだよな…


「……アリサ、これ配信中なんだけど……」


「……ぁっ」


>マ ヌ ケ 顔

>忘れてたんやろなぁ…


 そして下がるテンション熱気


「やべっ アリサ!こいつ無事倒したらスイーツ!三人でスイーツ食べ行こう!ね!」


「――『よっしゃァァァァァァァ!!!!!!!』」


 目前にぶら下がった追加報酬スイーツで咆哮Iの声量が再上昇!とりあえず狂気Iは安定水準に定まった!


>チョロい

>かわいい

>萌えた


 そして飄々とバレッティーナもシェリーの横に並び先遣隊のシェリーに現状を伺う。

 

「今北産業」


>!?

>えっ


「現在EXルート=ブレイクルート

 アリサ再燃完了

 ゲージ赤から灰にならない」


「了解」


 バレッティーナの思わぬ一面が垣間見えたところで戦闘再開。先陣は当然アリサが切る。


「『行くぜ 行くぜ 行くぜェェ!!』」

 

 サードムーンを引き摺りながら走り化物の直下にまで来たら回転、足の腐肉を骨ごと弾けさせ、崩したところに狂化Iバフにモノ言わせたカチアゲ一閃。首元まで到達したら逆V字を書ききった。


>動きがおかしい

>でもHPゲージは赤いままか


 確かに緑の面積はゴリッと、いやなんなら1本消し飛んだが、それらは全て赤いまま。分離した屍肉は地面にボトボトと落下し、それは全てゾンビゴブリンとして三人に再び牙を剥く。


>#[わんこそばの予感]#

>倒し甲斐があるなぁホント


「なるほど。体力を削ると屍肉になるのね」


「っぽい?」


 ミラーラミは今起き上がらんとしたゾンゴブ其々に的確な4連射。命中率は100%。そして倒れたゾンゴブの死肉は再び化物へ帰っていった。


「……不正解?倒しちゃダメなの?」


「まさか……ゾンゴブガン無視でアレ削らなきゃダメなパターン?」


>そんなまさか

>肉に攻撃するのは正規攻略じゃね?


「あそっか。確かに、状況推理だけどあの肉は"ゴブリンのもの"で"化物のもの"じゃないかも」


「なら、何処かに本体となる核があるはず」


 集った腐肉が再び部位を作り出し、再び異形を見せつける。積み上がった屍の体命のナレハテに、化物は自身コアを隠して。


>まぁEXルートとはいえ初期で来れるんだしな

>あのゲージは見せかけって訳ね


「ならまずは探さなきゃ。行くよバレっち」


「わかった」


 バレッティーナは少し下がって観察と援護に回る。


「アリサー!コイツ、核があるっぽい!肉はただ潰すだけじゃ意味はない!」


「あいよォ!探してやるぜェェェ!!!」


>アリサなら無限に殴り続けられそう

>叩き潰せ!


 そんなコメント欄を見て、アリサは笑う。何度も何度も肉を潰して、潰して、現れるゾンゴブを叩きのめきながら、叫ぶ。

 

「アァそうだな………アタシがテメェの肉を断って回復勝鬨I……テメェは勝手に肉を再生させる……『永久機関の完成だなァァァ!!?? コレでMVPはアタシのモンだぜェェェェ!!!!』」


>怖い

>ネジがぶっ飛んでる女

>コイツなら腐肉の化物をいつか殺しそう


「……私の配信だよね? しかも本体殴らないと意味ないのに……」


>狂化入ってるししゃーない

>やっちゃえバーサーカーは諸刃の剣

>ヘイトガン稼ぎだからセーフ


「ま、その分私が楽になるしいっか!行くよ、オファニエルッ!」


 ギャアルルルルと唸りを上げて駆けるシェリー。露払いはバレッティーナに任せ、突き出された腐肉左腕へと乗り換え。奇しくもロック・ギガントと似た攻撃方法だ。……まぁ、近距離武器vs巨大生物なんて代わり映えはしないのは当然ではあるが。

 しかし今回の道路構成物質硬いものではなく、腐肉ドロドロ。いくら棘だらけとはいえ地面が緩ければ走りにくいが――


>[骨があるなら骨に乗れ!」

>肉を削ぎ落とすのか


「なるほどあったま良い〜!!」


 ――深く突き刺したら、支柱に刺さって元の速度で侵攻再開。腐肉は挽かれて大量に撒き散りゾンビに戻るが、どうせアリサが喜んで永久機関に焼べるから無問題。グロテスクでグゥチャチャ爽快感を含む音チャチャチャッを響かせながら推進する。


>音よw

>時々聞こえる銃声がほんと癒し

>無機質で落ち着くよね

>……わからなくはない


 そして肩まで辿り着いたシェリーは、着地して肩と腕の接続地点にオファニエルを押し付ける。


「アリサァー!右腕の肩切り落としてーっ!部位を減らして見やすくするから!」


「『ヒャァッハァ!!!!』」


「もう日本語話してないじゃん」


>原住民

>吸血鬼の類

>貴公…血に酔っているな

>それはシェリーの方


 極まったアリサの身体強化が、サードムーンの投擲を可能とする。肩上まで投げられたサードムーンまで、アリサは再び飛翔。掴んだらすぐに、振り下ろす。激しい音バッッコォォォォンで一撃で破壊できたのだとわかる。腐肉の固定が出来なくなって、容赦なく右腕の形が崩れる。左もオファニエルが削りきって同様に骨が落ちて砕けた。


>部位破壊成功!

>再生しないかな?

>するにしても時間はかかるだろ


「二人とも、ゲージは赤のまま減ってないから油断しないで」


『あいよォっ!』


 大量に落ちた肉は大きなゾンビゴブリンに。砕けた骨は武具に。それぞれ変質してバレッティーナに襲いかかるが、彼女は遠距離戦銃撃戦のプロ。近づいてくる奴らから逃げるなど日常茶飯事。


「…よし、わかった。私が惹きつけるから、心配しないで」


 "倒さなければ"、"再生しない"。倒さずヘイトを稼ぎ続ければ、化物はあのまま。ビッグゾンゴブの頭に形成された骸の王冠を撃ち抜きながら、バレッティーナはこの後のムーヴを計算し始めた。


「アリサは足の骨からお願い!私は上からぶち砕く!」


 返事は狂気。久方ぶりの激戦で、アリサも昂りが抑え切れない。ヴァンヴァンと振られる度に、バキボキゴキィッと骨が割れる。歓喜の声は、非常にけたたましく耳に届く。


>\\[盛り上がってまいりました]//

>ナイス赤スパぁ!

>[音量注意]

>遅いwww


「悪いけどこっからはガチだから。見とけよ見とけよ〜??」


>ほんとぉ?

>ホントホント

>まぁ見ときなって本気のシェリーを


 軽い口調で笑って手を振って。息を吸って吐いたら完全なゾーンに突入。クリエナはニトログリセリン。揺れる足場の中、首筋にオファニエルを叩きつけ再び掘削再開。周囲の腐肉は抵抗もできずに弾け飛び、頸椎を露出させられてしまう。オファニエルの『固定ダメージ』の前にはどんな耐久力も無力だ。容赦なく削られて、耐え切れなくなった頭が落下する。


>よく立てるな

>[やっちまえ!]


 崩れた頭部にはコアがないのを確認し、次は背中へ向けて侵攻開始。ゾンゴブ対策で潰すのではなく剣の腹で叩く事で遠くまで飛んでいった頭を背景に、首の断面からオファニエルを脊椎に押し付け続ける。一つ一つの部位が小さいからか順調に砕け高度が下がっていく。


「『倒れるぜぇぇぇ!!!』」


>こんなの森に出たら嫌だなぁ…

>死ゾ

 

 その声に反応したシェリーは掘削中断。残存する脊椎から駆け降りて、飛び降りる。そして同時にアリサが踝、膝、腰を順に砕き化物は文字通り"崩れ落ちる"。腐肉が腐肉を圧縮してしまい、幾分かはダメージになってゾンゴブへ変換される。残った化物腐肉は登場時のような骨の飛び出る団子に。接着部を破壊した為形を維持できなくなったのだろう。


「これで解体しやすくなったなぁー?」


 ニッコニコ笑顔でオファニエルを構えるシェリー。目前ではゾンゴブ共が腐肉から湧き上がっている。


>盛り上がってまいりました

>デンジャラスなゾンビだなぁ全く

>スリラー!


「はっはっは……皆、ラストスパート――見逃しちゃダメだからね?」


 オファニエルをブンブンと振り回し、火蓋を改めて切りなおす一言。


「[真髄……解放ッッ!!]」


>\[やったれシェリーッ!]/

>待ってましたァッ!

>耳壊れちゃーう!!


 シェリーは相棒を上段に振り上げて、その変化を堪能する。刃と棘が特盛増量され、エンジンは自己増殖。排気口マフラーは極太になって更に煙を撒き散らす。燃料は元気とやる気と何より殺意。そして浪漫を愛する心。シェリーの昂りと同じく、その回転数DPSは飛躍を遂げる。


「さぁぁぁぁ………行くぞぉぉぉ、野郎共ぉぉぉーーっ!!」


「『ィィヤッハァァ!!』」


「トドメは任せて」


 タイムリミット――60秒。レベルアップの影響で、真髄解放Iの時間は2倍に伸びた。ニヤリと笑ったシェリーの選択するバトルコマンドは、当然"たたかう"→"とくぎ"→"神風特攻"。


「邪魔だ邪魔だ邪魔だオラァァァ!!!」


 過程は勿論挽き肉製造。突撃して道を切り開くシェリー。


「『ぶっ飛ばしてやるぜェェェェ!!!!』」

 

 その後ろをアリサが旋風となって、ゾンゴブ丁寧に舗装場外送りにする。


「駆け込み乗車はご遠慮ください…なんてね」


 その舗装された道にバレッティーナは滑り込んで、後続を牽制しながら二人に追従する。


>暴れすぎだろww

>酷い光景だな


 残り50秒。文字通りの親玉まで辿り着いたシェリー。ロッカー・アームで飛び上がって、いつものジャンプ攻撃。上から振り下ろす分には材質の硬さも柔さも関係ない、固定ダメージの前には等しく平等だ。莫大な本数の刃DPSが屍肉の鎧をハンバーグに捏ねくり回す。


「――見えたっ!邪悪な輝きッ……って動き速っ!?」


>これは酷い

>コレを初期装備で倒せるってマジ?

>まぁEXルートだし


 残り40秒。1/4をアッという間に削ったシェリーだったが、一瞬見えた紫水晶コアは瞬く間に腐肉に身を隠す。


「スイッチ!」


「『アタシに任せなァァァ!!!』」


>もう滅茶苦茶だ

>ほんとアリサのフィジカルが強すぎる


 残り30秒。アリサは横一文字からの十字斬り、かと思えばミキサーの様に回転し、腐肉はただの液体に。コアは地面に転がって、戻ってきたオファニエルの棘に文字通りの釘付けに。


「みぃぃつけたぁっ!!」


>かくれんぼ終了のお知らせ

>でたわね


 残り20秒。そしてシェリーはコアを削りながら、遠心力でアリサの方へと全力投球。サードムーンは周囲の大気を巻き込んで、上にぶっ飛ばす。もう、これで逃げられない。


「アリサ、飛ばして」


「私も同乗するからね!」


「『怪我しても知らねーぜェェッッ!!』」


>おおおおおおおお

>どうするんだ!!??


 残り10秒。三日月サードムーンを踏み台に、白銀の星シェリー金色の月バレッティーナは空へと回帰到達する。


「計算完了」


 残り――。写し鏡の悪魔ミラーラミは全ての弾を吐き出して、同一地点に全段命中。最大火力を叩き込まれれたコアのHPも最早ここまで。オファニエルが、最後の一撃をキメる。


「これで、仕舞いだぁぁぁ!!!」


 空から地へ、墜落する[Z-obituary赤き彗星]。縦横無尽に森を腐肉を駆け巡った戦いの勝利者は――英雄達だ。


 

[Battle-Result]

Z-obituary

貢献度:1th

評価度:EXTRA

タイム:00,37,59,47

報酬

-不死の魔核(初討伐特典)

-砕けた魔核×2(FA特典)

-割れた魔核(LA特典)

-瘴霧入りのビン×3(最速討伐特典)

-謎の骨×2

-瘴霧入りの瓶×2

-蠢く肉塊×3

称号

-[異世界の化物[Z]を初討伐せし者]

-[異世界の化物[Z]を最速討伐せし者]

-[瘴霧を祓いし者]

-[森林暴走族]

-[ブッチャー・マスタリー]


<ワールドアナウンス>

『シェリー』、『アリサ』、『バレッティーナ』の三名が異世界の化物[Z-obituary]を初討伐しました。タイムは37分59秒47です。

 

 

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