日常-1 天ノ原椎名の憂鬱(朝)

日常パートはシェリーの一人称です。

読んでも読まなくても構わないです。所詮間話なので……


〜〜〜


 祇園なんとかの蝉の声。常時クソあちーの理を表す――


「じゃなぁい!暑いんだよ今日!!」


「そーだねー」


 に叩き起こされた天ノ原椎名は白いセーラー服に身を通し、ハムトーストを食って、クリエナ後遺症と夏の魔物のボディーブローに晒されながら、学校という名の牢獄へと自ら足を運んでいるのであった……うう


「SW新作出たのにー……遊びたりねー……」


 配信が終わった後、部屋の電気を消して目を閉じたら、既に朝。余韻も何もあったものじゃない。

 

「そっかー あ、私も買ったよ、SWORD。コンシューマー版は難しそうだからやらなかったんだけど、MMOなら大丈夫かなって」


「エッ!?マジで!?あの無双ゲーしかやらない愛理が!?」


「……(無言の拳)」


「やめてください マジ勘弁してください この状況でそれされたら永眠しちゃう」


 隣で一緒に登校しているのは私の親友、琴峰愛理。ゲームが下手だからと謎の言い訳をしながら所謂"無双ゲー"をやり込み尽くす偏食ゲーマー。家が道場だとかなんとかで、リアルじゃ絶対に勝てる気がしない。腐った性根を叩き潰せばマトモになるかな?とか笑顔で言うセリフじゃないから。一撃で殴り殺すための算段を目の前で立てられる恐怖、伝わるかなぁ…


「――はぁ。私だってたまには普通のゲームもするよ。嫌いなわけじゃないし」


「……愛理の昆布、何になったの?」


  ここは戦術的撤退話題転換。軽いジト目を向けられたけれど殴られるよりマシ。


「私のは…サードムーンっていうやつ。シェリーが好きそうだなって思った」


 そう言って愛理は私に端末の画面を見せてきた。


「私の選んだスキルは体術I、狂化I、咆哮I、勝鬨。このサードムーンと合わせればいつもの無双ゲーみたいに戦えそうだなって思っ――え?シェリーどうしたの?」


 見覚えのある愛理のアバターアリサが、笑顔で"剣"の背に手を回し、可愛くピースをしている。だが、その"剣"は、"剣"と呼ぶには、あまりに大きすぎた。

 アリサよりも背の高い刀身。力任せに振り抜いただけで周囲の全てを吹き飛ばしそうな威圧感。ただの雑兵がどれだけ束になってサードムーンとアリサに挑んだとしても、勝てる見込みは万に一つもない。

 常識はずれな程に肉厚な刀身。三日月サードムーンの名の通り、直剣ではなく歪んでいるが、愛理の"無双ゲーマー"を併せて考えるのなら、この特殊な刀身は、"戦いの中で磨き上げられる"特徴を持っているはず。振られた剣をサードムーンでいなし擦れる際の音なんて、どれだけ心地の良い事か。

 置くだけで地面がひび割れてしまうほどの超重量。いいや、私の愛するオファニエルでも"こう"はならない。超重武器は、効果が単純にして非常に強力な代わりに重量や規模が大きくなった結果生まれた子達のことだ。だけど、画像に映ったサードムーンからでも感じ取れるこの重さは、超重量を通り越し、過剰だ。通常のアバターでは、使えない程に。

 そして、何より――愛理アリサというプレイヤーのプレイスタイルは、あまりに"大雑把"過ぎた。シェリーのように、常に戦術を組み立てて戦う武器ではない筈。

 つまり、推測できる結論として――サードムーンアリサの昆布は、正に"鉄塊脳筋の極"だった。


「か、カッコいい……愛でたい……」


 口から垂れた涎を拭く。最凶にして最高の相棒オファニエルも堪らないけれど、サードムーンのような単純明快で唯一抜き出て並ぶものの無い暴力も、私にとっては等しく最高だ。


「叩けば直るかな」


 愛理が拳の握り具合を確かめながら、物騒なことを呟きやがった。


「暴力反対 ノーモア制裁」


 両手を上げて平和を訴える。愛理はますます笑みを深くして、一歩こちらに近づいてくる。私は思わず一歩下がる。再び接近される。遠ざかる。来る。逃げる。やめ──


「鉄拳制裁」


「──痛っったぁぁ!!??」


 これがゲームならHP9割は削れてるぅっ!


「はー……帰ったら一緒にやるから、今日は真面目に授業を受けること。いい?」


「わかった!あ、コラボ配信する!?」


「おばか。私はそういうの興味ないって知ってるでしょうが」


「ちぇー……オファニエルとサードムーンのバ火力配信とか楽しいと思うんだけどなー」


「はぁ……まぁ、折角だしいっか。なら華蓮も呼ぶ?最近ガンゲーの大会なくてヒマしてるみたいだし」


「いいねー、3人でやっちゃおう!」


 今日の配信メニューはは幼なじみで三人衆で決定!いやー…今日は良い数字が稼げそうだな〜!

 

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