配信二日目

#6 【初コラボ】鋸剣銃のカルテット!【幼なじみ】


「はろはろ〜☆今夜もシェリーの昆布巻き配信やってくよ〜☆」


 昨日よりも小綺麗になったシェリーの手書きロゴの浮かぶフルダイブ空間。ご機嫌な声でポーズとアイサツをキメている。


>わこつ

>[わこっつん]

>宿題やった?


「わこあり〜、宿題とか30分もあれば終わるわ!」


>うーんこの天才

>もっと他の事に才能活かせ


「あーあー聞こえなーい、嫉妬の声なんて聞こえなーい」


>今日もSWORDやってくの?


「ったりめーよ!とはいってもねー、今日はなんと……一人じゃないんだなー!これがー!」


>は?

>イマジナリーフレンドとか見苦しいぞ

>一人じゃない(幻想)


「何だお前ら 酷すぎるだろ こほん、今日は何と幼馴染たちがねー、コラボ配信してくれるんだってさー!!」


>妄想乙w

>シェリーに幼なじみとかババ抜きの52枚目くらいありえねーw

>いくらで雇った?


「妄想じゃないから!それに雇ってもない!強いて言うなら…私の人望、かな♪」


 あざとかわいいドヤ顔。視聴者の心に効果はいまひとつのようだ……


>ぺっ

>ぺっ

>[出番 まだ?]


「ざっけんなコラァァァぁっごめバレっち、今呼ぶから」


 再びのキレ芸(ガチ)でまた時間が潰れそうになった時、シェリーの目の前に非常に威圧感のこもったスパチャ催促が目に入った。咳払いをして指をスナップ。パチンという音と共に風景が移り変わって、雑談配信用によく使うログハウスステージになった。真ん中にあるテーブルには、既に二人が座っていた。


>…ん…お?

>どこかで見た事あるな?

>バレっち…まさか


 片方は青髪碧眼の美少女。シェリーのようなギャグキャラではなく、本当の可愛いを体現している。服装は季節に合わせてかなり薄着だ。視聴者陣も色めき立っている。その本質は、誰も知らないままに。


>青の子可愛いな

>シェリーの比じゃない

>配信とかやってる?てかchどこ?


 片方は金髪白眼の美女。どこか神秘的で他を寄せ付けないオーラを放ちながらもクルクルと拳銃アクセを弄ぶその姿は、あるものには畏れを、あるものには感動を、あるものには――トラウマを、呼び起こさせる。


>カッッッ

>こんな知り合い居たのか

>ちょっ!?最近見ないと思ってたら!

 

「というわけで、この二人と今日はSWORDやってくよ〜♪」


「私はアリサ。シェリーにどうしてもやって欲しいお願いしますっ!って頼まれたから今日は来た。で、私のことは……知ってる人なら知ってるかな?戦国統一とかナントカ無双シリーズとか、主に無双ゲーのプレイ動画を出してます」


 気怠げに手を振って卓上の煎餅をバリバリと食べるアリサ。ログハウスなのに日本風のものを食べる辺りマイペースというか何というか。こうして見ている限りはシェリーの今朝のたんこぶの原因だなんて誰も思わないであろう。


>あぁ、これか!

>後でみるわ

>幼馴染だったのか


 アリサ――本名:琴峰愛理。実家である琴峰道場師範代にして、シェリーの幼馴染。得意科目は体育脳筋、苦手科目は国語と英語ハナシアイ。最近手話肉体言語を覚えた。


「配信は苦手だけどね。まぁ、折角だからシェリーに付き合ったげる事にしたの。今日はよろしくね」


>よろしくぅ!

>アリサは意外だったが、その隣って…

>いやいやまさかそんな


「武器選択型バトルロイヤル[ヒーローオブワー]世界一位、無人島生存競争ストテラジー[リミテッド・アイランド]世界一位、その他数タイトル獲得済。チーム『産業革命』所属、Bang Bang バレッティーナよ。今はオフ期間だからコラボしに来たわ。事務所からは快諾を貰っているし、なんならSWORDの案件としてやってくれ、とも言われたわ」


 挨拶の口上に合わせて手持ちの拳銃で撃つフリをするバレッティーナ。彼女は自分で名乗った通り幾多の"銃の存在する"ゲームに於いて銃器と弾薬の尽きない限り大活躍をしてきたプロゲーマー。プライベートに謎の多かった彼女だったが、今夜、初のプライベート顔出しを行った。


>超ビッグネームじゃないですかやだぁー!!!

>どんなコネだよぉぉぉ!!!

>心臓撃ち抜かれた

>致命傷ニキ救急車呼べ?


「二人とも幼馴染ですが何か? というかさぁぁぁぁぁぁ!!!!私の評価低くない!?」


>いやいやそんなまさかw

>滅相もないw

>バレッティーナさん、ファンです!


 バレッティーナ――本名:九天華蓮。一応シェリーの幼馴染であり、公欠常習者。得意科目は数学弾道計算、苦手科目は道徳コミュ障。理科は生物分野コロシカタだけ得意。


「thx。私の事、知っててくれてたのね。ありがとう」


 バレッティーナのウインク+微笑み。視聴者の心に効果は抜群だ。


>ウッ

>惚れた

>最高かよ……


 シェリーは「現実なら割とドの付く陰キャなのに…」という念を込めた目を送るが気付いたのはアリサの握りしめた拳だった。カメラの外で殴られた為それにも気付く人はいない。


「いっっ……はい、というわけでー、改めて。シェリー、アリサ、バレッティーナの三人で今日はSWORDやってくよ〜、みんな…よろしくっ♪」


「はいはい。程々にね」


「ん、ログインしよう」


 三人は同時にウインドウのアイコンをタップ。背景から舞台に、ログハウスから街中に、普段のアバターからゲームアバターに、それぞれ移り変わる。

 シェリーの服装は初期装備ぬののふくから変わり、腕にはロッカー・アーム。他の部位も革を中心に要所要所を金属で補強したスーツ装備で見栄えが良くなった。もちろんオファニエルは肩に乗せている。

 アリサは金属製の軽鎧。青いマントをたなびかせ、大きな動きが映えるだろう見た目をしている。もちろん横には、鉄塊サードムーンが。

 バレッティーナはなんと黒衣の暗殺者風コーデ。金髪はターバンで留め、両太腿には二丁拳銃彼女の昆布が存在している。店売り装備にしてはカッコ良いのでこれにしたそう。


「じゃーん、新装備!どうどう、よくない!?」


 昨日は野良ボスロック・ギガントを激戦の末におっ倒したのは記憶に新しい。その結果手に入った高額素材の売却や持ち込みで作らせたのがこの装備達である。これで防御面は幾分かは改善されただろう。


>そこそこ似合ってる

>どうせ攻撃とか受けないだろ

>[TA勢は紙耐久になるべき]


「……いや、ある程度の耐えも許容するからね?そりゃ受けないことが最善だけど、タイムは命より重いから」


「…わたしの理想はパーフェクトゲーム」


「バレっちはリスキル好きだからね……」


>リスキル対策に作られたステージでリスキルをやる女だ 面構えが違う

>まさか仲間にも設置シールド持たせて射角増やすとはな

>なにそれ見たい なにで調べればいい?

>検索:アンリリーフ・アーセナルの悲劇

>thx


「ん。あれは私の中でも最高傑作」


「近接しかできない私にとっては悪夢のような試合だったな……それに、大した事なんて出来てないし」


 アリサが苦々しく呟く。だがそういうアリサもゲーム内ではNPCには「所詮データでしょ?」と鬼も竦むような虐殺無双を繰り返しているので、ある意味この二人は似たもの同士……とも言えるだろう。


>信長「せやろか」

>呂布「うせやろ」

>スパルタクス「なんて?」

>ちくわ大明神

>被害者の会さん……


 アリサ一番人気のプレイ動画のタイトルである、多時代混合ゲーム[クロスロード]。本来であれば内政を整えてから軍勢を率いて他の国に攻め込む……というのがセオリーである、国家運営シュミレーションゲーム。そう、本来は内政ゲーだったはずなのだが、シェリーが吹き込んだか何かで国王が前線に立ち敵の一切を滅ぼしにかかるゲームだと勘違いしたアリサ。あらゆる内政を最低限(なんなら発展の過程で不足した)にし、軍力バフ――特に国王プレイヤーへの追加効果を極限まで高めて内政が破綻する前に次の国を、また次の国を、と勧めた誰かシェリーでさえドン引きさせる程の清々しい脳筋蛮族無双プレイを行い、結果としてこのゲームのTAの実質的な世界記録(一本撮りではない為正式記録ではない)を叩き出している。なお、この動画を受けて[クロスロード]のレギュレーションには国王無双レギュレーションが生まれた。閑話休題。


「あれは正式記録じゃないから。それに、そろそろ破られてるでしょ?」


>残念ながらWRからはまだ30分以上先行しています…

>呂布が強すぎて時間かかるしスパルタクスはクッソ硬い。信長はほっとくと無双してるから先に潰さないと無理だし


「え、ええ〜……」


「……もう一回走ったら?TAタイマーならあるよ」


 シェリーがスッとタイマーウインドウをアリサの前に置く。頭に投げられる。倒れる。


>草

>哀れ


「またぶったなぁ……!」


「うるさい。それで、最初は魂魄武装の性能紹介するんだっけ?」


>お、紹介するのか

>気になる


「Yes。先にアリサからやって」


「了解。わたしの魂魄武装はこのサードムーン。性能はこちら」


 ──

[サードムーン]

カテゴリ:大剣

ランク:I

属性:無

特徴:磨靭耐久、身体強化、過剰重量

──


>過剰重量??

>見覚えのない特徴だな

>デカ過ぎんだろ…


「ま、見ての通りの大剣。能力も単純だし、わかりやすいかな。この剣、すごく重いの。けど身体強化が入ってるから……この通り。どうにか振れる」


 地面にブッ刺さったままのサードムーンを引き抜いて、周囲に人がいない事を確認しながらの横一文字払い。ブゥゥンと低い重低音が響き、シェリーの顔も限界オタクの顔になりかける。


>ビビった

>シェリーがやばいww

>濡れそう

>トイレ行け


「磨靭耐久は戦う度に剣が磨かれていって、耐久が回復する。だから実質的な耐久は他の比じゃないと思う。次、バレッティーナ」


>倒せねぇww

>武器破壊無理じゃん


 そう言って流石に取り回しが悪いのかサードムーンは収納され、壁際ポジションをバレッティーナとバトンタッチ。太腿のレッグホルスターに入った二丁拳銃を取り出して、カメラから見て交差するように構える。その姿はかの有名な銃格闘術ガンカタのようにも見える。


>キマってるぅ〜!

>見てる分にはかっこいいんだよな


「この子達の名前は[ミラーラミ]。見ての通りのマシンピストル」


 そう言って性能の書かれたウインドウをカメラに向ける。


 ──

[ミラーラミ]

カテゴリ:二丁拳銃

ランク:I

属性:無

特徴:攻撃連鎖/多段攻撃/特殊弾丸

──


「装弾数は24発。合わせて48発。小さくて可愛いから反動は大きいけど、弾吐きは早い。実弾じゃないから弾代はいらないけど、素の火力は低い。でも同マガジンで同じ部位に当てれば当てるほどダメージUP。ここは私の腕の見せ所。リロードはマガジン排出したらオートで入る。HoWと一緒。結構気に入った」


>あ〜…18Cっぽいな?

>形状も似てる


「握ってる感覚は大体同じ。細かい差異は少しずつ修正してく。じゃ、シェリー。あとは任せる」


 お決まりの口癖であるBangを言って下がるバレッティーナ。シェリーが満を辞して前に飛び出てくる。


「待たせたな」

 

>待ってない

>戦闘はよ


「ハァ!?ひっっどいなぁ!?私にも紹介するものあるでしょ、コ・レ!」


 そう言って掲げるはロッカー・アーム。ロック・ギガントを潰して手に入れた専用装備。


「すごいんだよこれ」


>ほーん

>へー


「もっと興味持って!お願いだから!」


>[教えて!]

>ワーシリターイ


「ふふ…よしよし教えてしんぜよう…ってこのスパチャ昨日の変態じゃん……まいいやこいつはなんと……」


>ゴクリ

>wktk


 シェリーがドヤ顔で言い放ったその一言は、視聴者たちの虫の居所を動かした。


「岩を出せる!」


>解散

>低評価押しとくか


「待って待って待って!?」


>なんすか

>思ってたよりしょぼかった


「あのさ、これのスゴいところはさ、オファニエルの道を作れるところなの」


>あ〜……

>確かに?

>昨日の狼みたいな平面ステージだと飛べないもんな


「分かってくれた? 単体だとショボいけどオファニエルと組み合わせるとかなり強いの」


>即席オブジェクト生成は便利

>単体だと…まぁ…壁程度か

>それも盾の方がいいしな。組み合わせ前提だろ


「夕方に試した私の使用法、すぐに見せてあげるから――チャンネルはそのままでっ!」


>仕方ねーな

>[ksk]

>バレッティーナさんサイコー!


 こうして、シェリーの初コラボ配信の一日は、始まったのだった。


〜〜〜

Tips ひきころ用語集1

クリーチャーエナジー:魔剤

スケアート:SWシリーズの発売元。ス○エニ。

ノンフィクションエンジン:VRゲームのオーソドックスなゲーム開発エンジン。[一切の妥協をしないリアリティを]をスローガンに作られており、性能とコストと重さは他の追随を許さない。アン○アルエンジン。

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