#4 【攻略】スタートダッシュは物理的に!【合法】


『YEEEEEEEEEAAAAAAAA!!!!』


 新年の幕開けもかくやと騒ぐプレイヤー達。シェリーも乗せられて叫んだ。


「新作サービス開始やっふぅぅぅぅーーっ!!」


>かわいい

>迫力が足りない

>道頓堀で騒ぐトラキチみたい


「ふぅ…満足した。さて、みんな、まず最初にやることは何?」


>PK

>魔王として君臨する

>ボスを殺す


「一つくらいまともなものがあるかと思ったら無かったんだけど。まずはギルド登録でしょ。SWシリーズはお金は直接ドロップしないから何処かしらと契約しないと現金収入が得られないもんね」


>世知辛いなぁ

>PK君涙目


「前作情報だから変わってるかもしれないけど……戦闘職は何も考えず狩猟ギルドでいいと思うよ。生産なら職人、店売りもするなら商人、くらいかなぁ。盗賊ギルドもあったけど殆ど闇稼業用じゃない?」


>アルヌのとこか

>金策大変だった


「売却額7割とかでキレそうになったよね……ま、それはさておき私も狩猟ギルドに入ろっか。ドロップ品売却額1割増しだからね」


>せやな

>前作と同じならな!


「…それは否定できない」


 溢れる人混みをすり抜け、シェリーはマップに表示された狩猟ギルドの場所までやって来た。開始時のお祭り騒ぎのこともあり、今はまだ、人が多い程度。プレイヤーよりはNPCの方が多く散見される。


「すみませーん、登録おねがっしゃーす」


>いつもの清楚なシェリーを返せ

>清楚(大魔王)

>清楚(効率厨)

>清楚(広義)だっただろ!いい加減にしろ!


 シェリーのにらみつける!

 コメント欄に効果はないようだ…


「ようこそ、狩猟ギルド[トライスター]へ。ご新規の登録ですね。此方に必要事項の記述をお願いします」


 サラサラサラっと美文字で描いて提出。シェリーは絵も描けるし文字も書けるしで実際文武両道。苦手教科は道徳。


「はい、ありがとうございます。それではこちらがシェリー様が[トライスター]に所属している事を証明するギルドカードになります。失くされますと再発行にはランクに応じた手数料がかかりますのでお気をつけください」


「わかりましたー」


>ウケツケジョーかわいい

>シェリー泣かせたい

>可愛い子には涙を流させよ


 シェリーはギルドカードをインベントリに叩き込みながらコメント返信。歩く足は草原の方へと向いている。


「好き勝手言ってるなー?んー?」


>知りませんね

>[応援してるよ!]


「スパチャありがと、ってお前さっきから私のこと煽ってるやつじゃんやっぱり仕置きが…」


 オファニエル肩担ぎステンバーイ。シェリーは今、無料の初期装備ぬののふくのため威厳はない。ないが、ないのだが、いやはや。オファニエルだけでも威圧感が尋常ではない。


>まだ耳壊れたくない

>早めに壊しておいた方が身のためだぞ

>シェリーの声聞きたい!

>すまんドMの方だったか近づかないでくれ変態が感染る…


「オイそれどういう意味だコラ」


>ステイ オファニエルステイ

>ごめんって

>[初フィールドガンバレ!]


「さっきからスパチャで私の株稼ごうとしてる奴名前覚えたからな」


>[ヤッタゼ!]

>うーんこの

>ドMか阿呆か命捨てたい病患者か何か?


「はぁ…………じゃ、西の正門からオースト平原に出るよ」


 シェリーの担ぐオファニエルに門番はギョッとした目を向けるが、英雄の持つ魂魄武装かと(なんとか)納得し「通ってよーし」と言った。英雄達はその手に持つ魂魄武装が人格と経歴の証明となるため、(まだ)何もやっていないシェリーのオファニエルが、たとえどれだけ人を一撫でで"天国に送る"ような造形をしていたとしても、たとえどれだけ見て聞いてとなるだけで人を恐慌に陥らせる危険性のある音を奏でられるとしても、経歴が真っ白だから通すしかないのだ。


>門番百面相

>今の顔面白かった もっと困らせたい

>ちょっと過呼吸になってて草


「……街で出すのは控えよっか」


>シェリーが学習しただとー!?

>あのシェリーが…神殿を破壊したシェリーが……


「いつもRTAならしてたでしょうが」


>シェリーさん、そう言いながら、何しているんです?


 シェリーは、正門から出てくる人混みから少し外れたあたりで、遠くを望みながら徐に立ち位置を調節している――オファニエルを振りかぶりながら。


「何って、高速移動の準備だけど」


 オファニエル セットアップ コンプリート。

 エンジン オールグリーン。

 視聴者の聴覚破壊率 30%が予定されます

 

 そんなアナウンスが聞こえてきそうな雰囲気で、オファニエルを地面に突き刺して。


>まさか…

>やるのか、シェリー、"やる"のか!?

>鼓膜破っといた

>判断が早い


「れっつごーオファニエルーっ!」


 ギャリリリリリンリンリンリンリリィィィ!!!と地面を牙で穿ち爆走するオファニエル。もはや天丼並の展開ではあるが、ゲームというのはマンネリからは避けられないものなのである。


>ぎゃっ

>ミ"ッ"

>何も聞こえない

>先に鼓膜破らないからだぞ

>鼓膜自壊ニキ予備の鼓膜貸して…


「貧弱貧弱ゥ!初期フィールドの雑魚如き私の敵ではないわー!!」


 経験値とドロップ品と化すモンスター。他のプレイヤーもあまりの異様さに一歩二歩五十歩百歩とオファニエルの針路から遠ざかる。


>偉そうなこと言ってるけど7割はオファニエルの力なんですよね

>残り3割は俺たちの声援

>[シェリー☆轢いて]


「視聴者の応援なんてあったかー?????それと黙れ変態!」


>>[ありがとうございます!!!!]<

>あーあ 豚が増えた

>ここまでくると清々しい


「照れたところでいいことなんて何一つないからね!」


>取れ高

>照れ顔は可愛い

>視聴率


「は?私はいつでも可愛いんですけど?」


>かわいい(物理)

>かわいい(爆音)

>もしかして:歴戦


「………………ゴッ」


>無言で咽せるな

>せめて反論しながら咽せろ

>涙出てますよ


「うっさい!」


 回る、回るオファニエル。インベントリへドロップ品が掻き込まれ、馬鹿シェリーは草原のさらに先へと向かってゆく――

 

 ――そうして意味のない雑談ないし煽り合戦と、雑魚敵への蹂躙にも終わりが見えてきた。山脈の中へ通ずる洞窟と、脇にある神々しい光束。それぞれがボスエリアとセーブポイントになる。オファニエルから降りたシェリーは、慣れた手つきでセーブポイントに触れて、登録完了。


「とりあえず街に戻ろっか」


 SWシリーズは登録したセーブポイント同士はファストトラベルが可能だ。ただ、SWORDはMMOゲームということで街と特定のセーブポイント以外には一つしか登録できないようになっている。ちなみにこのボス前のセーブポイントは後者だ。


>早くボス戦行けや

>ビビってんのか?

 

「なんだよなんだよ視聴者共、プレイしてないのに偉そうに」


>さっさと行け


「やってやろうじゃねえかこの野郎!!!!!」


 勇みよく洞窟の入り口に足を踏み出すが、いや待てとカメラの方を向き直す。


「ふぅー……熱くなってんのは体だけ。いい?頭は冷静だから。デスペナ受けたら面倒なことになるから、私は一旦街に帰って売却するの。さぁ、帰るよ!」


>いいから行け

>行っちまえよ!そんなボスなんて!


「なんだよまだ挑発するの?私がいくらオファニエルが相棒だからって二度目の挑発には乗らないから。一旦撤退する」


>…………

>…………

>[(゜ω゜)]


「やってやろうじゃねえかよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 オファニエル再起動!洞窟も草原と同じ憂き目に遭うことが確定した!


>草

>知ってた

>親の芸よりみた芸

>もっと親の芸見て


 ――洞窟に響く駆動音。戒天の殺戮者の蹂躙は、まだ始まったばかりである……。

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