#3 【真面目】キャラメイクRTA【WR】


「はい」


>はいじゃないが

>すいませーん サービス開始まであと20分切ってるんですけどー、まーだキャラメイク時間かかりそうですかねー

>他の配信者は終わらせてるのにシェリーだけ1時間半かかってる上終わってないのほんと草

>[ksk]

>今から何が始まるんです?


 シェリーは流れるコメント欄煽りから全力で目を逸らし、徐にデフォルトの、視聴者は特に見慣れた、デジタル時計ウインドウを取り出して、カメラの前にセット。ニッコリ笑顔で宣言する。


「SWORDキャラメイクRTAはーじめーるよー!」


 やけくそ気味にシェリーがストップウォッチを開始。シェリー名物の突発RTAコーナーだ。走者はシェリー一人しかいないので常にWRが出る。再生数が多いものを挙げると『腕欠損落とし穴脱出RTA』、『ボス武器略奪RTA』などが有名だ。


>しってた

>親のRTA宣言より聞いたRTA宣言

>親のRTA宣言もっと聞いて

>レギュレーションは?


「今からサービス開始待機状態まで!前走者は私の記憶の許す限り存在しないので完走すればWR!まずはスキル選択ね!とりあえず[真髄解放]と[追撃]は確定!」


 残り18分。SWORDに実装されているスキルの量は多いものの、系統はたった四つ。

・性能:自身の動作に関わるもの。条件を満たせば自動で発動する。

・技能:自身の行動に関わるもの。任意で発動する必要がある。

・体質:自身の身体に関わるもの。常に効果が発揮され続ける。

・魂魄:魂魄武装に関わるもの。魂魄武装のランク÷3(あまりは繰上げ)までしか同時に取得できない。

 例えばシェリーが愛すことを決めた[追撃]であれば、『ダメージを与えた場合』に自動で効果が発動するスキルのため系統は性能に分類される。また、習得できるスキルの数は魂魄武装のランク+3個までである。閑話休題。


「そうだな〜……まず、ポーション代節約したいから[再生]かな。もう一つは、うん、普通に[体術]でしょ。超万能スキル。『物理行動によるスタミナ消費量を軽減する』、これで弱いとか思う人いる?


>ないです

>まぁ妥当

>普通にガチ構成で草

>↑真髄解放さん……

>取れ高だから必要


「それじゃあ次!キャラクターの見た目!私のデフォルトな見た目から――」


 シェリーは一瞬だけカメラから視線を逸らしコンソールを高速操作。


>うん?

>おや?


「――変更なし!終わり!はい次!」


>恐ろしく早い豊胸操作 俺でなきゃ見逃しちゃうね

>ここガバ

>[再走して♡]


「しりせーん!次!え、初期装備自分で選べるの!?」


>コンシューマならいいけどmmoでしょぼい武器はね…

>やる気失せるよな


 残り14分。ドラゴンなゲームならロクなものがもらえないような初期装備だが、SWORDは割と良心的だ。具体的には初期資金10000C(コイン)。……まさかの現金支給である。そこから最初の街[オースト]で購入できるアイテムをこの場で購入したのが初期装備になる。

 当たり前だが魂魄武装以外の装備も使用可能。生産職にも席は用意されているから安心だ。一撃の大きい魂魄武装を補うサブ武器として、あるいは決め手にかける魂魄武装と一撃の大きい突破用の普通装備をおく、などといったものは英雄たちの中では日常茶飯事。例を挙げればシェリーの愛するドレイクも二丁拳銃の他に近距離戦闘用にカットラスを提げている。なんならオファニエル一本だけで全てやってやろうとしているシェリーの方が異端。せめて潰しの効くサブウェポンくらいは所持しておいて欲しいところだ。


「装備は〜…うん、いいや。誰かに作ってもらおっと。序盤なら攻撃される前に潰せばいいから防具なんていらないし。それじゃ適当なポーション揃えちゃうよー」


>うーんこの清々しいほどの脳筋

>初めて見るシェリーなのに嫌にしっくりくる


「そりゃあ本来こういうプレイスタイルだからね〜……はい購入完了、つーぎーはー、チュートリアル戦闘か」


 残り11分。残金6500C。最近のVRゲームには、「理想通りアバターをキャラメイクしたはいいが思ったように動かせない!」という事案を抑えるための戦闘がキャラメイクの中に組み込まれている。この戦闘を繰り返すことでゲーム毎の身体の動かし方を習得するとともに、アバターの最適化を行うのだ。とはいえ、シェリーの場合は──


「難易度エキスパートでいっか」


 残り10分。何も躊躇う事無く最高難易度を選択。難易度で変わるのはもちろん敵の強さ。エキスパートなら初期エリアのボス相当。このバトルジャンキー、自分で宣言しておきながら今はRTA中という事を恐らく忘れている。


>ガバ

>RTAならイージーにしろ


 ツッコミのコメントがシェリーにぶつけられるが、当の本人は


「だって面白そうだし!」


 とオファニエルを担ぎながら少女らしく笑って答える。


>うーん、この笑顔

>かわいい

>オファニエルがもう少し…なんというかこう、可愛げというか…

 

「オファニエルは最高に可愛くてかっこいいでしょ!?……こほん、さぁ、行くよっ――ングッフ」


>咽せたな

>カッコつけながらクリエナ飲むな

>喋るか飲むか分けろ


 残り9分。フィールドが穴ぼこ神殿から変わり、森の中、ギャップと呼ばれる森林の中の草原に場所が移った。まるで闘技場のようなそこには、シェリーと共にもう一つ、大きな影が現れる。


>やっぱり綺麗だなSW

>グラフィックはスケアートが一番


「ゲームバランスとかは……うん、閉口しようか。修正されたし」


>やめようね!

>本当にハルバードは酷かった……

>レーヴァティンだっけ?

>そうそう、前のコメントで見たけど万変斧槍バグの原因

>今でこそナーフされたけどあれ関係する形状の武器の性質全部適用されるせいで○術全部乗るっていうな。

>今も一つあたり30%になったとはいえ全部揃えたら…な…


「レーヴァティンは雑に盛れたけど今は扱いづらいけど火力の高い強武器って立ち位置じゃない?私も改めて使ってみたけど、言うほど一強じゃないよ」


>貴方ほどの方がそう言うなら…

>戦い方に悩む

>まー、そうだわな。


「難しいよね〜…さて、敵の読み込みも終わったみたいだし行くよ」


 残り8分。光が収束し、現れたのはオオカミ。シェリーはオファニエルを起動。オオカミの姿がはっきりした瞬間、地面に叩きつけて地面でサーフィンを始める。


>平然とその移動方法に慣れてるの流石だわ

>アドリブ力高いしね、シェリー


「タイムリミットまでに片付けてやるーっ!」


 残り7分。オオカミは大きく口を開け咆哮を行うが、騎乗中のシェリーには意味が然程無く、音が止んだ途端、オファニエルを握って飛び上がった。派手に回転する鋸が鼻先を捉えて。


「どっせーーーーいっ!!!!」


 ギャリリリィィィィィィィィン!!!!と耳を劈く攻撃挽き殺しに、オオカミは痛みに震え、視聴者も音に慄く。


>もうツッコミたくない

>おみみこわれる

>ホラーゲームの敵キャラか何か?


『キャィィィィン!!??』


「オラオラオラァーっ!どうしたどうしたどうしたーっ!?動いてみろよーっ!」


 残り5分。体勢を崩したオオカミの上で仁王立ちするシェリーによってパイルバンカーのように直下に突き刺されたオファニエルは、オオカミの腑を削り足を挽いてゆく。もうオオカミに少し耐久性があれば良かったのだが生憎このオオカミは機動型。耐久性は低い上足が比較的細く削ることが容易だった。本来は咆哮で怯んでしまった所に四方八方から翻弄するように攻撃してくる、超重武器にとって厄介な相手だったのだが……結果はご覧の通り。プレイヤーが怯んでも関係なく移動してきて近づいたら延々削り取ってくるやべーやつとエンカウントしてしまったのがこのオオカミの運の尽き。残念なことにボス相当であるため、体力も増強されているから苦しみは長く続いてしまう。


「あっはははははは!!!!たーのしー!!」


>[守りたくない、この笑顔]

>狂ってるように見えるけど治ろうとしている部位から的確に削ってるから理性は残ってるの本当に怖い

>理性のあるバーサーカー


 残り4分。オオカミ削りも流石に飽きてきてシェリーもコメントを読みながら話していた。まるで消化試合。


>この配信の目標とかある?


「そうだね〜…とりあえず、一番奥までは進みたいかな。一ヶ月後にイベントも予定されてるんだっけ?楽しみ〜♪」


>第一回イベントは何をするんだろう

>スケアートの考える事はわからん。


 最早BGMと化した回転音は、唐突に終わりを迎える。


「あとは、そのうちSWORDでコラボ配信とかもしたいかな!希望者がいたらぜひぜひ送ってね!多すぎたら順番待ちとかになるかもだから、できれば空いている時間も一緒に添えっ――てぇ!?」


『アゥォォォォン!!』


 残り3分。シェリーは突如咆哮を放ったオオカミに吹き飛ばされる。シェリーは何とか握りなおしたオファニエルを地面に当ててノックバックを相殺、着地には成功した。だが、引き換えに拘束は解けてしまったようで、周りを見渡せば先程挽いていたオオカミよりはひとふた回り小さいオオカミが森の中から一斉に飛び出してくるのが見える。


「なんか増えたーー!!??」


>おかわり

>わんこそば

>わんこそば草

>狼くん食べ放題ってわけね……


 残り2分。オオカミ達はシェリーを取り囲み、群がろうとする。が、オファニエルが唸りを上げて大回転。固定打点は武器によるダメージだけであり、勢いは固定ではない。気持ちよくぶん回せばそれだけ衝撃は大きくなる。現にチビオオカミは殺陣が如くギャリンギャリンと潰されている。


>みてる分には気分爽快だな

>最早無双ゲー

>[残り2分]


「嘘っ!?遊んでる暇ない!?」


 残り100秒。シェリーは大回転する大車輪を中断、後ろから好機と思い噛み付いてきたチビを踏み台に奥で体を休めていたオオカミへと跳躍。


「[真☆随☆解☆放]ッ!」


>ゲェッ!!真髄解放!

>もうどうなるかわかった


 冒涜的な変形音と駆動音を掻き鳴らし、シェリーはオオカミに肉薄。退避しようと飛び上がった腹に初撃が入る。ギャルラララララララララララッ!!の爆音がたった一種の逢瀬で響く。


>うるさい

>この配信、鼓膜破壊の現行犯でBANされそう

>腹筋破壊も載せとけ


 回避のためとはいえ飛び上がるオオカミ、それは咄嗟の反応としては素晴らしいが、今のオファニエルの前では悪手であった。地面まで振り抜かれたオファニエルは、再びシェリーの車輪となりて飛び上がったオオカミを追いかけた。早い話が大きく避けさせてからの着地狩り。ニィッと笑うシェリーの表情に、心なしかオオカミの目にも涙が見える気がする。


「逃がすと思った?残念、ここで終わり!」


>[誰もシェリーからは逃げられない]

>大魔王ムーヴ

>攻撃からの移動があまりに鮮やかすぎる

>地面が抉れに抉れてるんですがあの

>気にするな、神殿の方がひどい。


「乙女は、強くなくっちゃねぇーーっ!」

 

 腰を落としてのフルスイング・グラインド。オオカミの腹はもうミンチというにも生温い。グロ修正0の視聴者はきっと生肉が見えているのだろう。

 

>乙女 is 何

>A,げに恐ろしき化け物じゃ…


 そのまま、効果時間が終わるまでの10秒間でオオカミは無事に挽き殺されチュートリアル戦闘終了。お疲れ様でした。


>NKT(なんか悲しい戦いだった)…

>オオカミくんカワイソス


「あぁ…気持ちよかった」


 残り60秒。清々しい顔でそう宣うシェリーだったが、サービス開始までに間はない。


「――――あ、RTAしてたの忘れてた ゴホゴホ」


>忘れながら飲んで咽せるな

>うーん、この

>配信者の鑑にしてRTA走者の屑

>[かっこよかったよ!]


「ん、スパチャせんきゅー、とりあえずこれでキャラメイク終了か……ぶふっ」


 残り30秒。シェリーがキャラメイク終了を押そうとウインドウを開いたら吹き出した。よく見れば、終了のウインドウの上にもう一つ小さなウインドウが表示されているのか確認できる。


>どした?


「称号[戒天の殺戮者]獲得した」


>草

>草

>殺戮者…当然だな!

>チュートリアルで称号を獲得する女

>もう草超えて森


「ぶふっ……ゴホッ、はい、じゃぁ…ふっ…キャラメイク終了ボタンを押して、タイマーストップ。タイムは…ゲフッ…20分ジャスト。先駆者がいないので、フフッ…ワールドレコードです。10秒後に、サービス開始だから〜…チャンネルはそのままで、ね?」


 何もない黒い空間(サービス開始待機空間)に移動し、シェリーはカメラに上目遣いで訴えかける。しかし熟練の視聴者に効果はないようだ。


>クリエナ飲みすぎなんだよなぁ

>[ガバが多すぎるから再走して♡]

>かわいいけどさっきの惨状がなぁ…

>ギリギリセーフというかアウトでは?


「間に合ったからいいの。さて、カウントするよー?サービス開始まで、さーん、にーい、いーち――」


 ――ゼロ。その言葉と同時に黒の空間が割れて、シェリーに再び光が当たる。あまりの眩しさに目が眩んんで思わず顔を手で覆ってしまう。多くの足音が聞こえてくる。様々な話し声が耳に飛び込んでくる。始まったのだろう。シェリーが再び目を開けるとそこは。SWORDに於ける最初の街[オースト]、その大通りの真ん中であった。

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